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内因性カンナビノイドによるβ細胞消失は、膵島浸潤マクロファージのNlrp3インフラマソーム活性化を介する

Activation of the Nlrp3 inflammasome in infiltrating macrophages by endocannabinoids mediates beta cell loss in type 2 diabetes.

Jourdan T, Godlewski G, Cinar R, Bertola A, Szanda G, Liu J, Tam J, Tiffany Han T, Mukhopadhyay B, Skarulis MC, Ju C, Aouadi M, Czech MP, Kunos G.

Nat Med. Published online 18 August 2013.

【まとめ】
2型糖尿病は、インスリン抵抗性を代償していたβ細胞機能が代償しきれなくなって高血糖を発症すると考えられており、その過程はモデル動物であるZucker diabetic fatty (ZDF)ラットで再現されている。Nlrp3 インフラマソーム(inflammasome)は、肥満に伴うインスリン抵抗性とβ細胞機能不全において重要な役割を果たす蛋白複合体である。また、内因性カンナビノイド(endocannabinoids)は末梢のCB1受容体(CB1R)の活性化を介してインスリン抵抗性とβ細胞機能不全を起こすことが知られている。この研究では、ZDFラットのβ細胞機能不全は、β細胞ではなく、膵島に浸潤したM1マクロファージのCB1Rシグナル伝達の異常によるものであること、さらにそれがマクロファージのNlrp3 inflammasomeの活性化を介するものであることを示した。ヒトおよびマウスのマクロファージに内因性カンナビノイドであるアナンダミド(anandamide)を添加して in vitroで培養するとこの効果は起こるが、CB1R欠損 (Cnr1-/-)マウスまたはNlrp3-/-マウスのマクロファージでは起きなかった。さらに、末梢CB1Rの薬剤による阻害、薬剤投与(クロドロン酸)によるマクロファージの欠損、またはsiRNAによるマクロファージ特異的なCB1Rノックダウンを行うと、マウスのβ細胞におけるインスリン分泌が回復し、血糖が正常化した。これらの結果から内因性カンナビノイドとインフラマソーム活性化はインスリン分泌低下に重要な役割を果たしており、マクロファージに発現するCB1Rが2型糖尿病治療に有用な治療ターゲットであることが明らかになった。

【論文内容】
2型糖尿病の発症には、脂肪組織の炎症に伴うインスリン抵抗性と、炎症性細胞の膵島への浸潤によるβ細胞機能不全が関与している。また、Nlrp3 inflammasomeはcaspase-1活性化を介してIL-1βの切断と分泌を起こす蛋白複合体である。内因性カンナビノイドは、その受容体であるCB1R およびCB2Rのリガンドであり、さまざまな作用がある。特にCB1Rの活性化は、摂食の促進、脂肪組織および肝での脂肪合成の増加、インスリン抵抗性と脂質異常症を引き起こすため、内因性カンナビノイド-CB1R系の過剰な活性化は内臓脂肪肥満とその合併症の発症につながりうる。そのため、長期にわたるCB1Rの阻害は、体重減少と肥満関連のインスリン抵抗性や脂質異常症の改善をもたらす。実際、2型糖尿病患者にCB1R拮抗薬を投与すると、血糖改善が認められる。しかし、このようなCB1Rアンタゴニスト(rimonabant)またはインバースアゴニスト(taranant)は、中枢神経系においてはCB1Rを活性化することによると考えられる精神症状の副作用があったため、その開発は中止されている。

2型糖尿病モデル動物であるZDFラットは、インスリン抵抗性をβ細胞機能が代償しきれなくなって高血糖を呈しているが、このラットに脳に移行性のあるCB1R阻害薬を投与すると、インスリン分泌が回復し高血糖が改善することが報告されている。この作用は、β細胞のCB1R活性化に伴って起こるβ細胞死を防ぐからなのか、または膵島に浸潤したマクロファージのCB1R活性化に伴って起こるβ細胞障害を防ぐためなのか、内因性カンナビノイドによる中枢神経系のCB1Rの活性化に伴って起きるβ細胞機能・β細胞生存の調節機構を介するのか、などそのメカニズムはよく分かっていない。本研究により、内因性カンナビノイドが膵島に浸潤したM1マクロファージ上のCB1Rを活性化し、それによりNlrp3 インフラマソームが活性化されることによってマクロファージからIL-1βが放出されるためにβ細胞障害が起きるという機構が示された。

