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mTORシグナルが成長調節および疾患に果たす役割

mTOR Signaling in Growth Control and Disease.

Laplante M, Sabatini DM.

Cell. 2012 Apr 13;149(2):274-93.

【総説内容】

mTORシグナル経路
mTOR(もともとはmammalian target of rapamycin、現在公式にはmechanistic target of rapamycin)は、PI3K近縁のキナーゼファミリーに属するセリン/スレオニンキナーゼであり、mTORC(mTOR complex)1とmTORC2という、rapamycin感受性やシグナル伝達経路が違う2種類の複合体を形成する。mTORC1は6種類、mTORC2は7種類の蛋白からなる複合体で、共通にmTORとmLST8、DEPTOR、Tti1/Tel2を含む。それらのほかに、mTORC1はraptor(mTORC1のscaffold protein)とPRAS40(mTORC1阻害因子)を、mTORC2はrictor(mTORC2のscaffold protein)とmSin1とprotor1/2をそれぞれ含んでいる。mTORの発見からほぼ20年が経過したのに、その作用機序の解明が今なお進行中なのは驚くべきことである。その中で、rapamycinが細胞内のFKBP12と複合体を形成して、mTORC1に含まれるmTORを阻害するのは確かである(mTORC2に含まれるmTORは阻害されないと考えられていたが、詳しくは後述)。

mTORC1の上流の調節因子
mTORC1を活性化する因子は、次の少なくとも5つの刺激(cue)―すなわち成長因子、ストレス、エネルギー状態、酸素、アミノ酸―である。mTORC1を調節する重要な分子はTSC1/TSC2のヘテロダイマー(実体はGTPase-activating protein)であり、mTORC1を負に制御する。TSC1/2が、上流のシグナル(インスリン、IGF1により活性化されるPI3K/Akt経路、ERK1/2経路、RSK1経路など)によって活性が抑制されることにより、mTORC1の活性化が起こる。Aktは、raptorからPRAS40(mTORC1阻害因子)を解離させることで、TSC1/2を介さずにmTORC1を活性化する。炎症性サイトカイン(TNFαなど)は、IKKβを介してTSC1をリン酸化・不活性化することで、mTORC1を活性化させる。低酸素やエネルギーレベルの低下はAMPKの活性化をもたらし、raptorをリン酸化してそこに14-3-3が結合することによって、mTORC1を阻害する。アミノ酸(特にleucineとarginine)は、現時点では不明な経路を介してmTORC1を活性化する。

mTORC1の下流の過程
mTORC1によって調節される過程で最も解明が進んでいるのは、蛋白合成の過程である。mTORC1は、4E-BP1とS6K1を直接リン酸化し、蛋白合成を促進する。またmTORC1は、転写因子SREBP1/2を介して脂質合成を、PPARγ活性化を介して脂肪細胞分化を調節している。さらに、HIF1の活性化により解糖系遺伝子発現を増加させ、PGC1αや転写因子YY1を介してミトコンドリアの酸化的代謝を調節している。さらに、mTORC1はオートファジーを抑制し、リソソーム生合成を阻害するという、負の調節にも働いている。
「mTORC1はすべてを調節している」などと冗談で言われることもあり、むろんそれは正しくないのだが、mTORC1が非常に多くの主要な細胞過程を調節しているのは確かである。

mTORC2のシグナルネットワーク
mTORC2は当初rapamycin非感受性と考えられていたが、最近はある種の細胞ではrapamycinによりmTORC2の複合体の会合が抑制され、シグナル伝達が障害されることが分かっている。しかし、mTORC1経路に比べると、mTORC2経路で分かっていることは非常に少ない。mTORC2はインスリンを初めとする成長因子に反応し、PI3Kを介して活性化される。その下流でmTORC2は、AGCキナーゼサブファミリーに属するAkt、SGK1、PKC-αをリン酸化、活性化する。AktやSGK1がmTORC2によってリン酸化されると、核内の転写因子FoxOをリン酸化し細胞質に移行させて遺伝子発現が抑制され、これが細胞生存や代謝を調節する。PKC-αがリン酸化されると、細胞骨格組織化に作用する。

