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オートファジー解明の歴史

Eaten alive: a history of macroautophagy.

Yang Z, Klionsky DJ.

Nat Cell Biol. 2010 Sep;12(9):814-22.

【総説内容】
オートファジーという単語はギリシア語の「自らを(auto)」「食べる(phagy)」に由来する。細胞質内にある分子は、二重膜の小胞に隔離されて(このような小胞内で輸送される「積み荷」分子は、「cargo=貨物」と呼ばれる)、最終的にリソソームに運ばれて分解されるが、このような真核生物で保存された基本的なメカニズムがオートファジーと呼ばれている。40年以上も前にオートファジーが初めて発見されてから、なぜ細胞はこのよう自己消化の機構があるのかという点は大きな疑問であった。最も単純な仮説として、オートファジーは細胞内の「ごみ」を除去するメカニズムであると考えられた。すなわち、細胞内に蓄積した折り畳み不全の蛋白、傷害を受けた細胞小器官、侵入微生物などの「ごみ」を除去するのがオートファジーであると考えられている。その後、オートファジーはそれらをリサイクルして利用可能な栄養素とし、ストレス下でエネルギーを供給するという適応反応として重要と考えられるようになった。

オートファジー概念の発展
40年以上前、ClarkとNovikoffは、マウス腎のミトコンドリアが膜結合分画内に認めらえることを報告し、この膜構造の中にはリソソーム酵素が含まれていることを見出した。さらにAshfordとPorterは、グルカゴンを添加したラット肝細胞内に、部分的に消化されたミトコンドリアや小胞体(endoplasmic reticulum)を含む膜結合小胞を見つけ、その後NovikoffとEssnerが、この小胞がリソソーム加水分解酵素(hydrolases)を含んでいることを発見した。1963年にdeDuveは、さまざまな傷害段階の細胞質内因子や細胞小器官を含む一重または二重膜の小胞の存在を表すのに、「オートファジー」という新しい造語を用いた。この隔離小胞(sequestering vesicle)を「オートファゴソーム」と名付けた。

1967年にde DuveとDeterはグルカゴンによってラット肝細胞にオートファジーが誘導されることを報告している。グルカゴンとは逆に、インスリンリンはオートファジーを抑制する。Mortimoreとshworerは、オートファジーによる分解の最終産物であるアミノ酸がオートファジー抑制に働くことを見出した。以上から、オートファジーはエネルギー欠乏状態への適応反応として、エネルギーを生成するメカニズムであると考えられた(エネルギー過剰状態ではインスリンシグナルが増加し、これがオートファジーを抑制。グルカゴンシグナルはその逆と考えられる)。SeglenとGordonはオートファジーの阻害剤として3-メチルアデニンが報告され、オートファジーはprotein kinasesとphosphatasesによって調節されることも分かってきた。

1950年から1980年初頭までの初期のオートファジー研究は形態学的解析に基づいたものである。de Duveらはリソソームとの融合というオートファジーの後期段階について検討したが、Seglenはオートファジーの初期、中期の段階について検討し、phargophore(初期の隔離小胞でオートファゴソームに発達する)やamphisome(オートファゴソームとエンドソームの融合によって形成される非リソソーム小胞)を同定した。

ほとんどすべての細胞は、細胞質内の蛋白や細胞小器官を「非特異的に(non-specific)、大雑把に丸ごと(bulk)」隔離して、リソソームで分解するメカニズムを持つとde Duveは考えたが、異常蛋白や細胞小器官を「特異的に」分解する仕組みの存在も考えていた。1973年にはBolenderとWeibelが、細胞小器官が「特異的に」オートファジーによって分解されることを初めて報告した。 BeaulatonとLockshinによって昆虫の変態期にはミトコンドリアが選択的に消失することが示され、1983年にはVeenhuisによって過剰となったペルオキシソームがオートファジーによって選択的に分解されることが示された。このように、当初報告された「非選択的」オートファジーに対して、「選択的」オートファジーが起こりうることが、酵母や高等真核生物で報告されている。

