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Cryptochromeの小分子活性化剤の同定

Identification of Small Molecule Activators of Cryptochrome.

Hirota T, Lee JW, St. John PC, Sawa M, Iwaisako K, Noguchi T, Pongsawakul PY, Sonntag T, Welsh DK, Brenner DA, Doyle III FJ, Schultz PG, Kay SA.

Science. 337(6098) 1094-1097. August 31, 2012.

【まとめ】
概日時計の障害は、代謝疾患を含む多くの疾患の原因となりうる。時計蛋白の選択的ターゲット化合物がいくつか同定されており、これらは時計機能を改善し疾患の治療に役立つ可能性がある。この研究では、unbiased cell-based circadian phenotypic screenにより、cryptochrome(CRY)に特異的に結合する小分子、KL001を同定した。KL001は、ubiquitin依存性のCRYのdegradationを防ぐことにより、概日周期を増強する。KL001を用いた実験と数学的モデリングと組み合わせて検討したところ、CRY1とCRY2は概日調節において同様の機能的役割を担っていることが分かった。さらにKL001によりCRYを安定化すると、初代肝細胞においてグルカゴンによる糖新生が抑制された。小分子化合物KL001は、CRYによる時計の調節機構の解明と時計遺伝子に基づく糖尿病治療の開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
概日リズムは、転写因子CLOCKとBMAL1がPeriod (Per1、Per2)とCryptochrome (Cry1、Cry2)の転写を活性化させ、PERとCRY蛋白がCLOCK-BMAL1を抑制するというフィードバックループによるリズミックな遺伝子発現によって発生する。肝での糖産生は、肝糖新生遺伝子(Pck1、G6pc)がCRYおよび核内受容体REV-ERBの影響を受けることにより、概日調節を受けている。この時計機能が遺伝的変異や環境因子(シフトワークや時差など)によって障害を受けると、睡眠障害、がん、心血管疾患や代謝疾患の原因となるため、時計機能を調節する小分子化合物はそれらの治療に有用と考えられてきた(casein kinase I阻害剤であるlongdaysinREV-ERBの合成リガンドなど)。本研究では、CRY蛋白に特異的に作用する小分子を同定し、これが肝糖新生を調節することを示す。

カルバゾール誘導体KL001は時計周期を延長する
時計遺伝子を調節する分子を同定するために、約60,000の化合物のライブラリーを、Bmal1-dLuc luciferaseレポーターを組み込んだヒト骨肉腫細胞U2OS細胞株を用いてスクリーニングした。そのうち、3種のカルバゾール誘導体(KL001、KL002、KL003)が、この細胞に対して用量依存的に時計周期の延長と振幅の減少をもたらすことが示された。なお、これらの化合物はBmal1-dLuc細胞に比べるとPer2-dLuc細胞のベースのレポーター活性を低下させた。さらに、Bmal1-dLucおよびPer2-dLucレポーターを組み込んだマウスNIH-3T3線維芽細胞、mPer2Lucレポーターをノックインしたマウス視交叉上核(SCN)と肺の組織片に対するKL001の効果を検討したところ、KL001は濃度依存性に、時計周期の延長とPer2レポーターのシグナル減弱をもたらした。

KL001はCRY1とCRY2に結合する
Affinity-based proteomic approachを用いて、KL001の分子ターゲットを調べたところ、KL001の結合蛋白としてCRY1が同定された。さらに抗体を用いてCRY2にも結合することが示された。Flag-tagged時計蛋白を発現させたHEK293T細胞の抽出物とKL001-agarose conjugateとの結合により、KL001はCRY1、CRY2とは結合するが、PER1、PER2、CLOCK、BMAL1とは結合しないことが分かった。CRYのcofactorであるflavin adenine dinucleotide (FAD)を過剰量添加すると、KL001 affinity resinとCRY1との結合が阻害され、CRY1のFAD結合部位の変異体はKL001 affinity resinにごく弱くしか結合しなかったため、KL001はCRYに(FAD結合部位を介して)選択的に結合すると考えられた。

KL001はCRY蛋白を安定化させる
次に、mPer2LucレポーターをノックインしたCry欠損マウス繊維芽細胞に対するKL001の効果を検討した。WT細胞ではKL001によりmPer2Luc活性が減少したが、Cry1/2欠損細胞では減少が見られなかった。さらに、CRY上のCLOCK-BMAL1結合部位(E2 enhancer element)の変異があると、KL001によるPer2レポーター反応は消失した。以上より、KL001はCRYおよびE2 enhancer依存的に、CRYによるPer2の抑制を促進すると考えられた。

また、U2OS細胞にKL001を添加すると、濃度依存性に内因性のPer2 mRNAの発現が減少した。KL001添加後のPER1蛋白量はPer1 mRNA発現減少と並行しているが、CRY1とCRY2の蛋白量はそれぞれ増加か同程度であり、mRNA発現と並行していない。そこで、KL001がCRY蛋白を安定化する作用があるのではないかと考えた。CRY1-luciferase融合蛋白 (CRY1-LUC)を発現させたHEK293T細胞を用いて、CRY1の半減期に対するKL001の影響を検討した。その結果、KL001は容量依存的にCRY1-LUCの半減期を増加させたが、FAD結合部位の変異体(KL001が結合しないCRY1)の半減期には影響はなかった。KL001とKL002は、CRY1とCRY2の半減期を増加させたため、これらの化合物はCRY安定化を介して時計周期の延長をもたらしていると考えられた。CRY蛋白は、E3 ubiquitin ligase complex SCFFBXL3のターゲットであり、ubiquitin-proteasome 経路を介してdegradationを受けるため、KL001によるCRY1 ubiquitinationへの効果をin vitroで検討した。その結果、KL001(50 μM)はCRY1のubiquitinationを阻害し、上記のKL001が結合しない変異体CRY1ではその効果は見られなかった。また、U2OS細胞で、FBXL3をsiRNAを用いて欠損させると、KL001のPer2レポーターへの効果が減弱した。以上より、KL001は、FBXL3- およびubiquitin-依存性のCRY蛋白のdegradationを阻害することが示された。

KL001によりCRYアイソフォームの役割とその肝糖新生調節機構が明らかになった
KL001によるCRY安定化がどのように時計周期延長をもたらすのか、また、CRYアイソフォーム(CRY1、CRY2)のredundantな役割について検討するために、数学的モデリングを用いた検討を行った。まず、PER-CRYネガティブフィードバックループの単純な数学的モデルを作成したところ、このモデルでCry1およびCry2のそれぞれの用量依存的なノックダウンによる時計周期短縮および延長、細胞質CRY2の安定化による周期短縮が再現できた。KL001依存性のCRY安定化による周期延長については、このモデルではCRY1安定化が核で起きることが予測された。実際、KL001を添加したU2OS細胞においてCRY1とCRY2蛋白の量は、核分画でそれぞれ増加および同程度であった。さらに、Cry1欠損状態での核内CRY2の、Cry2欠損状態で核内CRY1の安定化は、in silicoの検討でどちらも時計周期の延長をもたらした。この予測と一致して、KL001をCry1欠損およびCry2欠損線維芽細胞に添加したところ、用量依存的に周期延長が認められた(CRY1、CRY2をノックダウンしたU2OS細胞や、Cry1欠損マウスおよびCry2欠損マウスのSCN組織片にKL001を添加した場合でも同様の結果が得られた)。CRY1とCRY2のどちらのCRYアイソフォームも同様の周期調節の機能をもつが、それぞれの欠損によって自由継続周期(free-running periods)が異なり、核内CRY1/CRY2比によって時計周期は二方向性に調節される。すなわち、CRY1がより多いと周期が長くなり、CRY2がより多いと周期が短くなる。(CRY1が長周期のCLOCK-BMAL1の抑制を担い、CRY2はより短周期の抑制を担うと考えられる。)

肝において、CRY蛋白は、空腹時のホルモンによるPck1G6pc遺伝子(糖新生の律速酵素)の転写を負に調節している。そこで、マウス初代肝細胞にKL001を添加すると、これらの遺伝子発現がどのような影響されるかを検討した。その結果、KL001は、グルカゴン依存性のPck1G6pc遺伝子発現を用量依存的に抑制した。これに伴い、グルカゴン依存性の糖産生活性化も抑制された。したがって、KL001は、空腹時のホルモンによる糖新生の調節(抑制)に有用であろう。なお、ヒトのゲノムワイド関連研究では、CRY2遺伝子座は空腹時血糖と2型糖尿病に関連が見られており、KL001が糖尿病治療に有用な薬剤として用いられる可能性が考えられる。
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by md345797 | 2012-08-31 23:24 | シグナル伝達機構

カロリー制限はアカゲザルにおいて健康は改善するが、寿命は延長しない:NIA研究

Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study.