癌におけるmTORシグナル
多くの癌で見られるPI3Kの変異・活性化やp53、Tsc1/2、Lkb1、Pten、Nf1の変異・不活性化がmTORC1の活性化につながっている。発癌にはmTORC2シグナルも重要とする報告もあるが、現在mTORC2特異的阻害剤が存在しないため、その解明は進んでいない。 2007年に、rapalog(rapamycinアナログ)であるTemsirolimusが進行性腎細胞癌に用いられるようになったのが、mTOR阻害薬の癌治療への応用の始まりであった。その後いくつかのrapalogsが難治性癌の治療に用いられるようになった。
mTOR経路に多くのネガティブフィードバックループが存在することが、rapalogsによる治療を難しくしている。例えば、mTORC1によって活性化されたS6K1は、IRS1をリン酸化してそのdegradationを促進し、受容体チロシンキナーゼ(RTK)からのシグナルを減弱させる。腫瘍抑制因子(tumor suppressor)であるGrb10は、mTORC1の基質としてリン酸化され、RTKからのシグナルを減弱させる。いずれの場合もrapalogsでmTORC1を阻害するとこれらのネガティブフィードバックループが解除されてしまうことになり、結果的にRTKシグナルの増強につながり、癌の治療効果を下げてしまう。そこで、mTORとPI3Kのdual inhibitorが癌の治療に試みられている。

代謝疾患におけるmTORシグナル
mTOR経路の主要なコンポーネントを全身で欠損させたマウスは胚性致死になるため、in vivoでmTOR経路がどのように代謝を調節しているかはよく分かっていない。この点については、現在コンディショナルノックアウトマウスによる検討が進められている。
(1)脳でのエネルギーバランスの調節
視床下部において、mTORC1はインスリンやレプチンによって活性化されNPYやAgRPを介して摂食を低下させると考えられている。高脂肪食や肥満では、このmTORC1活性化が低下して食欲低下が障害されるとも考えられるが、詳細は不明である。
(2)脂肪組織での脂肪細胞分化
In vitroではmTORC1を阻害すると脂肪細胞分化(脂肪生成adipogenesis)が抑制され、逆にmTORC1を活性化させると脂肪細胞分化が促進される。脂肪細胞特異的にmTORC1を欠損させたマウスは、脂肪量が少なく、高脂肪食を負荷しても肥満になりにくい(脂肪細胞特異的にmTORC2を欠損させたマウスは脂肪量は正常)。肥満の状態ではmTORC1活性は亢進している。
(3)骨格筋での酸化的代謝とグルコース恒常性
筋肉特異的mTORC1欠損マウスは蛋白合成が低下して筋肉量が少ない。また、ミトコンドリア機能を制御するPGC1-αが減少し酸化能が減少している。(筋肉特異的mTORC2欠損マウスは軽度の耐糖能異常が見られるのみで、筋肉の構造上の変化は見られない。)肥満および高脂肪食下ではmTORC1が活性化され、これがS6K1活性化を介してインスリンシグナル伝達のフィードバック阻害(IRS1のリン酸化、degradation)を起こし、筋への糖取り込みを減少させる。
(4)肝でのケトン体生成と脂肪合成
空腹時には肝のmTORC1活性は低下し、これがケトン体産生を起こし、空腹時の末梢組織のエネルギー源となる。逆に、肝でmTORC1を過剰発現させると(NcoR1活性化によりPPARα活性が抑制され)、ケトン体産生は阻害される。また、肝におけるmTORC1はSREBP1cを介して、脂肪合成(lipogenesis)を促進する。肝特異的にmTORC1を欠損させると、SREBP1機能が低下し脂肪肝になりにくい。一方で、肥満状態では、骨格筋と同様に肝でもmTORC1/S6K1が活性化されており、IRS1のdegradationによるフィードバック阻害によって肝のインスリン抵抗性が惹起されている(過剰な肝糖新生につながる)。
(5)膵でのβ細胞容量、インスリン分泌の調節
β細胞でmTORC1を恒常的活性化させると、β細胞の数やサイズが増加し、インスリン分泌が促進され耐糖能が改善する。栄養過剰状態でのβ細胞代償性肥大にもmTORC1活性化が必要であるが、慢性的にmTORC1活性化が続くとβ細胞の疲弊と2型糖尿病発症を引き起こす。β細胞にとってmTORC1活性化は、初期のインスリン分泌促進とその後のインスリン分泌低下を引き起こす、両刃の剣と言える。β細胞でS6K1を欠損させると、β細胞量低下、インスリン分泌低下により耐糖能異常が起きる。β細胞でmTORC2を欠損させた場合も、Akt活性の低下、それに伴うFoxO1のリン酸化低下(核内にとどまる)によって、β細胞量が低下し、耐糖能が悪化する。
(6)代謝疾患に対するmTOR阻害剤の効果
以上で見たように、肥満・インスリン抵抗性の状態ではmTORC1が慢性的に活性化されているため、rapamycinによって代謝疾患が改善される可能性が検討されてきた。ところが、マウスにrapamycinを投与してmTORC1活性を極端に低下させると、脂肪組織量の低下、β細胞量の低下が起き、インスリン抵抗性、高脂血症、肝糖産生が促進されてしまう。Rapamycinの慢性投与を受けたヒトでも、同様の代謝障害が起きる。これは、rapamycinがmTORC1を介する主要な過程(蛋白合成、ミトコンドリア生合成など)を大きく抑制してしまうためであろう。そこで、mTORC1活性を完全に阻害しないような用量(sub-optimal dose)なら、rapamycinが代謝異常を改善しうるとも考えられる。メトフォルミンはmTORC1活性を低下させることが知られているが、これは肥満で亢進したmTORC1活性を、極端に低下させず、ちょうどよい中間の状態まで低下させることにより肥満者の糖代謝を改善しているのかもしれない。なお、マウスにrapamycinを投与すると、in vivoではmTORC2も阻害されることによりmTORC2-Akt経路の障害によって肝糖産生抑制が低下してしまうことも最近報告されている。

