一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

<   2012年 07月 ( 7 )   > この月の画像一覧

ベージュ脂肪細胞は、マウスとヒトにおける独自の熱産生脂肪細胞である

Beige adipocytes are a distinct type of thermogenic fat cell in mouse and human.

Wu J, Boström P, Sparks LM, Ye L, Choi LH, Giang A-H, Khandekar M, Virtanen KA, Nuutila P, Schaart G, Huang K, Tu H, Lichtenbelt WDM, Hoeks J, Enerbäck S, Schrauwen P, Spiegelman BM.

Cell. 2012 Jul 20;150(2):366-76. Epub 2012 Jul 12.

【まとめ】
褐色脂肪は、ミトコンドリア脱共役蛋白UCP1を介して熱産生を行い、低体温と肥満を防止する働きをしている。最近の研究により、2つの区別できるタイプの褐色脂肪があることが分かっている。一つはmyf-5(筋肉様)細胞系列から発生する古典的な褐色脂肪であり、もう一つは非myf-5系列由来の白色脂肪から発生するUCP-1陽性細胞であり、後者はベージュ(または”brite”)脂肪細胞と呼ばれている。この研究では、マウスの白色脂肪組織からベージュ脂肪細胞を単離したことを報告する。ベージュ細胞は、白色脂肪と同じくベースのUCP1の発現は極めて低いが、古典的な褐色脂肪同様、cAMP刺激に反応して高レベルのUCP1発現と呼吸率を示す。ベージュ細胞は、白色脂肪とも褐色脂肪とも区別される独自の遺伝子発現パターンを持ち、ポリペプチドホルモンであるirisinに選択的に反応する。さらに、以前同定された成人ヒトの褐色脂肪組織は、ベージュ脂肪細胞からなることも示された。この新しいタイプの脂肪細胞の研究は治療への基礎につながると考えられる。
d0194774_141083.jpg


【論文内容】
多房性のUCP1陽性細胞は、マウス皮下白色脂肪組織に多く含まれる
従来より、マウスの皮下白色脂肪組織は、内臓白色脂肪組織に比べると、高率にUCP1や他の褐色脂肪遺伝子を発現する傾向があることが知られていた。129SVEマウスの鼠径皮下脂肪においても、多房性(multilocular)の褐色脂肪様の細胞が見られた。この皮下脂肪組織の遺伝子発現解析によると、UCP1および褐色脂肪遺伝子 (CIDEA、PGC1α)の発現が見られた(発現量は内臓白色脂肪組織と古典的な褐色脂肪組織の中間程度であった)。これらの細胞をin vitroで分化させても、同様の遺伝子発現が見られたため、これらの細胞の「中間的な褐色」の性質は、外因(神経支配、血流など)によるものでないと考えられた。

遺伝子発現解析により、皮下脂肪組織の中に2つの区別できる脂肪細胞タイプが存在することが示された
鼠径部皮下脂肪のSVF(stromal vascular fraction)を単離して培養し、限界希釈法によって個々の細胞をクローン化した。これらのうち、20以上が分化誘導によって脂肪を蓄積した。同様に肩甲骨間褐色脂肪からも3つのクローン細胞株を得た。これらの細胞株を分化させ、forskolin(cAMP-inducing agent)で処理したのち、RNAをマイクロアレイで解析したところ、白色脂肪細胞の23細胞株は2つのグループに分けられた。このクラスタリングによると、鼠径部白色脂肪由来の1グループの方はもう1つのグループに比べて、褐色脂肪細胞株により近い遺伝子発現を示した。これら3つの細胞株グループを主成分分析で解析したところ、古典的な褐色脂肪細胞に近い(が同じではない)独自の細胞集団(ベージュ細胞)の存在が示唆された。

ベージュ細胞は白色および褐色脂肪細胞の両方の特徴を持つ
皮下脂肪由来の2つのサブグループ(白色脂肪細胞とベージュ細胞)は、同様の脂肪合成と脂肪細胞特異的マーカー(aP2、Adiponectin、Adipsin、Pparγ)の発現を示した。どちらの細胞もベースの状態では、古典的な褐色脂肪細胞で見られる遺伝子(Ucp1、Cox7a1、Cidea)の発現は少なかった。しかし、cAMP刺激後はベージュ細胞株でのUcp1遺伝子発現の誘導は非常に大きく、肩甲骨間褐色脂肪細胞と同レベルに達した。cAMPによるUcp1誘導の倍率は、褐色脂肪細胞で40倍程度なのに対し、ベージュ細胞では150倍程度と非常に大きかった。

次に、移植実験によりin vivoでの白色脂肪細胞およびベージュ細胞のUcp1発現能の差を検討した。免疫不全マウスに白色またはベージュ細胞株を移植すると、in vivoで分化して4-6週間後には異所性脂肪パッドを形成する。ベースの刺激のない状態では、ベージュ細胞株も白色細胞株も、Cidea、Cox7a1、Ucp1発現レベルは同様であった。これらのマウスに交感神経刺激を模倣するCL316,243 (β3-adrenergic agonist)を投与し5時間後に脂肪パッドを採取したところ、ベージュ細胞株由来の脂肪由来の脂肪パッドではUcp-1 mRNAがベースの10-30倍に増加していたのに対し、白色細胞株由来の脂肪パッドでは5倍程度の増加であった。このように白色およびベージュ細胞のUcp1発現の違いは、in vivoでも確認することができた。