Mattison JA, Roth GS, Beasley TM, Tilmont EM, Handy AM, Herbert RL, Longo DL, Allison DB, Young JE, Bryant M, Barnard D, Ward WF, Qi W, Ingram DK, de Cabo R.

Nature. Published online 29 August 2012.

【まとめ】
カロリー制限(CR=栄養素の摂取を10-40%減少させる)は、寿命(lifespan)および健康寿命(healthspan)を延長させる、最も確実な方法とされてきた。アカゲザル(rhesus monkey)では、CRは免疫機能や運動協調機能を改善し、骨格筋減少を防止することが最近示されている。

National Institute on Aging (NIA)で行われた本研究では、アカゲザルにおいてCRは生存期間延長をもたらさないことが示された。この結果は、現在進行中のWisconsin National Primate Research Center (WNPRC)での研究結果(=30%のCRによってアカゲザルの生存が7-14年延長した)とは異なるものである。WNPRCは、げっ歯類におけるCRの寿命延長効果を、より長期生存する霊長類でも証明した。しかし、NIAにおける本研究は、霊長類においてCRは健康への好影響をもたらすものの、寿命延長効果はないことを示し、CRの寿命延長には研究計画や食餌の組成などが影響している可能性を示唆するものである。

【論文内容】
NIAにおけるCR研究は1987年に開始され、若年および高齢の非ヒト霊長類(Macaca mulatta、平均年齢は約27歳、最高齢は約40歳)を対象に20年以上行われている。

このNIA研究において、高齢(16-23歳)からCRを開始されたサルは、コントロールに比べて生存は延長しなかった。両群での死因にも明らかな差は認めなかった。ただし、高齢からCRを開始したサルはコントトロールに比べて、健康機能が改善しており、中性脂肪・コレステロール・空腹時血糖・酸化ストレスマーカー(isoprostane)が低値であった。なお、高齢からCRを開始したサルは免疫機能は悪化傾向にあった。

さらに、NIA研究では、若年からCRを開始したオスおよびメスのサルで、全死因および加齢関連死因による生存曲線に差は認めなかった。現在も若年サルの50%未満は生存していることを考えると、これは本研究の最終結果とは言えないが、hazard関数を用いた寿命予測に基づくと、さらに5-10年研究期間を延長しても平均生存に有意差が認められる確率は非常に低いと考えられた。

若年からCRを開始したサルでは、予測されるCRの効果が見られなかった(空腹時血糖はCRとコントロールで差がなく、中性脂肪はオスのCRサルでやや低いのみであった)。ただし、癌の発症率はCRサルで有意に低下していた。加齢関連疾患の発症は、CRに比べコントロールの方が早かったが有意差はなかった。

では、NIAとWNPRCの寿命延長の結果の違いは何によるものであろうか?

まず、これら2つの研究では食餌組成の違いがあった。NIAでは天然組成の食餌(バッチ間での混合物の差がありうる)が用いられたが、WNPRCでは精製食餌(ビタミン・ミネラルなどは後から加えられている)が用いられている。食餌中のタンパク質の由来も異なり、NIAでは小麦、トウモロコシ、大豆、魚、アルファルファ由来であるが、WNPRCではラクトアルブミン由来である。NIAの食餌には抗酸化作用のあるフラボノイド、魚由来の脂質(omega-3脂肪酸が豊富)を含むのに対し、WNRPCの食餌脂質はトウモロコシ油由来である。炭水化物組成も異なり、NIAでは小麦とトウモロコシ由来なのに対し、WNRPCではコーンスターチとショ糖由来である。NIAの食餌は3.9%のショ糖しか含まないが、WNRPCの食餌は28.5%含んでおり、ショ糖が多いことは2型糖尿病発症にも関連しうる。さらに、NIAとWNRPCでは、ビタミンとミネラルの補充も異なっている。

さらに、NIA研究におけるコントロールサルは、WNPRC研究のように自由摂食(fed ad libitum)ではなく、肥満をきたさない程度に分割された食餌を与えられていた。すなわち、NIA研究のコントロールは軽度のカロリー制限が行われていた可能性がある。そのため、WNPRC研究のコントロールはNIAのコントロールに比べ全体的に体重が多かった。また、NIAのサルは中国とインド由来で、厳密にインドのコロニー由来のWNPRCのサルに比べて遺伝的多様性が大きかった。

ヒトにおける最初のランダム化試験では、6か月のCRによって加齢のバイオマーカーや心血管の健康が改善し、加齢関連疾患のリスクが減ることが示唆されているが、ヒトにおける寿命研究はできそうもない。今後は、2つのサルのCR研究の結果を比較しながら、CRによる健康指標の改善を除いた寿命そのものに対する影響を継続して検討する必要がある。
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by md345797 | 2012-08-30 23:42 | その他

脂肪組織のnatural killer T細胞はインスリン抵抗性を防止する

Natural killer T cells in adipose tissue prevent insulin resistance.

Schipper HS, Rakhshandehroo M, van de Graaf SF, Venken K, Koppen A, Stienstra R, Prop S, Meerding J, Hamers N, Besra G, Boon L, Nieuwenhuis EE, Elewaut D, Prakken B, Kersten S, Boes M, Kalkhoven E.

J Clin Invest. 2012 Aug 6. Published online.

【まとめ】
CD1d拘束性invariant natural killer T (iNKT)細胞は、脂質負荷に伴うインスリン抵抗性の発症への関与が想定されているが、最近、高脂肪食負荷時にはiNKT細胞数が減少し、iNKT細胞のインスリン抵抗性への関与は少ないことが報告されている。そこで、本研究では、正常食負荷の状態におけるiNKT細胞の役割について検討した。CD1d欠損マウス(iNKT細胞欠損マウス)は低脂肪食(マウスにとっての正常食)下では、脂肪組織の炎症はないが独特のインスリン抵抗性形質を示した。このインスリン抵抗性は、脂肪細胞の肥大、レプチンの増加、アディポネクチンの低下などの脂肪細胞機能異常を伴っていた。このマウスでは肝に異常を認めないことから、インスリン抵抗性の発症には脂肪組織に存在するiNKT細胞が重要な役割を果たすと考えられた。興味深いことに、iNKT細胞の機能は脂肪細胞によって直接調節され、脂肪細胞はCD1dを介する脂質抗原提示細胞として作用していた。これらの結果から、低脂肪食下では、脂肪組織に存在するiNKT細胞は脂肪細胞との直接の相互作用を介してインスリン抵抗性を防止し、正常な脂肪組織機能を維持することに役立っていると考えられた。