【論文内容】
末梢のCB1R阻害は2型糖尿病の進行を遅延させる
8週齢のZDFラットに脳に浸透しないCB1RのインバースアゴニストであるJD5037を28日間経口投与した。コントロールのZDFラットは肥満、過食、肝のトリグリセリド含量高値と脂肪合成遺伝子(FasScd1)発現亢進、著明な高血糖、高トリグリセリド血症を示す。それに対し、JD5037を投与したZDFラットはコントロールと比べ体重の差はなかったが、肝の脂肪含量や脂肪合成遺伝子発現は有意に少なかった。なお、血糖は正常だが、インスリン分泌の増加が認められた。これは、JD5037投与によってβ細胞の機能と生存が改善しインスリン分泌は亢進しているが、インスリン抵抗性も起きて正常血糖になっていると考えられ、実際高インスリン正常血糖クランプにおいてインスリン抵抗性の亢進が認められた。

上記の結果からJD5037投与によりβ細胞アポトーシスが防止されていると考えられ、これも実際TUNEL陽性の膵島細胞が少なく、アポトーシスマーカーであるBak1、Bax、Fas、Faslg、Tnfrsf1aの発現低下、抗アポトーシスマーカーであるBcl2、Bcl2lの発現増加が確認された。JD5037投与によりβ細胞生存に関する転写因子Pdx1、Mafa、Neurog3の発現および増殖マーカーKi67の発現が増加し、β細胞数は増加していた。なお、ZDFラットの膵島で見られるCnr1(cannabinoid receptor 1、CB1Rの遺伝子)発現増加とアナンダミド(初めて発見された内因性カンナビノイド。別名arachidonoylethanolamide, AEA)量の増加は、JD5037投与により消失していた。ZDFラットのin vitro単離膵島ではグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)が消失していたが、JD5037投与によりGSISと、β細胞の糖取り込みにかかわるグルコキナーゼ(Gck)、Glut2(Slc2a2)遺伝子の減少は回復していた。6週齢ZDFラットに3か月間JD5037を投与した場合は、高血糖とインスリン分泌低下の進行が遅延されたことから、末梢CB1Rの阻害は2型糖尿病の発症(β細胞機能の低下)を遅くすることができると考えられる。

CB1R阻害はZDFラット膵島へのマクロファージ浸潤を減少させる
ZDFラットの膵島は、CD68+マクロファージ(炎症性のM1マクロファージ。Tnf、Nos2発現が増加、Tgfb1、Il10、Arg1発現が低下している)の浸潤によってサイズが増加している。JD5037投与によって、M1からM2への移行が起こり、膵島マクロファージ浸潤は減少した。また、ZDF膵島ではNlrp3、IL-1β(Il1b)、IL-18(Il18)の発現、p65-NFκB蛋白量、caspase-1活性が増加していた。しかし、これらはJD5037投与により正常ラットのレベルまで低下した。なお、IL-1Rantagonist(Il1rn)発現は増加した。Nlrp3インフラマソームの形成には、Nlrp3とアダプター蛋白であるASCの結合が必要である。ZDFラット膵島ではASCをコードする遺伝子pycard(パイカード)の発現が増加していたが、これはJD5037の投与で正常化した。

クロドロネート投与によりマクロファージを欠失させると2型糖尿病の発症を遅延できる
ZDFラットにクロドロネート(クロドロン酸、マクロファージをアポトーシスさせるビスフォスフォネート薬)を内包したリポソームを投与すると高血糖やインスリン分泌減少を抑制できた。膵島へのマクロファージ浸潤とマクロファージ由来サイトカインMCP-1、TNF-αの発現はクロドロネート投与によって低下していた。また、膵のアナンダミド含量、Cnr1、Nlrp3、Txnip (TXNIP:thioredoxin interacting protein=ERストレスとNlrp3インフラマソーム活性化につなぐ蛋白)発現もクロドロネートによってマクロファージを欠失させることで減少、膵インスリン含量はやや増加した。