さらに、白色、ベージュ、褐色細胞のミトコンドリア呼吸(酸素消費)を調べるため、oligomycin(ATP synthase inhibitor)添加により、脱共役呼吸率(uncoupled respiration rate)を比較した。まず、褐色細胞でcAMP刺激なしのとき、脱共役呼吸がベースの呼吸率の78%を占めていた。これはベージュ細胞の60%より有意に大きかった。cAMP存在下では、脱共役呼吸は褐色細胞で1.2倍に増加したのに対し、ベージュ細胞では2倍に増加した。白色脂肪細胞では脱共役呼吸のcAMPによる増加はほとんど見られず、褐色およびベージュ細胞に比べcAMP存在下でのベースまたは脱共役呼吸率は有意に低かった。以上より、ベージュ細胞は高い呼吸能を持ち、cAMPに対する反応性は褐色細胞より高いことが明らかになった。

ベージュ脂肪細胞は独自の遺伝子発現プロファイルを示す
ベージュ脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、関連はあるが別個の遺伝子発現プロファイルを示していた。ベージュ選択的遺伝子は、発生過程の転写因子(Tbx1)、脂質代謝経路のコンポーネント(Slc27a1)、免疫・炎症経路で重要な分子(CD40、CD137)などを含んでいた。マウス脂肪組織においても、鼠径脂肪組織ではTMEM26、CD137、TBX1などのベージュ脂肪細胞マーカーが増加していたのに対し、肩甲骨間褐色脂肪組織ではEva1などの褐色脂肪細胞マーカーの発現が増加していた。これらの発現は、in vivoの免疫染色でも確認でき、鼠径脂肪組織のUCP1陽性細胞はCD137とTMEM26の発現が認められた(肩甲骨間褐色脂肪組織のUCP1陽性細胞には認められなかった)。

ベージュ細胞表面蛋白は、初代ベージュ脂肪前駆細胞の選択に用いることができる
ベージュ細胞特異的マーカー(CD137、TMEM26)が同定されたので、FACSを用いてSVFから初代細胞を単離することが可能となった。CD137陽性細胞やTMEM26陽性細胞はそうでない細胞に比べてUcp1の発現や他の熱産生関連遺伝子(ミトコンドリア遺伝子のCox7a1Cox8b、転写調節因子Prdm16Pgc-1β、熱産生ホルモンFgf21)の発現が高レベルであった。

このグループは最近、筋肉から分泌され運動によって増加するペプチドホルモンであるirisinを報告している。Irisinは、皮下白色脂肪組織を「褐色化(browning)」するが、肩甲骨間から採取した古典的な褐色脂肪細胞にはほとんど影響を及ぼさない。このirisinをヒトIgGのFcフラグメントとの融合蛋白(irisin-Fc)、または膜貫通前駆体であるFNDC5として、初代鼠径部前駆細胞として単離したベージュ細胞(CD137高発現細胞)に添加した。Irisin添加により、これらの細胞ではUcp-1および他の褐色様遺伝子(Prdm16Cox8b)の発現が増加した。Irisinは白色脂肪細胞(CD137低発現細胞)にはほとんど影響はなかった。このことから、ベージュ前駆細胞はirisinによる褐色化効果の感受性が特に高いことが分かる。

成人ヒトの褐色脂肪は、マウスの褐色脂肪細胞よりベージュ細胞の分子的特徴を多く持っている
2つの独立したコホートから生検で採取した成人ヒト褐色脂肪組織を用いて、ベージュ細胞または褐色細胞特異的遺伝子の発現レベルを解析した。褐色脂肪組織にも白色脂肪細胞が混入しているものの、Ucp1 mRNA発現レベルは、白色脂肪組織サンプルに比べ、褐色脂肪組織で数倍多かった。ベージュ細胞の特徴的遺伝子であるCD137、TMEM26、TBX1の発現は、ヒト白色脂肪組織に比べ褐色脂肪組織で多かった。重要なことは、古典的なマウス褐色脂肪の特徴的遺伝子であるEBF3、EVA1、FBO31はどちらの組織でも発現に差がなかったということである。成人ヒト褐色脂肪組織には褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞が混合しているため、免疫染色によりUCP1陽性細胞を同定した。すると、鎖骨上部位の褐色脂肪組織におけるUCP1陽性細胞は、ベージュ細胞マーカーであるCD137とTMEM26も陽性であった。一方、近傍の白色脂肪組織(perilipin-1陽性、UCP1陰性)ではCD137の発現は見られなかった。これらの結果から、成人ヒトで同定された褐色脂肪組織は、マウスにおける古典的な褐色脂肪ではなく、ベージュ脂肪により似ていると考えられる。

【結論】
マウス皮下脂肪内に、古典的な白色脂肪細胞とも褐色脂肪細胞とも異なる「ベージュ脂肪細胞」を生じる前駆細胞を同定した。ベージュ細胞は、非刺激下の状態ではUCP1を含む熱産生遺伝子をほとんど発現していないが、刺激後は褐色脂肪細胞と同程度のUCP1を発現する。また、成人ヒトの鎖骨上および頚部の褐色脂肪組織は、、古典的な褐色脂肪細胞というよりもベージュ脂肪細胞に選択的なマーカーを発現していた。なお、運動によって増加するホルモンであるirisinは、マウスのベージュ脂肪細胞を活性化することが示されているため、ヒトでの応用可能性も示唆された。
[PR]
by md345797 | 2012-07-18 01:08 | エネルギー代謝

糖代謝異常患者に対する基礎インスリン投与による心血管およびその他のアウトカム

Basal Insulin and Cardiovascular and Other Outcomes in Dysglycemia.

