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古代からの薬物であるサリチル酸は、AMPKを直接活性化する

The Ancient Drug Salicylate Directly Activates AMP-Activated Protein Kinase.

Hawley SA, Fullerton MD, Ross FA, Schertzer JD, Chevtzoff C, Walker KJ, Peggie MW, Zibrova D, Green KA, Mustard KJ, Kemp BE, Sakamoto K, Steinberg GR, Hardie DG.

Science. 2012 May 18; 336(6083): 918-922.

【まとめ】
植物由来産物であるサリチル酸(salicylate)は、古代から医薬品として用いられてきた。最近では、生体内で急速に分解してサリチル酸になる、合成誘導体のアスピリンやサルサレート(salsalate)が主に用いられている。本研究では、サルサレートや高用量アスピリン投与後に達する濃度において、サリチル酸はAMPKを活性化することを報告する。さらに、サリチル酸は、AMPKの合成活性化剤であるA-769662と同じ部位に結合し、AMPKのアロステリックな活性化と(活性化リン酸化部位である)Thr172脱リン酸化の阻害をもたらすことが示された。AMPK欠損マウスでは、サリチル酸の脂肪利用促進効果や血漿脂肪酸減少効果が消失していた。この研究によって、サルサレートやアスピリンがヒトに有効な効果をもたらす機序として、サリチル酸がAMPKを活性化するためであることが示唆された。

【論文内容】
ヒポクラテスの時代から柳の樹皮に薬効があることが知られていたが、その活性産物はサリチル酸塩(salicylate)である(もともと、病原体感染に対して植物が産生するホルモン)。サリチル酸は、アスピリン(アセチルサリチル酸=生体内では急速にサリチル酸に分解される)として広く用いられてきた。サリチル酸の誘導体であるサルサレート(salsalate)は、2型糖尿病のインスリン抵抗性治療にも有用と考えられている。アスピリンおよびサリチル酸はシクロオキシゲナーゼ(プロスタノイド産生)を阻害すると同時に、NF-κB経路においてIKKβを阻害することが知られている。

AMPKは、真核生物に共通の細胞のエネルギーセンサーであり、触媒αサブユニットと調節β、γサブユニットからなるヘテロ三量体である。代謝ストレスが起こるとAMPKはATP消費過程を抑制、ATP産生過程を促進するように作用する。AMPKは、LKB1やCaMKKβによってαサブユニットのThr172がリン酸化されると、その活性が100倍以上に増大する。また、γサブユニットにAMPまたはADPが結合することによってコンフォメーションが変化し、Thr172のリン酸化促進、脱リン酸化抑制が起こる。次に、さらなるAMPの結合によってアロステリックな活性化が起こり(ADPでは、このアロステリックな活性化は起こらない)、Thr172リン酸化による活性化と合わせると合計1000倍以上の活性化につながる。ある種の薬剤や生体異物は、ミトコンドリアATP合成を阻害してAMP・ADPを増加させることによってAMPKを活性化する。しかし、AMPKの合成活性化薬A-769662は、AMPとは別の部位に直接結合し、アロステリックな活性化とThr172脱リン酸化抑制を起こすことによってAMPKを活性化させることが知られている。

サリチル酸はHEK293細胞においてAMPK活性化を起こす
この研究では、サリチル酸をHEK293細胞に1mM以上の濃度加えたところ、AMPKのαサブユニットのThr172リン酸化と下流ターゲットのACCのリン酸化の増加が起こり、AMPKが活性化されることが示された。(なお、アスピリン添加ではAMPK活性化は起こらなかった。これは、アスピリンをサリチル酸に分解するesteraseがこの細胞では発現していないためと考えられた。)

サリチル酸のAMPK活性化はAMP・ADP増加によるものではない
ここで、サリチル酸は、ミトコンドリア呼吸を脱共役する(=ATPの合成を生じずにエネルギー消費を行う)ため、ATPが減少しAMP・ADPが増加することによりAMPKを活性化させるのではないかと考えた。そこで、γ2サブユニットがAMPおよびADPに対する感受性を持たないR531G置換AMPKを発現させた細胞(RG細胞)を作製した。野生型(WT)細胞とRG細胞にサリチル酸を添加したところ、10 mM未満の濃度では、どちらの細胞でもAMPKが活性化された。(後述のように、高用量アスピリン投与などに伴う血漿サリチル酸濃度は1-3 mMである。したがって、この濃度では、サリチル酸はAMP・ADP増加によってAMPK活性化を起こしているのではないと考えられた。なお、10 mM以上のサリチル酸ではWT細胞のAMPK活性化はRG細胞に比べ大きく、高濃度ではAMP・ADP依存性の効果が起こりうることが示された。)

また、サリチル酸を1-10 mM添加すると、WT細胞でもRG細胞でも細胞酸素吸収が増加した。このサリチル酸による効果は、2,4-ジニトロフェノール(DNP;ミトコンドリアのプロトン勾配を消費して、ATP合成と呼吸鎖を脱共役する=ATP産生を生じずにエネルギー消費を行う)を加えた場合は、相加的に増加しなかった。したがって、この濃度ではサリチル酸は2,4-ジニトロフェノールと同様に、ATP合成と呼吸鎖を脱共役すると考えられた。ただし、他のAMPK活性化剤(H2O2)の効果に比べ、30 mM以下ではサリチル酸によるADP:ATP比の増加は非常に小さかった。これは、ミトコンドリアが呼吸を増加させることにより、軽度の脱共役は代償しているためのようである。なお、サリチル酸はCa2+-CaMKKβ経路を介してAMPKを活性化しているわけではない(CaMKKβ阻害剤A23187を添加してもサリチル酸の効果に変化はなかったため)。

Cell-free assayでサリチル酸はAMPKを直接活性化し、その作用部位はA-769662と同じである
次に、ラット肝から精製したAMPKを用いたcell-free assayで、ATPの生理的な濃度下において、1.0 mMのサリチル酸は、half-maximalな効果である1.6倍のアロステリックな活性化を起こした。また、サリチル酸存在下でも、AMPによるAMPKの活性化が認められた。サリチル酸を加えても、half-maximalな活性化を起こすAMP濃度には影響しなかった(すなわち、サリチル酸とAMPは作用点が別)。それに対し、A-769662によるAMPK活性化はサリチル酸濃度を増加させると阻害され、10 mMのサリチル酸を加えるとhalf-maximalな効果をもたらすA-769662の濃度は4倍以上必要になった。これらの結果より、サリチル酸は、A-769662と同じ部位に作用すると考えられる。

