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胃バイパス術による腸内細菌叢の変化は宿主の肥満減少をもたらす

Conserved shifts in the gut microbiota due to gastric bypass reduce host weight and adiposity.

Liou AP, Paziuk M, Luevano Jr. JM, Machineni S, Turnbaugh PJ, Kaplan LM.

Sci Transl Med. 5, 178ra41. 27 March 27 2013.

【まとめ】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB) は急速に体重減少と肥満の低下、糖代謝の改善をもたらす。この効果は単なるカロリーの摂取や吸収の減少によるものではないことが分かっているが、消化管の再構成による代謝改善がどのようなメカニズムにで起きるかはよく分かっていない。RYGBはヒトやマウスにおいて腸内細菌叢を変化させることから、本研究ではRYGBの肥満改善効果が宿主‐細菌間の相互作用を変化させるためではないかと考えた。RYGBを行ったマウスの便サンプルで16S ribosomal RNA gene sequencingを行ったところ、コントロールのsham手術群、sham手術とカロリー制限を行った群に比べて腸内細菌叢が変化していた。具体的にはGammaproteobacteria (Escherichia)とVerrucomicrobia (Akkermansia)の相対的な増加が急速かつ持続的に起こっていた。このような変化は、体重減少やカロリー制限とは独立して認められ、多くは手術部位より下流の遠位腸管に見られた。さらに、RYGBマウスの腸内細菌叢を無菌マウスに移植したところ、レシピエントマウスの体重減少と脂肪量の減少が認められ、これはRYGBマウスの腸内細菌叢による短鎖脂肪酸の産生減少によるものと考えられた。本研究は、RYGB手術後の体重および肥満の減少は腸内細菌叢の変化によるものであるとする最初の報告である。

【論文内容】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB)は、余剰体重の65-75%を減少させることができる、肥満2型糖尿病のための非常に効率の良い治療法である。この肥満改善のメカニズムは当初カロリー制限と吸収の阻害によるものと考えられたが、最近は体重減少とは独立したメカニズムがあることが分かってきた。 本研究では、RYGB後の腸内細菌叢の変化が代謝改善に影響している可能性について検討した。

マウスモデルにおけるRYGBの肥満に対する効果
高脂肪食負荷マウスにRYGBを行うと3週間以内に体重が29 ± 1.9%減少し、この減少は12週間の試験期間中維持された。それに対し高脂肪食を負荷したsham手術群(SHAM)では体重が増加した。高脂肪食を負荷したRYGB群とsham手術に25%のカロリー制限をした群(weight-matched sham-operated; WMS)は、脂肪量が減少し、脂肪肝が改善した。RYGB群とSHAM群では摂食に差はなく、RYGB群では便中へのエネルギーの消失が大きかった。RYGB群の合計のエネルギー摂取(摂食エネルギーと便中消失エネルギーの差)はSHAM群よりは少ないが、WMS群よりは大きかった。すなわちRYGB群では、合計のエネルギー摂取量が低下し、エネルギー消費も増加していると考えられる。このRYGB後のエネルギー消費の増加は以前にマウスとラットでも報告されているものである。

RYGBは遠位腸管の腸内細菌叢の急速な変化をもたらす
次に、RYGB、SHAM、WMS群の手術前と術後の便サンプルで16S ribosomal RNA (rRNA) gene sequencingを行った。その結果、RYGBでは術後1週間という早期に遠位の腸内細菌叢の構成が著明に変化し、その変化は5週後まで継続した。SHAM群でも便細菌叢の変化は見られたもののその程度はRYGBに比べ小さく、SHAM群とWMS群の差はほとんど見られなかった。したがって、RYGBによって消化管の再構成が起きた際の便細菌叢の変化は、食事制限による体重減少に伴う変化に比べて非常に大きいことが分かった。

さらに、手術していない高脂肪食負荷マウス、手術していない正常食負荷マウス、RYGBを行った正常食負荷マウス(NC-RYGB)の便サンプルの解析結果を比較した。予想通り、高脂肪食負荷マウスと正常食負荷マウスの便サンプルでは、細菌種レベルのoperational taxonomic units (OTUs)が有意に異なっていた(Spearmanの相関の範囲は、群内で0.58から0.84へ、群間で0.16から0.24へと有意(P < 10−7, Student t検定)に変化していた)。しかし、RYGBの腸内細菌叢への影響は正常食および高脂肪食の違いに関わらず同等であり、RYGBの影響は食事による腸内細菌叢への影響を上回ることが分かった。

食事制限およびRYGB後の体重減少に伴うFirmicutes門の量の変化は同じであった。RYGB群とWNS群の細菌叢は手術前は同じくClostridiales優位だったが、SHAM群ではLactobacillalesとErysipelotrichalesが有意に多かった。それに対し、Bacteroidalesの量は手術前後で3群とも変化がなかった。

RYGBはいくつかの特異的な腸内細菌叢の変化をもたらす。術後2週間でEnterobacterialesが増加し、Verrucomicrobialesの増加も大きかった。Linear discriminant analysis (LDA) effect size (LEfSe)法を用いて、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの間で有意に量が変化した細菌種の同定を行った。RYGB群の腸内細菌叢は、Bacteroidetes、Verrucomicrobia、Proteobacteriaの門レベルの増加、Alistipes、Akkermansia、Escherichiaの属レベルの増加が認められた。

次にRYGB群、SHAM群、WMS群の術後15週の胃、小腸、盲腸、大腸のそれぞれの8か所から管腔および粘膜に付着した細菌を採取して、unweighted UniFrac metricを用いて比較した。その結果、RYGBにより遠位胃、回腸、盲腸、大腸の細菌叢が強く影響を受けていることが分かった。RYGB群の細菌叢はSHAM群と比べてEnterobacteriales、Bacteroidales、Verrucomicrobialesの割合が有意に多かった。管腔および粘膜に付着した細菌集団はRYGBの各部位とSHAM群では同様だったが、WMS群では小腸部位のすべてにわたって細菌集団の多様性が見られた。すなわち、食事制限による体重減少により影響されるのは小腸の面膜表面の細菌で、RYGBによって影響されるのは遠位小腸、盲腸、大腸の細菌であることが示唆される。

さらに、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの脂肪、窒素量とpHを調べた。RYGB群のサンプルはSHAM群、WMS群に比べ、pHが有意に低く、脂肪量が多かった。RYGB群とWMS群の便ではSHAM群に比べ、窒素量が少なかった。RYGB群の遠位胃内のpHはSHAM群に比べて高く、これは食物による直接の胃酸分泌刺激がないことによると思われる。これらの変化が腸内細菌叢の変化と管腔内環境の変化をもたらすと考えられた。