オートファジーの分子機構の解明
当初オートファジーは哺乳類細胞で発見されたものの、オートファジー調節の解明においてブレイクスルーが起きたのは酵母の解析からである。まず、Ohsumi (大隅良典)のグループにより哺乳類細胞と同様のオートファジーの形態変化が酵母でも認められることが報告された。さらに、酵母の遺伝的スクリーニングによりオートファジーに変異が認められる変異体酵母が初めて単離された。同様のスクリーニングによって、ペルオキシソームの分解(ペクソファジー:pexophagy)や液胞に加水分解酵素(aminopeptidaseなど)を運ぶCvt経路 (cytoplasm to vacuole targeting pathway)の変異体が同定された。さらに、1997年には最初のオートファジー関連(autophagy-related=Atg)遺伝子であるATG1が同定された。このATG蛋白は次々と発見され、最近では選択的ミトコンドリア分解(マイトファジー:mitophagy)に関わる変異体から、ATG32とATG33が同定されている。

Cvt経路・pexophagy・mitohpagy、マクロオートファジーは形態的、機能的にも似ているが、重要な点で異なっている。それはマクロオートファジーは一般に非選択的と考えられているが、Cvt経路・pexophagy・mitohpagyは高度に選択的である。Pexophagy・mitohpagy・マクロオートファジーは蛋白や細胞内小器官を分解する方向に作用するが、Cvt経路は生合成的に働く経路である。これらすべての経路は、オートファゴソームの形成に必須であるAtg蛋白のサブセットを共通に利用しているため、このAtg蛋白群をコア・マシーナリー(core machinery)と呼んでいる。

このコア・マシーナリーには4つの基本的なグループがある。(1) Atg1-Atg13-Atg17キナーゼ複合体、(2)classⅢ PI 3-kinase (PtdIns3K)複合体I (Vps34、Vps15、Atg6、Atg14)、(3)ユビキチン様蛋白(Atg12、Atg8)、(4)Atg9とそのサイクリングシステムである。さらに、酵母においては、コア・マシーナリーは液胞(哺乳類細胞のリソソームに相当する小胞)の周囲にあるphagophore assembly site (PAS)と呼ばれる部位に集中しており、phagophoreの拡張がオートファゴソーム形成につながる働きを協調して行っている。コアとなるオートファジー構成因子の5番目のセットは、オートファジーの最後段階、すなわち液胞内に含まれた小胞やcargoの分解に必要な蛋白、さらにはこれらの分解産物を再利用のためにアミノ酸を細胞質に放出する膜輸送体(permease)蛋白などである。

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図1:酵母におけるオートファジーとCvt経路
細胞質内の分子や細胞小器官は、phagophore assembly site (PAS)由来の二重膜隔離小胞(phagophore)によって貪食(engulf)される。これらの分子や細胞小器官はcargo(貨物、積み荷)と呼ばれる。また、Cvt経路は選択的で、生合成的に働くオートファジーの経路である。Cvt小胞(直径140‐160 nm)は特異的cargoであるprApe1(precursor form of aminopeptidase I)とAtg19受容体からなるCvt複合体を包み、細胞質を非特異的に(大雑把に;bulk)除去する作用がある。オートファゴソーム(直径300-900 nm)は、細胞内小器官やCvt複合体をも含む細胞質を貪食する小胞である。これらの小胞は最終的には、液胞(vacuole)と融合し、自らの二重膜のうち内側の一重膜の部分を液胞内腔に放出する。この一重膜が分解されるとprApe1が成熟preApe1(mApe1)となり、細胞質成分が分解され、液胞permease(膜を通過する輸送体、酵素ではないが-aseで呼ばれる)を通して大分子(macromolecule)のリサイクルが起きることになる。

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図2:哺乳類のオートファジー
Phagophore(隔離小胞)が形成され、それらが引き伸ばされ、拡大し、閉鎖するというステップを通って、二重膜オートファゴソームの完成に至る。オートファゴソームはエンドソームやリソソームと融合して、最終的な成熟段階(それぞれamphisome、autolysosomeと呼ばれる)となる。オートファゴソームの内膜およびそのcargoがautolysosome内の加水分解酵素によって分解され、その結果生じた大分子はpermeaseを介してリサイクリングされる。現在までに酵母のPASが哺乳類細胞にもあるという証拠はない。