マクロファージにおけるCB1Rの選択的ノックダウンは2型糖尿病を軽減する
次に、ZDFラットの腹腔に、CB1R siRNAをβ1,3-d-glucanにカプセル化したsiRNA particles (GeRPs)を10日間注入し、マクロファージ特異的にCB1Rをノックダウンした。コントロールとして、scrambled siRNAを内包したGeRPsを注入した。CB1R siRNA注入により、腹腔内マクロファージのCR1RのmRNAは95%以上抑制された。CB1R siRNAを注入したZDFラットは、コントロールが進行性の高血糖、インスリン低値を示したのに対し、正常血糖、高インスリン血症を示した。さらに、このラットでは膵島内のインスリン発現、インスリン含量の増加、マクロファージ浸潤の低下、膵島のNlrp3、Pycard、 Il1b、 Il18、 Cnr1、Ccl2発現の低下が認められた。これらの効果は、JD5037やクロドロネート投与で見られたのと同様のものである。

高濃度グルコースおよびパルミチン酸はマクロファージ内のアナンダミド量を増加させる
ZDFラットから単離した膵島は、正常ラットやJD5037慢性投与ラットの膵島に比べ、アナンダミド含量が多く、アナンダミドの分解酵素(FAAH)活性が低く、合成酵素(NAPE-PLD)の発現が多かった。正常ラットの腹腔内マクロファージを250 μMのパルミチン酸または33 mMのグルコースとともに培養したところ、アナンダミド値はいずれも増加し、これらの効果は相加的なものであった。

アナンダミドの炎症惹起効果はマクロファージを介するものである
CB1Rを介する炎症性シグナル伝達はどの細胞で起きているかを検討するため、RAW264.7マクロファージ細胞またはMIN6インスリノーマ細胞、ヒト初代培養マクロファージ、マウス(野生型、Cnr1−/− およびNlrp3−/−)の腹腔内マクロファージにアナンダミドを添加する実験を行った。RAW264.7細胞にアナンダミドを加えると、IL-1β、TNF-α、MCP-1の分泌が著明に増加したが、MIN6細胞では増加が見られなかった。同様に、アナンダミドを添加したマクロファージではNlrp3、Casp1、Cnr1の発現が著明に増加したが、MIN6細胞では増加しなかった。したがって、内因性カンナビノイドは(β細胞に直接ではなく)マクロファージ由来のサイトカイン分泌増加を介して間接的にβ細胞アポトーシスを促進している可能性がある。

単離ヒトマクロファージにアナンダミドを添加した場合もNLRP3、PYCARD、IL1B、IL18、CNR1の発現増加とIL-1βとIL-18の分泌増加が認められ、これらの効果は100 nM JD5037の添加によって消失したため、ヒトマクロファージにおいてもCB1Rを介するインフラマソーム活性化が起こると考えられた。また、ZDFラット単離膵島にアナンダミド、IL-1β、高濃度グルコースを添加した影響を調べた。膵島でのIL-1β分泌量は高濃度グルコース(33 mM)またはアナンダミド(1 μM)の添加で増加し、その効果はグルコースの方がアナンダミドより大きかった。IL-1β (30 ng ml−1)添加により、 MCP-1 およびIL-6分泌が増加した。最後に、正常ヒト膵島でも高濃度グルコースはアナンダミドに比べてIL-1β分泌促進効果、およびIL-1β刺激によるMCP-1分泌刺激効果が大きかった。

【結論】
内因性カンナビノイドは末梢のCB1Rを介してβ細胞消失を引き起こし、これは2型糖尿病発症につながる。さらに、このCB1Rを介するシグナルは膵島に浸潤したマクロファージで起きている。内因性カンナビノイドは膵島浸潤マクロファージでのNlrp3インフラマソーム活性化とそれに伴うIL-1β放出を介してβ細胞のアポトーシスを惹き起こしている。

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図:内因性カンナビノイドがβ細胞死を起こす際の、膵島浸潤マクロファージ(右)とβ細胞(左)におけるシグナル伝達
AEA:内因性カンナビノイドの一種、アナンダミド、CB1R:β細胞および膵島浸潤マクロファージに発現している内因性カンナビノイド受容体、JD5037:CB1Rの阻害剤(インバースアゴニスト)、なお、この図はServier medical artのテンプレートを用いて作成したとのこと。
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by md345797 | 2013-08-28 03:30 | インスリン分泌

低血糖に対する血糖上昇機構が障害されるメカニズム

Mechanisms of hypoglycemia-associated autonomic failure in diabetes.

Cryer PE.

N Engl J Med. 2013 Jul 25;369(4):362-72.