細菌叢の移植によって宿主の肥満を減少させることができる
次に、RYGBによる代謝の変化が腸内細菌叢の変化に直接影響されているものであるか検討するため、RYGBドナーの盲腸の内容物を無菌マウスに移植する実験を行った。このレシピエントマウスをRYGB-R(Rはrecipientの略)と呼ぶ。コントロールには、SHAMまたはWMSドナーの盲腸内容物を移植した無菌マウス(SHAM-RとWMS-R)と、何も移植していない無菌マウスを用いた。移植2週間でRYGB-Rマウスは有意に体重が減少したが、SHAM-Rマウスや無菌コントロールマウスでは体重減少は見られなかった。なお、RYGB-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べ差がなかったが、SHAM-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べて有意に減少していた。内臓脂肪(精巣上および後腹膜脂肪)量および血中レプチン値はRYGB-Rと無菌コントロールマウスで差はなく、SHAM-Rで有意に多かった。肝のトリグリセリド含量とインスリン抵抗性を表すHOMA-IR値はSHAM-Rに比べてRYGB-Rマウスで低い傾向にあり、空腹時トリグリセリドは有意に低かった。

レシピエントの肥満減少に寄与するドナー細菌叢からのシグナルを同定しようとして、回腸のfasting-induced adiposity factor (FIAF)遺伝子の発現と盲腸の短鎖脂肪酸(SCFA)の組成を調べた。SHAM-RとRYGB-Rの回腸では無菌コントロールマウスに比べてFIAF遺伝子発現は同様に低下していたが、盲腸SCFAはこれら3種のマウスで異なっていた。すなわち、無菌コントロールマウスに比べてSHAM-Rマウスでは盲腸SCFA量が有意に多く、RYGB-Rはその中間の値を示した。SCFAの組成としてacetate/propionate/butyrate比はSHAMおよびWMSマウス(75:12:13)とSHAM-Rマウス(74:11:15)は同じだったが、RYGB(62:27:11)とRYGB-R(54:30:16)では異なっていた。

RYGBのレシピエント形質に特異的な細菌のバイオマーカーを同定するため、RYGB-R群、SHAM-R群、WMS-R群の便サンプルの16S rRNA gene sequencingを行った。いずれの群でも移植後2週間の間にEnterobacterialesが増加したが、Bacteroidalesが持続的に優位だった。RYGB-RのサンプルではSHAM-R群およびWMS-R群に比べてVerrucomicrobia(Akkermansia属)が有意に多かった。LefSeによる解析でRYGB-R のサンプルにはドナー(RYGB群)と同様、AkkermansiaおよびAlistipes (Bacteroidetes門)が有意に多かった。ヒト、ラット、今回のマウスのRYGB後にGammaproteobacteria(Enterobacteriales目)が増加していることから、この種が宿主の代謝の変化に大きく貢献している可能性がある。RYGB後に最も多い属であるEscherichiaは炎症性疾患に関与する病原性のある系統もあるが、ある種のものは代謝に良い影響をもたらすのかもしれない。Verrucomicrobium AkkermansiaはRYGBによって増加し、無菌マウスに移植した後にも維持されているので、Akkermansiaも宿主の肥満改善に関係している可能性がある。

【結論】
本研究により、RYGBに伴う腸内細菌叢の変化(特にSCFA構成の変化)が、宿主の代謝と肥満の改善をもたらしていることが明らかになった。
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by md345797 | 2013-03-29 05:07 | エネルギー代謝

組織に存在するM2様マクロファージの分化にはTrib1が必要である

Critical role of Trib1 in differentiation of tissue-resident M2-like macrophages.

Satoh T, Kidoya H, Naito H, Yamamoto M, Takemura N, Nakagawa K, Yoshioka Y, Morii E, Takakura N, Takeuchi O, Akira S.

Nature. Published online 20 March 2013.


【まとめ】
マクロファージには少なくともM1とM2の2つのサブグループがある。M1マクロファージは炎症性のマクロファージと考えられ、細菌やウイルス感染に対する宿主防御に重要な役割を果たしている。M2マクロファージは抗炎症反応、寄生虫感染、組織リモデリング、線維化、腫瘍の成長に関連があると考えられている。Trib1は、COP1ユビキチンリガーゼと結合することにより、蛋白の分解を担うアダプター蛋白である。ヒトのゲノムワイド関連解析により、TRIB1は脂質代謝に関連があることが分かっている。本研究では、Trib1は組織に存在するF4/80+MR+マクロファージ(M2様マクロファージ)と好酸球の分化に必要であることが明らかになった。Trib1欠損マウスでは、様々な組織(骨髄、脾、肺、脂肪組織)においてM2様マクロファージが著明に減少していた。Trib1が欠損した骨髄細胞ではC/EBPαの発現が異常に増加し、これがマクロファージ分化を抑制する原因となっていた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスは、予想外なことに、脂肪分解が増加して脂肪組織量が減少していた。このマウスにM2様マクロファージを補うとこれらの異常は回復したため、脂肪分解の増加はTrib1欠損によってM2様マクロファージが欠損したことによると考えられた。この血球細胞Trib1欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、炎症性サイトカイン遺伝子の発現増加に伴う高トリグリセリド血症とインスリン抵抗性が認められた。以上の結果より、Trib1は、組織のM2様マクロファージの分化に必要であり、M2様マクロファージの分化を通じて脂肪組織を維持し、代謝疾患を抑制する働きを持つことが明らかになった。

【論文内容】
Tribbleファミリーは、E3ユビキチンリガーゼであるCOP1に結合して蛋白分解を促進する蛋白である。Trib1はIL-12産生に、Trib1とTrib2は急性骨髄性白血病に、Trib3はインスリンシグナル伝達抑制に関与しているという報告がある。しかし、Tribの血球分化への関与はよく分かっていない。そこで、本研究ではまず、tribbleファミリー遺伝子を欠損したマウスにおいて、脾臓に存在するマクロファージ集団の構成について検討した。Trib1-/-マウスの脾細胞では、F4/80+Mac1+マクロファージ(MR、Arg1、Fizz1も発現している)が著明に減少し、Siglec-F+CCR3+好酸球は欠損していた(B細胞、T細胞、樹状細胞、Ly6 C high Mac1+炎症性単球の割合は変化なし。好中球は増加していた)。Trib1-/-マウスの脾臓には、赤脾髄マクロファージ(通常は老化した赤血球を貪食し鉄を蓄積する)が認められず、鉄の蓄積もなかった。また、Trib1-/-マウスでは、組織に存在するマクロファージが著明に減少していた。(なお、Trib2-/-マウスおよびTrib3-/-マウスでは脾臓の骨髄系・リンパ系細胞の欠損は見られなかった。)MR、Arg1、Fizz1の発現はM2マクロファージの特徴であるため、上記の組織マクロファージをM2様マクロファージと呼ぶことにする。以上の結果からは、Trib1は末梢組織に存在するM2様マクロファージと好酸球の分化に必要であると言える。