【論文内容】
CD1d拘束性インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞は脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性発症に関与しているという報告があるものの、高脂肪食負荷時のiNKT細胞のインスリン抵抗性への関与の程度は少ないとされている。そこで、本研究では、高脂肪食下ではない正常食の状態での脂肪組織に存在するiNKT細胞の機能について検討することにした。ここでは、CD1d欠損マウス、およびJα18欠損マウス、WTマウスからiNKT細胞を抗体を用いて欠損させたモデル(いずれもiNKT細胞欠損モデル)を用いて、低脂肪食(マウスにとっての正常食)下におけるiNKT細胞の正常な脂肪細胞機能維持およびインスリン抵抗性の防止効果を検討した。

iNKT細胞を欠損または抗体により減少させるとインスリン抵抗性が惹起される
CD1d欠損マウス(iNKT細胞を欠損するマウス)および野生型(WT)C57BL/6マウスに低脂肪食(LFD)または高脂肪食(HFD)を負荷したところ、体重・摂食に差はなかったが、CD1d欠損マウスでは(特にLFDで)耐糖能が悪化した。同様に、Jα18欠損マウス(type 1 iNKT細胞が選択的に欠損したマウス)や 抗NK1.1抗体投与によるiNKT細胞減少マウスでも、LFD負荷後の耐糖能が悪化した。これとは逆に、CD1d拘束性iNKT細胞の活性化リガンドであるα-galactosyl ceramide (αGalCer)を注入したマウスでは、in vivoでiNKT細胞が活性化されると考えられたが、このマウスでは耐糖能は改善しなかった(これはWTマウスではもともとLFDで十分にインスリン感受性になっていたため、さらには改善しなかったと考えられる)。以上より、CD1d拘束性iNKT細胞は、特にLFD負荷マウスではインスリン抵抗性を防止する役割を果たしていると考えられた。

iNKT細胞は肝にも脂肪組織にも存在するが、LFD負荷CD1d欠損マウスの肝は、組織像、脂肪含量、肝機能酵素(AST、ALT)、肝の炎症マーカー(lipocalin-2、serum amyloid A)が、WTマウスと比較して差がなかったため、脂肪組織に存在するiNKT細胞に注目することにした。

脂肪組織に存在するiNKT細胞は抗炎症形質をもち、HFD負荷により減少する
脂肪組織に存在するiNKT細胞は、内臓脂肪組織T細胞の5-10%を占め、脾由来のiNKT細胞に比べ、多くがCD4-CD8-で、NK1.1の発現が減少しているという特徴がある。脂肪組織に存在するiNKT細胞は、脾由来iNKT細胞に比べると、細胞内IL-4、IL-13が多く、IFN-γが少ないという、抗炎症形質を示す。CD1d欠損マウスでは脂肪組織のIl4Il13 mRNA発現が減少していたため、脂肪組織のこれらのサイトカインレベルの維持にはiNKT細胞が重要な役割を果たしていると考えられた。また、HFD負荷WTマウスは、LFD負荷マウスに比べると、内臓脂肪と皮下脂肪のiNKT細胞の数と活性が低下していた。

CD1d欠損マウスは脂肪組織Treg数が増加し、インスリン抵抗性の増悪を防止している
HFD負荷したWTマウスでは、脂肪組織へのCD8+T細胞の浸潤およびM1形質マクロファージの浸潤がインスリン抵抗性発症に重要と考えられている。しかし、同様にインスリン抵抗性を示すLFD負荷CD1d欠損マウスでは、このような脂肪組織CD8+T細胞浸潤、マクロファージ浸潤、M1形質への分極化は見られなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスではCD4+CD25+T細胞数の増加が見られ、この細胞はFoxp3を高発現していた。すなわち、iNKT細胞の欠損状態では、インスリン抵抗性防止に役立つと考えられているTreg (regulatory T細胞)の増加が認められた。そこで、LFD負荷CD1d欠損マウスにおいて、抗CD25抗体を用いてTregを減少させたところ、耐糖能・インスリン抵抗性はさらに悪化した。したがって、LFD負荷CD1d欠損マウスでは、よく知られたHFD負荷に伴う脂肪組織へのCD8+T細胞やマクロファージの浸潤ではなく、脂肪組織Treg数の増加が認められた。このTregの増加は、LFD負荷CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性のさらなる悪化を防止する働きがあると考えられる。

CD1d拘束性 iNKT細胞がないと脂肪細胞の機能不全が生じる
LFD負荷CD1d欠損マウスの脂肪組織のマイクロアレイ解析によると、このインスリン抵抗性マウスの脂肪組織の遺伝子発現は、HFD負荷インスリン抵抗性マウスのパターンとは異なっていた。HFDで増加する古典的な炎症性マーカー(Tnfa、F4/80、Cd11c、Ccl2、Saa3、Adam8)は、LFD負荷CD1d欠損マウスでWTマウスと比べて増加していなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスはWTマウスに比べ脂肪細胞の肥大が見られたが、精巣上脂肪重量や総脂肪量に差はなかった。また、脂肪合成(Scd1、Fas)、脂肪滴形成(perilipin1=Lipin1、Pparg) 、熱産生(Ucp1、Ppara)に関連する遺伝子も増加はなかった。しかし、LFD負荷CD1d欠損マウスではadiponectinの低下とleptinの増加が見られ、adipokine分泌において脂肪細胞の機能低下があることが示唆された。

ヒト脂肪組織にはCCR2+iNKT細胞が豊富である
健康なヒトドナー6名より採取した腹部皮下脂肪組織と血液でiNKT細胞数を測定したところ、血中に比べ腹部皮下脂肪組織ではiNKT細胞が約10倍多かった。血液と腹部脂肪組織のiNKT細胞のケモカイン受容体の発現を検討したところ、血中に比べ腹部脂肪組織のiNKT細胞ではCCR2(脂肪細胞が分泌するMCP-1の受容体)、CXCR2、CXCR6の発現が多かった。このことから、脂肪組織へのiNKT細胞の浸潤にはMCP-1/CCR2および、CXCR2、CXCR6を介する走化性が関与していると考えられた。

ヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、iNKT細胞機能を調節する
脂肪細胞はCD1d抗原リガンドとなる脂質を含んでいる。そこで、脂肪細胞が脂質抗原を提示することにより、直接iNKT細胞機能を調節している可能性について検討した。まず、培養細胞系であるヒトSGBS preadipocyte(未分化の状態)では、抗原提示に必要な因子(pro-saponin、NPC2、α-galactosidase)とCD1Dの発現が少ないが、分化したSGBS adipocyteとヒト初代脂肪細胞ではこれらの発現が増加していることを確認した。このことから、脂肪細胞がiNKT細胞の脂質抗原提示細胞として機能している可能性を考えた。そこで、5名の健常者の血液からiNKT細胞株を作製し、脂質抗原であるαGalCerを加え、ヒト脂肪細胞株と共培養した。その結果、iNKT細胞の細胞内および上清中のIL-4、IL-13、IFN-γが増加し、これらは脂肪細胞のCD1dノックダウンにより減少した。以上より分化したヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、脂質抗原提示細胞としてiNKT細胞の機能を調節していると考えられた。

【結論】
マウスの正常食負荷(ここではLFD)の状態では、CD1d拘束性iNKT細胞は、脂肪細胞機能異常を防止し、インスリン抵抗性の発症を抑制することが示された。また、脂肪細胞に発現するCD1dが脂肪組織に豊富に存在する脂質抗原を提示することによりiNKT細胞の機能を調節するという、ユニークな調節機構があることも分かった。CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性は、脂肪組織のTregを減少させることによりさらに悪化したため、iNKT細胞はTregと協調してインスリン抵抗性を防止していると考えられた。本研究のLFD条件下でiNKT細胞により産生されるIL-4、IL-13はインスリン抵抗性を抑制すると考えられる。(iNKT細胞から産生されるIFN-γはインスリン抵抗性を増悪させることが知られているが、これはHFD負荷でのiNKT細胞によるインスリン抵抗性増悪に関連しているのかもしれない。HFD条件下でのiNKT細胞の役割は種々の報告があるものの不明。) 脂肪組織に存在するiNKT細胞のインスリン抵抗性防止効果は、食餌の構成や期間によって異なり、今回の検討では長期のLFD負荷によって最も著明に認められた。
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by md345797 | 2012-08-16 00:56 | インスリン抵抗性

好中球はエラスターゼ分泌を介して高脂肪食によるインスリン抵抗性を調節している

Neutrophils mediate insulin resistance in mice fed a high-fat diet through secreted elastase.