哺乳類細胞のコアマシーナリーであり、オートファジー誘導に必要とされるULK1/ULK2複合体、オートファゴソーム形成に必要とされるclass III PtdIns3K複合体、細胞膜をオートファゴソーム形成に導くのではないかと考えられているmammalian Atg9(mAtg9)、phagophore膜の延長と拡大に働くことが想定されているLC3II、Atg12-Atg5-Atg16L複合体が図に示されている。

最近の分子レベルの解析によって、多細胞真核生物におけるオートファジーの調節がいかに複雑かが分かってきた。例えば、線虫で多細胞生物に特異的な4つのオートファジー遺伝子が同定された(epg-2epg-3/VMP1, epg-4/EI24, epg-5)。Epg-2はcargo認識に働き線虫に特異的な遺伝子だが、他の3つの遺伝子は線虫から哺乳類まで保存されている。ヒト細胞の2つの大規模スクリーニングによって、ほかにも数多くのオートファジー関連蛋白を結合する因子が同定され、オートファジーの過程を調節するシグナル伝達ネットワークを形成していることが明らかになっている(Behrends C, 2010 Lipinski MM, 2010)。

オートファゴソーム膜の由来については、現在でも議論があるところである。小胞体膜・ミトコンドリア外膜・細胞膜などがオートファゴソーム膜の形成に役立っていると考えられているが、詳細は不明である。また、Atg蛋白の構造解析もオートファジー機構の解明には重要である。最初に報告されたのは哺乳類のAtg8のホモログであるGABARAPおよびLC3の構造であった。最近では、PtdIns3K阻害剤と複合体を形成したVps34の構造が報告され、このキナーゼを標的にしたオートファジー阻害剤のデザインに役立つと考えられている。

オートファジー調節のシグナル伝達
1995年にMeijerのグループはTOR阻害剤であるrapamycinがラット肝細胞にオートファジーを起こすこと、rapamycinがアミノ酸によるオートファジー抑制効果を減少させることを報告し、これによりオートファジーに至るシグナル伝達の研究がスタートした。アミノ酸はribosomal protein S6のリン酸化を促進するが、これはrapamycinにより抑制される。すなわち、オートファジーの調節にはTOR依存性経路とアミノ酸依存性経路が関与していることが分かる(図3)。

ラット肝細胞において、PtdIns3K阻害剤(wortmannin、LY294002)はアミノ酸によるS6リン酸化を阻害するが、予想外なことにPtdIns3K阻害剤はアミノ酸がない状態下でも(アミノ酸依存性経路を介さなくても)オートファジーを阻害する。これはPtdIns3Kに2つのクラスがあることにより説明可能である。すなわち、class III PtdIns3Kの産物であるPtdIns(3)Pはオートファジー促進に働くのに対し、class I PtdIns3Kの産物であるPtdIns(3,4)P2とPtdIns(3,4,5)P3はオートファジーを阻害する。PtdIns(3,4)P2とPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化するphosphataseであるPTENを過剰発現させると、オートファジーは促進される。PtdIns3K阻害剤はどちらのクラスのPtdIns3Kも阻害してしまうので、オートファジーとS6リン酸化両方を低下させることになる。

インスリンはオートファジーを阻害するが、細胞膜のインスリン受容体活性化はclass I PtdIns3K活性化とそれに伴うPtdIns(3,4,5)P3産生を起こし、それによってPDK1活性化によるPKB/Aktリン酸化(活性化)が起きる。これはTOR活性化を起こし、最終的にオートファジー抑制につながることが示されている。さらに、TOR非依存性経路である、ストレス反応性のJNK1およびdeath-associated protein kinase (DAPK)によってBeclin 1が活性化される経路もある。