ここでもし、サリチル酸がA-769662と同じ部位に結合するとしたら、サリチル酸はA-769662と同じようにThr172を脱リン酸化から保護するはずである。実際、サリチル酸は、AMPK(ヒトWT-α1β1γ1)をprotein phosphatase-2Cαによる脱リン酸化からA-769662と同程度に保護した。なお、β1サブユニットでS108A置換したAMPKβ2を含むAMPKでは、A-769662のThr172脱リン酸化保護作用は見られないことが報告されている。これらのAMPKでは、サリチル酸およびA-769662によるThr172脱リン酸化保護作用が見られなかった。(ただし、α1β2γ1AMPKでは、A-769662によりやや脱リン酸化保護作用が見られた。)これらの結果も、サリチル酸はA-769662と同じ部位に結合するという考えを支持する。

AMPKβ1変異体またはβ2発現HEK293細胞ではサリチル酸によるAMPK活性化が低下している
また、AMPKのβサブユニットの、野生型(WT)β1、β1-S108A変異体、WTβ2をそれぞれ発現させたHEK293細胞を用いて、サリチル酸とA-769662のintactな細胞におけるAMPKリン酸化/活性化に及ぼす効果を検討した。A-769662とサリチル酸は、WTβ1を発現させた細胞でのAMPKリン酸化/活性化を増加させたが、β1-S108A変異体やWTβ2を発現させた細胞ではその効果は大きく低下していた。なお、AMPを増加させることによりAMPKを活性化するquercetinの添加では、いずれの細胞でもAMPKリン酸化/活性化を増加させた。(したがって、サリチル酸のAMPK活性化は、A-769662と同様、AMP増加ではなく、Thr172脱リン酸化保護を介するものと考えられる。)

サリチル酸による脂質改善効果はAMPKβ1欠損マウスでは見られない
次に、AMPKのβ1欠損(β1-KO)マウスを用いて、サリチル酸のin vivoでの脂質・糖代謝への効果が、AMPKを介するものであるかを検討した。まず、野生型(WT)マウスの単離肝細胞にサリチル酸またはA-769662を添加すると、脂肪酸酸化(palmitate oxidation)が刺激され、AMPKとACCのリン酸化が増加した。しかし、これらの効果はβ1-KOマウスの肝細胞では減少または消失していた。

次に、WTマウスとβ1-KOマウスにサリチル酸またはA-769662を注入したところ、WTマウスの肝でAMPKとACCのリン酸化が増加したが、β1-KOマウスでは増加しなかった。サリチル酸またはA-769662注入によりWTマウスでは、注入後6時間の呼吸商(respiration exchange ratio)が抑制されたが、β1-KOマウスではそれが見られなかった。サリチル酸またはA-769662注入によって、脂質および炭水化物利用は、WTマウスで増加したが、β1-KOでは増加しなかった。サリチル酸またはA-769662注入によって、WTマウスではNEFA(nonesterified fatty acid)が低下したが、β1-KOマウスでは低下しなかった。したがって、サリチル酸の脂質代謝に対する効果はAMPKを介すると考えられた。なお、糖代謝に関しては、サリチル酸の連日注入を2週間続けたところ、空腹時血糖、空腹時インスリン、耐糖能、インスリン抵抗性(HOMA)はWTマウスで改善したが、これはβ1-KOマウスでも改善が認められ、サリチル酸の糖代謝への効果はAMPK活性化とは独立したものと考えられた。

【結論】
以上の結果から、①サリチル酸は、主にThr172の脱リン酸化を抑制することにより、直接AMPKを活性化することが示された。ヒトの場合、経口サルサレートや高用量アスピリン(30-90 mg/kg)投与を受けた場合の血漿サリチル酸濃度は1-3 mMである。上記の検討では、これらのサリチル酸濃度では、AMP非依存性にAMPKを活性化させるメカニズムが示唆された。また、②サリチル酸のAMPK活性化メカニズムは、A-769662による活性化メカニズムに近い。サリチル酸およびA-769662のAMPK上の正確な結合部位は不明だが、S108A変異AMPKがこれら両者の薬剤で活性化を受けないという結果から、2つの薬剤の結合部位がオーバーラップしている可能性がある。さらに、③サリチル酸のin vivoでの脂肪酸化に対する効果発現には、AMPKβ1が必要であることも明らかになった。④糖代謝への影響に関してはAMPK活性化以外の経路(IKKβやc-Jun N-terminal kinase経路)が重要と考えられた。

アスピリンは経口投与すると、肝・赤血球・血漿中のesteraseによって急速にサリチル酸に分解される。アスピリンの脂質代謝改善以外の効果(癌の進展抑制効果など)もAMPK活性化によるのかもしれない。他のAMPKを活性化剤であるメトフォルミンは、癌の発生を減少させることが示されており、サリチル酸とメトフォルミンはどちらもAMPK活性化を介して癌の発症抑制に関与している可能性がある。なお、in vivoではAMPKを活性化させるアスピリンの用量は多くのヒトの研究で用いられている量より高いことに注意すべきである。
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by md345797 | 2012-05-22 18:38 | シグナル伝達機構

AMPK:エネルギー恒常性を維持する、栄養素とエネルギーのセンサー

AMPK: a nutrient and energy sensor that maintains energy homeostasis.

Hardie DG, Ross FA, Hawley SA.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2012 Mar 22;13(4):251-62.

【総説内容】
ちょうどモバイル電子機器と同じように、すべての細胞は「充電可能な電池」を持っている。すなわち、細胞にとってミトコンドリアATP合成酵素によるATP合成が「電池の充電」であり、ATP加水分解によるADP+リン酸の生成、エネルギー放出が「電池の放電」である。「ADP/ATP比が増加する」ということは、細胞のエネルギーレベルが低下していることを示す。また、2ADP→ATP+AMPという反応が起きるため、エネルギーが低下した細胞ではADPの増加だけでなく、AMPの増加も起きる。AMP濃度の絶対値はADP濃度よりかなり小さいので、AMPの増加「率」はADPの増加率よりも大きくなる。以上より、細胞のエネルギー状態を感知するための蛋白は、ADP/ATP比かAMP/ATP比、もしくはそれらの両方をモニターするのである。