Talukdar S, Oh DY, Bandyopadhyay G, Li D, Xu J, McNelis J, Lu M, Li P, Yan Q, Zhu Y, Ofrecio J, Lin M, Brenner MB, Olefsky JM.

Nat Med. 18, 1407–1412, 2012.

【まとめ】
脂肪組織と肝臓における慢性的な低レベルの炎症は、肥満・2型糖尿病に存在するインスリン抵抗性の主要な原因であるが、そこにはさまざまな免疫細胞(マクロファージT細胞B細胞肥満細胞好酸球)が関わっている。好中球は、炎症に反応する最初の典型的な免疫細胞であり、マクロファージを誘導したり、抗原提示細胞と相互作用したりすることにより慢性炎症を悪化させる。好中球はいくつかのプロテアーゼを分泌して炎症反応を促進するが、その一つは好中球エラスターゼ(neutrophil elastase)である。この研究では、肝細胞に好中球エラスターゼを添加すると細胞のインスリン抵抗性を惹起すること、好中球エラスターゼを欠損させたマウスに高脂肪食を負荷しても脂肪組織の好中球やマクロファージ量が増えず、組織の炎症が少なく、インスリン抵抗性が起こりにくいことなどを示した。これらの結果より、好中球も、炎症に伴う代謝疾患に関与する免疫細胞の一つであることが分かった。

【論文内容】
マウスに高脂肪食を負荷すると、脂肪組織に好中球の浸潤が見られる。この脂肪組織好中球(adipose tissue neutrophils; ATNs)は、ケモカイン・サイトカインを放出してマクロファージ浸潤を促進し、慢性炎症を惹起している。好中球由来の好中球エラスターゼなどのセリンプロテアーゼは無菌的な炎症に重要な役割を果たしていることも知られている。

高脂肪食負荷に伴う脂肪組織好中球浸潤・インスリン抵抗性と、好中球エラスターゼの関連
C57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷後、脂肪組織好中球(ATNs=脂肪組織間質血管細胞(SVCs)のうち、FACSを用いて好中球マーカーLy6g、Cd11bが陽性、マクロファージマーカーF4/80、Cd11cが陰性の細胞)の増加のtime courseを調べた。その結果、高脂肪食負荷3日後で急速なATNの増加が認められ、負荷90日まで持続することが分かった。免疫組織化学による検討で、高脂肪食負荷によって、白色脂肪組織(WAT)にLys6g+Cd11b+細胞が増加した。FACS解析でも、高脂肪食12週負荷後のSVCs中のLys6g+Cd11b+ F4/80-Cd11c-細胞の数は20倍に増加していた。好中球エラスターゼの発現と活性も、高脂肪食負荷3日後には増加し、負荷12週まで高値だった。高脂肪食負荷しても、好中球エラスターゼ阻害剤GW311616Aを14日間連日投与したマウスでは、耐糖能障害が改善した。逆に、recombinantのマウス好中球エラスターゼを7日間投与した正常食負荷マウスは、著明な耐糖能異常をきたした。

NEKOマウスにおけるインスリン感受性の亢進
次に、好中球エラスターゼ欠損(NEKO)マウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型(WT)マウスに比べGTTで耐糖能が良好でITTでインスリン感受性だった。また、NEKOマウスはWTに比べ、高脂肪食負荷後のATN量が90%程度低値であった。GW311616Aを投与したWTマウスに高脂肪食を負荷した場合は、ATN量は大きく低下した。したがって、遺伝的にまたは薬物により好中球エラスターゼ機能を消失させると、ATNsの低下に伴い、耐糖能が改善すると考えられる。

さらに、これらのマウスのインスリン感受性を、高インスリン正常血糖クランプを用いて検討した。NEKOマウスはWTマウスに比べ、正常血糖を維持するためのグルコース注入率が増加しており、クランプ中の肝糖産生が低下していた。またNEKOマウスでは、インスリンによる遊離脂肪酸(FFA)の抑制が大きかった。すなわち、好中球エラスターゼ欠損により、肝および脂肪組織におけるインスリン感受性が亢進していると考えられた。

次にNEKOマウスとWTマウスで、インスリン注入による肝と精巣上脂肪組織(eWAT)における急性効果を調べた。その結果どちらの組織でも、NEKOマウスにおいてインスリン刺激によるAktリン酸化が亢進していた。

高脂肪食による肝への好中球浸潤とIrs1 degradationによるインスリンシグナル伝達の障害
高脂肪食負荷したWTマウスの肝では、正常食投与したマウスに比べ、好中球数が増加していたが、高脂肪食負荷したNEKOマウスでは差はなかった。肝の好中球エラスターゼ活性も、高脂肪食負荷したWTマウスでは、正常食投与に比べ増加していた。細胞外の好中球エラスターゼは細胞内に移行して、Irs1のdegradationを起こすことが知られている。NEKOマウスの肝および脂肪組織のIrs1は、WTマウスに比べて増加していた。好中球エラスターゼを2時間ごとにC57BL/6Jマウスに投与すると、肝およびeWATのIrs1量とインスリンによるAktのリン酸化は低下した。NEKOマウスの肝と脂肪組織のIrs1発現量は、WTマウスに比べ増加していた。

次に、マウスとヒトの初代肝細胞に好中球エラスターゼを直接添加したところ、どちらの細胞でもIrs1蛋白量の減少、インスリンによるAktリン酸化低下が認められた。さらに、マウス初代肝細胞のグルカゴン添加による糖産生とインスリンによるその抑制を調べたところ、好中球エラスターゼを添加するとベースの糖産生が50%増加し、インスリンによるグルカゴン応答性肝糖産生の抑制が効かなくなった。好中球エラスターゼは初代肝細胞において、Irs1 degradationを介して細胞内インスリンシグナル伝達を抑制し、糖産生抑制を抑えると考えられた。なお、3T3-L1脂肪細胞に好中球エラスターゼを添加しても、同様のIrs1 degradationとインスリンによるAktリン酸化低下が認められた。

NEKOマウスでは炎症のトーンが低下している
好中球エラスターゼは、Toll-like receptor 4(Tlr4)を活性化することにより炎症を増加させると考えられているため、WTとTlr4欠損(Tlr4KO)マウスの腹腔内マクロファージをLPSおよび好中球エラスターゼで刺激した。LPS刺激により、WTのマクロファージでTnfa、Il1b、Cxcl1、Il6のmRNAが増加したが、Tlr4KOのマクロファージでは増加しなかった。好中球エラスターゼによる刺激の結果も同様であり、好中球エラスターゼの作用がTlr4依存性であることが確認された。NEKOマウスの肝ではWTに比べて、炎症性マーカー(Tnfa、Emr1(F4/80)、Cxcl1、Il1r1、Il1b、CCl2(Mcp1))の発現が低下、抗炎症マーカー(Arginase)の発現が増加し、IκBのdegradationも少なかった。脂肪組織でも同様で、NEKOマウスではWTに比べて炎症性マーカー(Il1b、Tnfa、Cxcl1、Cd68、Irf4、Irf5)の発現が低下し、抗炎症マーカー(Arg、Clec10a(Mgl1)、Il4)の発現が増加、IκBのdegradationが低下していた。NEKOマウスの脂肪組織の中では、脂肪組織マクロファージ(ATM)のうち、M1様細胞(Cd11c+)の数が低下、M2様細胞(Cd11b+Cd11c-)の数が増加していた。好中球から分泌されたエラスターゼが、マクロファージの分極化(polarization)を変化させていると考えられた。NEKOマウスでは肝と脂肪組織の炎症のトーンの低下に伴い、血清中のIl-1β、Tnf-α、Mcp-1、Il-6、GM-CSF、Ccl3、Ccl4、resistin濃度が低値であった。なお、NEKOマウスから単離したeWATをex vivoでインスリン刺激したところ、2-deoxyglucose取り込みが増加しており、インスリン感受性が亢進していることが示された。

【結論】
高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性において、肝および脂肪組織に浸潤する好中球とそこから分泌されるエラスターゼは、炎症の発症に重要な役割を果たしている。好中球エラスターゼはTlr4経路を活性化し、免疫細胞や脂肪細胞からのサイトカイン産生を変化させ、さらなる炎症の増幅を促進していると考えられる。好中球エラスターゼ阻害は、高脂肪食に伴うインスリン抵抗性の治療手段となりうるだろう。
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by md345797 | 2012-08-06 23:49 | インスリン抵抗性

SirT1依存性のPparγ脱アセチル化による、白色脂肪組織の褐色化

Brown Remodeling of White Adipose Tissue by SirT1-Dependent Deacetylation of Pparγ.

