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CIRPは出血性ショックや敗血症後の炎症反応を起こす、傷害関連分子パターン(DAMPs)の一つである

Cold-inducible RNA-binding protein (CIRP) triggers inflammatory responses in hemorrhagic shock and sepsis.

Qiang X, Yang WL, Wu R, Zhou M, Jacob A, Dong W, Kuncewitch M, Ji Y, Yang H, Wang H, Fujita J, Nicastro J, Coppa GF, Tracey KJ, Wang P.

Nat Med. Published online. Oct 6, 2013.

【まとめ】
出血性ショックや敗血症時には、全身性の炎症反応が認められる、この研究で、外科ICU入院中の出血性ショック患者の血清でcold-inducible RNA-binding protein (CIRP) が増加していることが分かった。ラットの出血および敗血症モデルでも心、肝、血清中のCIRPが増加していた。また、低酸素ストレス下の培養マクロファージでは、CIRPは核から細胞質に移行し、細胞外に放出された。組み換えCIRP蛋白をマクロファージに添加するとTNF-αおよびHMGB1分泌が増加し、in vivo投与すると組織障害(血清AST、ALT増加)を引き起こした。出血によるTNF-αやHMGB1の分泌増加や死亡率はCIRP欠損マウスでは減少しており、CIRP抗血清投与による中和でも、減少した。細胞外のCIRP活性は細胞表面のTLR4-MD2複合体に結合することで発揮されることも示された。以上より、CIRPは、ショックや敗血症時の炎症性反応を促進するダメ―ジ関連分子パターン(DAMPs)の一つと考えられた。

【論文内容】
全身性の炎症は、外来性のPAMPs (pathogen-associated molecular pattern molecules:病原体関連分子パターン=感染の際に侵入微生物上に発現している分子)または、内因性のDAMPs (damage-associated molecular pattern molecules:傷害関連分子パターン=組織傷害の際に宿主細胞から放出される分子)によって開始される。外来性のPAMPsも内因性のDAMPsも、免疫細胞のパターン認識受容体(Pattern-recognition receptors; PRRs)によって認識される。このPRRsには、TLRs (Toll-like receptors)やRAGEs (advanced glycation end productsの受容体)、C-タイプレクチン受容体、スカベンジャー受容体、補体受容体などがある。PAMPsやDAMPsが上記の受容体に結合すると、細胞内シグナル伝達経路が活性化され、炎症性メディエーター(サイトカイン、ケモカイン、血管作動性ペプチドなど)が産生される。細菌性のPAMPsによるこのような炎症惹起経路はある程度分かってきたが、内因性のDAMPsに関してはまだ解明が進んでいない。これらの内因性分子は構造や機能がさまざまであり、総称してalarminと呼ばれている。このalarminとして、HMGB1(high-mobility group protein B1)、heat shock proteins、尿酸、S100 proteins、ヒストン、ミトコンドリアDNAなどが知られている。

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参考図:炎症性細胞から(または傷害を受けてnecrosisとなった細胞から)内因性のalarmin (=DAMPs、ここではその代表のHMGB1)が放出され、標的細胞(右上のtarget cell)上のRAGE、TLR2、TLR4に結合し、さらなる炎症反応を惹起する。HMGB1は、外因性の細菌DNAやLPSとともにTLRリガンドとなっている。(EMBO Rep. 7(8): 774–778, 2006)

Cold-inducible RNA-binding protein (CIRP)は、寒冷ストレスに反応するcold shock proteinsのファミリーに含まれる蛋白である。マウスとヒトのCIRPは172アミノ酸からなる核蛋白であり、1つのN端のRNA結合ドメインと1つのC端のglycin-richドメインを持ち、RNAシャペロンとしてmRNAの細胞質への移行を促進する役割がある。さまざまな組織に常に発現しているが、中等度の低温、UV照射、低酸素などによって発現が増加する。この研究では、細胞外CIRPが内因性の炎症性メディエーターであり、出血性ショックや敗血症時の炎症反応を引き起こすDAMPであることを明らかにする。

ヒトおよびラットの出血性ショックでは、血清CIRPが増加している
外科ICUに入院した患者10名(APACHE IIスコアが13-25、平均19)の血清(出血性ショック発症の平均43時間後)中ではCIRP発現が増加していたが、健常ボランティアの血清では発現がほとんど見られなかった。また、ラットを出血性ショックの状態とし(平均血圧25-30 mmHgを90分持続)、その後輸液で救命する処置を行った。その結果、ショック発症150分後、240分後に肝と心臓で血清CIRP濃度が増加した。CIRP mRNAは、ショック発症の240分後に肝(4.1倍)と心臓(2.8倍)で増加していた。

CIRPは低酸素状態のマクロファージから放出される
組織傷害後の炎症性メディエーターの多くはマクロファージから放出されると考えられている。まず、マウスのマクロファージ様RAW 264.7細胞を(出血性ショックの時に起こると考えられる)低酸素の状態に置き、CIRPの細胞内局在の変化を核と細胞質の分画で調べた。20時間の低酸素状態に細胞を置き、その後再酸素化したところ7時間後には核にあったCIRPが細胞質に出現し、24時間後には増加した。また、GFP-CIRPを発現させると、正常酸素の状態では核に存在するが、細胞を低酸素に置き再酸素化すると4時間後に核と細胞質に認められた。次に、細胞質のCIRPが細胞外スペースに放出されるかどうかを調べた。正常酸素の状態ではmedium中にCIRPは認められなかったが、低酸素後の再酸素24時間後には、細胞外にCIRPが認められた。再酸素化7時間後には細胞質内のCIRPが増加したが、24時間後には減少しており、これは細胞外のmediumへのCIRPの放出によるためとも考えられた。