AMP/ATP比を直接モニターする酵素には、glycogen phosphorylaseとphosphofructokinase (いずれもAMP/ATP比を感知してグリコゲン分解による糖産生を促進)やfructose-1,6-biphosphatase (AMP/ATP比の増加によって抑制される、糖新生を促進)がある。しかし、大多数の真核生物細胞の主要なエネルギーセンサーといえば、AMP-activated protein kinase (AMPK)であろう。AMPKやその上流のLKB1(別名STK11)を欠損させると、細胞がストレス(筋の収縮、心筋の虚血、肝細胞にメトフォルミンが作用した場合など)を受けたときにAMP/ATP比やADP/ATP比が大きく増加することからそのことがうかがえる。

AMPKのサブユニットと調節
AMPKは、触媒α-サブユニットと調節β-およびγ-サブユニットのヘテロ三量体からなる。下図aのAMPKのモデル(3本に棒)は上からα-、β-、γ-サブユニットを表す。基底状態(細胞がストレスを受けておらず、エネルギーが十分な状態:図の左上)では、γ-サブユニットのsite 1とsite 3はATPによって占められている(site 2は常に空いていて、site 4は常にAMPが占めている)。下図bは、nucleotide総濃度が一定のときのATP、ADP、AMP濃度の変化を表しており、左端は基底状態、中央は運動などの「生理的な」中等度のストレスを受けている状態(=ATPが低下して、ADP・AMPが増加している)、右端は虚血などの「病理的な」高度のストレスを受けている状態(=ATPがさらに減少し、ADP、AMPの濃度と同じになりこれ以下に減少できない)を表している。グラフの横軸は、細胞のストレス状態でADP/ATP濃度比を示す。

図bを図aに重ねてみると、細胞が基底状態から中等度ストレスを受けた状態に移行すると、γ-サブユニットのsite 3のATPがADPに置換(図ではADPになっているが、AMPでも置換)されることに伴い、上流のLKB1やCaMKKβによって、α-サブユニットのキナーゼドメイン内にあるThr172がリン酸化される。これにより、AMPK活性は100倍に増加する。図aでは、左上から中央下の状態に移行し、α-サブユニットの星二つ(活性100倍)になるよう示している。

次に、図bの高度なストレスを受けた状態になると、γ-サブユニットのsite 1のATPがAMPに置換され、さらに10倍のアロステリックな活性化を起こす。これは図aの中央下から右下への移行で示し、α-サブユニットの星三つ(活性1000倍)で表している。後半のアロステリックな活性化はAMPでのみ起きるが、前半のThr172リン酸化による活性化はADPでもAMPでも起きることが最近報告された(ADPの方がAMPより高濃度存在するため、Thr172リン酸化は通常ADPで起きると考えられる)。

最後に、細胞のエネルギー状態が基底状態に戻ると、site 1のAMPがATPに置換されてアロステリックな活性化が元に戻り(図aの右下から中央下へ)、さらにsite 3のADPがATPに置換されることでThr172の脱リン酸化が起こり(中央下から左上へ)、AMPK活性は基底状態に戻る。

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AMPKの構造
AMPKの構造は下図の通りである。α-サブユニットは、N端側にキナーゼドメインがあり、そのC端側にauto-inhibitory domain (AID)が存在する。さらにその C端側にはlinkerを経て、β-サブユニットに結合するα-subunit carboxy-terminal domain (α-CTD)がある。β-サブユニットには、グリコゲンが結合するcarbohydrate-binding module (CBM)と、β-subunit carboxy-terminal domain (β-CTD)があり、β-CTDはαとγ-サブユニットに結合する。γ-サブユニットは、タンデムに4つのリピート配列があり、CBS1-CBS4と呼ばれている(CBSはcystathionine β-synthaseの略、CBSにこのリピートが見られるためこの呼称がついている)。このリピートはアデノシンを含むリガンドが結合する。Site 2は常時空いており、site 4はAMPが強く結合している。Site 1とsite 3は、ATP、ADP、AMPが競合して結合する。前述のように、site 1へのAMPの結合はアロステリックなAMPK活性化をもたらし、site 3へのADP(またはAMP)の結合はThr172のリン酸化(および脱リン酸化からの保護)をもたらす。

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by md345797 | 2012-05-21 04:59 | シグナル伝達機構

生物学的過程にロバストネスをもたらすmicroRNAの役割

Roles for MicroRNAs in Conferring Robustness to Biological Processes.

Ebert MS, Sharp PA.

Cell. 2012 Apr 27;149(3):515-24.

【総説内容】
MicroRNA (miRNA)は20-24塩基からなるRNAで、標的遺伝子のmRNAの3’ UTRに結合して、その発現を転写後に抑制する。蛋白をコードする遺伝子の60%以上がmiRNAの標的であると考えられている。また、ロバストネス(robustness)とは、システムが内的・外的な擾乱に対して、その機能を維持する能力のことをさす。生物学では、蛋白レベル、細胞レベル、個体レベルなど様々なレベルでのロバストネスが想定されている。この総説では、miRNAが生物学的なロバストネスにどのように貢献しているかを概説する。