神経変性疾患におけるmTORシグナル
神経変性疾患の原因として、オートファジーによる細胞内蛋白degradation経路の調節異常がある。mTORC1がオートファジーを抑制する作用があることから、神経変性疾患とmTORシグナルとの関連が研究されてきた。RapamycinによってmTORC1を阻害すると、オートファジーが促進されて凝集蛋白が減少し、in vivoでの神経変性の程度も低下する。ここでもmTORC1活性を極端に低下させて代謝異常や蛋白合成の低下を引き起こすのではなく、中程度に低下させてオートファジーを促進させる用量・方法が求められる。


加齢過程におけるmTORシグナル
カロリー制限が寿命を延長することは広く知られている。栄養摂取はmTORシグナルに反映されることから、mTORシグナルが寿命を調節している可能性が検討されてきた。今までに、mTORシグナルの阻害が酵母・線虫・ショウジョウバエで寿命を延長させることが数多く報告されている。これはカロリー制限を加えてもさらには寿命が延長しないため、mTORシグナル阻害とカロリー制限は共通のメカニズムで寿命を調節していると考えられている。しかし一方で、カロリー制限したショウジョウバエにrapamycinを投与すると寿命がやや延長したなど、カロリー制限とrapamycin投与ではシグナル伝達が異なる経路があることを示唆する報告もある。

最近、マウスにrapamycinを投与し寿命が延長したことが報告された。この報告では、600日齢という高齢マウス(ヒトでは60歳代にあたる)にrapamycinを投与開始してもそこからの寿命延長が認められている。この結果が直接ヒトに当てはまるわけではないが、mTORC1阻害が中年以降のヒトの加齢関連疾患の治療に役立つ可能性もあるだろう。