CIRPのアミノ酸配列には分泌シグナルを含んでいないため、classicalな小胞体‐ゴルジ体依存性の分泌経路を介して分泌されるのではないと考えられる。低酸素後の再酸素化24時間後のRAW 246.7細胞のリソソーム分画(cahtepsin Dを含む)にCIRPが認められたため、CIRP放出はリソソーム分泌によるのではないかと考えられた。

組み換えCIRP蛋白により炎症反応が惹起される
次に、大腸菌でマウスの組み換えCIRP蛋白(rmCIRP)を作り、lipopolysaccharide (LPS)を除いて精製し、RAW 246.7細胞に添加した。その結果、CIRPの用量依存的、時間依存的にTNF-α、および他の炎症性サイトカインであるHMGB1の放出が増加した。正常ラットにrmCIRPを投与したところ、血清中のTNF-α、IL-6、HMGB1量が増加し、組織傷害のマーカーでもあるASTとALTが増加した。なお、LPS混入の影響を除くため、polymixin Bを添加して上記実験を行ったが同様の結果であり、LPS混入の影響はないと判断された。さらに、ヒトHEK293細胞でヒト組み換えCIRP蛋白(rhCIRP)を作成し、ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞および末梢血単核細胞(PBMCs)に添加したところTNF-α分泌が増加した。これらの結果から、CIRPによるサイトカイン分泌刺激はLPS混入によるものではないと考えられる。

HMGB1もTNF-α分泌を促進する。CIRPとHMGB1のTNF-α分泌促進効果を比較するため、それぞれを中和する抗血清を作製した。THP-1細胞をHMGB1抗血清とともに培養するとrmCIRP添加によるTNF-α分泌は31%低下、CIRP抗血清と培養すると70%低下した。逆にCIRP抗血清と培養してもrmHMGB1添加によるTNF-α分泌は17%しか低下しなかった。また、rmCIRPとrmHMGB1によるTNF-α分泌増加は相加的であり、CIRPとHMGB1がマクロファージからのTNF-α分泌を刺激する作用は相加的と考えられた。

CIRPの中和抗血清により出血性ショックや敗血症による炎症反応を減弱することができる
出血させたラットを輸液で蘇生させながらCIRP中和抗血清を投与したところ、血清および肝のTNF-αとIL-6は、コントロールIgG投与ラットに比べて有意に減少した。血清AST、ALTおよび肝のミエロペルオキシダーゼ活性(好中球の蓄積を示唆する)はCIRP抗血清投与によって減少した。さらに、CIRP抗血清を投与したラットはコントロールIgG投与ラットに比べて出血10日後の生存率が高かった(38%が85%に増加した)。また、Cirbp-/-マウス(CIRP欠損マウス)は野生型マウスに比べ出血72時間後の生存率が改善した (11%が56%に増加した)。野生型マウスは出血4時間後にはTNF-αとHMGB1の分泌が増加したが、Cirbp-/-マウスではその増加が有意に低下した。CIRPとHMGB1は炎症とショック後の死亡率増加に関係していると考えられる。

手術で腸管穿孔を起こし腹膜炎を起こさせたラットは、多種の細菌による敗血症のモデルとして確立している。腸管穿孔手術を受けたマウスは20時間後の血清CIRP値がsham手術群と比べて3.4倍であり、肝のCIRP mRNAと蛋白量も増加していた。LPS投与後6時間、24時間後には単離した腹腔内マクロファージのCIRP発現は増加しており、培養medium中のCIRP量も増加していた。RAW 246.7細胞を炎症性サイトカインであるrmHMGB1およびrm TNF-αと24時間培養してもmedium中にCIRPは放出されなかったが、LPSと培養した場合は放出された。CIRP中和抗血清を腸管穿孔を受けた敗血症モデルラットに投与したところ、10日後の生存率が有意に増加した(コントロールの39%に比べ78%)。以上より、CIRPは敗血症後の死亡率にも関与していると考えられた。

CIRPはTLR4を介して炎症性反応を促進している
細胞外の危険パターンを認識する受容体(Pattern-recognition receptors; PRRs)の主要なものは、RAGE、TLR2、TLR4である。rmCIRPのマクロファージに対するTNF-α分泌促進反応は、TLR4欠損のマクロファージでは消失していたので(RAGEやTLR2欠損では変化なかった)、CIRP活性はTLR4を介して細胞内に伝達されると考えられた。さらに、rmCIRPを野生型マウスとTlr4-/-マウスに投与したところ、野生型マウスでは血清サイトカイン(TNF-α、IL-6、HMGB1)、組織障害マーカー(AST、ALT)が増加したのに対して、Tlr4-/-マウスでは増加しなかった。

最後に表面プラズモン共鳴解析により、CIRPとその受容体の物理的な結合について検討した。TLR4はMD2と結合して共受容体を形成しているが、CIRPはこれらそれぞれとも、これらの複合体とも結合し、CIRPの一部分のオリゴペプチド(アミノ酸101-115、106-120、111-125)は特にMD2に強く結合することが示された。

【結論】
細胞内のCIRPは従来、細胞がストレスを受けたときのmRNA安定化と細胞質への輸送に関与していると考えられてきた。しかしこの研究では、CIRPは細胞外に放出される炎症性メディエーターであり、細胞のパターン認識受容体(TLR4)に結合して炎症反応を惹起するDAMPの一つであることが明らかになった。さらに、CIRPを抗血清を用いて中和することによって、出血性ショックや敗血症後の生存を改善することも示され、以上の知見が臨床的にも応用可能であることが示された。
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by md345797 | 2013-10-10 08:29 | その他