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図3:哺乳類オートファジーの調節のためのシグナル伝達
図で青く示した分子および矢印はオートファジー促進に、赤い分子と矢印はオートファジー抑制に働くことを表す。TORはclass I PtdIns3K依存性のシグナルとアミノ酸依存性のシグナルを統合してオートファジーを調節する非常に重要な分子である。インスリン受容体活性化によりclass I PtdIns3K-PKB/Akt-TOR経路が活性化される。PKBの活性化はTSC1-TSC2の阻害をもたらし、Rheb GTPase安定化を介してTOR活性化、オートファジー抑制につながる。また、アミノ酸はRaf-1-MEK1/2-ERK1/2シグナル伝達経路を活性化することによりオートファジーを抑制する。エネルギー欠乏はLKB1によるAMPKリン酸化(活性化)をもたらし、これがTSC1-TSC2をリン酸化(活性化)しTORを不活化することによりオートファジーを誘導する。p70S6K kinaseはTORの基質であり、負のフィードバック経路を介してTOR活性を抑制し、基底状態のオートファジーを維持している。JNK1とDAPKはBeclin 1(図ではphagophore膜に結合していることを示している)をリン酸化することによりBeclin 1に結合したclass III PtdIns3K複合体を活性化し、オートファジー促進に働く。

生理機能および疾患においてオートファジーの果たす役割
① がん

がんは、オートファジーの障害によって起きる重要な疾患である。オートファジーに必須の蛋白であるBeclin 1は腫瘍抑制因子でもある。Beclin 1は抗アポトーシス因子であるBcl-2に結合するが、この結合によってBeclin 1結合hVps34 PtdIns3K活性が低下し、オートファジーが阻害される。染色体の17q21でのbeclin 1の単一対立遺伝子性の欠損はヒト卵巣がん、乳がん、前立腺癌の40-75%で認められている。マウスでbeclin 1のヘテロ欠損やAtg4C欠損があると自発的がん化の率が増加する。すなわち、オートファジーは腫瘍抑制に働く重要な機構である。重要なことに、オートファジーは微小環境における低酸素や低栄養といったストレス下では、腫瘍細胞の生存を促進もする。したがって、がんはオートファジーをうまく利用して、がん化学療法における細胞障害に抵抗し、自らの増殖を促進することができる。すなわち、オートファジーはがん細胞生存に対して正にも負にも作用しうるのである。おそらく、オートファジーは当初はがん化を抑制するように働くが、一度がんが成長した後では腫瘍細胞はオートファジーを自らの細胞保護に利用して生存を図るのだろう。

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図4がん化とアポトーシス、オートファジーの複雑な関係
①腫瘍細胞に代謝ストレスがかかると、アポトーシスによって細胞死が起こり、腫瘍の成長が停止する(左)。その際に、ストレス下の腫瘍細胞ではオートファジーが活性化されるため、細胞生存が活性化され、腫瘍が安定化するということがある(右)。②オートファジーが欠損した腫瘍細胞はストレス下では細胞死を起こす。③アポトーシスが欠損した腫瘍細胞はストレス下に置かれても、オートファジーが活性化されることによりp62増加や蛋白凝集体の形成が抑制されるため、細胞死が起こらないようになる。④しかし、ここでアポトーシスに加えてオートファジーも欠損させるとp62蓄積、障害されたミトコンドリアの増加、活性酸素種の増加、蛋白凝集体の蓄積などが起きてきて、これらがゲノムの傷害、がん遺伝子活性化が起きて、腫瘍増殖を促進することになる。


② 神経変性
Rubinszteinらは、オートファジーがある種の凝集体を形成しやすい蛋白(Huntington病に関わる蛋白など)の分解に関わっていることを示した。Huntington病のマウスモデルにおいて、TOR阻害によってオートファジーを起こすと変異huntingtin凝集体の蓄積が減少し、神経変性が防止される。オートファジーの活性化は神経変性疾患における生理的反応として重要である。神経細胞特異的Atg5またはAtg7ノックアウトマウスでは、細胞質内に神経変性を起こしうる異常蛋白の蓄積が起きる。さらに、選択的オートファジーによっても神経細胞から異常な凝集蛋白が取り除かれる。p62およびNBR1はポリユビキチン化された凝集蛋白や傷害を受けた細胞小器官を選択的にオートファジーで除去するためのcargo受容体である。