Trib1-/-マウスの骨髄においても、F4/80+Mac1+細胞とSiglec-F+CCR3+好酸球は著明に減少し、Gr-1 high好中球は軽度増加していた。CD45.1+WT骨髄細胞とCD45.2+ Trib1-/-骨髄細胞を、放射線照射したWTマウスに(1:1の量で競合的に)移植すると、CD45.2+マクロファージと好酸球の発生が著明に障害され、好中球数が増加した。すなわち、Trib1-/-マウスに見られる血球の欠損は血球細胞に内在的なものであり、Trib1は骨髄における骨髄系細胞の正しい分化調節に必要であると考えられた。コロニー形成アッセイを行うと、Trib1-/-骨髄細胞はWT骨髄細胞に比べて、顆粒球・好中球コロニーは多く形成するが、マクロファージコロニーの形成は著明に減少し、好酸球のコロニーは形成しなかった。マクロファージコロニーは、形態学的にaggregated/smallおよびdiffused/largeという2つのサブグループに分類できたが、WTのマクロファージコロニーの多くは前者だったのに対し、Trib1-/-骨髄細胞由来のマクロファージコロニーは後者だった。すなわち、Trib1は骨髄細胞の正しい分化に必要であると考えられた。

Trib1-/-骨髄細胞にレトロウイルスを用いて全長Trib1を発現させると、aggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーが増加し、顆粒球/好中球コロニーが減少した。それに対し、COP1結合部位を欠失させたTrib1 (Trib1(ΔDQIVPE)変異体)をTrib1-/-骨髄細胞に発現させても、コロニー形成異常は回復しなかった。また、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させるとM2マクロファージの発現は回復したが、Trib1(ΔDQIVPE)変異体の発現ではM2マクロファージの発現は回復しなかった。

顆粒球発生と単球発生のバランスを調節するのに重要な転写因子はC/EBPファミリーである。Trib1-/-の骨髄細胞およびマクロファージコロニーではC/EBPαの発現が増加していた。さらに、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させると、C/EBPα発現が抑制された。そこで、Trib1-/-欠損による骨髄細胞分化異常にC/EBPα発現増加が関与しているかを検討するため、Trib1-/-骨髄細胞のC/EBPα発現をshRNAsを用いて抑制する実験を行った。その結果、Trib1-/-骨髄細胞でC/EBPα発現を抑制するとaggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーの増加、顆粒球/好中球コロニーの減少が起きた。以上の結果から、Trib1はC/EBPα発現をCOP1依存性に変化させて、骨髄細胞分化を調節していることが明らかになった。

最近のゲノムワイド関連解析により、TRIB1に対応する遺伝子座の変異は、血漿リポ蛋白の増加と虚血性心疾患・心筋梗塞のリスク増加に関連していることが示されている。これらのことから、脂肪組織におけるTrib1の役割を検討することにした。Trib1-/-マウスの精巣上脂肪組織の間質血管分画(stromal vascular fraction; SVF)に存在するMR+F4/80+ M2様マクロファージは、WTマウスに比べて著明に減少していた。血球細胞でTrib1を欠損するマウスでも精巣上脂肪組織でのM2様マクロファージは減少し、好酸球は欠損していた。正常の脂肪細胞分画(mature adipocyte Fraction; MAF)にはTrib1はほとんど発現していないので、このM2様マクロファージ減少と好酸球欠損は、血球細胞のTrib1欠損によるものであると言える。(なお、CD11c+Mac1+ M1マクロファージは、正常食負荷下ではWTマウスでもTrib1-/-マウスでも脂肪組織にはほとんど認められていない。)

予想外なことに、血球でTrib1欠損させたマウスは、MRIで観察すると腹部脂肪組織が著明に減少していた。正常食負荷下で、血球細胞でTrib1を欠損させたマウスおよび全身でTrib1を欠損させたマウスは、WTマウスに比べ精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが有意に小さかった。すなわち、これらのTrib1欠損マウスは脂肪萎縮形質を示していた。一方で、Trib1-/-マウスでもWT血球細胞を持つ(WT骨髄細胞を移植した)キメラマウスでは脂肪萎縮が起こらなかった。したがって、血球細胞でのTrib1欠損が脂肪萎縮の原因であると考えられた。さらに、Trib1-/-マウスに(WTマウスの脂肪組織から得た)M2様マクロファージを注入すると、3週間後には精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが回復した。したがって、Trib1欠損によるM2様マクロファージの消失によって脂肪萎縮形質が起きていると考えられた。

次に、血球でのTrib1欠損によって起こる脂肪萎縮のメカニズムを検討した。脂肪組織は、脂肪合成と脂肪分解のバランスによって維持されている。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに骨髄移植したキメラマウスは、WT骨髄を移植したWTマウス(コントロール)と比較して、脂肪細胞分化や脂肪合成に関係する遺伝子の発現に差はなかったが、血清NEFAやグリセロール濃度が有意に上昇しており、脂肪分化が亢進している可能性が考えられた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスの精巣上脂肪組織では、IL-10の発現が著明に低下していたが、TnfInosのmRNA発現は増加していた。IL-10は抗炎症作用のほか、脂肪分解を抑制する役割もあるため、M2様マクロファージは一部はIL-10産生を介して脂肪分解を抑制し、脂肪組織を維持していると考えられた(もちろん他の因子の関与も考えられる)。

脂肪萎縮には代謝異常が伴うことが多い。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに移植したキメラマウスは、高脂肪食を負荷すると空腹時血糖、インスリン、トリグリセリド、コレステロール値が大きく増加し、耐糖能障害およびインスリン抵抗性を示した(ただし体重はWT骨髄細胞をWTに移植したコントロールマウスと差はない)。このキメラマウスはM1マクロファージの数は変化なかったが、脂肪組織のM2様マクロファージの数が著明に減少し、脂肪萎縮(脂肪細胞のサイズが小さい)が認められ、脂肪組織におけるTnfおよびInos mRNAが大きく増加していた。上記の結果から、Trib1-/-骨髄をWTマウスに移植したキメラマウスは、脂肪萎縮があるため、高脂肪食負荷下での脂質のバッファーリングが障害され、代謝疾患が起きていると考えられた。

【結論】
代謝疾患の悪化には、脂肪組織の低レベルの慢性炎症が重要な役割を果たしている。M1マクロファージは肥満の脂肪組織に浸潤し、炎症性サイトカインを産生し低レベルの炎症を引き起こす。本研究によって、M2様マクロファージは、骨髄においてTrib1依存性に分化し、脂肪組織において脂肪分解抑制によって脂肪組織の維持に働き、代謝異常を抑制する作用があることが明らかになった。脂肪組織のM2様マクロファージは、好酸球から産生されるIL-4およびIL-13によって活性化されることが知られているが、このM2様マクロファージがどのように脂肪組織を維持しているかはさらなる検討が必要であろう。ヒトにおけるTRIB1の変異が、組織のM2様マクロファージの分化調節異常を介して代謝疾患を引き起こしている可能性も今後検討が必要である。
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by md345797 | 2013-03-22 07:51 | インスリン抵抗性

DPP4は新種ヒトコロナウイルス(human coronavirus-EMC)の機能的受容体である

Dipeptidyl peptidase 4 is a functional receptor for the emerging human coronavirus-EMC.