正確な発生分化のための調節
最も早くに見出されていたmiRNAの機能は、発生を決まった方向に遷移させる役割であった。例えば、Drosophilaの胚で神経外胚葉前駆細胞がニューロンに分化する過程では、ニューロンの遺伝子はmiRNAであるmiR-124によって抑制される部位を持っていないが、同じ神経外胚葉由来である表皮組織の遺伝子はmiR-124によって抑制される部位を持っているため、miR-124が作用すると表皮組織ではなくニューロンに分化する発生過程が促進される。同じく、表皮組織に分化する過程では外胚葉に特異的なmiR-9aが作用しニューロンへの分化を抑える、という相互作用のパターンが見られる(下図)。このようなパターンを(ニューロン、表皮組織が両者ともお互いの発生をどちらも抑制しあう;位相が合っているという意味で)コヒーレントな調節と呼ぶ。
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細胞運命決定のためのフィードフォワード・フィードバック
コヒーレントなフィードフォワードループ(FFL)とは、下図のAのように、コンポーネントAはCを抑制するが、AはさらにBを活性化する。そのBもCを抑制するといったものである(A、BもどちらもCを抑制する点が「コヒーレント」である)。もし、Aのシグナルが一時的に減少しても、その影響は残存するBによって代償され、下流のCを確実に阻害することができる。このネットワークモチーフは分化系列の決定においてよく見られ、例えば顆粒球形成において、C/EBPαはE2F1の転写を阻害するが、C/EBPαは同時にmiR-223の発現を促進しこれが転写後調節を介してE2F1の発現を抑制している。さらに、このフィードフォワードループには、E2F1がmiR-223の発現を阻害するというフィードバックループが連動している。このフィードバックループにより、細胞は「消去すべき一時的な外乱」を受けたのではなく、「維持されるべき持続的な変化」を遂げる方向に進む。また、下図のBでは、コンポーネントAとBの間に相互に負のフィードバックが見られる。このモチーフは、骨髄系前駆細胞が顆粒球に分化したのち顆粒球が再び前駆細胞の状態に戻るのを防ぐために、転写因子NFI-AがmiR-223を阻害し、さらにmiR-223がNFI-Aを阻害することにより安定性を保つ際に用いられている。下図のCでは、コンポーネントAとBの間に相互に正のフィードバックが存在している。これは線虫において、LIN12がmiR-61の転写を活性化し、miR-61がLIN12の負の制御因子であるvav-1を抑制することで、LIN12活性を保ち分化決定を促進する機構に見られる。
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正のフィードバックが小さな変化を増幅する
個々のmiRNAがターゲットの蛋白発現量に及ぼす影響はわずかであるが、蛋白発現量のわずかな変化が増幅されると大きい生理学的な効果をもたらしうることは以下のような例でみられる(下図)。癌細胞では、Srcの一時的な活性化がNFκB活性化をもたらし、活性化されたNFκBはIL6の転写を活性化する。NFκBは一方で、Lin-28Bの活性化を介してmiRNAであるlet-7の転写を阻害する。ここでlet-7の減少は、直接の抑制ターゲットであるIL6およびRasの抑制解除(derepression)につながり、これらの増加がNFκBのさらなる活性化を介してIL6の増加を増幅する。増幅されたIL6はSTAT3を大きく活性化し、細胞成長を促進する。正常の組織ではlet-7が多く発現しているためにNFκB/IL6間の正のフィードバックは抑制されるが、癌ではlet-7発現が低下しており、NFκB/IL6間の正のフィードバックが暴走してしまう。ヒトの癌ではさらに癌原生の変異(v-Srcやv-Ras)がこの正のフィードバックをさらに増強する。
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バッファーとしてのmiRNA
miRNAには、遺伝子発現量の変化に対抗するための「バッファー」としての働きがある。発現量の変化を抑える一つの方法が、下図AのようにコンポーネントAがBを活性化し、BがAを阻害するという負のフィードバックループである。例えば、MeCP2はBDNFを介して神経のmiR-132の発現を増加させ、miR-132はMeCP2の発現を抑制する。この負のフィードバックループにより、MeCP2の恒常性が保たれる(MeCP2の発現は、増加しすぎても減少しすぎても神経発生の障害を起こしてしまう)。蛋白発現量は、以下で述べるような内因性のノイズや外因性のノイズによってランダムに変動しうるが、miRNAはその変動を小さくする働きを担っている。

内因性のノイズとは、転写のような「確率的なイベントから生じる変動」のことをいう。転写は確率的バースト(ある間隔をおいて送り出される信号)として起こり、転写速度が高いとノイズは少なくなる。翻訳はmRNAバーストを増幅するため、ノイズは翻訳速度の増加とともに直線的に増加する。したがって、ある遺伝子が高速で転写され、同時にmiRNAを用いて翻訳速度を低下させると、細胞は発現蛋白量の変動を少なくできる。下図Bでは、単位時間あたり同じ20分子の蛋白(紫のバー)を発現させる場合、転写速度が大きければmRNAバースト(黒のバー)が多くなり、それぞれのmRNAの翻訳速度が小さければ蛋白発現量の変動は少なくなることを示している。
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また、外因性のノイズとは、転写因子などの違いから生じる変動のことをさす。ある遺伝子の外在性のノイズはターゲット遺伝子を転写因子と共同で調節するmiRNAによって減少させることができる(上図C右)。このようなモチーフは、ターゲット遺伝子は転写因子により発現が「促進」、miRNAにより発現が「抑制」と位相が違うため、「インコヒーレントなフィードフォワードループ」と呼ばれる。ここでもし転写因子活性が低下しても、miRNAの抑制解除によりターゲット遺伝子の発現は増加する。すなわち、蛋白発現量は転写因子活性の変動(外因性のノイズ)を受けにくい。mRNA量とそれに伴う蛋白発現量の関係のグラフ(図C左)を見ると、インコヒーレントなフィードフォワードループでは蛋白発現量が安定している。これらはmiRNAがバッファーとして作用している例と考えることができる。

mRNA発現の閾値効果と内因性のmiRNA競合
最近、miRNAターゲット遺伝子は、それ以下では発現が効果的に抑制され、それ以上ではmiRNA効果を超えるという「mRNAの閾値」を持つことが示された(下図参照)。ターゲットmRNAの量がある閾値以下のとき、ターゲットは強く抑制され(赤の部分)、閾値以上であれば抑制は弱い(青の部分)、というように、miRNAとそのターゲットmRNAの量の関係によってターゲット蛋白の量は非直線的に増加する(下の白線)。
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また最近、内因性の転写産物で、自然にできたmiRNAデコイ(おとり)のように働く「競合内因性RNA(competitive endogenous RNA; ceRNA)」の存在が報告されている。細胞あたりどのくらいの量のceRNA分子が、どのくらいの量のmiRNAに競合しているのかという定量的な検討はまだ行われていない。
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by md345797 | 2012-05-15 06:45 | その他

肝のAktとFoxo1を欠損させても、in vivoでインスリンは肝糖新生を調節できる

Insulin regulates liver metabolism in vivo in the absence of hepatic Akt and Foxo1.

Lu M, Wan M, Leavens KF, Chu Q, Monks BR, Fernandez S, Ahima RS, Ueki K, Kahn CR, Birnbaum MJ.

Nat Med. 2012 Feb 19;18(3):388-95.