【総説内容】
低血糖に対する生体防御機構には、膵島内での①インスリン分泌の低下、②グルカゴン分泌の増加、さらには交感神経‐副腎系による③副腎髄質ホルモンであるエピネフリンの分泌増加、④交感神経反応による自律神経症状が起こり、炭水化物摂取行動を取るなどがある。このような低血糖に対する血糖上昇機構(glucose counterregulation)の反応によって、低血糖になっても脳へのグルコース供給は維持されることになる。

低血糖を頻回に起こしていると、それによって自律神経における低血糖に対する防御機構が減弱してくるという現象が起きる。これは「低血糖による自律神経不全(hypoglycemia-associated autonomic failure、HAAF)」と呼ばれる。これにより頻回の低血糖後は低血糖に対する防御機能が低下(compromised defenses)し、徐々に低血糖を自覚しなくなる(hypoglycemia unawareness)。これらによりさらなる低血糖が生じうるという、低血糖の悪循環が起きることになる。以下では、低血糖に対するcounterregulation の減弱を膵島の反応の消失と、交感神経‐副腎系の反応の減少に分けて述べる。

1. 低血糖に対する膵島の反応(インスリン・グルカゴン反応)の消失
低血糖時は膵島α細胞からグルカゴン分泌が増加するはずだが、糖尿病ではこのグルカゴン分泌反応が障害されている。これは糖尿病におけるインスリン分泌障害と関連がある。なお、これらの低血糖に対する膵島の反応の消失は、低血糖に対する自律神経‐副腎系の障害(2.で後述)とは別のレベルのものである。

正常者では、血糖が上昇するとβ細胞からのインスリン分泌が増加する。このインスリン分泌増加は、α細胞へのシグナルとなってグルカゴン分泌を抑制し、いずれも血糖低下に働く。正常者の血糖低下時にはその逆のことが起こり、β細胞からのインスリン分泌が抑制され、このインスリン分泌低下がα細胞へのシグナルとなってグルカゴン分泌が増加し、いずれも血糖上昇を起こす。ところが、1型糖尿病や進行した2型糖尿病ではインスリン分泌反応が消失しているため、血糖上昇時にインスリン分泌が増加しない。そのため上記のα細胞でグルカゴン分泌抑制が起こらない。糖尿病では、低血糖時のインスリン分泌抑制反応も消失しており、そのためにα細胞からのグルカゴン分泌が増加しなくなっている。
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図:Cryer PE, 2012による糖尿病における「低血糖時のグルカゴン分泌反応の異常」のメカニズム

・低血糖に対するグルカゴン分泌反応は、膵島の神経支配に依存しているわけではない。例えば膵移植を受けた場合や脊髄離断術を受けた場合、または動物やヒトの膵島を取り出して潅流した場合、膵島の神経支配はなくても低血糖に対してグルカゴン分泌は起こることが知られている。このように、低血糖に対するグルカゴン分泌反応の低下は、脳から膵島への神経シグナルの低下ではなく、膵島内に原因があることが分かる。

・1型糖尿病患者では、アミノ酸投与に対するグルカゴン分泌は保たれていることから、低血糖に対するグルカゴン分泌反応の消失は、α細胞のグルカゴン分泌を起こすインスリンによるシグナルの異常によるものと考えられる。なお、これらの低血糖時のグルカゴン分泌反応低下の原因に、他の膵島内の他の原因(δ細胞のソマトスタチン分泌過剰など)が影響している可能性はある。

2. 低血糖に伴う交感神経-副腎系反応の減弱(HAAF)
一度低血糖を起こすと、低血糖に対する交感神経-副腎系の反応は減弱する。これは、1.で述べた膵島レベルのインスリン・グルカゴン反応の低下とは異なり、中枢神経系またはその遠心路・求心路の接続における反応の減弱である。低血糖に対する交感神経‐副腎系反応の減弱の中枢神経系を介するメカニズムについては、下記のようないくつかの仮説がある。

① 全身性の調節因子(systemic-mediator)仮説
一度低血糖を起こすと、その際に増加した血中コルチゾール(または他の全身性の因子)が脳に作用して、次の低血糖に対する交感神経‐副腎系の反応を減弱させる、とする仮説である。しかしこの仮説は、他の原因でコルチゾールが増加した場合や、メチラポン(11-β-ヒドロキシラーゼ阻害薬)を用いてコルチゾール合成を抑制しても低血糖に対する反応が変化しないことから、あまり支持されない。