Qiang L, Wang L, Kon N, Zhao W, Lee S, Zhang Y, Rosenbaum M, Zhao Y, Gu W, Farmer SR, Accili D.

Cell. 150 (3), 620-632, 3 August 2012.

【まとめ】
褐色脂肪組織(BAT)は蓄積されたエネルギーを熱として放散するため、白色脂肪組織(WAT)を褐色様形質に転換させること(browning、褐色化)は、肥満の重要な治療戦略となりうる。本研究によって、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)のgain-of-function、またはその内因性阻害蛋白であるDbc1のloss-of-functionは、WATの褐色化を促進することが分かり、それは、PparγのLys268とLys293の脱アセチル化を伴うことが明らかになった。このSirT1依存性のPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、BAT分化のcoactivatorであるPrdm16のPparγへの結合に必要であり、BAT遺伝子の発現増加とインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子の発現抑制をもたらした。また、脱アセチル化が起こらないPparγ変異体は白色脂肪細胞に褐色様形質をもたらし、逆にアセチル化を模倣したPparγ変異体では「白色」遺伝子の活性化を保持し「褐色」遺伝子の発現が起こらなかった。以上より、SirT1依存性のPparγの脱アセチル化は白色脂肪細胞の褐色化をもたらすことが明らかになり、このことが肥満治療に有用である可能性が示された。

【論文内容】
エネルギーを蓄積する白色脂肪組織(WAT)を、エネルギーを熱として消費する褐色脂肪組織(BAT)様に転換させること(browning、褐色化)は肥満治療において有用と考えられる。マウスのWATを褐色化させるためには、ホルモンやサイトカインによる方法(Irisin、Fgf21)や転写因子調節による方法(Prdm16、FoxC2、RIP140、4E-BP1、TIF2、pRb、p107)が知られているが、これらを臨床に応用する方法の確立が必要である。白色脂肪細胞において、Pparγをthiazolidinediones (TZDs)によって活性化させると、褐色脂肪特異的遺伝子(褐色遺伝子)発現が増加し、内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)発現が抑制されることにより褐色化が誘導されるが、そのような治療を進めるにはTZDの副作用も問題となっている。また、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)を活性化させることによりミトコンドリア生合成や活性が促進されることから、SirT1がBAT機能を調節している可能性がある。SirT1のgain-of-function変異は、in vivoでPparγリガンドのインスリン感受性亢進機能を模倣することも知られている。これらのことから、Pparγの褐色化促進効果はSirT1依存性の脱アセチル化を介するのではないか、SirT1はTZDsと同様の褐色化効果をもたらすのではないかと考え、以下の検討を行った。

SirT1はリガンド依存的にPparγを脱アセチル化する
まず、PparγとSirT1を発現させた293細胞をrosiglitzoneで刺激したところ、Pparγのアセチル化(Acetyl-Lys抗体でblot)が減少した。また、PparγのアンタゴニストGW9662を添加するとPparγとSirT1の結合が低下した。Pparγのアセチル化はアセチル化酵素であるCbpで増強され、逆にSirT1過剰発現やresveratrolによるSirT1活性化によって減少した。精製したSirT1とアセチル化したPparγを用いてin vitro脱アセチル化アッセイを行ったところ、WTのSirT1はPparγをNAD+依存性に脱アセチル化した(SirT1の不活性型変異体(H363Y)はPparγを脱アセチル化しなかった)。したがって、SirT1はPparγを脱アセチル化の基質であり、SirT1によるPparγ脱アセチル化にはPparγのリガンド結合が必要と考えられた。さらに、精巣上WATおよび鼠径部WATのlysateのPparγ免疫沈降物からSirT1が検出され、SirT1トランスジェニックマウス(SirT1 Bacterial Artificial Chromosome Overexpressor transgenic mice (SirBACO))の鼠径部WATのSirT1の免疫沈降物にPparγが認められたため、SirT1とPparγの結合はin vivoにおける生理的なものと考えられた。

SirT1はPparγリガンドの白色遺伝子・褐色遺伝子への効果を模倣する
TZDsもSirT1もPparγアセチル化を減少させるため、SirT1のgain-of-functionはTZDsによるPparγ活性化を模倣するのではないかと考えた。TZDの効果としてインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)の発現を抑制することが知られているが、3T3-L1白色脂肪細胞にresveratrolを投与してSirT1を活性化しても同様の効果が認められた(白色遺伝子であるAngiotensinogen (Agt)、 ResistinWdnm1LChemerinPank3の発現が抑制)。これらはSirT1の不活性型変異体(H363Y)では抑制されなかった。次にHIB-1B細胞(Ucp1、SirT1およびSirT1阻害蛋白であるDbc1の発現が3T3-L1細胞よりも皮下脂肪組織に近い褐色脂肪細胞株)を用いて、褐色遺伝子に対するSirT1とPparγリガンドの影響を比較した。ResveratrolによるSirT1の活性化、またはtroglitazoneによるPparγの活性化によって、Ucp1発現は増加し、それぞれSirT1阻害剤(nicotinamide)およびPparγアンタゴニスト(GW9662)によって抑制された。WT SirT1の過剰発現はPparγアセチル化を低下させて褐色遺伝子(Ucp1Dio2)を増加させたが、SirT1の不活性型変異体の過剰発現は逆の効果をもたらした。以上より、SirT1のPparγ脱アセチル化活性は褐色遺伝子発現増加と白色遺伝子発現抑制に必要であり、リガンドが結合したPparγの効果を模倣していることが明らかになった。

SirT1は皮下WATの褐色化をもたらす
マウス脂肪組織(精巣上WAT、鼠径部WATおよびBAT)において、SirT1と褐色遺伝子の発現には正の相関があり、 SirT1阻害蛋白Dbc1と褐色遺伝子の発現には負の相関があった。そこで、SirT1活性を調節した3つのモデルマウス、すなわち、Sirt1欠損マウス(Sirt1-/-)、SirT1活性亢進マウス(Dbc1-/-)、SirT1過剰発現マウス(SirBACO)を用いて、SirT1と褐色化の関連について検討した。Sirt1-/-マウスはBATのUcp1レベルは正常だったが、鼠径部WATのUcp1は減少しており、SirT1が皮下WATにおける熱産生に必要であることが示された。Dbc1-/-マウスの熱産生を増加させるため4℃に寒冷曝露したところ、通常は単胞性(unilocular)の鼠径部WAT脂肪細胞が、Ucp1陽性で脂肪胞の少ない(paucilocular)脂肪細胞が増加し、褐色遺伝子(Ucp1C/ebpβ)の発現が増加、白色遺伝子(Chemerin, Resistin)の発現が抑制された。すなわち、Dbc1-/-マウスの皮下白色脂肪細胞は寒冷曝露に伴って褐色化した(なお、BATにおけるUcp1発現は変化なかった)。SirBACOマウスを同じく4℃に寒冷曝露した場合にも同様の変化が認められた。以上より、SirT1は鼠径部WATを褐色化させる役割を担っていると考えられた。