前述のようにrapamycin投与はβ細胞量の減少と糖脂質代謝異常を惹き起こし、糖尿病様の症状を呈するが、これらは寿命の短縮につながりかねない。この逆説の理由は不明だが、その一因としてrapamycin投与方法の違いが考えられるかもしれない。すなわち、寿命延長の研究ではマイクロカプセル化して食餌に加えているのに対し、他の研究では毎日腹腔内注射している。前者の方法では薬剤の生体利用効率(bioavailability)が低く、rapamycinによる代謝への悪影響が少ないのかもしれない。寿命を延長させ、しかも代謝を悪化させないためには、注意深いrapamycinの用量調節が必要なのだろう。

そもそも、mTORC1の阻害がなぜ寿命延長につながるのかはまだ分かっていない。Rapamycin投与マウスはコントロールのマウスと比べ疾患や死因に違いがあるわけではないため、rapamycinは加齢過程そのものを遅くするようである。mTORC1の阻害が造血幹細胞の自己複製を回復するため、免疫能が改善されるという報告がある。また、高齢マウスの肝臓ではmTORC1活性が亢進しているため、空腹時のケトン体産生が増加することが加齢関連疾患につながる、とする報告もある。Rapamycin投与によってmTORC1による蛋白合成促進(S6K1活性化に伴う)が抑制されること、またはmTORC1によるオートファジー抑制が阻害されることが、寿命延長に関与するとも考えられている。しかし現在、どの組織のどの分子がmTORC1阻害による寿命延長に関与しているかは不明である。
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by md345797 | 2012-04-27 07:27 | シグナル伝達機構

PPARγ-FGF1軸は、適応のための脂肪組織リモデリングと代謝恒常性の維持に必要である

A PPARγ–FGF1 axis is required for adaptive adipose remodelling and metabolic homeostasis.

Jonker JW, Suh JM, Atkins AR, Ahmadian M, Li P, Whyte J, He M, Juguilon H, Yin Y-Q, Phillips CT, Yu RT, Olefsky JM, Henry RR, Downes M, Evans RM.

Nature. Published online, 22 April 2012.

【まとめ】
脂肪組織のリモデリングは、飢餓と飽食のサイクルという栄養状態の変動に適応して代謝恒常性を維持するために重要な過程だが、そのメカニズムは分かっていない。このグループは、FGF1がこの過程の重要な調節因子であり、FGF1の発現はPPARγによって調節されていることを明らかにした。

FGF1は22種の蛋白を含むFGFファミリーの原型で、発生・創傷治癒・心血管の変化など多くの生理学的過程で重要な役割を果たしているにもかかわらず、FGF1欠損マウスは通常の条件下では明らかな形質を示さない。しかし、このグループは、高脂肪食負荷を行うと脂肪組織におけるFGF1の発現が誘導されこと、Fgf1-/-マウスは強い糖尿病形質を示し、脂肪拡大の異常をきたすことを明らかにした。高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスの脂肪組織では血管ネットワークの異常や、炎症反応の亢進、脂肪細胞サイズの異常、膵リパーゼの異所性発現などが認められた。このマウスで高脂肪食負荷を中止すると、炎症性脂肪組織は広範な脂肪壊死を起こした。また、摂食後の高脂肪食による脂肪組織でのFGF1発現誘導はPPARγによって調節されている(FGF1遺伝子のプロモーターに近いPPAR反応性エレメントに作用することによる)ことが分かった。このFGF1欠損マウスの形質の発見によって PPARγ-FGF1軸が代謝恒常性とインスリン感受性維持に必要であることが明らかになった。