② 脳へのグルコース輸送(fuel-transport)仮説
低血糖が起きると血液から脳へのグルコース輸送が増加するが、そのことによって次に来た低血糖に対する交感神経‐副腎系反応が減弱する、と考える仮説である。3日以上の長期にわたる低血糖が起きると脳血管におけるGLUT1発現量が増加し、脳への糖取り込みが増加することが知られている。しかし、2時間という短期間の低血糖でも低血糖に対する交感神経‐副腎系反応は減弱することが分かっているので、脳の糖取り込み増加による反応低下仮説は当てはまらないようだ。さらに、1型糖尿病患者の脳への[11C]3-O-methylglucoseや[18F]deoxyglucoseの輸送をPETで見た検討では、低血糖後の脳の糖取り込みは増加しらおらず、糖取り込み増加自体が否定的とも考えられている。

③ 脳代謝(brain-metabolism)仮説
低血糖が頻繁に起きると、視床下部のグルコース応答性ニューロンやグルコース抑制性ニューロンのグルコース感受性が減弱し、それが交感神経‐副腎系反応の減弱を起こすのではないかとも考えられている。この減弱した反応を正常に戻すことができれば、「低血糖を起こしにくくする治療」が可能になるだろう。血糖を上昇させる物質として、グルカゴン、グルカゴン刺激アミノ酸、β2-アドレナリン受容体刺激薬(テルブタリン=気管支拡張薬ブリカニール®として用いられている)、アデノシン受容体アンタゴニスト(カフェインなど)などがあるが、これらは「低血糖に対するcounterregulatory反応」を増加させるわけではない。一方でcounterregulatory反応の欠損を回復させる薬剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、アドレナリン受容体遮断薬、オピエイト受容体遮断薬、フルクトース、選択的K ATPチャネルアゴニストなどが候補として挙げられている。臨床試験の結果などによると、SSRI服用者は医原性の低血糖を起こしにくい。αアドレナリン受容体およびβアドレナリン受容体遮断薬は、低血糖後の交感神経‐副腎系反応の低下を防止する。β1アドレナリン受容体遮断薬の投与では、低血糖症状の出現や血糖上昇のためのカテコラミンのβ2受容体刺激反応は正常に起こる。オピオイド受容体遮断薬ナロキソンは低血糖に対するエピネフリン増加反応を増強し、低血糖を起こしにくくする。フルクトース注入も低血糖に対するエピネフリンおよびグルカゴン分泌反応を増加させる。選択的Kir 6.2/SUR K ATPチャネル刺激薬も同様の作用がある。ただし非選択的なK ATPチャネル刺激薬であるdiazoxideはグルカゴン増加反応を低下させてしまい、低血糖に対する有効性は認められていない。

④ 脳のネットワーク(cerebral-network)仮説
低血糖時の脳の機能的イメージング、特に[15O]water PETによる脳の血流測定によって、脳の各部位をつなぐネットワークが低血糖によってどのように影響をうけるのかが明らかになりつつある。これによると、低血糖後に背側視床のシナプス活動が選択的に活発になることが分かり、この部位の活性化が低血糖に対する交感神経‐副腎系反応の減弱に関与しており、これがHAAFの原因になっている可能性が示唆されている。内側前頭前皮質もそのような役割を果たしているのではないかと考えられている。ほかにも、低血糖に気づかない(hypoglycemia unawarenessを示す)1型糖尿病患者で、低血糖時の視床下部領域における[18F]deoxyglucose取り込みが減少していたという報告もある。
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図:HAAFを示すヒトでday 1とday 2の間に食間低血糖が起きたが、その時、低血糖に反応して視床(dorsal midline thalamus)の反応が増加していたことを示すPET画像。

【結論】
糖尿病患者においては、最近頻繁に起きた低血糖によって、次に起きる低血糖に対する血糖上昇機構(counterregulation)が障害される。この原因として、①糖尿病患者のβ細胞機能不全によるインスリン分泌抑制の障害とインスリンによるグルカゴン分泌増加の障害、②低血糖に対するcounterregulationとしての交感神経-副腎系反応の障害 (HAAF)、の2つが考えられている。後者のメカニズムは現時点では不明であるが、低血糖に対する脳の代謝異常から脳内神経ネットワークの異常までさまざまな仮説がある。これらの仮説に基づき、低血糖によって減弱した低血糖反応を回復させる薬剤の候補も挙げられている。
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by md345797 | 2013-08-20 03:14 | 症例検討/臨床総説

腎機能低下症例に対するメトフォルミン投与による乳酸アシドーシス

Case records of the Massachusetts General Hospital.
Case 23-2013. A 54-year-old woman with abdominal pain, vomiting, and confusion.