ORIGIN Trial Investigators, Gerstein HC, Bosch J, Dagenais GR, Díaz R, Jung H, Maggioni AP, Pogue J, Probstfield J, Ramachandran A, Riddle MC, Rydén LE, Yusuf S.

N Engl J Med. 2012 Jul 26;367(4):319-28. Epub 2012 Jun 11.

【まとめ】
十分な基礎インスリン投与により空腹時血糖値を正常化することにより心血管イベントが減少するかどうかは確認されていない。そこで、12,537名の心血管リスクを持つ糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、2型糖尿病)患者を対象に、空腹時血糖95 mg/dlを目標にinsulin glargineの投与、または通常療法を行った(なお、これらを2群に分け、n-3脂肪酸とプラセボ投与も行った)。主要評価項目(coprimary outcome)は、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、さらに心血管疾患による死亡および心不全に対する再灌流療法または入院とした。また、細小血管疾患、糖尿病発症、低血糖、体重の変化、癌の発症についても両群で比較した。

平均6.2年のfollow-up後、心血管アウトカムの発症率はinsulin glargine群と通常療法群で同様であった。ランダム化時点での非糖尿病患者の新規糖尿病発症率は、insulin glargine群で有意に低かった。重篤な低血糖の発症率もinsulin glargine群で有意に多かった。体重はinsulin glargine群で1.6 kg増加、通常療法群で 0.5 kg減少した。癌の発症率は両群で差がなかった。以上より、空腹時血糖の正常化を目的としてinsulin glargineを投与した場合、心血管アウトカムを増加させることはなかった。Inuslin glargine投与は、糖尿病新規発症を減少させたが、低血糖が増加し、体重もやや増加させた。癌の発症を増加させることはなかった。

【論文内容】
空腹時血糖の上昇は、心血管イベントの独立した危険因子である。しかし、強化血糖降下療法により低血糖のリスクが増加し、死亡率が上昇するという報告(ACCORD)もある。また、インスリン投与が心血管疾患や癌の発症を増加させるかもしれないとする懸念もあった。一方で、UKPDSでは新規発症2型糖尿病において、インスリンによる強化療法は心筋梗塞を15%、死亡を13%減少させるとしている。本研究、ORIGIN (Outcome Reduction with an Initial Glargine Intervention) trialでは、基礎インスリンによる空腹時血糖正常化が心血管アウトカムを減少させるかを検討した。

12,537名の心血管ハイリスクを持つ糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、2型糖尿病)患者を、空腹時血糖が95 mg/dl以下になるようにinsulin glargineを夜1回投与する群と、通常療法群(各担当者が最良と判断する治療を行う)にランダムに割り付けた。1年後にinsulin glargine群の50%が空腹時血糖が94 mg/dl以下となり、その後も維持された。5年後のinsulin glargine注射の遵守率は85%であった。通常療法群では、研究終了時に11%がインスリンを使っており、19%は経口糖尿病薬を使っていなかった。開始2年時のinsulin glargine群の空腹時血糖(90 mg/dl)は、通常療法群(119 mg/dl)より低かった。

複合主要評価項目(coprimary composite outcomes:第一は心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中。第二は心不全に対する再灌流療法または入院)は、insulin glargine群と通常療法群で有意差はなかった。第一、第二の主要評価項目に対するハザード比はそれぞれ1.02(95%信頼区間 0.94-1.11)、1.04(0.90-1.08)であった。

ランダム化の時点で糖尿病がなかった1456名のうち、insulin glargineに割り付けられた群(737名)と通常療法に割り付けられた群(719名)で新規糖尿病発症率を比較したところ、35%と43%であり(オッズ比 0.69、95%信頼区間 0.56-0.86, P=0.001)insulin glargine群で有意に糖尿病発症率が低かった。また、癌の発症率(ハザード比 0.94、95%信頼区間 0.88-1.13, P=0.97)および癌による死亡も両群で有意差はなかった。重篤な低血糖は、insulin glargine群が通常療法群に比べ有意に多かった(1.00 vs. 0.31 per 100 person-years、P<0.001)。6.2年のfollow-up期間の体重の変化は、insulin glargine群で平均1.6 kgの増加に対し、通常療法では0.5 kgの減少が見られた。

【結論】
空腹時血糖を低下させることを目標に6.2年間insulin glargineを投与した場合、通常療法に比べて、心血管アウトカムの増加は認められなかった。なお、insulin glargine投与により、糖尿病新規発症が減少、低血糖が増加、体重が増加したが、癌の発症の増加は見られなかった。

(本研究の限界として、insulin glargine群で最終的に47%にmetforminが用いられていたということがある。Metforminは心保護作用が報告されており、insulin glargineに心血管を障害する作用があってもそれが軽減されてしまった可能性がある。また、本研究でinsulin glargine群に割り付けられた人は通常ならインスリンを処方されない場合があり、そのような人では空腹時血糖が通常のインスリン治療より低下している可能性もある。)
[PR]
by md345797 | 2012-07-13 17:35 | 大規模臨床試験

糖代謝異常患者におけるn-3脂肪酸と心血管アウトカム

n-3 Fatty Acids and Cardiovascular Outcomes in Patients with Dysglycemia.

ORIGIN Trial Investigators, Bosch J, Gerstein HC, Dagenais GR, Díaz R, Dyal L, Jung H, Maggiono AP, Probstfield J, Ramachandran A, Riddle MC, Rydén LE, Yusuf S.