【論文内容】
高脂肪食に反応する遺伝子発現スクリーニングにより、内臓脂肪(精巣脂肪gonadal WAT=gWAT)の脂肪細胞分画で、FGF1発現が選択的に増加することが明らかになった。Fgf1-/-マウスは、過去の報告でもこの研究でも、通常条件下では代謝異常や遺伝子発現の変化は見られなかった。しかし、このマウスに高脂肪食を負荷すると、糖尿病形質(空腹時血糖およびインスリン値の増加、インスリン負荷試験でのインスリン抵抗性亢進、マクロファージの脂肪浸潤のマーカーである血清MCP1濃度の上昇)が認められた。さらに、この高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスは、高インスリン正常血糖クランプにて、グルコース注入率および肝糖産生抑制が低下しており、インスリン抵抗性の亢進が示された。このマウスは野生型と比較して脂肪肝が増強され(=脂肪がWATに貯められず肝にたまってしまう)、gWATへのマクロファージ浸潤の増加(=炎症性変化)が認められた。

高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスのgWATでは脂肪細胞のサイズが増加し、蛍光マイクロビーズを腹腔内注射した後の蛍光顕微鏡で血管密度の減少が認められた。さらに、マイクロアレイを用いた転写変化の解析で、PPARγの発現が増加していた。しかも、脂肪壊死関連の膵リパーゼと組織リモデリング因子であるelastase1の発現が大きく増加していた。

これらの異常は、高脂肪食負荷に反応する正常な脂肪リモデリングが障害されていることを示唆する所見である。そこで、高脂肪食負荷後のFgf1-/-および野生型マウスに再び正常食を与えたところ、Fgf1-/-では適応の異常が起こり脂肪組織の断片化および脂肪壊死が見られた。このことから、FGF1は、高脂肪食とその後の正常食という栄養状態の変動に伴う、脂肪組織の拡大と収縮過程に必要であることが分かる。言い換えれば、Fgf1-/-マウスは、食事の変化に反応する内臓脂肪のリモデリングができない。FGF1欠損による脂肪可塑性(adipose plasticity)の欠落は、脂肪肝や全身のインスリン抵抗性につながると考えられる。以上より、FGF1は栄養の変動に反応する脂肪組織リモデリングの調節因子であり、代謝疾患の防止に不可欠であると考えられた。

高脂肪食は血中のPPARリガンドの濃度を増加させる。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、PPARα、PPARγ、PPARδによる活性化によるFGF1A転写誘導の中では、PPARγによるものが最も強力であることがわかった。FGF1A転写産物のプロモーター領域の検討により、転写開始部位から約100bp近位に、高度に保存されたPPAR反応性エレメント(PPRE)を含む部位を同定した。このPPREを変異導入により不活化したところ、PPARγに対する反応は完全に消失した。PPARγによるFGF1調節の機能的保存性を確認するために、いくつかの動物種のPPREsを含むレポーターコンストラクトでヒト・マウスのFGF1Aプロモーターのアッセイを行ったところ、PPARγによるFGF1Aプロモーターの活性化は、4種の動物(ヒト、マウス、ラット、ウマ)のプロモーターで認められた。ChIP実験では、3T3-L1脂肪細胞でPPARγが実際に同定されたPPREに結合することを確かめた。PPARγ-Fgf1aプロモーターとの相互作用はWATの中でも脂肪細胞分画で特異的に起きている。以上より、脂肪細胞のPPARγ-FGF1軸は多くの動物で機能的に保存されていることが示唆された。

さらに、PPARγリガンドであるrosiglitazoneに対するFgf1a転写産物の発現を調べた。Fgf1-/-マウスに経口でrosiglitazoneを投与すると食後の状態でのみgWATのFgf1a転写産物が増加した。なお、脂肪細胞特異的PPARγ欠損マウスでは、脂肪細胞のFGF1量が低下していた。