Raj VS, Mou H, Smits SL, Dekkers DHW, Müller MA, Dijkman R, Muth D, Demmers JAA, Zaki A, Fouchier RAM, Thiel V, Drosten C, Rottier PJM, Osterhaus ADME, Bosch BJ, Haagmans BL.

Nature. 495,251-254, 14 March 2013.

d0194774_12223970.jpg新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)
(右写真:Elizabeth R. Fischer, Rocky Mountain Labs/NIAID/NIHより)

2002から2003年にかけて発生したSARSコロナウイルス感染症は、世界で8098名の感染者(死者774名)を出した。2012年に新型コロナウイルス(hCoV-EMC)の発症があり、サウジアラビアなどで15名が感染(9名が死亡)している(2013年3月13日現在)。今のところコウモリからヒトへの感染が考えられているが、もしヒトからヒトへの感染があれば大流行(pandemic)となる可能性もあり、WHOが監視中。


【まとめ】
ヒトコロナウイルスの多くは軽度の上気道感染症を起こすのみであるが、免疫不全患者では重症肺炎をきたす場合もある。しかし、SARSコロナウイルス(2002年当時は新種コロナウイルスだった)は重症の下部気道感染症を引き起こし、その致死率は約10%であった。最近、別の新種コロナウイルスであるヒトコロナウイルス-EMC (human coronavirus-Erasmus Medical Center; hCoV-EMC)が同定され、致死率の高い下部気道感染症を起こすことが報告されている。この新種ヒトコロナウイルスは、コウモリに感染するコロナウイルスに近い。本研究では、hCoV-EMCの機能的受容体がDPP4(dipeptidyl peptidase 4、別名CD26)であることを明らかにした。DPP4は、hCoV-EMCのスパイク蛋白の受容体結合S1ドメインに特異的に結合する蛋白として、ウイルスが感染しうるHuh-7細胞の可溶化物から単離された。DPP4に対する抗体により、ヒト気管支上皮細胞およびHuh-7細胞へのhCoV-EMC感染が阻害された。逆に、通常では感染しないCOS-7細胞にヒトおよびコウモリのDPP4を発現させると、hCoV-EMCが感染するようになった。hCoV-EMCは、異なる種の間で(すなわちコウモリからヒトまで)進化的に保存されているDPP4を機能的受容体にすることによって、感染範囲を拡大させていると考えられる。本研究の結果は、新種ヒトコロナウイルスの病態の理解や治療開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
コロナウイルスは広範囲の哺乳類と鳥類に感染するウイルスで、細胞表面の受容体にスパイク蛋白(S蛋白)が侵入することにより感染する。最近、コウモリ由来のコロナウイルスと考えられている新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)が同定された。現在までに7施設で重症の呼吸器感染症を引き起こしている。このウイルスは遺伝的には、オランダのホオヒゲコウモリで発見されたコロナウイルスHKU4およびHKU5と同様のものである。少なくとも60種の新型コウモリコロナウイルスが発見されており、その中にはSARSコロナウイルス近縁のものもある。新種コロナウイルスも、コウモリから中間の動物宿主を介してヒトに感染するhCoV-EMCが成立したのではないかと考えられている。

コロナウイルスの受容体は2種が同定されており、hCoV-229Eは aminopeptidase N (APN, CD13)を、SARS-CoV はangiotensin converting enzyme 2 (ACE2)を受容体としている。ところが新種のhCoV-EMCは、SARSコロナウイルスと違って、ACE2を受容体としていなかった。そこで本研究では、ウイルス蛋白のN端スパイクドメインS1にヒトIgGのFc領域を結合させたキメラ蛋白を作製し、アフリカミドリザル腎由来細胞(COS-7)およびヒト肝由来細胞株(Huh-7)における結合蛋白の同定を試みた。COS-7細胞にはS1の結合は、COS-7細胞には結合しなかったが、Huh-7細胞には結合した(なおアフリカミドリザル腎由来細胞のVero細胞には結合したが、ここでは省略)。そこでHuh-7細胞を可溶化してS1蛋白に結合する110kDaの蛋白を得て、マススペクトロメトリー解析を行ったところ、結合蛋白はDPP4であった。そこで、DPP4とACE2の可溶型(膜に結合していない)フォームを作ってhCoV-EMC S1蛋白との結合を調べたところ、S1蛋白はDPP4には結合したがACE2には結合しなかった。

DPP4蛋白は異種間でアミノ酸配列が高度に保存されており、ヒトとコウモリ(P. pipistrellus)の間の相同性も高い。そのためヒトDPP4ポリクローナル抗体(抗血清)で、ヒトおよびコウモリのDPP4を染色した。コウモリDPP4を発現させたCOS-7細胞およびHuh-7細胞(もともとヒトDPP4が発現)は、DPP4抗体によって染色された。ヒトの培養気管支上皮細胞やヒトの肺気管支組織の非繊毛細胞にもDPP4発現が認められ、これがhCoV-EMC感染をもたらすと考えられた。

DPP4がhCoV-EMC感染に必要であることを示すため、Huh-7細胞にウイルスを接種する前にDPP4ポリクローナル抗血清を添加して培養した。その結果Huh-7細胞への感染は阻害された(コントロールの血清やACE2抗体を添加しても阻害されなかった)。同様に、培養気管支上皮細胞への感染も、DPP4抗体によって濃度依存性に阻害された。逆に、もともとhCoV-EMCが感染しないCOS-7細胞にDPP4を発現させると、hCoV-EMCが高率に感染するようになり、細胞内のウイルスRNAも認められた(なおhCoV-EMC以外の他種のコロナウイルスは感染しなかった)。以上の結果から、DPP4はhCoV-EMCの機能的受容体であることが示された。

【結論】
DPP4は、ACE2およびAPNに続くコロナウイルスの3番目の受容体であることが明らかになった。DPP4は766アミノ酸の細胞膜貫通糖蛋白であり、インクレチンを初め多くのホルモンやサイトカインを切断しそれらの活性を調節するexopeptidase活性を持つ。ただし、APNやACE2でも同様だが、ペプチド切断活性そのものよりも、気管支上皮組織に多く発現しているということ自体が、コロナウイルス感染に有用なのだろう。実際、本研究でもDPP4阻害剤(sitagliptin, vildagliptin, saxagliptin, P32/98)でDPP4活性を低下させてもhCoV-EMC感染は阻害されなかったので(Supplementary Fig. 9に示している)、DPP4活性が感染に影響しているのではないと考えられた。DPP4はヒトでは小腸などいくつかの組織に発現し血中に可溶性フォームも存在するが、hCoV-EMCは気道スワブ(ぬぐい液)、尿、喀痰、気管支吸引液からしか検出されておらず、hCoV-EMCのin vivoでの親和性についてはほとんど分かっていないのが現状である。hCoC-EMCの疫学についても謎が多い。もともとはコウモリ由来で、なんらかの中間動物宿主を介してヒトに感染するようになったと思われるが、伝播経路は不明である。hCoV-EMC は、DPP4が進化の過程で保存されている蛋白であるということを利用して、コウモリからヒトへという宿主の転換を行ったのだろう。

