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ドナーの便の十二指腸注入による再発性C. difficile感染治療

Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.

van Nood E, Vrieze A, Nieuwdorp M, Fuentes S, Zoetendal EG, de Vos WM, Visser CE, Kuijper EJ, Bartelsman JFWM, Tijssen JGP, Speelman P, Dijkgraaf MGW, Keller JJ.

N Engl J Med. Published online, January 16, 2013.

【まとめ】
再発するClostridium difficile感染は難治性の疾患であり、抗生剤治療の失敗率も高い。腸内細菌叢の正常化を図るために、ドナーの便を十二指腸に注入する治療の有効性が検討されているが、本研究ではこの方法の初のランダム化比較試験を行った。すなわち、患者をランダムに、①vancomycin投与(500 mg経口で1日4回を4日間)を行い、さらに腸洗浄後にドナーの便の溶液を経鼻十二指腸チューブで投与する群、②標準的なvancomycin投与(500 mg経口で1日4回を14日間)群、③標準的なvancomycin投与と腸洗浄を行う群、の3群に割り付けた。主要評価項目はC. difficile感染による下痢が軽快し10週後まで再発がないこととした。その結果、ドナーの便注入群では81%が最初の注入後にC. difficile関連の下痢が軽快したが、vancomycinのみの群ではその割合は31%、vancomycinおよび腸洗浄群では23%にとどまった。なお、患者の便細菌叢の多様性をSimpson’s Reciprocal Indexおよび系統発生マイクロアレイ(phylogenetic microarray)を用いて評価したところ、患者の便細菌叢の多様性はドナーの便注入後には、ドナーと同程度まで増加していた。以上の結果から、再発性のC. difficileの感染の治療として、ドナーの便注入はvancomycin投与に比べ優れた方法であることが示された。

【論文内容】
再発するC. difficile感染に有効な治療はなく、vancomycinを繰り返し投与するしか方法がないとされている。Vancomycinの初回有効率は60%で、その後の投与では有効性が低下する。その原因として、腸内細菌叢(intestinal microbiota)の多様性が低下することが一因と考えられている。そこで、再発性のC. difficile感染に対し、健康なドナーから便を移植する方法が試みられてきた。本研究では、このドナーの便移植の有用性について初のランダム化試験を行った。

43名の患者を、①vancomycin(4日間)投与後に4Lのmacrogol solutionによる腸洗浄を行った後、ドナーの便の溶液を経鼻十二指腸チューブから注入した群(17名、そのうち1名除外)、②vancomycin(14日間)投与群(13名、そのうち1名死亡)、③vancomycinおよび腸洗浄群(13名)の3群にランダムに割り付けた。注入群には、25名のドナーから排便後平均3.1±1.9時間に、141±71gの便を移植した。主要評価項目(primary end point)は、C. difficile関連の下痢が軽快し、治療開始から10週以内に再発がないこととした。

ドナーの便注入群16名のうち、13名(81%)が最初の注入後に治癒、2名が2回の注入後に治癒した(合計15名、94%が治癒)。しかし、vancomycinのみの投与群では13名中4名(31%)、vancomycinおよび腸洗浄群では13名中3名(23%)が治癒したのみであった。全体の治癒率は、ドナーの便注入群はvancomycinのみの群と比較して3.05、vancomycinおよび腸洗浄群群と比較して4.05で、ドナーの便注入群の方が有意に優れていた。

治療の副作用としては、ドナーの便注入群の94%が下痢をきたし、そのほか痙攣痛(31%)、げっぷ(19%)が認められたが、いずれの症状も3時間以内に軽快した。フォローアップ期間ではドナーの便注入群の3名に便秘が起こったが、その他の副作用は認められなかった。

次に、9名の便細菌叢の多様性を、Simpson’s Reciprocal Indexを用いて評価した。ドナーの便注入前には低かった多様性指標が、注入2週間以内にドナーと同様の数値まで上昇した。さらに、それぞれの便のサンプルの系統発生マイクロアレイ(phylogenetic microarray=16S rRNA gene ampliconを調べるHuman Intestinal Tract Chip, HITChip)のプロファイルを用いて、主因子分析(Principal Component Analysis:PCA)を行った。その結果、ドナーの便注入前の細菌叢は、注入後には、ドナーの細菌叢に向かってシフトしていることが示された。また、ドナーの便注入によりBacteroidetes種とclostridium cluster IVとXIVaの量が増加、Proteobacteriaの量が減少していた。

【結論】
今回の小規模オープンラベルランダム化比較試験により、ドナーの便の注入は再発性C. difficile感染に対する有効な治療法であることが示された。この方法が有効性あるメカニズムとして、ドナーの便注入により正常の細菌叢が再構成されることによりC. difficileに対する宿主防御が確立することが考えられる。