N Engl J Med. 2012 Jul 26;367(4):309-18. Epub 2012 Jun 11.

【まとめ】
n-3脂肪酸の摂取は心筋梗塞や心不全の患者で心血管イベントを予防すると考えられているが、2型糖尿病およびそのリスク患者での効果は不明である。この研究では、12,536名の心血管イベントハイリスクを持つ、空腹時血糖異常(impaired fasting glucose)、耐糖能異常(impaired glucose tolerance)、または糖尿病の患者を、n-3脂肪酸のエチルエステルを含む1gカプセル連日服用群またはプラセボ服用群にランダムに割り付けた(なお、これらの患者はinsulin glargine投与群と通常療法群に分けた)。主要評価項目(primary outcome)は、心血管疾患による死亡とした。平均6.2年間のfollow upの間、主要評価項目はプラセボ服用群に比べ、n-3脂肪酸服用群で有意に低下しなかった。n-3脂肪酸服用は、主要な血管イベントの発症率、総死亡、不整脈による死亡にも影響はなかった。n-3脂肪酸服用群はプラセボ群に比べ、トリグリセリド値は14.5 mg/dl有意に低下したが、他の脂質への影響はなかった。結論として、n-3脂肪酸の1g連日投与は、心血管イベントハイリスクを持つ糖代謝異常患者の心血管イベント発症率を減少させなかった。

【論文内容】
n-3脂肪酸の摂取は、不整脈、トリグリセリド高値、動脈硬化プラーク、血管内皮機能障害、血小板凝集、炎症に効果があると考えられている。疫学研究でも、定期的に魚を食べるか、n-3脂肪酸を含むサプリメントを摂取する人は心血管イベントのリスクが低いことが知られている。メタアナリシスでも、n-3脂肪酸摂取は、致死的・非致死的心血管イベントを減少させることが示されてきたが、ランダム化・プラセボ比較盲検試験に限ったメタアナリシスでは、n-3脂肪酸を含むサプリメントは心血管アウトカムに影響がないとされている。今までに、糖代謝異常患者(2型糖尿病、空腹時血糖異常、耐糖能異常)の患者において、n-3脂肪酸の効果を検討する研究がなかったため、本研究、ORIGIN(Outcome Reduction with Initial Glargine Intervention) にて検討した。

12,611名の心血管ハイリスクをもつ糖代謝異常患者を、n-3脂肪酸(EPA 465 mg +DHA 375 mgを含む)を1gまたはプラセボのオリーブオイル1gを服用する2群に、ランダムに割り付け、平均6.2年間追跡した。n-3脂肪酸摂取群の心血管系による死亡は574名(9.1%)、プラセボ群では581名(9.3%)、ハザード比は0.98(95%信頼区間0.87-1.10)で、主要評価項目の有意な減少は見られなかった。また、n-3脂肪酸摂取群の主要な血管イベントの発症は、1034名(16.5%)、プラセボ群では1017名(16.3%)、ハザード比1.01(95%信頼区間0.93-1.10)と有意差は見られず、総死亡、不整脈による死亡にも差は認められなかった。なお、n-3脂肪酸摂取群ではプラセボ群より、トリグリセリド値が14.5 mg/dl有意に低下していた。その他の脂質、糖代謝、血圧に有意差は認めなかった。

【結論】
本研究では、糖代謝異常患者に対する1gのn-3脂肪酸の6.2年間の投与により、心血管疾患による死亡は減少しなかった。過去の臨床試験の結果との違いについては、①過去の、発症3か月以内の心筋梗塞または心不全患者にn-3脂肪酸を投与した研究は、本研究に比べ、n-3脂肪酸の抗不整脈効果が大きく現れた可能性がある。②また、本研究を含む最近の患者は従来の研究の患者に比べ心保護治療を受けていたとも考えられる。最近の研究では、心筋梗塞患者にn-3脂肪酸投与してもイベント減少につながらないという報告もある。③さらに、本研究は空腹時血糖異常、耐糖能異常、糖尿病の患者であり、このような患者にはn-3脂肪酸が有効でない可能性もある。
現在さらに、n-3脂肪酸で心血管イベントが予防できるかを検討する3つの大規模臨床試験が進行中である(Rischio and Prevenzione study、ASCEND、VITAL)。
[PR]
by md345797 | 2012-07-13 07:55 | 大規模臨床試験

p70S6 kinaseは、AMPKのserine 491をリン酸化することにより、レプチンの摂食効果を調節する

p70S6 kinase phosphorylates AMPK on serine 491 to mediate leptin's effect on food intake.

Dagon Y, Hur E, Zheng B, Wellenstein K, Cantley LC, Kahn BB.

Cell Metab. 16(1) 104-112, June 21. 2012.