③ 先天性免疫と適応免疫
1984年にRikihisaはリケッチアに感染した細胞でオートファジーが誘導されていることを報告し、これによりオートファジーが免疫に関与していることを示すことが明らかになった。2004年にはYoshimoriらとDereticおよびColomboらのグループによってオートファジーは細菌性病原体(Mycobacterium tuberculosisおよびStreptococcus pyogenes)の侵入に対する重要な防御機構であることが明らかにされた。最近ではDrosophilaにおいて、細胞内のパターン認識受容体であるPGRP-LEがListeria monocytogensの侵入を認識しオートファジーを介する宿主防御が起きることが報告されている。また、ヒトのオートファジー受容体であるNDP52はユビキチンコートされたSalmonella entericaを検出して、LC3に結合させることによりオートファゴソームに移動させることが示されている。神経細胞にBeclin 1を強制発現させたマウスではalphavirusの複製が起こらず脳炎が防止できる。Herpes simplex virusが先天性免疫をくぐり抜け疾患を起こすためには、オートファジーが抑制されている必要がある。なお、ある種の細菌やウイルスは自身の複製のためにオートファジーを利用していることも重要である。さらに、オートファジーは適応免疫反応の促進にも重要な役割を果たしており、MüntzらはEBウイルス蛋白(EBNA1)のMHC class IIでの抗原提示にはオートファジーが関わっていることを報告している。

④ 老化と寿命
障害を受けた蛋白や細胞内小器官(ミトコンドリアなど)が進行的に蓄積していくことは、老化しつつある細胞で共通に見られる現象である。Bergaminiらは老化マウスにおいてin vivoで、単離肝細胞においてin vitroでオートファジーが低下していることを示している。また、Levineらは、線虫でBec-1(線虫のBeclin 1)をノックダウンすると、daf-2(線虫のインスリンシグナル遺伝子)欠損変異体の寿命延長形質が阻害されることを示した。さらに、Atg7欠損Drosophilaは寿命が短く、成虫Drosophilaでオートファジーを促進すると寿命が延長することから、オートファジーは寿命延長に重要な役割を果たしていることが分かる。

⑤ 発生と細胞死
Ohsumiらにより、オートファジー欠損変異体の酵母は飢餓培地に置いたときに胞子形成が起きないことが報告されている。その後のさまざまな生物での検討によって、オートファジーは発生に重要な役割を果たすことが分かってきた。例えば細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)のオートファジー欠損変異体は多細胞の発生が起きない、線虫のオートファジー遺伝子欠損体では正常な耐性幼虫(dauer)形成が起きない、DrosophilaのAtg1またはAtg3変異体は幼虫からさなぎへのステージで早期死亡する、マウスでbeclin 1を欠損させると胎性致死となる、などのことが報告されている。これらの結果から、オートファジーは発生期のリモデリング過程での栄養素を供給する重要な役割があると考えられてきた。しかし、このような結論には注意が必要なようである。例えば、Atg7欠損Drosophilaは正常な変態を示し、Atg5欠損マウスおよびAtg7欠損マウスは胚形成期を生存すれば正常に誕生する。しかし、Mizushimaらは卵母細胞特異的Atg5欠損マウスを用いて、受精の直後にオートファジーが誘導され、オートファジーは初期の胚形成の短期間に必須であるがその後の胚の発生には必要でないことを報告している。