【まとめ】
空腹時の肝における糖産生は転写因子Foxo1が担っており、これは摂食後のAkt活性化によって抑制される。肝特異的にAkt (Akt1Akt2)を欠損させたマウスでは、摂食後の肝での糖新生抑制が障害されており、耐糖能異常とインスリン抵抗性を起こす。このマウスにさらに肝特異的にFoxo1を欠損させると、肝糖新生は空腹・摂食の両状態に適切に反応し、インスリンによる肝糖新生抑制が正常に起きた。遺伝子発現アレイによる検討では、肝特異的Akt欠損マウスでは肝糖新生遺伝子発現が恒常的に活性化しているが、肝特異的にAktFoxo1も欠損させるとAkt欠損による摂食後の肝糖新生遺伝子発現を防止することができた。これらの結果は、Foxo1が欠損している場合はAktがなくても摂食後に肝糖新生を抑制できるということであり、「Aktが肝でのインスリンシグナルに必須」とする標準的な(canonical)モデルと一致しないものである。

【論文内容】
インスリンによる肝糖新生の調節経路は、インスリンによるAktの活性化→転写因子Foxo1のリン酸化とそれに伴う核からの除外→Foxo1によるによる肝糖新生酵素(G6pc、Pck1)発現の低下→肝糖新生の抑制、という直線的な経路が知られている。肝特異的にFoxo1を欠損させると、肝糖新生酵素発現が低下して空腹時の低血糖を起こす。インスリン抵抗性マウスや肝特異的Irs1Irs2欠損マウスは代謝障害を示すが、それらで肝のFoxo1を欠損させると耐糖能・インスリン感受性が正常化する。これまでの報告から、インスリンシグナル伝達においてFoxo1を抑制するAktは肝糖新生抑制の重要な因子であると考えられている。

Akt2欠損マウスで、肝特異的にAkt1を欠損させる
Aktには3つアイソフォームがあるが、マウス肝ではAkt2が84%、その残りをAkt1が占め、Akt3は検出されない。Akt2-/-マウスが示す糖尿病形質は中程度であり、これは肝にAkt1が残存しているためと考えられている。そこで、全身性のAkt2欠損と肝特異的なAkt1欠損を併せ持つマウスを作製したところ、Akt2のみの欠損に比べ、高度な高血糖を示した。また、このマウスではFoxo1の主要な標的遺伝子であるIgfbp1の発現が亢進しており、Foxo1活性が亢進していると考えられた。

Akt1Akt2のダブルノックアウトマウスの肝におけるインスリンシグナル伝達
次に、肝特異的にAkt1Akt2を欠損したダブルノックアウトマウス(DLKO)を作製した(Akt1loxP/loxP; Akt2loxP/loxP マウスに、thyroxine-binding globulin下にCreを発現させたアデノ関連ウイルス(AAV-Tbg-Cre)を注入し、注入2週間後のものを用いた)。コントロール(Akt2loxP/loxP;2LWTおよびAkt1loxP/loxP; Akt2loxP/loxP;DLWT)に比較すると、インスリン投与後の肝のAkt Ser473のリン酸化は検出されず、S6リン酸化は低下した。Erk2 kinaseはコントロールと同様に活性化された。

DLKOマウス肝におけるFoxo1調節性遺伝子の発現
DLKOマウスの肝では、Foxo1の直接のターゲットであるIrs2Ppargc1Ifgbp1は、コントロールマウスの肝に比べ発現が増加していた。空腹時にはDLKO肝でのG6pcPck1の発現はコントロールに比べ差はなかったが、摂食後のDLKOの肝ではG6pcPck1の発現は正常に抑制されなかった。これらの結果から、肝においてAktを欠損させるとFoxo1の活性化が起こることが確認された。

DLKOマウスは耐糖能異常・インスリン抵抗性を示す
DLKOマウスは、摂食後の血糖がコントロールマウスに比べ高かった。DLKOマウスは耐糖能異常があり、空腹時およびグルコース負荷試験時のインスリンが高値で、インスリン抵抗性と考えられた。高インスリン正常血糖クランプでも、DLKOマウスはグルコース注入率が低く、インスリンによる肝糖産生の抑制が障害されていた。

DLKOマウスの肝において、さらにFoxo1を欠損させる
もしDLKOマウスにおける耐糖能異常がFoxo1の活性化によるものであれば、DLKOマウスの肝でさらにFoxo1を欠損させれば耐糖能異常は回復するはずである。そこで、Akt1loxP/loxP; Akt2loxP/loxP; Foxo1loxP/loxPマウスにAAV-Tbg-Creを注入し、肝特異的なAkt1Akt2Foxo1のトリプルノックアウトマウス(TLKO)を作製した。コントロールは、Akt1loxP/loxP; Akt2loxP/loxP; Foxo1loxP/loxPマウスにGFP発現ウイルスを注入したマウス(LWT)とした。TLKOでは、DLKOで見られた摂食後の高血糖や耐糖能異常・インスリン抵抗性が正常化した。

TLKOマウスのインスリン・摂食に対する肝糖新生反応は正常である
以上の結果は、インスリンや摂食がAktを活性化→Foxo1を不活性化→糖新生酵素の発現が抑制されるという直線的な経路のモデル(canonicalな経路:下図左)で説明できる。しかし、もう一つのモデルとして、インスリンや摂食がAkt非依存性の並行する別経路(non-canonicalな経路:下図右)経由で糖新生酵素の発現を抑制し、そのnon-canonical経路をcanonical経路のFoxo1が抑制していると想定することも可能である。

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もしcanonical経路しかなければ(上図左)、AktFoxo1の両方を欠損させた場合(TLKOマウス)、肝糖新生酵素の発現は空腹時も摂食後も常に抑制状態に保たれているはずである。ところが、TLKOマウスでは、肝糖新生酵素の発現は空腹時には増加し、摂食後は抑制された。すなわち、空腹・摂食による糖新生酵素発現の調節には、必ずしもAktとFoxo1は必要ではない(上図右)と考えることができる。

また、LWT(コントロール)、DLKO(Akt欠損)、TLKO(AktFoxo1欠損)の3種のマウスのmRNAでゲノムワイド発現解析を行った。コントロール肝において、摂食によって発現が2倍以上変化する(metabolically responsive)遺伝子を688個同定した。それらのうち298個がDLKO肝で、コントロール肝に比べ発現が変化していた。このDLKO肝で変化が見られる298遺伝子の大部分は、TLKO肝でその変化が回復していた。すなわち、TLKO肝では、コントロールと同じ摂食後の遺伝子発現が回復していた。(もしcanonical経路しかなければ、TLKO肝では空腹・摂食による遺伝子発現の変化は起きないはずである)

TLKOマウスの肝で、糖新生酵素発現の調節が正常に起こるということは、次の2つの疑問を起こす。一つは、AktFoxo1の両方が欠損した肝での正常な摂食後反応はインスリン作用が再構成されたことを示しているのか、ということ。もう一つは TLKOマウスの遺伝子発現の変化は肝糖産生の抑制を伴うのか、ということである。そこで、インスリン注入なしと注入ありで正常血糖クランプ中の肝糖新生酵素の発現レベルと肝糖産生を調べた。TLKOマウスの肝糖新生酵素の発現および肝糖産生はインスリンによってコントロールマウスと同様に抑制されたため、AktとFoxo1の存在に関係なくインスリンは肝糖新生を調節できると考えられた。