【まとめ】
PI3K-AKT、mTOR-p70S6 kinase、AMPKの各経路は、代謝調節に必要な別々の経路と考えられている。これらの経路は視床下部においてレプチンの摂食抑制効果にも必要である。この研究では、これらの経路が統合されたリン酸化カスケードであり、視床下部のレプチン作用を調節していることを示す。α2AMPKのserine491がその収束部位であり、p70S6 kinaseはα2AMPKと複合体を形成し、そのserine491をリン酸化する。α2AMPK-serine491のリン酸化を阻害すると、視床下部AMPK活性が増加して摂食と体重が増加した。視床下部のα2AMPK活性化抑制、神経ペプチド発現、摂食・体重低下のためのレプチン作用には、α2AMPK-serine491のリン酸化が必要であった。本研究の結果から、p70S6 kinaseは阻害性のAMPK kinaseであり、AMPKはp70S6 kinaseの基質であることが明らかになった。mTOR-p70S6 kinase系とAMPKはいくつもの基本的な生物学的プロセス(代謝、細胞成長、発生など)で主に反対の効果をもたらすと考えられてきたので、この発見は重要であると考えられる。

【論文内容】
視床下部においてAMPKは全身のエネルギーセンサーとして働いている。視床下部のα2AMPK活性はレプチンの摂食・体重低下作用に必要であることが分かっている。AMPKの活性化にはα catalytic subunitのthreonine172が上流のkinaseによってリン酸化されることが必要であるが、同じくserine485/491のリン酸化がThreonine172のリン酸化を阻害することも知られている。

レプチンと摂食は、視床下部のα2AMPK活性を減少させ、AMPK serine485/491リン酸化を増加させる
レプチンを脳室内投与すると、視床下部弓状核(ARC)、腹内側(VHM)/背内側(DMH)、傍室核(PVN)のα2AMPK活性が低下し、serine485/491リン酸化が低下した。絶食後の再摂食によっても、視床下部のα2AMPK活性が低下し、serine485/491リン酸化が低下した。

レプチンはα2AMPKのserine491リン酸化することにより、α2AMPK活性を阻害する
次に、serine491がリン酸化しないα2AMPK変異体(S491A)をGT1-7ニューロン(視床下部神経細胞由来の細胞株)に過剰発現させた。レプチン刺激により、WTのα2AMPK活性は抑制されたが、S491A α2AMPKの活性は抑制されなかった。なお、この時α2AMPKのthreonine172のリン酸化の違いはなかった。また、serine491のリン酸化を模倣したα2AMPK変異体(S491D)は、レプチンなしでもα2AMPK活性が抑制されていた。

視床下部α2AMPK serine491リン酸化は摂食と体重を調節する
次に、WTおよびS491A α2AMPKを正常マウスの内側基底視床下部(ARC、VHM、DMH)にadenovirusを用いて導入した。両者のマウスでadenovirus注入による一時的な体重減少が見られた後、S491A α2AMPKを導入したマウスはWT α2AMPKを導入したマウスに比べて摂食と体重が増加した。この結果より、視床下部α2AMPKのserine491のリン酸化の抑制は、摂食と体重を増加させるのに十分と言える。

視床下部α2AMPKのserine491リン酸化は、レプチンの摂食・体重調節作用に必要である
さらに、WTおよびS491A α2AMPKを視床下部に過剰発現させたマウスを絶食にした後、これらのマウスにレプチンを注入した。レプチン注入により、WT α2AMPK発現マウスでは24時間で1.67gの体重減少と摂食低下が見られた(コントロールの生食注入では0.38g体重増加と軽度の摂食増加)が、S491A α2AMPK発現マウスでは体重減少と摂食低下は見られなかった。このレプチン作用の抵抗性の原因として、WT α2AMPK発現マウスではserine491リン酸化の増加とα2AMPK活性抑制が起きたのに対し、S491A α2AMPKでは起きなかったためと考えられる。

なお、高脂肪食負荷による慢性的なレプチン抵抗性にもserine491リン酸化増加が関与しているかを検討したところ、高脂肪食負荷によっても基底内側視床下部のAMPK serine485/491リン酸化は増加しており、α2AMPK活性は低下していることが分かった。

レプチンはPI3K-AKT系を介してαAMPK serine485/491リン酸化を促進する
次に、レプチンによるαAMPK serine491リン酸化をもたらすkinaseの同定を試みた。培養細胞などではAKTがαAMPK serine485/491をリン酸化することが知られているため、PI3K-AKTシグナルについて検討した。まず、PI3K阻害剤であるLY294002を脳室内投与したところ、視床下部におけるレプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化促進とα2AMPK活性化抑制効果が減少した。また、constitutively active AKT(CA-AKT)とdominant negative AKT(DN-AKT)をそれぞれGT1-7ニューロンに発現させたところ、CA-AKT発現ではαAMPK serine485/491リン酸化が増加してα2AMPK活性が低下し、DN-AKTではレプチン作用が阻害された。したがって、AKT活性化が、レプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加に必要であることが分かった。

レプチンは、p70S6K依存性のAMPK serine485/491リン酸化を介して、α2AMPK活性化を阻害する
AKTはTSC-mTOR経路を介してp70S6Kを活性化すること、α2AMPK serine491部位はp70S6Kでリン酸化されうる配列であることから、p70S6Kがserine491のリン酸化kinaseである可能性を考えた。まず、GT1-7ニューロンにCA-S6K1を発現させたところ、αAMPKのserine485/491がリン酸化された(threonine172のリン酸化は変化なかった)。このリン酸化は、in vitroの系でrecombinant S6Kによりrecombinant αAMPKのserine491がリン酸化される(threonine172は影響なし)ことでも確認された。したがって、p70S6Kは、AMPKをリン酸化するAMPKKであると考えられたが、すでに知られているAMPKK(PKB1およびCamKK2)とは違って、threonine172ではなくserineをリン酸化することが分かった。
(この系ではserine491リン酸化によりthreonine172のリン酸化が阻害されることは確認できなかった。また、脳の抽出物の免疫沈降により、α2AMPKはp70S6Kと複合体を形成していることが分かり、CA-S6K1はα1AMPKもリン酸化することが示された。)