Kalantar-Zadeh K, Uppot RN, Lewandrowski KB.

N Engl J Med. 2013 Jul 25;369(4):374-82.

【症例】54歳女性。腹痛、嘔吐、錯乱状態のため入院。

【現病歴】入院3日前までは異常なし。3日前に悪寒あり、アスピリンを服用したが改善せず。徐々に摂食が減少し、入院22時間前から腹痛と嘔吐が出現したため痛み止めとしてアスピリンをさらに服用した。入院2時間前には腹痛が著明、嘔吐が増加し、精神錯乱状態となった。救急車で病院に搬送されたが、入院時はうめくのみで会話不可能。BP 120/70、PR 52、呼吸数26/分と増加(正常は16-20)、簡易血糖測定で血糖116 mg/dlだった。夫の話では2型糖尿病、高血圧、腎結石、慢性腎臓病(CKD)があり、エナラプリル(レニベース®など)、メトフォルミン(メトグルコ®など)、グリメピリド(アマリール®など)、ニメスリド(NSAID)イミプラミン(抗うつ剤)、アスピリン、イブプロフェンを服用していた。

【入院時所見と経過】意識状態は、指示すると開眼する、名前が言える(oriented to person)のみで場所や日時は言えない。BP120/70、PR52、呼吸数 18、BT 36.7℃、SaO2 95% (room air)、口腔粘膜は乾燥、腹部異常なし、皮膚は冷たい。心電図では心房細動(HR 115)。検査所見では、WBC 34800 (Neu 79%)、Hb 13.4, Plt 48.3万以上(血小板凝集あり)、Na 146、K 6.3 (溶血なし)、 HCO3 <2.0 (23-25)、BUN 94、Cre 7.88、Glu 168、HbA1c 5.7、P 19.3 (2.6-4.5)、lipase 595 (13-60)、amylase 386 (3-100)、乳酸 20.3 (0.5-2.2)、CK 656 (40-150)、血液ガス所見ではpH 6.62pCO2 18 。血漿浸透圧 354 mOsm/H2O (280-296)。入院3時間後には、直腸温 31.7℃、BP 84/43に低下。ノルエピネフリンと重炭酸を投与し輸液も加温して投与した。腹部CTでは膵の浮腫と膵周囲の液貯留(急性膵炎に合致する)、左腎の萎縮。入院8時間後からcontinuous veno-venous hemofiltration (持続的静・静脈血液濾過CVVH)を開始した。入院後17時間は乏尿(125ml)だった。

【鑑別診断】

① 酸塩基平衡の異常
この患者ではpHが6.62と極めて低く、HCO3も<2と非常に低い。pCO2も18と低下していた。これらは静脈血であっても異常低値であるが、Hendersonの式(注1)を用いて[H+]を計算すると216 nmol/Lであり、これはpH 6.6-6.7に相当するため、検査のミスではないことが分かる。アニオンギャップを計算すると61となり、アニオンギャップが非常に増加した代謝性アシドーシスである(anion-gap metabolic acidosis)。これほどまでに重症のアシドーシスには、乳酸アシドーシス、アスピリン過量、メタノールまたはエチレングリコール中毒、糖尿病ケトアシドーシス、尿毒症などがあるが、血清乳酸が非常に高値であるため、ここでは乳酸アシドーシスが最も考えられる。

注1:Hendersonの式
重炭酸イオン緩衝系の式を簡略化した[H+]の計算式で、[H+]=24x(pCO2/HCO3-)で計算する。なお、ここからpH=9-log[H+]でpHが計算できる。

ここで浸透圧ギャップを計算すると、18 mOsm/kg H2O (正常値は5-15)とやや増加しているのみ。メタノール中毒やエチレングリコール中毒では浸透圧ギャップ(注2)が大きく増加するはずなので、これらの病態は考えにくい。