オートファジーは細胞生存には重要な役割を果たすが、細胞死における意義も長い間想定されてきた。た。1960-1970年代の電子顕微鏡的な検討によってDrosophilaの幼虫組織の破壊の際に、オートファジーの液胞が蓄積していることが観察された。これらの知見から、オートファジーを伴う細胞死というが概念が生まれ、それはアポトーシス(type I programmed cell death)に対して、しばしばtype II programmed cell deathと呼ばれた。YuおよびShimizuによって、アポトーシスが起きないようにすると(caspase-8阻害またはBax/Bakダブルノックアウト)、オートファジー細胞死が起きることが報告されている。発生過程ではある一定の細胞群が大きく除去される必要があるので、オートファジー細胞死は発生にとって特に重要と考えられる。哺乳類の発生における細胞死にオートファジーが必要という証拠はまだないが、Drosophilaの唾液腺細胞の発生においてオートファジーが必要という報告がある。Drosophilaの貪食細胞受容体であるDraperは細胞生存に働くオートファジー(飢餓により誘導されるオートファジー)でなく、細胞死に関わるオートファジー(唾液腺分解におけるオートファジー)を起こすため、この2つのオートファジーは異なるものと考えられた。しかし、唾液腺の急速な破壊の過程で、オートファジーとアポトーシスの独立した役割を分離するのは難しい。発生過程での細胞死におけるオートファジーの生理的役割は複雑であり、たとえ死細胞でオートファジーが起きていることが観察されても、それが「オートファジーによる細胞死」ということにはならないのではないかとも言われている。現在のところ、オートファジーが生理的な細胞死を起こしているという直接の証拠はほとんどなく、多くの研究者が「オートファジーの特徴を伴った細胞死」という表現をしている。なお、オートファジーは発生過程のプログラム細胞死に限らず、さまざまな疾患で見られる細胞死でも観察される。オートファジーには細胞生存と細胞死をそれぞれ促進させるという相反する役割があるようであり、今後の解明が待たれる。

結論
① オートファジーは傷害を受けた蛋白や細胞小器官、侵入病原体などを除去するためのメカニズムとして、また飢餓やストレス下で必要な栄養素を維持し細胞を生存させるメカニズムとして働いている。このようにオートファジーは細胞生存にとって有利な適応反応であるが、オートファジーの過剰な活性化は有害でもある。オートファジーはがん細胞が化学療法に抵抗性となるのにも利用されており、またオートファジーの過剰な活性化は細胞死を起こしうる。したがって、疾患治療のためには適切なオートファジーの刺激や阻害が必要だろう。
② オートファジーを調節するシグナル伝達経路は、まだまだよく分かっていない。特に複雑なシグナル伝達の入力の結果起こるオートファジーの特異性と大きさがどのように規定されているかという問題は今後解明が必要である。
③ Atg蛋白の作用、オートファゴソーム形成における膜の由来、小胞を隔離しておくメカニズム、オートファジーの選択性など、多くの基本的疑問が未解決である。
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by md345797 | 2013-11-22 02:20 | その他

出芽酵母のオートファジー欠損変異体の単離と特徴 (FEBS Lett. 1993)

Isolation and characterization of autophagy-defective mutants of Saccharomyces cerevisiae.
Tsukada M, Ohsumi Y.
FEBS Lett. 1993 Oct 25;333(1-2):169-74.

【まとめ】
1960年頃に哺乳類の細胞で明らかになったオートファジーは、1992年に酵母でも同様に起きていることが報告された。翌1993年に発表された本論文は、分裂酵母の液胞を光学顕微鏡下で観察して細胞を選択するという方法で、史上初めてオートファジーが欠損した変異体を単離した実験の報告である。この時初めて単離されたオートファジー欠損変異株は、apg1(autophagy)1と命名された(=これは現在のatg1(autophagy related 1)に相当するものである)。この変異株は、液胞内に正常のプロテイナーゼを持っているのに、窒素飢餓の状態に置いても蛋白分解を起こすことができず(=オートファジーが起こらず)、それによって生存能力が大きく低下している。飢餓培地での生存能低下という特徴を用いて、さらに他のオートファジー欠損株(全部で15)を単離することができ、酵母のオートファジーには少なくとも15のAPG遺伝子が関与していることが分かった。本研究で初めてオートファジー欠損変異体を単離したことは、その後のオートファジーの分子レベルでの解明の第一歩となった。