さらに、S6K1欠損マウス(S6K1-/-)にレプチンを注入し、αAMPK serine485/491リン酸化が抑制されるかを調べた。WTマウスではレプチンはαAMPK serine485/49のリン酸化を47-53%増加させたが、S6K1-/-マウスでは増加しなかった。さらに、GT1-7ニューロンにDN-S6K1を過剰発現させてレプチンを添加したところ、レプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加とα2AMPK活性化抑制は阻害された。また、rapamycin(mTORC1阻害剤)の添加でもレプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加とα2AMPK活性化抑制が阻害された。

【結論】
視床下部において、レプチンは受容体結合後、PI3K-AKT活性化とその下流のmTOR-p70S6K活性化を起こし、活性化されたp70S6KがαAMPKのserine491をリン酸化することによりAMPK活性化抑制を起こし、摂食・体重減少作用がもたらされる、という機構が明らかになった。
[PR]
by md345797 | 2012-07-12 17:50 | シグナル伝達機構

健康なヒトのmicrobiomeの構造、機能、多様性

Structure, function and diversity of the healthy human microbiome.

Human Microbiome Project Consortium.

Nature. 2012 Jun 13;486(7402):207-14.

【まとめ】
ヒトmicrobiomeの研究によって、腸、皮膚、膣などの体内生息環境(body habitat)に常在する微生物は、健康な個人どうしであっても、大きく異なることが分かっている。この多様性の原因はまだ分かっていないが、食事、環境、宿主の遺伝的特性、幼少期の細菌曝露などがすべて関わっていると考えられている。そこでHuman Microbiome Project (HMP)では、今までで最大規模のコホートで体内生息環境に常在する微生物コミュニティの解析を行った。これにより、健康な個体間であっても、体内生息環境の微生物の多様性や量が大きく異なっており、一個人の体内で、また個人間で、強いニッチの特殊化が見られた。このプロジェクトにより、健康な欧米人のmicrobiomeを占める微生物の属(genera)、酵素ファミリー、微生物構成の推定81-99%を見出すことができた。Metagenome的に見た代謝経路は、微生物群構造の違いがあるにもかかわらず個人間で一定しており、民族的・人種的背景が、代謝経路と微生物の両方を臨床的なメタデータに結び付ける要因の一つであることが示された。これらの結果により、健康なヒトの微生物コミュニティの構成が明らかになり、ヒトmicrobiomeの今後の疫学・生態学・トランスレーショナルな応用が可能となった。

【論文内容】
Human Microbiome Project (HMP)の健康な242名(男性129名、女性113名)からの4,788検体を解析した。女性は18の、男性は15の体内生息環境から検体を採取した。すなわち、口腔と咽頭の9か所、皮膚の4か所、鼻孔、便(下部腸管)および、女性は膣3か所から検体を採取した。個人間のmicrobiomeの安定性を調べるため、113名は平均219日の期間をあけて再度採取した。それらの検体は、16S rRNA遺伝子解析を行い、機能解析のためIllumina shotgun metagenomic readsを用いた配列決定を行った。

体内生息環境における微生物の多様性については、例えば肥満や炎症性腸疾患では腸内細菌の多様性が低下し、膣炎では膣内細菌叢の多様性が増加しているなどのことが分かっている。本研究では、健常人の微生物コミュニティの属の81-99%を明らかにした。口腔と便の微生物コミュニティは特に多様であり、膣は比較的単純であった。また、一検体内での多様性(α多様性=ある生息環境内の多様性)と各個体間の同一生息環境検体の多様性の比較(β多様性=別々の環境間の種多様性の違い)は大きく異なる。例えば、唾液はOTU(operational taxonomic unit、操作的分類単位)のα多様性は高いが、β多様性は低い(唾液の中の微生物種は多いが、個人間で比較しても微生物種の種類は大体同じ)。逆に皮膚はβ多様性は高いが、α多様性は中程度。膣はOTUが高いがα多様性は最も低く、Lactobacillus種が多いため属レベルでのβ多様性も極めて低い。なお、同一個人間の時間ごとの変化は、個人間の差異より常に小さかった。

すべての体内生息環境およびすべての個人に存在する微生物の分類群(taxa=属generaの下の分類)はなかった。ただしいくつかの分岐群(clade)が広く存在することは分かった。ほとんどすべての個人のそれぞれの体内生育環境は一つか少ない特徴的な分類群(signature taxa)を持ち、例えば、口腔内の常在菌は主にStreptococcusであり、頬粘膜のHaemophilusがそれに次ぐなどのことが示された。

ヒトmicrobiomeの分類学的詳細は16Sプロファイリングを補うためのmetagenomeデータのマーカー配列を同定することによって得られた。病原体(Vibrio cholerae, Mycobacterium avium, Campylobacter jejuni, Salmonella enterica)は検出されなかったが、Helicobacter PyloriE.coliはわずかに見られた。すなわち、微生物叢(microbiota)は健康な構造をしていることが本研究でも示された。

Microbiomeの個体間の変異は、特異的で、機能的に関連し(functionally relevant)、個別化されたものである。例えば、口腔のStreptococcus種は、個人間で大きな種の違いが見られる。