【結論】
この研究では、栄養状態の変化(=高脂肪食の負荷と中止)が「センサースイッチ」であるPPARγのスイッチをON/OFFし、その「シグナル変換因子」であるFGF1が、栄養状態に適応するための脂肪組織リモデリングを起こす、というメカニズムが明らかになった。FGF1欠損マウスは、食事に応じた脂肪組織のリモデリングが正しく起きず、その結果代謝障害・インスリン抵抗性をきたすことから、FGF1が代謝恒常性に不可欠な役割を果たしていることが分かる。最近は、いくつかのFGFファミリー(FGF15/19、FGF21)が代謝恒常性に関連していることが分かってきている。今回の研究では、FGF1も代謝恒常性に関与し、PPARγ–FGF1軸が脂肪組織に必要なリモデリングと全身のインスリン感受性の亢進を担っていることが示された。
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by md345797 | 2012-04-25 04:48 | エネルギー代謝

TAK-875とプラセボとグリメピリドの2型糖尿病に対する効果:第2相ランダム化試験

TAK-875 versus placebo or glimepiride in type 2 diabetes mellitus: a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled trial.

Burant CF, Viswanathan P, Marcinak J, Cao C, Vakilynejad M, Xie B, Leifke E.

Lancet. 2012 Apr 14;379(9824):1403-11.

【まとめ】
膵β細胞において、遊離脂肪酸受容体1(free fatty acid receptor 1:FFAR1;別名GPR40)が脂肪酸によって活性化されると、グルコース依存性のインスリン分泌が促進される。そこで、この受容体の選択的活性化薬であるTAK-875が、2型糖尿病患者において、低血糖のリスクなく血糖コントロールを改善できるかを検討した。本研究は、外来2型糖尿病患者を対象とした第2相ランダム化二重盲検比較試験で、426名の患者をプラセボ群、TAK-875(6.25、25、50、100、200 mg)群およびグリメピリド(4mg)群(各1日1回)にランダムに割り付け12週間経過観察した。一次アウトカムは、ベースラインからのHbA1cの変化とした。12週後のHbA1cのベースラインからの低下は、TAK-875群50mgで-1.12%、グリメピリド群で-1.05%、プラセボ群で-0.13%であった。TAK-875投与群の低血糖イベント(3%)は、プラセボ群(2%)と同様であったが、グリメピリド群では有意に高値(19%)であった。TAK-875は、2型糖尿病患者の血糖コントロールを、低血糖のリスクなく、有意に改善することができた。この結果から、FFAR1の活性化は2型糖尿病治療の重要なターゲットになると考えられた。

【論文内容】
遊離脂肪酸受容体であるFFAR1(GPR40)は、膵β細胞に多く発現し、不飽和中鎖脂肪酸または長鎖脂肪酸によって活性化される。FFAR1が脂肪酸によって活性化されると、グルコースが高濃度のときのみインスリン分泌を増強する。このグルコース依存性インスリン分泌の増強のメカニズムは明らかではないが、GLP-1による増強経路とも異なることが示唆されている。いずれにせよ、FFAR1活性化は、2型糖尿病患者において、低血糖を起こすことなく血糖コントロールを改善することが予想され、実際糖尿病マウスの実験でもそのような結果が報告されていた。

TAK-875(Takeda Global Research and Development提供)は、経口の強力なFFAR1選択的アゴニストであり、小規模臨床試験でグルコース依存性インスリン分泌を改善することが示されていた。本研究では、TAK-875の2型糖尿病患者に対する効果と安全性をプラセボおよびグリメピリドと比較することにより検討した。
426名の2型糖尿病患者(食事・運動療法でコントロール不良、76%がメトフォルミンを内服)を、プラセボ群、TAK-875群(6.25 mg、25 mg、50 mg、100 mg、 200mg)、グリメピリド群(4 mg)の7群にランダムに割り付けた。12週間後のHbA1cの減少は、プラセボ群で-0.13%であったのに対し、グリメピリド群で-1.05%、TAK-875の50mg以上の投与群で約-1.0%であった。12週間後の空腹時血糖の低下も、TAK-875の25-200 mg服用群およびグリメピリド群ではプラセボ群に比べて有意に大きかった。12週間後に行ったブドウ糖負荷試験(GTT)時のグルコースのAUC(area under the curve)は、プラセボ群に比べ、TAK-875投与群とグリメピリド群で有意に少なかった。この時のインスリンのAUCは、TAK-875投与群とグリメピリド群とプラセボ群で有意差はなかった。