血中の可溶型DPP4の量が、2型糖尿病とウイルス感染に関連していることが報告されているが、この可溶型DPP4がhCoV-EMC感染とどう関係しているかも検討が必要である。また、本研究でのHuh-7細胞を用いたpreliminaryな検討では、hCoV-EMCのS1蛋白がDPP4に結合してもDPP4量やDPP4酵素活性の低下は起きなかった。今後、DPP4発現量の調節やhCoV-EMCとDPP4の結合阻害抗体(hCoV-EMCに対するワクチンとなるかもしれない)が、hCoV-EMC感染に対する治療戦略として重要になるだろう。

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(参考図)コロナウイルス(SARS-CoVと新種のhCoV-EMC)の種間の伝播様式
ヒト気道非繊毛細胞に発現しているDPP4はhCoV-EMCの受容体である。DPP4はコウモリからヒトにわたって保存された配列を持つため、コウモリから直接の伝播に重要と考えられる。SARSの病原体であるSARS-CoVは気道繊毛細胞のACE2を受容体としており、コウモリからジャコウネコ(ハクビシン)を介してヒトに感染するようになった。なお、ACE2もDPP4もexopeptidaseだが、それらの酵素活性自体はウイルス侵入に関連はなく、これらの蛋白が気道に多く発現していることをウイルスが感染のために利用していると考えられる。
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by md345797 | 2013-03-14 07:03 | その他

エピゲノムの可塑性を利用して、ヒト膵α細胞をβ細胞にリプログラミングする

Epigenomic plasticity enables human pancreatic α to β cell reprogramming.

Bramswig NC, Everett LJ, Schug J, Dorrell C, Liu C, Luo Y, Streeter PR, Naji A, Grompe M, Kaestner KH.

J Clin Invest. 2013 Mar 1;123(3):1275-84

【解説記事】
α細胞から新たなβ細胞を作るゲノムの錬金術

(Creating new β cells: cellular transmutation by genomic alchemy)
Moss LG.
J Clin Invest. 2013 Mar 1;123(3):1007-10.

α細胞からβ細胞を作る試みは今までにも行われており、β細胞を完全に欠損させるとα細胞がβ細胞に分化転換(transdifferentiation)することや、α細胞に(β細胞発生に必要な転写因子である)Pax4を発現させたトランスジェニックマウスではα細胞がβ細胞に分化することが報告されている。近年、膵島でのヒストンメチル化の全体像が明らかになり、膵島細胞の分化に伴うヒストン修飾の変化を検討することが可能となった。

下記の研究では、ヒト膵島からα細胞、β細胞、外分泌細胞をFACSで分離し、Chip-Seq法を用いてヒストンメチル化(H3K4me3とH3K27me3)のプロファイルを調べた。これらのメチル化には、次のような4パターンがある。すなわち、一価の(monovalent)のH3K4トリメチル化=H3K4me3(転写活性化)、一価のH3K27トリメチル化=H3K27me3(転写抑制)、二価の(bivalent)トリメチル化=H3K4me3とH3K27me3、H3K4もH3K27もメチル化なし、の4パターンである。これらにより、α細胞特異的なグルカゴン遺伝子は、α細胞ではH3K4me3(活性化)が起こり、β細胞ではH3K27me3(抑制)が起きている。同じくβ細胞特異的なインスリン遺伝子は、β細胞ではH3K4me3(活性化)が起こり、α細胞ではH3K27me3(抑制)が起きている(参考図参照)。

二価のメチル化は、多能性幹細胞や可塑性の大きい細胞に多くみられることが知られている。下記の研究の結果、α細胞はβ細胞・外分泌細胞に比べると、二価のメチル化が多く見られた(すなわち、α細胞とβ細胞はヒストンメチル化に関して「非対称」と言える)。β細胞分化に必要なPDX1やMAFAは、β細胞ではH3K4me3(活性化)のみが起こり、α細胞ではH3K4me3とH3K27me3の両方が起きていて、活性化の可能性(potential)はあるがそれが休止した状態にある。一方、α細胞分化に必要なIRX2は、β細胞ではH3K27me3(抑制)が起きているが、α細胞ではH3K4me3(活性化)が起きており、β細胞とは非対称である(参考図参照)。

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(参考図) β細胞とα細胞のヒストンメチル化の非対称性
β細胞特異的なインスリン、α細胞特異的なグルカゴンは、H3K4me3(転写活性化)とH3K27me3(転写抑制)によって対称的に調節されている。ところが、β細胞分化に必要なPDX1やMAFAは、β細胞では一価の(monovalent)メチル化であるH3K4me3(活性化)を受けているのに対し、α細胞ではH3K4me3とH3K27me3の二価の(bivalent)メチル化を受けており転写活性化の可能性(potential)はあるが転写休止の状態にある。このような転写休止の状態は、β細胞におけるIRX2(α細胞分化に必要な遺伝子)では見られない。すなわち、α細胞の方がβ細胞より可塑性が大きく、分化転換できる可能性は高いと思われる。

ところで下記の研究の限界としては、
① ヒストンメチル化は遺伝子発現を調節するのに重要だが、それが最終的な決定因子ではないことである。例えば、H3K4me3は必ずしも転写を活性化するとは限らない。これは他の遺伝子発現調節(CpG islandの存在、高位のクロマチン構造、DNAのメチル化など)にもよるためである。一方、H3K27me3は確実に転写抑制的に作用する。二価のメチル化が転写「休止」の状態にあるのはそのためと考えられる。
② 限界の2番目としては、この研究で用いたα細胞、β細胞とは「α細胞、β細胞の豊富な分画」であり、全く純粋な集団ではないことである。これらの分画はそれぞれ、δ細胞(somatostatin発現)およびPPY発現細胞を含む。これらの細胞では二価のメチル化の調節が異なっているかもしれない。

次に、下記の研究ではヒト膵島にAdox(メチルトランスフェラーゼ阻害剤で、H3K27me3を減少させる)を添加した。その結果、α細胞におけるβ細胞分化因子(PDX1、MAFA)の二価のメチル化による「転写休止状態」の抑制解除(derepression)が起こり、α細胞がβ細胞様に変化した。(しかし、その逆にβ細胞がα細胞様に変化することはなかった。)

近年Druckerのグループは、肝特異的にグルカゴン受容体を欠損させるとα細胞過形成が起きたという実験結果から、α細胞を増加させる液性因子の存在を想定している。もし、上記方法が臨床的に実用化されれば、「錬金術師の魔法の杖を一振り」(まず内因性のα細胞を増加させ)、「二振り」(増加させたα細胞をH3K27me4に特異的なヒストンメチル化抑制剤を用いて、β細胞に変化)させることによって糖尿病治療が可能になるかもしれない。