【論文内容】
1. 背景

1960年頃には、細胞質の成分が非選択的に液胞に運ばれて分解されるターンオーバー機構としてオートファジーの存在が知られていた。これは、哺乳動物の細胞が栄養飢餓(nutrient deprivation)にさらされたときに、自己の細胞質成分をリソソームにおいて分解し、アミノ酸などの生体内物質をリサイクルするための機構であると考えられていた。しかし、哺乳類細胞はオートファジーの過程を生化学的に解明するためには非常に複雑であった。1992年に大隅良典らは、哺乳類細胞で起きているオートファジーと同様の過程が、(最もシンプルな真核生物のモデルである)出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでも起きていることを報告した。酵母を栄養飢餓の状態に置いてオートファジーが誘導されると、細胞質に隔離膜が出現し、細胞質成分を取り囲みながら膜が伸長する。これが二重膜構造を持つオートファゴソームとなって、液胞(vacuole)と融合すると、液胞内の多様な加水分解酵素(プロテイナーゼ)によってオートファゴソームの内膜ごとその内容物が分解される。

液胞のプロテイナーゼが欠損した酵母は、通常の培地から栄養飢餓の培地に移すと、液胞の中に「オートファジックボディ(AB’s)」と呼ばれる球状の膜構造が蓄積する。AB’sは細胞質のコンポーネントを液胞に移送・隔離するために用いられる小胞である。プロテイナーゼ欠損株や、野生型にPMSF(プロテイナーゼ阻害剤)を添加した場合は、AB’sが液胞内で直ちに分解されるため、液胞内にAB’sが蓄積しなくなる。したがってこの「液胞中のAB’sの蓄積」を観察することにより、哺乳類おけるオートファーゴソームに当たるものの形成を簡単に確認することができる。酵母の系を用いることによって、オートファジー過程におけるシグナル伝達経路の解明や細胞内膜構造の変化の詳細な解明が可能になる。

2.方法
①酵母の系統は、X2180-1A(「酵母の性である」接合型を決定するMAT遺伝子がMAT a)とX2180-1B(MAT 遺伝子がMAT α)、およびBJ3505(MAT a)とBJ3501(MAT α)を用いた。これらを完全栄養培地(YEPD)や、合成培地(栄養が欠損しているSDおよび窒素欠乏のSD(-N)、炭素欠乏のSG)を用いて培養した。

②オートファジー欠損株の単離は、次の2つの手順で行った。
まず、オートファジー欠損株は、炭素飢餓培地に置くと蓄積されるはずの液胞内AB’sの蓄積が起こらないので、これを光学顕微鏡で形態を観察して単離できる。BJ3505細胞をYEPD培地で培養した後、突然変異誘起剤であるEMS(メタンスルフォン酸エチル)を加える。その後YEPDプレートで成長したコロニーを滅菌爪楊枝でSG(炭素飢餓培地)プレートに移し、光学顕微鏡下で液胞内にAB’sがないものを選択する。これらをさらにYEPDプレートで培養後、炭素飢餓の液体培地に移し、再度顕微鏡下でAB’s蓄積が見られない細胞を選び出す。
変異体を単離する2つ目の手順は、X2180-1A細胞に突然変異を起こさせた後、YEPD培地で培養する。そこで得られたコロニーを、窒素飢餓培地であるSD(-N)プレート上で、赤色染色剤phloxine Bを添加して培養する。赤く染色された(死細胞を含む)コロニーを選択して、再度YEPDプレート上で成長させた後、PMSFを加えたSD(-N)液体培地に移す。その後光学顕微鏡下で、液胞内にAB’sの蓄積がない細胞を選択する。

③酵母における蛋白の分解は、酵母を[14C]LeucineでラベルしTCA可溶性分画(上清)の放射活性を調べることで測定した。また、酵母細胞の生存能は、細胞をphloxine Bやキナクリン、LY(ルシファーイエローCH)で染色することにより測定した。