12週間後のインスリン感受性(Matsuda indexで評価)の変化は、プラセボ群とグリメピリド群とTAK-875群で有意差はなかった。また、insulinogenic index(ここではGTTの最初の30分のC-peptide:glucoseの比)の比較によると、TAK-875投与群(25、100、200 mg)でプラセボ群に対してグルコース応答性のインスリン分泌の有意な増加が認められた。グリメピリド群は、プラセボに対して有意なグルコース応答性インスリン分泌の増加は認めなかった。

12週間の体重の変化については、グリメピリド群ではプラセボ群と比較し1.59 kg増加していたのに対し、TAK-875群ではプラセボ群と比較し0.86-1.27 kgの増加にとどまった。

発生した有害事象の発症率はプラセボ群とTAK-875群で同じであったが、グリメピリド群で高かった。そのうち低血糖の頻度は、プラセボ群とTAK-875群では同じく低かったが、グリメピリド群では有意に高かった。

【結論】
TAK-875は膵β細胞のFFAR1に対する直接作用によって、インスリン分泌を増強する。(なお、げっ歯類の動物実験では腸管内分泌細胞にあるFFAR1を活性化してGLP-1の分泌させることが示されており、これがTAK-875の上記の効果につながった可能性がある。)本研究の限界として、短期間(12週間)で小サイズ(各群60名程度)の検討であり、今後さらに大規模な研究が必要であろう。本研究では、2型糖尿病治療において、TAK-875によるFFAR1の活性化は、低血糖なく、また体重増加も少なく、血糖コントロールを改善することが示された。
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by md345797 | 2012-04-23 21:57 | 大規模臨床試験

Rapamycinによるインスリン抵抗性は、mTORC2シグナルの阻害によるもので、寿命延長とは関連がない

Rapamycin-Induced Insulin Resistance Is Mediated by mTORC2 Loss and Uncoupled from Longevity.

Lamming DW, Ye L, Katajisto P, Goncalves MD, Saitoh M, Stevens DM, Davis JG, Salmon AB, Richardson A, Ahima RS, Guertin DA, Sabatini DM, Baur JA.

Science. 335 (6076) 1638-1643 30 March 2012.

【まとめ】
mTORC1の阻害剤であるrapamycinは、ショウジョウバエやマウスで寿命を延長させる。カロリー制限は、mTORC1の阻害を介して、寿命延長とインスリン感受性亢進をもたらすと考えられてきた。しかし、rapamycinを慢性的に投与すると耐糖能とインスリン作用が障害される、という逆の結果も報告されている。この研究では、rapamycinがin vivoでmTORC2を阻害すること、mTORC2はインスリンによる肝糖産生の抑制に必要であることが明らかになった。mTORとmLST8の両方をヘテロ欠損させたメスのマウスはmTORC1活性のみが低下し、このマウスは寿命延長が認められるが、正常なインスリン感受性を示した。この結果から、mTORC1シグナルの低下は、糖代謝の変化とは独立して、メスのマウスの寿命を延長させることが分かった。以上より、「rapamycinによるmTORC1の阻害→寿命延長、rapamycinによるmTORC2の阻害→インスリン抵抗性惹起」と分けて考えられることが明らかになった。

【論文内容】
現在までに、寿命延長効果を持つとして知られている薬剤は、mTORC1阻害剤であるrapamycinのみである。mTORを含む複合体は、細胞の成長・分化に関連するmTORC1(=mTOR+mLST8+Raptor+PRAS40)と、インスリンシグナル経路の調節因子であるmTORC2(=mTOR+mLST8+Rictor+SIN1)の2つがある。mTORC1シグナルを遺伝的に減弱させたり、rapamycin を投与して抑制したりすると、ショウジョウバエやマウスで寿命が延長する。また、メスのマウスでmTORC1の基質であるS6 kinase 1を欠損させると、それだけでも寿命が延長する。カロリー制限は、mTORC1の阻害を介して、インスリン感受性の亢進を伴って寿命を延長させることが知られているが、rapamycin投与では逆にインスリン感受性は障害されると報告されている。このように、rapamycin、寿命延長、インスリン感受性障害の関連はよく分かっていない。