この研究ではさらに、微生物コミュニティにおける代謝および機能的な経路(pathway)についても検討した。その結果、分類学的および機能的なα多様性は優位に相関した。また、微生物の分類群とは異なり、いくつかのpathwayは個体および体内生息環境を通じて普遍的であった。もっとも多く見られるpathwayとしては、ribosomeと転写の機構、核酸の交換、ATP合成、解糖系などの微生物の生命の基本となるものであった。

最後に、微生物叢の分岐群と代謝の両方と宿主の特性(年齢、性別、BMI、他の臨床的なメタデータ)との関連を検討した。その結果、960の微生物および酵素のpathwayの量は、15個体の形質とメタデータに有意に関連した。例えば、膣のpHは微生物構成と相関し、高いpHではLactobacillusが減少し代謝の多様性が増加していた。個体の年齢は皮膚のmetagenomeにエンコードされたpathwayの高度な変異と関連していた。

【結論】
今回、多くの個人と体内生息環境から採取したヒトmicrobiomeのデータは、欧米の健康人の正常微生物叢(microbiota)の特徴を初めて示したものである。さらに、microbiomeと臨床パラメータの関連も示され、micobiomeに基づいた疾患の理解も進むことになるだろう。
[PR]
by md345797 | 2012-07-10 18:07 | その他

ヒトmicrobiome研究の枠組み

A framework for human microbiome research.

Human Microbiome Project Consortium.

Nature. 2012 Jun 13;486(7402):215-21.

【まとめ】
ヒトの体には、さまざまな微生物コミュニティとそれらの遺伝子(microbiome)が存在し、ヒトの健康と病気に基本的な役割を果たしている。今回、NIH(米国立衛生研究所)によって設立されたHuman Microbiome Project Consortiumが、metagenome(微生物コミュニティの遺伝子情報)解析プロトコールための集団規模の枠組みを確立した。その結果、high-throughputなmetagenomeデータの作成、処理、解釈のための標準化された方法など、高品質な情報供給源とデータが得られることになった。この研究では、242人の健康な成人集団を対象に、15(男性)または18(女性)の身体部位から最大3回にわたって採取した試料について述べている。これらから、16S ribosomal RNA遺伝子による5,177種の微生物分類プロファイルと、3.5 x 10の12乗塩基のmetagenome塩基配列がこれまでに明らかにされた。並行して、ヒトの体から単離された約800の参照ゲノムの塩基配列 も決定された。これらのデータは、ヒトmicrobiomeの豊富さと多様性を表す最大の情報資源であり、将来の研究のための枠組みを提供すると考えられる。

【論文内容】
米NIHによって設立されたHuman Microbiome Project (HMP) Consortiumは、健康なヒトコホートにおける微生物コミュニティとその宿主であるヒトとの関連についての報告をまとめた。さらに、microbiomeとさまざまな疾患との関連について、microbiome研究の倫理的・社会的重要性についても検討した。本論文では、臨床検体、参照ゲノム、配列決定と遺伝子注釈のプロトコール、方法、解析について報告する。この研究では、2か所の施設(Baylor College of MedicineとWashington University School of Medicine)において、242ドナーから15(男性)または18(女性)の身体部位(気道、皮膚、口腔、腸、膣)から数回にわたって5,298サンプルを採取した。

Megagenomeデータセットを得るために、まず16S rRNA遺伝子配列決定(16S)のプロトコールを評価、決定した。次に、681サンプルを用いてwhole-genome shotgun(WGS)による遺伝子配列決定を行った。これらのデータセットによりヒトmicrobiomeの全体像を得て、遺伝子とOTU(operational taxonomic unit、操作的分類単位)の解析により、分類学的同定を行った。

さらに、これらHMPで得られた腸微生物遺伝子カタログを、他の大規模腸microbiomeプロジェクトであるmetaHITで得られたものと比べたところ、比較的同様の遺伝子カタログが得られていることが分かった。

本研究で得られたカタログは、健康成人におけるヒトmicrobiomeデータとしては最大で最も包括的なものである。このデータの解析により、新たな病原体、遺伝子機能、代謝ネットワーク、そして健康と病気と微生物コミュニティとの関連についての発見が可能になるだろう。
[PR]
by md345797 | 2012-07-10 18:04 | その他

PPAR-γは脂肪組織のregulatory T細胞の蓄積と形質の重要な調節因子である

PPAR-γ is a major driver of the accumulation and phenotype of adipose tissue Treg cells.
Cipolletta D, Feuerer M, Li A, Kamei N, Lee J, Shoelson SE, Benoist C, Mathis D.

Nature. 2012 Jun 28;486(7404):549-53.

【まとめ】
栄養過剰の状態では、内臓脂肪組織(VAT)に炎症性マクロファージが浸潤してくることが脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性を引き起こす原因と考えられている。しかし、この過程における他の免疫細胞の関与はほとんど知られていない。近年、VATに存在するregulatory T(Treg)細胞(宿主に対し有害な過剰な免疫反応を抑制する作用があるT細胞)は、脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性の回避に重要であることが示唆されている。今回の研究で、脂肪分化のmaster regulatorであるPPAR-γが、VAT Treg細胞の蓄積、形質、機能を調節していることが明らかになった。VAT Treg細胞におけるPPAR-γ発現は、肥満動物がpioglitazoneによってインスリン感受性を完全に回復するのに不可欠であった。本研究により、チアゾリジン系薬剤の今まで知られていなかった機能が明らかになり、Treg細胞のうちのユニークな機能を持つある集団はインスリン抵抗性治療に用いることができるということの概念が証明された。