最後に、コントロールマウスとTLKOマウスの肝から単離した肝細胞(primary hepatocyte)で、インスリンのなし・ありで糖新生酵素遺伝子の発現を比較した。コントロールの単離肝細胞に比べTLKOの単離肝細胞では、インスリンなしでも糖新生酵素発現が大きく抑制されており、インスリンによる追加の抑制はなかった。このex vivoのインスリン刺激の結果は、前述のin vivoのインスリン刺激(または摂食後)の結果とは違って、canonical経路の存在のみで説明がつく。すなわち、肝細胞を単離した場合はcanonical経路しか存在しないように見えるが、実際のin vivoではnon-canonical経路が肝細胞内以外に(脳や脂肪組織などの他の組織を介して?)存在することを示唆する。このnon-canonical経路は同定が待たれるところであり、インスリン抵抗性治療の新しいターゲットにもなるだろう。
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by md345797 | 2012-05-11 23:23 | シグナル伝達機構

CREBとそのco-activator CRTCs:ホルモンと代謝シグナルのセンサー

CREB and the CRTC co-activators: sensors for hormonal and metabolic signals.

Altarejos JY, Montminy M.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2011 Mar;12(3):141-51.

【まとめ】
① CREBは、G蛋白共役受容体にリガンド(グルカゴンなど)が結合→細胞内cAMPが増加→PKAの核内への移行(活性化)→核内でCREBのSer133がリン酸化を受け活性化されることにより、cAMP反応性遺伝子の発現を誘導する。Ser133がリン酸化されたCREBは、CBP/p300との結合が増加することにより、その活性が増加される。
② CRTCsは、細胞内カルシウム増加によってcalcineurinによる脱リン酸化を受け核内へ移行するとCREBに結合し、CREB標的遺伝子の発現を促す。
CRTC1は、視床下部に限局して発現しており、ここでレプチンの食欲抑制に関与している。CRTC1は弓状細胞(arcuate cells)において神経ペプチドCART1の発現を促進することにより、摂食を抑制する。
CRTC2は、空腹時の肝においてグルカゴンによる糖新生を促進する。CREBとCRTC2活性は高血糖、インスリン抵抗性の状態で増加している。
CRTC3は、白色および褐色脂肪組織においてカテコラミンシグナルを抑制することにより肥満を促進する。ヒトにおいてCRTC3の機能亢進性の変異は、肥満に関連している。
⑥ CRTCsは、線虫およびショウジョウバエでグルコースと脂質代謝における空腹・摂食シグナル、寿命を調節している。

【総説内容】
CREB活性の調節

遺伝子プロモーター上のCRE(cAMP-responsive element)への結合蛋白であるCREB(cyclic AMP-responsive element-binding protein)は、リン酸化を受けるとCBP(CREB-binding protein)/p300(=p300はCBPのparalog)との結合が促進され、転写活性が増加する。G蛋白共役受容体にリガンド(グルカゴンなど)が結合すると、細胞膜状のAC(adenylyl cyclase)活性化により、細胞内cAMPが増加する。このcAMPはPKAの調節サブユニットを外すことによってPKAの活性化・核内移行が促進される。核内でCREに結合しているCREBは、PKAによってそのSer133がリン酸化されると、CBP/p300との結合が促進される。CBP/p300はhistone acetyl-transferaseであり、ヒストンをアセチル化する(DNAを「ほぐし」、RNA polymeraseⅡ複合体を呼び寄せる)ことにより、CREBの標的遺伝子の発現を増加させる。

CREBのco-activatorであるCRTCs
CERBのco-activatorであるCRTCs(cAMP-regulated transcriptional co-activators)には、3種類(CRTC1、CRTC2、CRTC3)あり、共通したドメイン構造をもっている。CRTCは、細胞質でSIK2(salt-inducible kinase 2)によってリン酸化されていると14-3-3蛋白が結合し不活性の状態を保っている。しかし、細胞内カルシウム濃度の増加によってcalcineurin(Ser/Thr phosphataseである)が活性化されると、calcineurinにより脱リン酸化を受け、細胞質内に移行、CREBと結合してその活性を増加させる。

肝糖新生におけるCREBの作用
絶食時は膵グルカゴンの分泌が増加し、これがG蛋白共役受容体の活性化を介して標的細胞内cAMP濃度が増加する。これによりPKAが活性化され核内移行すると、核内のCREB Ser133をリン酸化し、CREB標的遺伝子である糖新生酵素(PEPCKやG6Pase)の発現が増加、最終的には肝の糖新生が亢進する(=絶食時の肝糖産生促進)。CREBの標的遺伝子には、PGC-1αやNA4R1があり、これらの発現は持続する絶食に伴う、肝糖産生遺伝子発現の増幅に役立っている。絶食時には、グルカゴンがcAMPの増加、PKA活性化を介してSIK2をリン酸化・不活性化し、CRTC2はリン酸化が抑制されている。その結果、CRTC2は核内に移行し、CREBを活性化、肝糖産生増加に働く。

一方、摂食時はインスリンの分泌が増加し、細胞質でAKTの活性化を介したSIK2の活性化が起きる。これによりCRTC2のSerのリン酸化・核からの除外が起こり、CREB活性は低下し、肝糖産生遺伝子の発現が減少する(=摂食時の肝糖産生抑制)。

なお、上記のようなリン酸化/脱リン酸化によるon-off制御以外に、絶食時はCREBに結合しているCBP/p300がCRTC2のLys628をアセチル化する。このアセチル化によりCRTC2は安定化し、CREBの活性化、肝糖産生酵素の発現増加をもたらす。一方、摂食時はインスリンによるSIK2の活性化により、CBP/p300のSer89リン酸化(CREBとの結合阻害)が起こり、それに伴いCRTC2のアセチル化が消失、ユビキチン化が起こり、CRTC2は proteasomal degradationを受ける。これによってもCREBの不活性化、肝糖産生酵素の発現低下が起きる。

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(注:上図では、CREBやCBP/p300が細胞質でリン酸化されて核内に移行するかのように描かれているが、正しくはこれらの蛋白はもともと核内にあり、核に移行したPKAやSIK2によってリン酸化を受ける。CRTC2は、リン酸化・脱リン酸化によって細胞質・核を移行する。)