注2:浸透圧ギャップ
アルコール類 (エタノール、メタノール、エチレングリコール)はtonicityは形成しない(細胞内に移行するため、等張となる)が、浸透圧osmolalityは形成する。そのため「測定した血漿浸透圧」は「計算された血症浸透圧」(=2x[Na+]+[Glu]/18+[BUN]/2.8から計算)より、アルコールの浸透圧分だけ高くなる。そのため、アルコール中毒の診断に有用。

さらに、アニオンギャップは正常より50くらい多く、HCO3が20くらい低下しているので、その比から考えると、頻回の嘔吐による塩酸の喪失にとの会う代謝性アシドーシスがあると考えられる。にもかかわらず高リン血症があるため、これが異常なアニオンギャップ高値をもたらしていると考えられる。

② 呼吸性酸塩基平衡の異常
HCO3が10 mmol/L低下すると、pCO2は代償性に12 mmHg低下するとされている。この患者では、HCO3が22低下(正常値の24-2=22)していると考えると、その代償はpCO2 26低下(24 x 12/10=26)である。実際この患者は過呼吸によって、pCO2を22低下させている(正常値の40-18=22)ことになる。この患者の代償性過呼吸(compensatory hyperventilation)はKussmaul呼吸と呼ばれるものだが、これはしばしば呼吸窮迫(respiratory distress)と思われてしまう。この患者では、呼吸困難に対し相関し人工呼吸を行ったため、それがより精神状態の悪化につながった可能性がある。

③ 重症のacidemia
この患者の症状の多くは、重症acidemiaの症状である(精神症状、血管拡張による皮膚の温暖とそれにもかかわず起きる低体温=paradoxical hypothermia、心不全、カテコラミン分泌増加による心房細動、GFRの低下など)。さらにこの患者で重要なacidemiaの症状は、悪心・嘔吐と腹痛であった。左方移動を伴う著明な白血球増加も重症acidemiaで説明できる。


④ アニオンギャップが増加した代謝性アシドーシス(anion-gap metabolic acidosis)
この患者の代謝性アシドーシスは乳酸アシドーシスによるものと考えられるが、その原因は2種類に分けられる。すなわち、敗血症性ショック、心原性のショック、心肺停止などに伴う組織潅流障害によって起きる古典的乳酸アシドーシス(type A lactic acidosis)、および薬剤(メトフォルミン、サリチル酸、イソニアジド、ジドブジン=抗HIV薬など)過量、癌(リンパ腫、白血病)などに伴って起きる非・低酸素性乳酸アシドーシス(type B lactic acidosis)である。この患者では尿から排泄されるはずのメトフォルミンが腎機能障害によって血中濃度過剰となり、その結果酸素消費が抑制され、肝でのミトコンドリア機能が低下するなどして乳酸アシドーシスが発症した疑いがある。この患者はもともとのCKD、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、ACE阻害剤とNSAIDの服用などが合併して急性腎障害(AKI)を引き起こした疑いがあり、メトフォルミン蓄積が起こるハイリスクの状態であった。

メトフォルミン蓄積による乳酸アシドーシスは、他の原因による乳酸アシドーシスに比べると、pH低下が著しい割には予後がやや良好である(それでも致死率は50%程度と高いので注意)。そこで、この患者では血中メトフォルミン濃度を低下させる目的で、持続的静・静脈血液濾過(CVVH)を行った。後から病態を確認するために、メトフォルミン濃度測定のための血清を保存しておくとよい。なお、この患者のメトフォルミン濃度は23 μg/ml(正常1-2)と非常に高値だった。

メトフォルミンによる乳酸アシドーシスを疑う患者は、①まずメトフォルミン服用患者である、②血漿乳酸値が増加し(15 >mmol/L)、アニオンギャップが大きく増加し(20 mmol/L)、③重症のacidemia(pH <7.1)を示している、④血清HCO3が非常に低値(<10 mmol/L)である、⑤腎機能障害がある(eGFR <45、Cre >2.0)という条件を満たすと考えられる。この患者では、これらすべての条件をみたし、さらにACE阻害薬とNSAID(アスピリンとイブプロフェン)の服用も腎障害を助長したと思われる。急性膵炎の発症と腹痛も、メトフォルミン蓄積または重症のacidemiaが原因であろう。

この患者は入院24時間後には精神状態が大きく改善し、抜管もできた。その48時間後には代謝状態も正常化し、1週間後には退院することができた。
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by md345797 | 2013-08-18 22:42 | 症例検討/臨床総説