この研究ではまず、寿命延長を示す用量のrapamycinをC57BL/6マウスに2週間投与したところ、既報のように耐糖能異常・インスリン抵抗性を示した。このマウスでは肝で糖新生遺伝子(PEPCK、G6Pase)の発現が増加しており、高インスリン正常血糖クランプ法でも肝糖産生の抑制低下が認められた。このrapamycin投与マウスの肝ではmTORC1シグナルの阻害(S6K1のリン酸化消失)が認められた。

そこで、肝特異的にmTORC1シグナルを消失させるため、mTORC1のサブユニットであるRaptorを肝特異的に欠損したマウスを作製した。ところが、このマウスは耐糖能は正常で、さらにrapamycinに反応して耐糖能が悪化した。すなわち、rapamycinはmTORC1の特異的阻害剤と考えられているのに、肝特異的にmTORC1シグナルを欠損させても糖代謝は悪化しなかった。そのため、rapamycin投与マウスの肝におけるmTORC2シグナルを検討することとした。mTORC2は、PKCαのS657、AktのS473、NDRG1のT346をそれぞれリン酸化するが、rapamycin投与マウスにおいて食後(またはインスリン投与後)のこれらのリン酸化はコントロールに比べ低下していた。そこで、rapamycin投与マウスの肝でmTORを免疫沈降し、mTORC1のコンポーネント(Raptor)およびmTORC2のコンポーネント(Rictor)でblottingした。すると、rapamycin投与により、mTORとRaptorだけでなく、Rictorとの結合も阻害されていた。したがって、in vivoにおいてrapamycinは、mTORC2のシグナルも直接阻害することが明らかになった。

次に、肝でのmTORC2シグナルを消失させるため、肝特異的にRictorを欠損したマウスを作製したところ、耐糖能が大きく低下し、ピルビン酸負荷による肝糖産生の抑制が障害された。したがって、mTORC2シグナルの欠損は肝のインスリン感受性を障害し、rapamycinによる肝のインスリン抵抗性発症の重要な因子と考えられた。

以上より、rapamycinが肝のインスリン抵抗性を発症する効果はmTORC2の阻害によるもので、一方rapamycinの寿命延長効果はmTORC1の阻害によるもの、と考えられる。このようにrapamycinの作用は分けて考える(uncouple)ことが可能であろう。

次に、mTORとmLST8のヘテロ欠損マウスであるmtor+/− mlst8+/−マウスを作製した。このマウスでは肝のmTORC1シグナル(S6K1のリン酸化)は50%程度までに減少していたのに対し、mTORC2シグナル(Akt, PKCα、NDRG1のリン酸化)に変化は見られなかった(mTORC1シグナルだけが障害され、mTORC2シグナルは障害されなかった。この原因は、mTORとmLST8という、mTORC1、mTORC2に共通のコンポーネントが、量が少ないときmTORC2の方に多く行ってしまうためと予想される)。このmtor+/− mlst8+/−マウスはメスのみで寿命が14.4%延長した。このマウスは正常な耐糖能とインスリン感受性を示し、mTORC2シグナルの障害がないことと一致する結果が得られた。

【結論】
Rapamycinは、mTORC1の阻害によって寿命を延長するが、mTORC2も阻害してインスリン感受性を障害する。メスのmtor+/− mlst8+/−マウスは、mTORC1シグナルだけが選択的に障害されており、インスリンシグナルの障害はなく、寿命が延長した。この結果から、mTORC1の選択的阻害剤があれば、インスリン抵抗性という副作用なく、寿命を延長させることができると考えられる。
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by md345797 | 2012-04-05 07:31 | シグナル伝達機構