【論文まとめ】
ChIP-seqとRNA-seq解析を用いて、ヒト膵のα細胞、β細胞、外分泌細胞のエピジェネティックのおよび転写の全体像を明らかにした。β細胞に比べて、分化したα細胞では、H3K4me3(転写活性化)とH3K27me3(転写抑制)の二価(bivalent)のヒストンメチル化修飾を受けている遺伝子が多かった。それに対し、β細胞では多くの遺伝子がH3K4me3またはH3K27me3のいずれかによる一価(monovalent)のメチル化を受けていた。このヒストンメチル化のパターン(histone methylation signature)を操作することによって、α細胞からβ細胞へのリプログラミングができる可能性を検討した。

【論文内容】
α細胞からβ細胞へのリプログラミングは、α細胞にPax4やPdx1を強制発現させたり、膵島でβ細胞をほぼ完全に欠損させたりすれば起きることが示されてきたが、そのメカニズムは不明であった。本研究では、それがヒストンメチル化というエピジェネティックな機構が関与している可能性を検討した。転写活性化をもたらすH3K4me3と転写抑制をもたらすH3K27me3の両方がメチル化されている二価の(bivalent)メチル化は、多能性幹細胞や未分化の細胞により多く見られ、その細胞が「activableな」細胞であることを示すと考えられている。

死体臓器ドナー由来のヒト膵島をFACS解析によってα細胞(マーカー遺伝子のqRT-PCRにより94%の純度であることを確認)とβ細胞(92%の純度)と外分泌細胞の細胞分画に分け、それぞれChIP-seq とRNA-seqによってヒストンメチル化状態と遺伝子発現プロファイルを調べた。その結果、β細胞特異的遺伝子であるPDX1はβ細胞ではH3K4me3による一価の修飾、α細胞ではH3K4me3とH3K27me4による二価の修飾を受けていた。

また、ゲノムワイドのtranscriptome(遺伝子発現の全体)を主成分分析でクラスターに分類すると、α細胞・β細胞・外分泌細胞の集団にはっきり分離された。また、heat map analysisによりそれぞれの細胞の発現遺伝子が分離できた。例えば、α細胞特異的遺伝子はARX、GCG(glucagon)、PCSK2、DPP4など、β細胞特異的遺伝子はMAFA、NKX6-1、PDX1、INS(insulin)、PCSK1、HDAC9、HNF1A、KCNQ2およびKCNJ11(potassium channel)、SLC30A8(zinc transporter)などであった。

全体として、α細胞はβ細胞に比べて遺伝子発現に対する二価のメチル化修飾が多かった(2915遺伝子部位に対し、1914部位)。β細胞で二価のメチル化を受けている遺伝子のうち多く(77%)はα細胞でも二価のメチル化を受けている。一方、α細胞で二価のメチル化を受けている遺伝子の半分程度(48%)はβ細胞では一価(H3K4me3またはH3K4me3のいずれか)のメチル化しか受けていなかった。

ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(Adox)は特にH3K27me3のヒストンメチル化を低下させる。Adoxを培養膵島に添加すると、α細胞特異的ARX、β細胞特異的MAFAおよびPDX1のH3K27me3が減少した。その結果、α細胞bにおいてMAFAやPDX1の転写抑制が解除され、グルカゴン陽性細胞(α細胞)の細胞質でグルカゴンとインスリンが共染し、核でPDX1が発現するようになった。すなわちAdox添加により、α細胞からβ細胞への部分的な変換が起きたと考えられた。

【結論】
膵島における、細胞特異的ヒストン修飾パターンを知ることは重要である。これにより細胞特異的なエピゲノムの可塑性が明らかになり、ヒストンメチル化を阻害する薬剤(epigenomic drug)を用いてこの可塑性を利用することにより、β細胞への分化を促進できる可能性がある。
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by md345797 | 2013-03-13 07:46 | 再生治療

人類4000年の歴史にわたる動脈硬化の存在:4つの古代集団に基づくHorus研究

Atherosclerosis across 4000 years of human history: the Horus study of four ancient populations.

Thompson RC, Allam AH, Lombardi GP, Wann LS, Sutherland ML, Sutherland JD, Muhammad Al-Tohamy Soliman MA, Frohlich B, Mininberg DT, Monge JM, Vallodolid CM, Cox SL, Abdel-Maksoud G, Badr I, Miyamoto MI, Nur El-Din Ael-H, Narula J, Finch CE, Thomas GS.

Lancet. Published online March 10, 2013.

【まとめ】
背景:動脈硬化は現代人の病気であり現代のライフスタイルに伴う疾患であると、一般的には考えられている。しかし、現代以前の動脈硬化の有病率は実際には分かっていない。方法:本研究では、4000年以上にわたる4つの異なる地理的集団から得られた137体のミイラの全身のCTスキャンの結果を得た。4つの集団は、古代エジプト、古代ペルー、南西アメリカのプエブロインディアンの祖先(Ancestral Puebloans)、アリューシャン列島の先住民族(Unangan)である。動脈硬化は、動脈壁の石灰化プラークがあれば確定例、動脈と思われる部位に石灰化があれば疑い例とした。結果:動脈硬化の疑い例または確定例は137体のミイラの47例(34%)で、4つの地理的集団のいずれにも認められた。大動脈の動脈硬化は28例(20%)、腸骨動脈または大腿動脈の動脈硬化は25例(18%)、膝窩または脛骨動脈の動脈硬化は25例(18%)、頚動脈の動脈硬化は17例(12%)、冠動脈の動脈硬化は6例(4%)に認められた。上記の5つの血管床のうち、1か2の血管床に動脈硬化が認められたのは34例(25%)、3か4の血管床に動脈硬化が認められたのは11例(8%)、5つの血管床すべてに動脈硬化が認められたのは2例(1%)であった。死亡時の年齢は動脈硬化の有無および血管床の数と有意に関連した。結論:動脈硬化は産業化以前の人類(農業開始以前の狩猟採集民族を含む)において、地理的、時間的に広範囲にわたって認められた。一般に動脈硬化は現代病とみなされてきたが、近代以前の人類に広く動脈硬化が存在したという本研究の結果から、ヒトには加齢に伴い動脈硬化を起こしやすい基本的な素因がある可能性が示唆された。