長時間の絶食や激しい運動により細胞内のエネルギーレベルが減少すると、AMPKが活性化される。このAMPK活性化は、CRTC2のリン酸化・核からの除外を介して肝糖産生を抑制する。肝糖産生が抑制されると、肝のβ酸化やケトン体産生が亢進し、肝のエネルギー産生はグルコースからケトン体によるものへと変わっていく。メトフォルミンもAMPK活性化によるCRTC2リン酸化を促進することにより、糖尿病での肝糖産生亢進を低下させる。絶食が長時間にわたると、CRTC2は、(NAD+依存性脱アセチル化酵素である)SIRT1によってLys628の脱アセチル化を受け、ユビキチン化とproteasomal degradationを受けて、活性が低下する。

糖尿病における高血糖は、細胞内蛋白のSer/Thr残基のO-glycosylaionを起こし、それらのリン酸化を減少させる。高血糖により、肝におけるO-GluNAc transferase(OGT)の発現が亢進し、CRTC2のSer171がO-glycosylationを受けると、CRTC2はリン酸化されなくなり核内へ移行し、CREBの活性化と肝糖産生の亢進を起こす(高血糖に伴う肝のインスリン抵抗性)。

CREBとCRTC2は、高血糖(肝の糖産生亢進)の治療ターゲットになりうる。CRTC2欠損マウスは、高脂肪食を負荷しても肝の中性脂肪が少なく、インスリン抵抗性を起こしにくい。

膵島におけるCREB経路
膵β細胞では、CREBとCRTC2は、グルコースやインクレチンによるインスリン産生に関与している。Dominant negative CREBをβ細胞に過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、β細胞増殖が低下・アポトーシスが増加して、インスリン分泌の低下と高血糖が起きる。インクレチンであるGLP1は、cAMP産生からPKA活性化によるSIK抑制を介したCRTC2のSer171脱リン酸化により、またグルコースは細胞内カルシウム増加によるcalcineurin(Ser/Thr phosphatase)を介したSer275の脱リン酸化により、それぞれCRTC2を核内移行させ、CREB活性化によりIRS2の発現を増加させることにより、β細胞生存を促進していると考えられている。

脂肪組織におけるCREBの役割
肥満や高脂肪食負荷により、脂肪細胞のCREBリン酸化・活性は増加する。これにより転写リプレッサーであるATF3の発現が増加し、アディポネクチンやGLUT4の発現が低下しインスリン抵抗性を起こすと考えられている。白色(WAT)および褐色脂肪組織(BAT)にはCRTC3が発現しており、インスリン抵抗性に関与している。レプチンは視床下部を介して交感神経系活性化、カテコラミン放出を起こし、WATの脂肪分解とBATの脂肪燃焼を引き起こしている。CRTC3欠損マウスは、高脂肪食を負荷しても肥満や脂肪肝をきたさず、エネルギー消費亢進によりインスリン感受性を保っている。これはCRTC3がカテコラミンのシグナル伝達を抑制している(RGS2の発現によりadenylyl cyclaseを阻害するため)ことによる。肥満のヒトにおいても、CRTC3の変異(Ser72Asnのgain-of-function変異)が肥満に関連していることが示されている。

骨格筋におけるCREBの機能
Dominant negative CREBを骨格筋で過剰発現したマウスは、骨格筋において進行性の炎症と壊死を伴う筋ジストロフィーの所見が見られた。また、CREBとCRTCsは、骨格筋のPGC1αの発現を促進してミトコンドリア酸化能を増加させる。

視床下部におけるCREBの役割
CRTC1の発現はほとんど中枢神経系に限られており、主に弓状細胞でエネルギーバランスを調節している。CRTC1欠損マウスは過食、肥満をきたし、レプチン抵抗性である。レプチンは、弓状細胞のCRTC1を脱リン酸化し、核への移行を促進する。これにより、CREBのターゲットである摂食抑制ペプチドCARTの発現を増加させる。

寿命調節におけるCREBの役割
下位生物において、寿命の調節にCREBおよびCRTCsが役立っているという報告がある。ショウジョウバエではCRTCホモログ(Transducer of regulated CREB、TORCと略される。なおmTOR complexであるmTORC1、2とは無関係)は脂肪組織を減らし、飢餓に対する感受性を増加させる。線虫においては、唯一のCRTCホモログとしてCRTC-1が存在し、AMPKによるリン酸化(またはcalcineurinによる脱リン酸化)により核から除外(または核内へ移行)し、CREBホモログ(CRH-1)の活性低下(または亢進)によって、寿命が延長(または短縮)する。
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by md345797 | 2012-05-10 00:40 | シグナル伝達機構

REV-ERBの合成アゴニストによる概日行動と代謝の調節

Regulation of circadian behaviour and metabolism by synthetic REV-ERB agonists.

Solt LA, Wang Y, Banerjee S, Hughes T, Kojetin DJ, Lundasen T, Shin Y, Liu J, Cameron MD, Noel R, Yoo SH, Takahashi JS, Butler AA, Kamenecka TM, Burris TP.

Nature. 2012 Mar 29;485(7396):62-8.

【まとめ】
核内受容体REV-ERB-αとREV-ERB-βは行動と代謝のリズムを調節する時計蛋白の発現を統合する役割を果たしている。この研究では、REV-ERBにin vivoで結合する強力な合成アゴニストを報告する。合成REV-ERBリガンドをマウスに投与すると、概日行動と視床下部の時計遺伝子の発現の概日パターンが変化した。また、肝・骨格筋・脂肪組織における一連の代謝遺伝子発現の概日パターンも変化し、エネルギー消費が増大した。高脂肪食負荷・肥満マウスにREV-ERBアゴニストを投与すると、高脂血症や高血糖が改善され、肥満が減少した。これらの結果から、概日リズムをターゲットとした薬剤である合成REV-ERBリガンドは、代謝疾患の治療に有効である可能性が示された。

【論文内容】
哺乳類では、ほぼすべての組織が概日分子ペースメーカーをもち、視床下部の視交叉上核(SCN)がそれらを統合し、環境の昼/夜サイクルに生理的リズムを合わせるマスター概日ペースメーカーの役目を果たしている。これらの分子時計は、転写因子BMAL1とCLOCKまたはNPAS2がperiod (Per1Per2Per3)とcryptochrome(Cry1Cry2)の転写を活性化し、発現が亢進したPERおよびCRY蛋白はBMAL1-CLOCK活性を阻害する、というフィードバックループからなり、その結果これらの遺伝子がリズミックな概日パターンで発現する。Bmal1Clockは、核内受容体REV-ERBの直接のターゲット遺伝子になっているため、REV-ERB-αが欠損すると概日行動が変わってしまう。REV-ERB-α/βの生理的リガンドはヘム(Heme)であることが分かっているが、このグループはREV-ERB活性を調節する小分子の合成リガンドを同定した。