1958年にデンバーの医師たちが劇症偽膜性腸炎患者に正常者の便を注腸投与することにより、治療に成功した。また、1989年にはTvedeとRask-Madsenによって培養細菌の混合物を注入することによるC. difficile感染の治療法が報告されている。これらの方法は、現在ではfecal microbiota transplantation (FMT)とも呼ばれており、抗生剤投与などで破壊された正常の腸内細菌叢を再構成させる方法として知られている。しかし、ランダム化比較試験によって有効性のエビデンスが示されたのは、本研究が最初である。本研究のような方法は、腸内細菌叢が関わる他の疾患、すなわち炎症性腸症候群(IBS)、直腸癌の予防、さらには代謝疾患の治療にまで有用かもしれない。
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by md345797 | 2013-01-18 00:00 | その他

ケトン体であるβヒドロキシ酪酸は、内因性のHDAC阻害物質であり、酸化ストレス障害の抑制に働く

Suppression of Oxidative Stress by β-Hydroxybutyrate, an Endogenous Histone Deacetylase Inhibitor.

Shimazu T, Hirschey MD, Newman J, He W, Shirakawa K, Le Moan N, Grueter CA, Lim H, Saunders LR, Stevens RD, Newgard CB, Farese RV Jr, de Cabo R, Ulrich S, Akassoglou K, Verdin E.

Science. 2013 Jan 11;339:211-214.

【まとめ】
この研究では、ケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)が、内因性の class Iヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)阻害物質であることを報告している。マウスにβOHBを投与したり、絶食またはカロリー制限により内因性βOHBを増加させたりすると、腎組織のヒストンアセチル化は全体的に増加した。また、βOHBによるHDAC阻害により、酸化ストレス耐性をコードする遺伝子(FOXO3A、MT2など)の転写が増加した。HEK293細胞にβOHBを添加すると、Foxo3aMt2プロモーターのヒストンアセチル化が増加し、どちらの遺伝子発現もHDAC1とHDAC2の選択的欠損によって活性化された。βOHB を投与したマウスは、FOXO3AとMT2活性増加に伴って、酸化ストレス(パラコートによる蛋白カルボニル化など)に対する耐性が認められた。

【論文内容】
外部環境、栄養状態などによりある種の代謝産物(アセチルCoAやNAD+)が増加すると、これらの代謝産物はエピジェネティックな調節因子としてヒストンの転写後調節を行うことにより遺伝子発現に影響を与える。これらのうち、ヒストンアセチル化においては、ヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferases; HATs)の活性は核内アセチルCoA濃度により調節され、ヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)のうちclass III HDACs(すなわちsirtuins)の活性はNAD+濃度に依存している。Class I HDACs (HDAC1, 2, 3, 8)、class II HDACs (HDAC4, 5, 6, 7, 9, 10) 、class IV HDAC (HDAC11) はzinc依存性酵素であることが分かっているが、それらの内因性の調節は不明である。

酪酸(butyrate)は、class Iおよびclass II HDACsの阻害因子であることが知られている。哺乳類の運動や空腹時における主要なエネルギー源であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)は、酪酸に類似した構造を持つ。血中のβOHB濃度は、2-3日の絶食時または激しい運動時には肝が脂肪酸酸化を行うため1-2 mMに増加、飢餓が持続すると6-8 mMに上昇、糖尿病性ケトアシドーシスでは25 mM以上に増加すると考えられている。

ここで、βOHBが酪酸と同様にHDAC阻害活性を持つのかを検討するため、HEK293細胞にβOHBを8時間添加し、アセチル化ヒストン抗体(アセチル化H3Lys9とLys14: AcH3K9およびAcH3K14に対する抗体)でWestern blotを行うことにより、βOHBのヒストン脱アセチル化への影響を検討した。その結果、βOHBの添加により、用量依存的に(1-2mMの濃度でも)、ヒストンアセチル化が増加した。βOHBは酪酸と同じく、class I HDAC阻害活性を示し、class IIb HDAC (HDAC6)阻害活性 (tublinの脱アセチル化)は示さなかった。

次に、Flag-taggedヒトHDAC1、 HDAC3、 HDAC4、HDAC6をHEK293細胞に発現させて精製し、[3H]-標識アセチル化ヒストンH4ペプチドを用いて脱アセチル化活性を測定した。その結果、βOHBはHDAC1、HDAC3、HDAC4活性を用量依存的に(1-100 mM)阻害したが、HDAC6活性は阻害しなかった。mM濃度のβOHBは、直接HDACを阻害することによってヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