【論文内容】
Foxp3+ CD4+ Treg細胞は正常者の内臓脂肪組織(VAT)に見られ、通常のリンパ組織に見られるCD4+ T細胞コンパートメントの上位の分画に存在する。このVAT Treg細胞は脾およびリンパ節のT細胞とは区別できる形質(遺伝子発現プロファイル、T cell receptor repertoire、ケモカインおよびケモカイン受容体の発現)を持つが、その役割は不明であった。

マウスのVATとリンパ節(LN)のTreg細胞の遺伝子プロファイルを比較したところ、VATのTreg細胞ではPPAR-γの転写産物が増加していた。さらに、正常食を負荷したC57Bl/6(B6)マウスおよびB6.Lep ob/obマウス、高脂肪食を負荷したB6マウスのVATとLNのTreg細胞の転写プロファイルのクラスター解析を行った。正常食B6マウスのVATとLNのTreg細胞を比較したところ、Pparg転写に相関する遺伝子を調べたところ、ケモカインやケモカイン受容体遺伝子(Ccr1、Ccr3、Cxcr6、Cxcl2、Cxcl3)、脂質代謝関連遺伝子(Pcyt1a, Dgat1)、Il10の転写産物がVATにより多く含まれることが分かった。

次にVAT Treg細胞におけるPPAR-γの役割を直接評価するため、naive CD4+ T細胞にFoxp3単独または、Foxp3Ppargを一緒に発現させるretrovirusを導入した。PPAR-γにはPPAR-γ1とPPAR-γ2の2種類のアイソフォームがあるため、それぞれのアイソフォームがFoxp3と協調してVAT Treg細胞の遺伝子発現signatureを促進するかを検討した。Pparg+Foxp3発現細胞とFoxp3のみの発現細胞の発現遺伝子を比較したvolcano plotにより、PPAR-γのどちらのアイソフォームもFoxp3と協調してVAT Treg細胞に特徴的な遺伝子発現を増加させていることが示された。

次に、retrovirusでPparg1+foxp3Pparg2+Foxp3Foxp3のみを導入した細胞に、PPAR-γの合成アゴニストTZD薬であるpioglitazone(Pio)を48h添加した。Pioの添加により脂質代謝関連遺伝子、すなわち脂肪酸トランスポーター(Cd36, Slc27a2)、脂肪酸合成酵素(Lipe, Scd1)、脂肪酸酸化酵素(Cpt1a)、トリグリセリド合成酵素(Dgat1)、脂肪滴関連蛋白(Plin2)の発現が亢進した。RosiglitazoneおよびGW1929(non-TZD PPAR-γアゴニスト)の添加でも同様の結果が得られた。PPAR-γがFoxp3と協調してnaive CD4+ T細胞にVAT Treg細胞の形質をもたらすということから、PPAR-γとFoxp3が結合していると考えられ、HEK293細胞を用いた免疫沈降でも結合が示された。

VAT Treg形質発現におけるPPAR-γのin vivoでの重要性を検討するため、Treg細胞特異的にPPAR-γ発現を欠損したマウスを作製した(Foxp3 promoter/enhancer下にCreを発現したマウスと’floxed’ Ppargを発現したマウスを交配)。このTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスは、野生型(WT)マウスに比べVATのTreg細胞の分画と数が減少していた(両者のマウスのリンパ組織におけるTreg細胞の数は同じであり、リンパ組織のTreg細胞でPPAR-γが発現していないためと考えられる)。PPAR-γ欠損マウスとWTマウスのVAT Treg細胞の遺伝子発現を比較したvolcano plotでは、PPAR-γ欠損マウスのVAT Treg細胞のup-signatureが減少、down-signatureが増加していた。PPAR-γは、VAT Treg細胞の蓄積と形質発現に重要な因子と考えられた。なお、このPPAR-γ欠損マウスでは、炎症性CD11b+ CD11c+ F4/80+ macrophageと炎症性CD11b+ Ly6c hi monocyteの増加が認められた。

次にPPAR-γの消失が VAT Treg細胞のturnoverにどのように影響するかを調べるため、GW 9662(非可逆的なPPAR-γ阻害剤)をTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスとWTマウスに投与し、VAT Treg細胞の半減期を比較した。その結果、PPAR-γ欠損マウスのVATにおいてGATA3+ Treg細胞の分画の減少が認められた(脾では認められなかった)。PPAR-γは、VAT Treg細胞の形質の維持にも必要であると考えられた。

さらに、Pioを高脂肪食負荷マウスに投与すると、VATのTreg細胞分画が増加した(これも脾および皮下脂肪組織では増加しなかった)。Pioを投与した高脂肪食負荷マウスの精巣上脂肪組織のTreg細胞の遺伝子発現は、VAT Treg細胞に典型的な発現プロファイルのシフトが見られた。

それでは、Pioによるインスリン感受性亢進効果は、VAT Treg細胞集団の増加によるものかどうかを検討した。高脂肪食負荷したWTマウスとTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスにPioを投与したところ、後者のマウスはPio投与によってVAT Treg細胞は増加せず、HOMA-IRと耐糖能は改善しなかった。

【結論】
PPAR-γはVAT Treg細胞の形質を調節する主要な因子であり、Foxp3と協調してnaive CD4+ T細胞にVAT Treg細胞特異的形質を付加する。また、Treg細胞におけるPPAR-γ発現は、Pioのインスリン感受性亢進作用に必要である。
[PR]
by md345797 | 2012-07-08 21:53 | 糖尿病の病態生理