【論文内容】
動脈硬化は人類の歴史のいつから始まったのだろう。そもそも動脈硬化はライフスタイルの疾患なのか、加齢疾患か、それとも他の原因によるものか。西暦1800年から2000年の間に先進国の平均余命が倍増し、先進国の主な死因は感染症から動脈硬化性疾患に置き換わった。そのため、動脈硬化はライフスタイルに関連する現代病という考えが広がり、産業化以前、農業化以前のライフスタイルでは動脈硬化は起こらないとさえ考えられるようになった。しかし、紀元前3000年頃(今から5300年前頃とされる)に生きていたヒトの自然にできたミイラ、通称アイスマン(1991年にイタリアの氷河から発見されたのでこの名がある)のCTスキャンでは、動脈硬化と考えられる血管の石灰化が認められている。また、紀元前1000年頃のエジプト人のミイラでも動脈硬化を示す証拠が認められている。以前このグループも、紀元前1981年から紀元後364年の間に存在したエジプト王朝時代の44体のミイラのうち20体に動脈硬化を示す所見が見られたことを報告している。しかし、このような動脈硬化は古代エジプトの文化やライフスタイルに特有の現象かもしれないし、ミイラ化された人体はエジプト人の中でも社会的地位が高い人たちだからかもしれない。そこで、このHORUS研究(「ホルス」は古代エジプト神話において最も偉大な神の名)では、新たに古代エジプトを含む4つの地理的、時間的に異なる文化のミイラをCTスキャンすることによってこの疑問に答えようとした。

方法:
地理的に全く異なる4つの地域から得られた137体のミイラの全身CTスキャンを行った。ミイラの地域と時代の内訳は、①古代エジプト(先王朝時代(紀元前3100年)からローマ時代の終わりまで(紀元後364年)まで)の76体、②古代ペルー(early intermediate期からlate horizon期の紀元後200-1500年)の51体、③南西アメリカのプエブロインディアンの祖先(古期からバスケットメーカーII期文化の紀元前1500年から紀元後1500年)の5体、および④アラスカのアリューシャン列島に住んでいた先住民族(Unangan)(紀元後1756-1930年)の5体である。

動脈壁の明らかな石灰化があれば動脈硬化と判断した。動脈と思われる部位の石灰化は動脈硬化疑い例とした。血管病変部位は5つの血管床に分けられる。すなわち、①頚動脈、②冠動脈、③大動脈、④腸骨または大腿動脈、⑤膝窩または頚骨動脈の5つである。個々のミイラのライフスタイルや食事についての情報は得られなかったが、できる限り動脈硬化の危険因子となるものについて再構成すべく人類学・考古学の情報を用いた。

結果:
動脈硬化の疑い例および確定例は137体のミイラのうち47例(34%)であった。動脈硬化のあった例はなかった例に比べて、死亡時の年齢が高かった(43歳[SD 10] vs 32歳[SD 15], p<0.0001)。5つの血管床のうち、1か2の血管床に動脈硬化があったのは34例(25%)、3か4の血管床に動脈硬化があったのは11例(8%)、5つ全部の血管床に動脈硬化があったのは2例(1%)であった。多重ロジスティック回帰モデルによると、年齢は動脈硬化の重症度(動脈硬化のあった血管床の数)のオッズの増加と関連があった。年齢が10歳上がるごとに動脈硬化重症度のオッズは69%ずつ増加した。ミイラの地域差で補正しても、年齢は動脈硬化重症度と有意に関連した。冠動脈の動脈硬化の例では、Unanganの47-51歳女性(紀元後19世紀)や、エジプト第18王朝の王女アーモセ・メリタムン(40-45歳、紀元前1580-1550)で冠動脈硬化が見られた。さらに、Unangan女性(25-29歳)やエジプトの男性書記官(40-50歳、紀元前1570-1293年の新王朝時代)に頚動脈の動脈硬化があり(下図)、4つの地域のそれぞれのミイラで大動脈分岐部や総腸骨動脈に動脈硬化が認められた。
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(図) 頚動脈病変のCT 3D再構成像
(A) アリューシャン列島のUnagan女性(紀元後19世紀)の頚動脈石灰化、(B)エジプトの男性書記官(紀元前1570-1293の新王朝時代、ルクソール近郊で発見)の両側頚動脈、鎖骨下動脈、腕頭動脈の石灰化。

考察:
本研究で調査した4つの地域の食事やライフスタイルは以下の通りである。古代エジプト人やペルー人は家畜を飼っていた農民であり、プエブロインディアンの祖先は飼料を採取する農民、Unangansは農業を行わない狩猟採集民族である。いずれの文化も菜食主義ではなく、すべての文化で魚や狩猟の肉を食べていたが、蛋白源はエジプトのように家畜の牛であったり、Unangansのように海産物であったりと文化によって異なっていた。ミイラとされたエジプト人は一般的に社会的地位が高く、家畜の肉を多く食べ、飽和脂肪酸の摂取が多かったと考えられている。リマの近くに住んでいた古代ペルー人は、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、バナナなどの食糧が豊富だったと考えられる。彼らは家畜化したモルモット、アヒル、アンデスジカ、鳥、カエルなども食べていた。プエブロインディアンの祖先は狩猟採集民族から飼料採取する農民に移行しつつあり、トウモロコシやカボチャを育てていた。蛋白源はウサギ、ネズミ、シカ、オオツノヒツジの肉であった。Unanganはアリューシャン列島でカヤック(カヌー型小船)を用いていた狩猟採集民族であり、海産物としてアザラシ、アシカ、ラッコ、クジラ、魚、ウニ、貝、鳥やその卵などを食べていた。すべての文化で火を用いて調理していたため、火の使用による煙の吸引が動脈硬化に影響を及ぼした可能性がある。また、これら4つの文化のいずれも感染症が主な死因であった。そのため、慢性感染に伴う炎症があり、これが動脈硬化の発症につながった可能性もある(現代でも関節リウマチやSLEに伴う慢性炎症があると動脈硬化をきたしやすい)。

本研究の限界は、動脈硬化のマーカーとして石灰化を用いており、病理学的な確認ができなかったことである。また、Unanganとプエブロインディアンの祖先については少人数の解析しか行えていない。さらに、137体という小さいサンプルサイズのため、性別や異なる文化間で動脈硬化の発症率や重症度の差を検出するための統計学的パワーが得られなかった。

【結論】
4つの産業化以前の集団(農業化以前の狩猟採集民族も含み、人類の文化と歴史の広範囲にわたる4集団)において、動脈硬化が一般的に認められた。そのため、動脈硬化は現代のライフスタイルによって起きる現代病とは考えにくく、特定の食事やライフスタイルに関連なく加齢によって起こるヒト生来の疾患であることが示唆された。
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by md345797 | 2013-03-12 01:36 | 心血管疾患

ビグアナイドはcAMP減少を介して、肝のグルカゴンシグナル伝達を阻害し、肝糖産生を抑制する

Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP.

Miller RA, Chu Q, Xie J, Foretz M, Viollet B, Birnbaum MJ.

Nature. 2013 Feb 14;494(7436):256-60.