(なお、βOHBは標的細胞内でアセチルCoAへと分解されるので、このときアセチルCoA濃度の増加が起きたためにヒストンアセチル化が増加したのではないことを確認した。また、βOHBがp300とPCAF (p300/CBP関連因子)のHAT活性を亢進させたためにヒストンアセチル化が増加したわけでもないことを確認した。)
(また、高濃度のアセト酢酸(acetoacetate; AcAc)もin vitroおよびHEK293細胞でclass Iおよびclass IIa HDACを阻害した。しかし、AcAcの血中濃度はβOHBの1/3以下で、生理的条件下ではHDACsを阻害する濃度に達するとは考えにくい。βOHB dehydrogenases (βOHBをAcAcに変換する酵素)をsiRNAを用いて欠損させた細胞において、3 mM以下のβOHBに反応するヒストンアセチル化の増加は見られなかったが、10-30 mMの高濃度βOHBには反応してヒストンアセチル化が増加した。したがって、細胞に高濃度のβOHBを添加すると、AcAcまたはアセチルCoAも介してヒストンアセチル化が増加することが示唆された。)

次に、in vivoにおける血中βOHB濃度が組織のヒストンアセチル化に関与しているかを検討するため、24時間絶食マウスまたはカロリー制限マウス、さらには浸透圧ポンプを用いてβOHBを投与したマウスの血清中のβOHB濃度を調べた。その結果、いずれも血清βOHB濃度が増加していたため、これらのマウスの腎組織のヒストンアセチル化(H3K9、H3K14)を調べたところ、いずれも有意に増加していた。また、血清βOHB濃度とアセチル化H3K9、H3K14の間には強い相関が認められた。(なお、腎はヒストンアセチル化の変化が最も大きい臓器であり、βOHBの遺伝子発現への影響が現れやすいと考えられた。)

βOHB投与に伴うヒストンアセチル化増加により発現が調節される遺伝子を同定するため、βOHB投与マウスの腎から抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果をIngenuity社パスウェイ解析(IPA)により解析したところ、FOXO3Aによって調節される2つの遺伝子(Mt2Lcn2)が同定された。転写因子Foxo3aとmetallothionein2 (Mt2)は、どちらも酸化ストレス耐性に関与する遺伝子である。Foxo3aMt2プロモーターのchromatin immunoprecipitation (ChIP)解析によって、高濃度βOHBを添加したHEK293細胞ではプロモーターのH3K9アセチル化の増加が認められた。

なお、shRNAを用いてclass IおよびII HDACをそれぞれ選択的に欠損させたところ、Foxo3aMt2のmRNAが増加することを確認した。Foxo3aMt2のプロモーターにはHDAC1が結合したが、この結合はβOHB投与によって変化はなかった。したがって、HDAC活性はプロモーターへのHDAC1結合には影響はなく、βOHBはHDAC活性阻害によりプロモーターのヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

Mitochondrial superoxide dismutase (Mn-SOD)とcatalaseもFOXO3Aの標的であり、酸化ストレス耐性に関与している。βOHB投与マウスの腎組織では、FOXO3AおよびMn-SOD、catalaseの発現も増加していた。では、βOHBはin vivoにおいて酸化ストレスを防止する作用を持つのか?浸透圧ポンプを用いてマウスに24時間βOHBを投与し、その後に活性酸素種(ROS)を発生させるパラコートを静注し、2時間後に腎組織の蛋白カルボニル化を調べた(dinitrophenyl(DNP)の抗体でimmunoblottingした)。パラコート静注によりカルボニル化蛋白は2倍に増加したが、事前にβOHBを投与されていたマウスではそれが有意に抑制されていた。またこれらの腎組織を、別の酸化ストレスマーカーである過酸化脂質、4-hydroxynonenal (4-HNE)の抗体でも染色したところ、パラコート静注で3倍に増加した4-HNE染色部位がβOHB投与群では完全に抑制されていた。以上より、in vivoにおける酸化ストレス障害は、βOHB投与によって抑制されることが示された。

【結論】
βOHBは内因性のHDAC阻害物質であり、絶食やカロリー制限によるmM単位の濃度増加で組織にエピジェネティックな変化(ヒストンアセチル化の増加)を起こして、酸化ストレス耐性遺伝子(Foxo3aなど)の発現を増加させることにより、生体の酸化ストレス耐性をもたらすことが明らかになった。以前より、低炭水化物食によるケトン体産生によって神経の酸化ストレス障害耐性がもたらされること(neuroprotectiveな効果)が知られていた。本研究の結果から、ケトン体産生食(ketogenic diets)やカロリー制限による効果は、βOHBのHDAC阻害効果を介しているのかもしれないと考えられた。


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(解説図)可塑性をもつエピゲノム(A plastic epigenome)
本研究では、絶食・カロリー制限・低炭水化物食などに伴うβOHB増加が、HDACsを阻害することにより、ヒストンアセチル化の増加をきたし、酸化ストレス耐性遺伝子の発現を増加させることが示された。
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by md345797 | 2013-01-11 07:17 | その他