SirT1のgain-of-functionとPparγリガンドは、インスリン感受性亢進に関して重複した効果をもたらす
加齢Dbc1-/-マウスでは耐糖能異常が見られたが、このDbc1-/-マウスを軽度の低温(12℃)に4週間置くと、耐糖能が改善した。SirBACOマウスでも鼠径部WATの脂肪細胞がサイズが小さく、脂肪胞が小さく、多く(multilocular)なり、Ucp1陽性のものが増加し、褐色遺伝子発現が増加した。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスの鼠径部WATでは、高脂肪食負荷したコントロールマウスに比べてインスリン抵抗性関連遺伝子の発現が低下していた。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスは高脂肪食を負荷したコントロールマウスに比べインスリン抵抗性が低下していたが、ここにrosiglitazoneを投与してもSirBACOマウスのインスリン抵抗性がさらに改善することはなかった。したがって、SirT1増加による効果とPparγリガンドによる効果はオーバーラップしていることが示唆された。

SirT1はPparγのLys268とLys293を脱アセチル化する
次に、Pparγ上のSirT1によって脱アセチル化される部位の同定を試みた。Trypsin-およびchymotrypsinによって分解したPparγのペプチド断片をHPLC/MS/MS解析することにより、脱アセチル化されるのはLys268とLys293であることが分かった。以前より、P467L変異Pparγを持つヒトは高度のインスリン抵抗性を示すことが知られていたが、P467L変異Pparγは過剰にアセチル化されており、SirT1との結合が阻害されていた。この変異にさらにLys268とLys293の変異を起こすとアセチル化が大きく減少することから、P467L変異に伴うアセチル化部位はこの2つのLysであると考えられた。

Pparγアセチル化の生理的調節
鼠径部WATのPparγアセチル化は、寒冷曝露による褐色遺伝子活性化の際に減少していたが、高脂肪食によるインスリン抵抗性に伴って増加していた。この高脂肪食によるPparγアセチル化の増加は、SirT1との結合低下を伴っており、rosiglitazone投与、Dbc1欠損、SirT1過剰発現によって回復する。ヒト皮下脂肪組織にresveratrolを添加した場合のSIRT1活性化もPparγアセチル化を減少させた。これはresveratrolのヒトへの投与でインスリン抵抗性が改善することと一致する。

Pparγアセチル化部位変異体のBAT様機能
Swiss-3T3 fibroblastsに、WT Pparγ、アセチル化模倣K293Q(KQ)、脱アセチル化模倣K293R(KR)、2か所の脱アセチル化模倣K268R/K293R(2KR)のそれぞれのPparγ変異体を発現させた。WT PparγおよびKRを発現したfibroblastは通常に脂肪細胞に分化したが、KQを発現させた場合は分化が遅かった。2KRを発現させたfibroblastは、WT Pparγを発現させたものより脂質蓄積が多く、adiponectinの発現が多く、脂肪分化を抑制するβ-cateninのdegradationが促進されていた。すなわち、Pparγの十分な活性化には、脱アセチル化が必要であると考えられた。ミトコンドリア呼吸はKQ発現で抑制され、2KR発現で増加していた。2KRは、褐色遺伝子(Ucp1Elovl3CideaCox7aPgc1α)の活性化作用がWT Pparγより強かった。逆にKQの発現によりこれらの遺伝子発現が抑制された。また、TZD反応性遺伝子であるFgf21も同様にKQの発現で抑制され、2KRの発現で活性化された。以上より、SirT1によるPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、TZDによる白色脂肪細胞の褐色化を促進すると考えられた。

SirT1依存性の脱アセチル化は、Pparγのcoactivator/corepressor交換を調節する
PparγのSer273リン酸化はPparγ活性を調節している(TZDによりSer273が脱リン酸化されることに伴い、adiponectin発現が増加する)。興味深いことに、Ser273リン酸化はLys293のアセチル化とのみ並行しているが、Lys268とは並行していない。PparγのS273A(SA=Ser273がリン酸化されない)またはS273A/2KR(AR=Ser273がリン酸化されず、2つのLysがアセチル化されない)変異体をそれぞれSwiss-3T3細胞に過剰発現させると、両者のadiponectin発現に対する効果は同じであるが、褐色遺伝子活性化はSAよりもARの方が強い。したがって、Pparγ Lysアセチル化とSer273リン酸化はadipokine産生には協調して作用するが、褐色遺伝子発現には脱アセチル化が作用していると考えられる。

Prdm16は皮下WATを褐色化させる、褐色脂肪細胞系列分化決定のcoactivatorである。Prdm16は、293細胞においてrosiglitazone依存性にPparγに結合した。CbpによってPparγをアセチル化するとPrdm16とPparγの結合が阻害されたが、rosiglitazone添加によってPparγが脱アセチル化されるとPrdm16との結合はその分回復した。アセチル化しないPparγ 2KRは、リガンド結合に関わらず恒常的にPrdm16に結合した。同様に、Cbpによる(Pparγアセチル化に伴う)PparγとPrdm16結合の阻害は、SirT1過剰発現によって(Pparγが脱アセチル化されると)回復した。SirT1のgain-of-functionはPparγとPrdm16との結合を促進したが、PparγアンタゴニストGW9662はこの結合を阻害した。なお、SirT1を発現させたHIB-1B細胞で、Ucp1エンハンサーからのchromatin免疫沈降物から、Prdm16に結合したPparγが検出された(不活性型SirT1 H363Y変異体を発現させた細胞では結合は検出されなかった)。

Pparγの2つのLys→Argの変異体作製により、Prdm16のPparγへの結合に必要なのはLys293であり、Lys268ではないことが分かった。また、転写のcorepressorであるNCoRはPparγを中心とした複合体の重要なコンポーネントである。興味深いことに、PparγとNCoRとの結合はどちらのLysの変異体でも阻害されたため、PparγとNCoRとの結合には両方のLysの脱アセチル化が必要であることが分かった。CbpはPparγをアセチル化してNCoRとの結合を増加させ、SirT1はPparγを脱アセチル化してこの結合を阻害した。以上より、PparγのLys293の脱アセチル化はcoactivatorであるPrdm16の結合を促進し、Lys268とLys293の脱アセチル化はcorepressorであるNCoRとの解離に必要である。このようにLys268とLys293のアセチル化状態はPparγのcorepressor/coactivatorの交換に必要であることが分かる。

【結論】
SirT1はエネルギーの欠乏により活性化されることが知られており、SirT1によりPparγのLys268とLys293が脱アセチル化されることが明らかになったため、Pparγのこの2つのLysがアセチル化されているということはエネルギーが十分にあることを示している。逆にPparγのLysの脱アセチル化はエネルギーが貯蔵から消費に傾いており、インスリン感受性が促進されている状態を示していると言える。本研究では、寒冷曝露のような刺激によってSirT1が活性化すると、Pparγの脱アセチル化を介して、白色脂肪細胞が褐色化されることが示された。

PparγのLysはsumoylationおよびubiquitinationによっても修飾される。Fgf21はPparγのLys107のsumoylationを促進することにより、白色脂肪細胞の褐色化を起こし、インスリン感受性増加をもたらす。また、Pparγへのリガンド結合は、Lys268とLys293の脱アセチル化によって調節されるubiquitinによるPparγのdegradationを促進する。さらに、TZDsはCDK5によるPparγ Ser273のリン酸化を阻害することによりインスリン感受性増加をもたらす(PparγのSer273はLys268、Lys2963によって作られるgroove内に埋まっていて、Lysのアセチル化がSer273リン酸化を調節していると考えられる)。

以上の結果から、PparγリガンドにSirT1アゴニストを合わせて用いることによって、TZDの副作用(体液貯留、体重増加、骨代謝亢進、ある種の癌の発生や心血管リスクの疑いなど)を軽減した代謝疾患の治療が可能になるかもしれないと考えられた。
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by md345797 | 2012-08-04 01:31 | シグナル伝達機構

血漿HDLコレステロールと心筋梗塞のリスク:メンデルランダム化による検討

Plasma HDL cholesterol and risk of myocardial infarction: a mendelian randomisation study.

Voight BF, Peloso GM, Orho-Melander M, et al.

Lancet. 2012 May 17. Published online.