【まとめ】
ビグアナイド系薬剤は50年前から肝の糖産生を抑制する有効な治療薬と考えられてきたが、その作用機序は詳しくは不明である。MetforminがAMPK活性化を介して肝糖産生を抑制するという作用機序は10年前より提唱されてきたが、近年メトフォルミンがLKB1/AMPK経路とは独立して肝糖産生を抑制することが示されて、前者の機序は疑問視もされている。本研究では、「メトフォルミンが、肝においてグルカゴン作用を阻害することにより空腹時血糖を低下させる」という新しいメカニズムを報告している。マウス肝細胞にmetforminを添加すると、ミトコンドリア呼吸鎖の抑制によってAMPが蓄積する。(それがAMPKを活性化すると考えられているのだが)ここではそれがadenylate cyclaseを抑制し、その結果cAMP産生が減少、PKA活性が低下する。PKAの標的蛋白には肝糖産生酵素があり、不活性化によって、グルカゴン依存性の肝糖放出が抑制されるという機序が示された。抗糖尿病薬metforminは、肝におけるグルカゴンアンタゴニストとしての新たな作用機序をもつことが明らかになった。

【論文内容】
10年ほど前から、metforminの作用はAMPKを介すると考えられてきたが、最近AMPKまたはその上流のLKB1を欠損した肝臓や肝細胞でもmetforminの効果が見られることが報告され、当初の考えは疑問視もされている。そこで、メトフォルミンが肝でのグルカゴンシグナル伝達を阻害する可能性を考えて検討を進めた。

グルカゴンが肝細胞表面の受容体に結合すると、adenylate cyclaseが活性化、cAMPが増加、PKAが活性化され、肝の糖産生を増加させる蛋白をリン酸化(活性化)する。ビグアナイドであるphenforminまたはmetforminをマウス培養肝細胞に2時間または24時間添加すると、用量依存的にグルカゴンによるcAMP増加が低下した。次にアデノウイルスを用いてAKRA3 FRET reporterを発現させた肝細胞(PKA活性化を確認する細胞)に、まずグルカゴンを添加したところ、2分以内に最大のFRET増加(PKA活性化)を認めたが、phenforminはこの増加を遅延させた。さらに、phenforminは、グルカゴン刺激によるPKA基質蛋白(PFKFB1、IP3R)のリン酸化を阻害した。このように、グルカゴンはcAMP増加によりPKAを活性化しその基質蛋白のリン酸化を増加させ、phenforminはこの過程を阻害したが、グルカゴンの代わりに膜透過性cAMPアナログ(SP-8Br-cAMPS-AM)を添加した場合はphenforminでPKA活性化は阻害されなかった。したがって、phenforminはPKA活性化よりも上流でグルカゴンシグナル伝達経路を遮断していると考えられた。同じく、肝細胞に治療域濃度のmetforminを添加した場合、グルカゴンによる糖産生の増加は抑制したが、SP-8Br-cAMPS-AMによる増加は抑制できず、metforminの糖産生抑制作用はcAMP減少を介していると考えられた。

次に、AMPKのα1とα2のfloxedマウスにCreを発現させるアデノウイルスを注入し、AMPKのcatalytic(α)サブユニットを欠損させたマウスを作製した。このマウスの(AMPK欠損)肝細胞にphenforminを添加しても、グルカゴンによるcAMP増加の抑制はコントロールと同じように起こった。すなわち、ビグアナイドによるcAMP増加抑制効果はAMPK非依存性であることが分かる。

では、ビグアナイドがグルカゴンによるcAMP増加を抑制するのは、ビグアナイドがcAMP phosphodiesterase (PDE)を活性化するためであろうか?グルカゴンを添加した肝細胞にIBMX(PDEの非特異的阻害剤)またはRo-20-1724(PDE4の特異的阻害剤)を添加したところ、cAMPは増加した。この効果はcilostamide (PDE3の特異的阻害剤)では見られなかったので、これらの細胞でのcAMPの分解にはPDE4が重要であることが分かる。しかし、phenformin添加によるcAMP増加抑制に、IBMXやRo-20-1724は影響しなかった一方、forskolin(adenylate cyclaseを活性化させてcAMP増加を起こす)によるcAMP増加は、phenforminで阻害された。すなわち、phenforminは、cAMP分解促進(PDE4活性化)ではなく、cAMP増加抑制(adenylate cyclase活性化抑制)によって、cAMP量を低下させていると考えられた。

AMPはadenylate cyclaseを抑制することが古くから報告されてきたが、ビグアナイドによるAMP増加がadenylate cyclase抑制をもたらしているのだろうか?Metformin投与マウスの肝におけるAMP濃度がadenylate cyclaseを阻害するのに十分なレベルかを検討するため、肝のAMP値を測定した。その結果、肝のAMP濃度は2.3 mM、metformin投与後は2.9 mMと高かった。培養肝細胞でのAMPの濃度は215 μMで、phenformin添加によって1 mM以上に増加した。

次にin vivoで、metforminのグルカゴン注入に対する効果を検討した。Metforminを事前に投与しておいたマウスでは、グルカゴン急速注入による血糖上昇は抑制された。この時、metformin投与により肝のエネルギー蓄積が減少して(=AMPが増加して)AMPK活性が増加したが、重要なことは、metformin前投与でグルカゴンによる肝臓内cAMPの上昇、PKA活性化、PKA基質のリン酸化が抑制されたことである。空腹時マウス(内因性のグルカゴン上昇)にmetforminを投与しても、肝のcAMP濃度が減少した。高脂肪食負荷マウスにmetforminを投与しても、肝のAMP増加、それに伴うPKA標的蛋白であるPFKFB1とIP3Rのリン酸化が低下し、空腹時血糖が低下した。このような急性投与によりAMPKリン酸化(活性化)が認められたものの、Aktリン酸化の変化(急性のインスリン抵抗性改善)までは見られなかった(metformin投与→AMP増加→AMPK活性化によるインスリン抵抗性改善は、少なくとも急性には起こっていないことを示唆する)。

【結論】
本研究では、ビグアナイド系薬剤が肝細胞においてcAMPを減少させる効果があることを確認した。治療域濃度のmetforminは、肝細胞においてミトコンドリア呼吸鎖のcomplex Iを阻害してATPの減少とAMPの増加をもたらすことにより、グルカゴンによるadenylate cyclase活性化を阻害する(AMPは内因性リガンドとして、adenylate cyclaseの活性化を直接抑制する作用があることは古くから知られている)。Adenylate cyclase活性低下により、細胞内cAMPが減少し、PKA活性化低下が起き、糖産生酵素の活性化を減少させ、肝糖産生を抑制する。このような経路(下の参考図)が新たなmetforminの作用機序と考えられる。

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(参考図)Metforminまたはphenforminは、OCT1(organic cation transporter)によって細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアに集積して呼吸鎖のcomplex Iを抑制し、細胞内のATPを減少させADP/AMPを増加させる。増加したAMPは、AMPKを活性化させるのみならず、adenylate cyclaseを直接阻害して、グルカゴンによるcAMP増加を抑制、その結果PKA活性化が抑制される。それにより、グルカゴンによる糖新生酵素が糖新生抑制に働き、肝糖産生が抑制されることになる。
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by md345797 | 2013-03-09 16:13 | シグナル伝達機構