REV-ERB-α/βの合成アゴニスト
このグループは、合成した2種類のREV-ERB-α/βリガンド(SR9011とSR9009)が、用量依存的にREV-ERB依存性のリプレッサー活性を増加させることをHEK293細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイで確認した。これらの化合物はHepG2細胞で、REV-ERB-α/β依存的にBMAL1 mRNA発現を抑制した。Per2-lucレポーターマウスのSCNの組織片にSR9011を添加すると、概日リズムの振幅が可逆的に減少された。SR9011またはSR9009を様々な濃度で6日間マウスに投与したところ、肝において、REV-ERB反応性遺伝子であるSerpine1(plasminogen activator inhibitor type 1)、Cyp7a1(cholesterol 7α-hydroxylase)、Srebf1(sterol response element binding protein)の各遺伝子の発現が用量依存的に抑制された。

REV-ERB アゴニストは概日行動を調節する
概日運動活性は、マウスを通常の明期/暗期(L/D)で1週間飼育したのち、暗期のみ(D/D)にしたときの運動活性で測定する。D/D条件下に12日おいたマウスにSR9011またはSR9009またはvehicleを単回投与した。Vehicle投与では概日運動活性に変化はなかったのに対し、REV-ERBアゴニストを投与した場合は運動活性が消失した。なお、これらの化合物で毒性は認められなかった。次に、D/D条件下のマウスから単離した視床下部における時計遺伝子発現が、SR9011やSR9009の単回投与によってどのように影響を受けるかを検討した。これらの化合物投与によりPer2発現は増幅され、Cry2発現は抑制された。Bmal1は軽度の影響しか受けなかったが、Npas2発現の振動は消失し、Clock発現もPer2の振動と同様発現が増幅された。

REV-ERB アゴニストはin vivoで代謝を調節する
時計遺伝子を変化させると代謝形質が変わることが示されており、REV-ERBは脂質・糖代謝に関連する遺伝子を直接調節していることも報告されている。正常のマウスにSR9011またはSR9009を長期(12日間)投与すると脂肪量が減少し体重が低下した(なお、摂食量に変化はなかった)。さらにComprehensive laboratory animal monitoring system (CLAMS)を用いて検討したところ、SR9011を1日2回10日間投与したマウスは、酸素消費量が5%増加した。SR9011投与によって夜間摂食量は10%増加、運動量は15%低下したにもかかわらず、代謝亢進によってエネルギー消費は増加し、脂肪量が減少した。SR9011を単回投与したマウスの肝では、Per2の発現パターンが変化したがBmal1Npas2の発現は変化なかった。このようにREV-ERBアゴニストは、中枢(視床下部)と末梢(肝)の時計遺伝子発現に対する効果が異なっていた。

SR9011投与により、脂肪合成遺伝子(Srebf1)、fatty acid synthase (Fasn) 、 stearoyl-CoA-desaturase 1 (Scd1)の発現は大きく変化した(Srebf1Scad1の発現は抑制され、Fasnの発現は時間がシフトした)。コレステロールや胆汁酸代謝酵素の発現も変化し、Srebf2Cyp7a1は減少したが、HMG-CoA reductase (Hmgcr)の発現は変化なかった。PGC-1αおよび1β (Ppargc1aPpargc1b)の発現は強い概日パターンを示していたが、SR9011投与によって抑制された。骨格筋におけるβ酸化の律速酵素(carnitine palmitoyltransferase 1b;Cpt1b)および骨格筋への脂肪酸輸送酵素(fatty acid transport protein 1;Fatp1、別名Slc27a1)はSR9011によって発現が増加した。また、Pppargc1bの発現およびUcp3の発現も増加した。解糖系酵素(hexokinase (Hk1)とpyruvate kinase (Pkm2))の発現は両者とも増加しており、SR9011によるグルコース酸化の増加も認められた。NAD+生合成酵素であるNAMPTはNAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRT1の概日発現を調節していることが分かっているが、SR9011投与によって肝のNampt発現が抑制されており、REV-ERBアゴニストは蛋白翻訳後のアセチル化も変化させている可能性が示された。

脂肪酸酸化や解糖系の酵素発現が増幅されている骨格筋とは対照的に、白色脂肪組織(WAT)では脂肪蓄積に関連する遺伝子発現の抑制が見られた。SR9011投与により、トリグリセリド合成を担う酵素であるdiglyceride acyltransferase 1および2 (Dgat1Dgat2)やmonoacylglycerol acyltransferase (Mgat1)は発現が抑制された。また、perilipin1(Plin1)やホルモン感受性リパーゼ(Hsl、別名Lipe)のような脂肪滴結合蛋白の発現も、SR9011投与によって抑制された。

以上のように、REV-ERBの合成アゴニストの投与により、肝・骨格筋・WATの代謝関連遺伝子の発現が変化した。すなわち、肝では脂肪合成とコレステロール合成が低下、骨格筋では脂肪とグルコースの酸化が増加、WATではトリグリセリド合成と貯蔵が低下した。

REV-ERB アゴニストは肥満マウスの代謝プロファイルを改善する
次に、高脂肪食を14週間負荷した20週齢の肥満C57BL/6マウスにSR9009を1日2回30日間投与した。その結果、SR9009投与によりマウスの体重は、vehicle投与群(1日2回の腹腔内注射のストレスで体重は減少)の60%大きく減少した(なお、摂食量に差はなかった)。また、SR9009投与により血漿トリグリセリドは12%、コレステロールは47%、NEFAは23%、血糖は19%減少した。脂肪の減少に伴い、レプチンが80%、IL-6が72%減少した。SR9009投与により、肥満マウスの肝で脂肪合成酵素(FasnScd1)とコレステロール合成に関する酵素(HmgcrSrebf2)の発現が低下し、WATでトリグリセリド合成が低下した。また、骨格筋で脂肪酸およびグルコース酸化酵素(Cpt1b, Ucp3, Ppargc1b, Pkm2 , Hk1)の発現が増加していた。遺伝的肥満モデルであるob/obマウスにSR9009を12日間投与した場合でも、体重増加が抑制された。

【結論】
REV-ERBα/βアゴニストであるSR9011およびSR9009をマウスに投与すると、エネルギー消費が亢進して脂肪量が減少し、血漿トリグリセリドとコレステロール値が低下した。これらの化合物は、代謝疾患の治療に有用である可能性がある。
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by md345797 | 2012-05-08 17:33 | エネルギー代謝