【まとめ】
背景:血漿HDLコレステロール高値は心筋梗塞リスクの減少に関連があるとされているが、その因果関係は明らかではない。遺伝子型(genotype)は、減数分裂時にランダムに決まり、非遺伝的な交絡因子から独立しており、疾患過程によって影響を受けないため、遺伝子型を操作変数(instrumental variable)として解析を行うメンデルランダム化 (メンデル無作為化、mendelian randomisation)を用いて、HDLコレステロールと心筋梗塞リスクの因果関係について検討した。
方法:ここでは2つのメンデルランダム化解析を行った。まず、HDLコレステロールのみを特異的に増加させるendothelial lipase遺伝子のSNP (LIPG Asn396Ser)を操作変数として用いて、20の臨床試験(20913名の心筋梗塞のcaseと95407名のcontrol)におけるSNPを調べた。次に、HDLコレステロールにのみ関連する14のSNPsに基づいた遺伝的スコア(genetic score)を操作変数として用いて、このスコアと心筋梗塞リスクの関連を12482名の心筋梗塞のcaseと41331名のcontrolで調べた。コントロールとして、LDLコレステロールのみに関連する13のSNPsの遺伝スコアも調べた。
結果:LIPG Asn396Serアレルを持つ人はHDLコレステロールが有意に高値であったが、脂質(LDLコレステロールとトリグリセリド)および非脂質関連(血圧など)の心筋梗塞危険因子はこのアレルを持たない人と同様であった。観察研究によれば、LIPG Asn396Ser によるHDLコレステロールの低下は、心筋梗塞のリスクを13%減少させると予想された(オッズ比 0.87、95%信頼区間0.84-0.91)。ところが実際のメンデルランダム化による検討では、LIPG Asn396Serアレルは心筋梗塞のリスクと関連がなかった(オッズ比 0.99、95%信頼区間 0.88-1.11、p=0.85)。LDLコレステロールに関しては、観察研究による推定(心筋梗塞のリスクの増加)は、遺伝的スコアによる結果と一致したが、HDLコレステロールに関しては観察研究による推定と遺伝的スコアによる結果は一致しなかった(HDLコレステロール増加に関連する遺伝的変異は、心筋梗塞リスク減少と関連がなかった)。
考察:メンデルランダム化研究によれば、HDLコレステロールを特異的に増加させる(ある種の)遺伝的変異は、心筋梗塞リスクの低下につながらなかった。したがって、血漿HDLコレステロールを増加させることが心筋梗塞リスク減少につながるという概念には疑問が持たれる。

【論文内容】
観察研究(observational studies)ではLDLコレステロールの高値は心筋梗塞リスク増加に関連し、HDLコレステロール高値は心筋梗塞リスク低下に関連していると考えられている。しかし観察研究では、ある血漿検査結果(ここではLDLコレステロールやHDLコレステロール)が、疾患発症の原因なのか、それとも疾患のマーカーなのかまでは判断できない。これは、遺伝的変異によってランダム化された大規模試験(メンデルランダム化研究)によって判定することが可能である。

LDLコレステロールについてはLDLが高値または低値をもたらす遺伝的変異と心筋梗塞リスクの因果関係が示されている。しかし、HDLコレステロールについてはそのような一定の関係は示されていない。近年、HDLコレステロールにのみに関連し、LDLコレステロールやトリグリセリドには関連しない遺伝子変異であるendothelial lipase遺伝子のSNP (LIPG Asn396Ser)が同定された。そこで、過去のcase-control研究および前向きコホート研究において、このHDLコレステロールを上昇させる遺伝子変異が心筋梗塞に予防的に働いているかを検討した。

まずcase-control研究において、LDLコレステロールに関連するSNPについて検討した。LDLコレステロールに関連する10のSNPのうち9のLDLコレステロール増加アレルは、心筋梗塞のリスク増加と関連していた(p<0.05)。同様の検討をHDLコレステロールでも行ったところ、HDLコレステロール増加に関連する15の遺伝子座のうち、6遺伝子座(LPL、TRIB1、APOA1-APOC3-APOA4-APOA5 cluster、CETPANGPTL4、GALNT2)は心筋梗塞リスク減少に関連していた(p<0.05)。しかし、これら6のSNPは、LDLコレステロールまたはトリグリセリドまたはその両方にも影響する。例えば、HDLコレステロール増加に関連するSNPであるAPOA1-APOC3-APOA4-APOA5のrs6589566は、LDLコレステロールとトリグリセリドを減少させた。これらのSNPにはこのような多面的効果(pleiotropic effect)があるため、HDLコレステロールのみの(LDLコレステロールやトリグリセリドとは独立した)心筋梗塞リスクに対する因果関係は不明であった。

そこで、HDLコレステロール特異的に影響し、心血管リスクとなる他の脂質 (LDLコレステロール、トリグリセリド)および非脂質因子(血圧、BMI、血糖、CRP、waist-to-hip比、フィブリノーゲン、small LDL particle)に影響しない変異を用いた検討が必要である。それには、endothelial lipase遺伝子のSNPであるLIPG Asn396Ser(約2.6%のヒトが持つアミノ酸置換で、この置換があるとHDLコレステロールが0.08-0.28 mmol/L増加、LDLコレステロール・トリグリセリドには影響なし)が有効である。このLIPG Asn396Serは、メンデルランダム化のための3つの基準を満たしている。すなわち、①操作変数(instrumental variable)となる遺伝子型(LIPG Asn396Ser)が中間バイオマーカー(HDLコレステロール)に関連している、②この遺伝子型は交絡因子には関連していない、③この遺伝子型は中間バイオマーカーのみによって臨床アウトカム(心筋梗塞リスク)に影響している、という3点である。

LIPG Asn396Serアレルを持つヒトは遺伝的にHDLコレステロールが高いため(オッズ比 0.87、95%信頼区間0.84-0.91)、心筋梗塞のリスクが13%低いことが予想された。ところが実際には、6の前向きコホート研究の50763名で、LIPG Asn396Serと心筋梗塞リスクの関連を検討したところ、4228名の心筋梗塞発症者においてLIPG Asn396Serとの関連はなかった。6の研究のメタアナリシスでもLIPG Asn396Serと心筋梗塞発症との関連はなかった(オッズ比 1.10、p=0.37)。また、16685の心筋梗塞のcaseと48872のcontrolを比較したcase-control研究でも、それらの研究のメタアナリシスでも、LIPG Asn396Serと心筋梗塞発症との関連はなかった(それぞれオッズ比 0.94、p=0.41、オッズ比 0.99、p=0.85)。

さらに、LDLコレステロールのみを増加させる13のSNPsと、HDLコレステロールのみを増加させる14のSNPsで遺伝的スコアを作成し、53146名のcaseとcontrolでこれらの遺伝的スコアと心筋梗塞のリスクとの関連を調べた。その結果、遺伝的スコアによるLDLコレステロールの1 SDの増加は心筋梗塞のリスク増加に関連したが(オッズ比 2.13、p=2x10(-10))、遺伝的スコアによるHDLコレステロールの1 SDの増加は心筋梗塞のリスク増加に関連しなかった(オッズ比 0.93、p=0.63)。

【結論】
今回のメンデルランダム化による検討の結果、HDLコレステロールを特異的に増加させる遺伝的変異であるLIPG Asn396Serは心筋梗塞のリスクと関連しなかった。また、HDLコレステロールを特異的に増加させる14のSNPsを組み合わせた遺伝的スコアも、心筋梗塞のリスクと関連しなかった。以上より、①血漿HDLコレステロールを増加させることが必ずしも心筋梗塞リスクにつながらない、②血漿HDLコレステロールは心筋梗塞リスクの代理指標(surrogate measure)にならない、という結論が導かれた。

なお、過去に血漿HDLコレステロールを上昇させるCETPの遺伝的変異が心筋梗塞リスクを4%低下させるという報告がされたが、その後CETP変異はHDLコレステロール増加だけではなく、LDLコレステロール低下ももたらすと考えられ、CETP変異のHDLおよびLDLコレステロールに対する効果は区別しにくいことが明らかになっている。

今回のメンデルランダム化研究により、血漿LDLコレステロールに関連する遺伝的変異は心筋梗塞のリスクと関連したが、HDLコレステロールに関連する変異は心筋梗塞のリスクと関連しなかった。以上より、HDLコレステロールを増加させる治療や生活習慣の介入は、心筋梗塞リスク減少につながらない可能性が考えられた。
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by md345797 | 2012-08-02 17:46 | 大規模臨床試験

Fetuin-AはTLR4の内因性リガンドとして作用し、脂質によるインスリン抵抗性を促進する

Fetuin-A acts as an endogenous ligand of TLR4 to promote lipid-induced insulin resistance.

Pal D, Dasgupta S, Kundu R, Maitra S, Das G, Mukhopadhyay S, Ray S, Majumdar SS, Bhattacharya S.

Nat Med. Published online. 29 July 2012.

【まとめ】
TLR4 (Toll-like receptor 4)は炎症性シグナル伝達経路を活性化することにより、先天性免疫を調節する役割を果たしている。遊離脂肪酸(FFAs)は、TLR4経路を介して、脂肪組織の炎症を活性化させ、インスリン抵抗性を惹起することが知られている。しかし、FFAsが直接TLR4に結合するという証拠は得られておらず、TLR4の内因性リガンドは不明である。この研究では、肝で分泌される糖蛋白であるfetuin-A (FetA)がTLR4の内因性リガンドであり、マウスにおいてTlr4シグナルを介するインスリン抵抗性調節において重要な役割を果たしていることを示す。FetAをノックダウンしたマウスでは、Tlr4を介する炎症性シグナルの低下によって高脂肪食によるインスリン抵抗性が抑制される。逆にマウスにFetAを投与すると、炎症性シグナルが亢進しインスリン抵抗性が惹起される。FFAによる脂肪細胞における炎症性サイトカイン発現は、FetAとTlr4の両者が存在するときにのみ起こり、それらのどちらかがないとFFAによるインスリン抵抗性は起こらない。この研究ではさらに、FetAは末端のgalactoside部分が、Tlr4の2か所のleucine-rich repeats(Leu100-Gly123およびThr493-Thr516)に直接結合することを明らかにした。これらの変異Tlr4やgalactosideを切断したFetAでは、FFAによる脂肪細胞のインスリン抵抗性は惹起されなかった。以上の結果より、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、脂質によるインスリン抵抗性を仲介する原因蛋白であると考えられた。

【論文内容】
FetAは肝で分泌される糖蛋白であり、脂肪細胞やマクロファージからの炎症性サイトカインの分泌を刺激することから、慢性炎症性疾患のバイオマーカーとしても用いられている。FFAsは肝におけるFetAの発現を増加させ、血中FetAの増加が脂肪細胞からの炎症性サイトカイン産生を増加させることが分かっている。また、FetAおよびTlr4の欠損マウスは高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性をきたさないことと、FetAは血中においてはFFAsの主要なキャリアー蛋白であることから、FetAがTLR4の内因性リガンドとして作用しているという仮説のもと、以下の検討を行った。

脂質によるTLR4活性化におけるFetAの果たす役割
まず、肥満糖尿病のヒト、高脂肪食負荷マウス、およびdb/dbマウスでは、血中のFetA濃度と脂肪細胞のTLR4発現・NF-κB活性化は、それぞれのコントロールに比べ増加していることを確認した。次に、vivo-morpholino(in vivo用モルフォリノアンチセンスオリゴ)を用いてFetAおよびTlr4をノックダウンしたマウスに高脂肪食を負荷したところ、いずれもインスリン抵抗性をきたさなかった。これらのマウスの脂肪細胞ではNf-κb活性およびIl-6Tnf-αのmRNA発現もコントロールに比べ減少していた。したがって、高脂肪食によるインスリン抵抗性の発症には、FetATlr4の両方が必要と考えられた。また、FetAのrecombinant蛋白をendotoxin-freeの状態で作製した(endotoxinは細菌で発現するTLR4リガンドであり、細菌によるrecombinant蛋白作製の過程で混入するため)。このFetAをFetAノックダウンマウスに投与すると、脂肪組織でのTLR4活性化が起こり、高脂肪食(またはFFA注入)によるインスリン抵抗性が出現した。

FFAによるTLR4活性化にはFetAが必要である
FFAであるパルミチン酸(palmitate)を単独でまたはFetAと一緒に、ヒト脂肪細胞、3T3-L1細胞に添加して培養した。その際、FetAの存在下でのみ、NF-κBが活性化されIL-6とTNF-αの発現が増加した。また、TLR4阻害剤であるCLI-095添加やsiRNAによるTlr4発現のsilencingを行うと、NF-κB活性化やIL-6とTNF-αの発現増加が起こらなかった。(なお、通常の培養条件ではmedium中の血清(10%FBS)にFetAが含まれているので、この実験はserum-free mediumを用いて行った)。

TLR4シグナル伝達経路の下流にはMyD88およびMEKがあり、MyD88欠損3T3-L1脂肪細胞やMEK阻害剤(U0126)でpreincubateした細胞にFFA+FetAを添加してもNf-κb活性化が起こらなかったことから、FFA+FetAはTlr4経路を介して作用すると考えられる。これらの脂肪細胞における結果は、Tlr4ノックダウンマウスから採取したマクロファージでも同様であり、Tlr4はFFA+FetAによるNf-κb活性化効果に必要であることが確認された。

FetAとTLR4の結合
FFAsはTLR4には直接結合しないが、FetAには結合することが分かっている。したがって、FetAはFFAとTLR4の結合を仲介する蛋白ではないかと考えられた。実際、FetAとTLR4は免疫沈降で共沈する。さらに表面プラズモン共鳴により、FetAが、チップに固定化したTLR4に濃度依存的に結合することが確認された。逆にチップに固定化したFetAにもTLR4が同様のaffinityで結合した。また、細胞内でのFetAとTLR4の結合をyeast two-hybrid (Y2H) assayで確認したところ、FetAはTlr4の細胞外ドメインに結合した。TLR4の細胞外ドメインには8つのleucine-rich repeat (LRR)があるが、それらの変異体を作製してY2H assayでの結合およびFFA+FetAによるNf-κB活性化の低下をluciferase活性で調べたところ、Tlr4のLRR2(Leu100-Gly123)またはLRR6(Thr493-Thr516)がFetAとの結合に重要であり、FFAの効果を仲介していることが示された。さらに、[3H]-palmitateとFetAをヒトTLR4とincubateすることにより、これら三者がternary complexを形成していることが示された。

末端β-galactosideが切断されたFetAはTLR4経路を活性化しない

さらに、SEAP reporterによりTLR4-NF-κB活性化を検出するHEK-Blue hTLR4細胞を用いて、FFA+FetAによるNF-κB活性化と、これがCLI-095で抑制されることを確認した。また、FetAのどの部分がTLR4を認識しているのかは分かっていない。糖蛋白の糖質部分が受容体認識に役立っている(特に、Gram陰性菌によるTLR4活性化にLPSのglycan部分が関与している)ことから、FetAのTLR4結合部位としてglycan部分に注目した。Glycanを切断するいくつかの酵素をHEK-Blue hTLR4細胞に作用させたところ、β-galactosidaseによりFetAが切断された場合にNf-κbプロモーター活性が低下した。そのため、FetA末端のβ-galactoside部分がTLR4の認識に必要と考えられた。なお、β-galactosidaseにより切断されたFetAを脂肪細胞に添加してもFFAによるインスリン抵抗性は起きなかった。

【結論】
FFAとその結合糖蛋白FetAはTLR4経路を介して、NF-κB活性化と炎症性サイトカインの産生を起こし、その結果脂肪細胞におけるインスリン抵抗性を引き起こす。本研究の結果により、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、血中のFFAと脂肪細胞のTLR4を結びつけてインスリン抵抗性を惹起する役割を果たしていることが明らかになった。脂質によるインスリン抵抗性と2型糖尿病治療のために、FetAは重要なターゲットになるだろう。
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by md345797 | 2012-08-01 01:16 | シグナル伝達機構