3.結果
3.1. 液胞内にAB’s の蓄積が見られない変異体を光学顕微鏡下で単離

酵母細胞を通常の栄養培地から栄養飢餓の状態(窒素や炭素を欠失させた飢餓培地)に置くと、それに反応してオートファジーが誘導される。野生型の酵母細胞を飢餓培地に移した場合は、オートファジーが起きて液胞内にAB’sができても、直ちに液胞内のプロテイナーゼで分解されてしまうので液胞内にAB’sの蓄積は見られない。しかし、プロテイナーゼ欠損株を飢餓培地に移した場合は、オートファジーが起きて液胞内にAB’sができると、これが液胞内で分解されないために液胞内AB’sの蓄積が観察される(なお、野生型株をプロテイナーゼ阻害剤であるPMSFを添加した飢餓培地に置いても、同様に液胞内のAB’sが観察される)。

そこで、まずプロテイナーゼ欠損株に突然変異を誘発し、その中で「飢餓培地に置いたにも関わらず液胞内にAB’sが観察されない細胞」を光学顕微鏡下で単離すれば、それはオートファジーの過程が欠損した変異体が得られたことになる。

実験では、プロテイナーゼ欠損株であるBJ3505にEMSを加えて突然変異を誘発し、その後炭素飢餓培地(SG培地)で培養して得られた5000コロニーを顕微鏡で観察し、液胞内AB’sが蓄積されない変異体の候補を10コロニー単離した。これをBJ3501と交配させたところ、得られた10変異体すべてが飢餓培地での培養でAB’sの蓄積が認められた(すなわちこれら変異は劣性である)。さらにこれらをX2180-1Bと交配させ、得られた二倍体(diploids)を胞子形成させて四倍体(tetrads)とし、これらの分離個体(segregants)のうちPMSF下でAB’sの蓄積が起きないものを単離した。その結果、2つの変異体の対立遺伝子(apg1-1apg1-2autophagy)があることが分かり、apg1-1変異体をX2180-1Aまたは1Bに4回交配してX2180-1Aとほぼ遺伝的に同一な変異体株MT14-1B(MATa apg1-1)を得ることができた。

3.2. apg1変異体の特徴
野生型(X2180-1A)およびそれと遺伝的に同一な変異型(MT14-1B)を通常の栄養培地で培養後、窒素飢餓培地(PMSFを添加)に移し、2、4、8時間培養し、光学顕微鏡で観察した。野生型細胞では4-5時間で液胞内AB’sの蓄積が観察されたが、apg1変異型細胞では8時間後まで(さらに24時間後までも)AB’sの蓄積は確認されなかった。すなわち、apg1変異細胞では窒素飢餓培地での液胞内AB’s蓄積(栄養飢餓状態におけるオートファジー)が起きないことが分かる。

次に窒素飢餓培地における蛋白分解(protein degradation)について調べた。[14C]leucineでラベルした野生型細胞を飢餓培地に移すと、TCA可溶性分画の放射活性(すなわち蛋白分解)は有意に増加する(液胞による蛋白分解の促進を表す)。この窒素飢餓培地にPMSFを添加すると、PMSF感受性の蛋白分解が阻害されるため、飢餓培地に置いたことによる蛋白分解は60%程度に抑制される。ヘテロ二量体(APG1/apg1-1)から得た四倍体では、2つの分離個体は野生型と同じく蛋白分解が起きたが、2つの分離個体は蛋白分解が少なかった。前者はPMSF添加で蛋白分解は抑制されたが、後者はPMSFで抑制されずPMSF存在下でも液胞内AB’s蓄積が起こらなかった。以上から、PMSF感受性の蛋白分解は液胞内で起きており、apg1変異体の蛋白分解欠損はAB’s形成の欠損によると考えられた。

オートファジー欠損apg1変異体のも一つの特徴は、窒素飢餓培地での生存能力(viability)の消失である。野生型と変異型の細胞を栄養培地で培養した後、窒素飢餓培地に移し、phloxine Bで染色されるかどうかで生存能力を検討した。その結果、野生型は5日以上生存できたが、apg1変異型は2日で生存能力を失った。四倍体解析により、窒素飢餓培地での生存能力がないものはAB’s蓄積が起きない形質を伴っていることが示された。さらに、proteinase A(PrA)の欠損またはPrAとPrBの欠損株は窒素飢餓培地に置くとapg1変異型と同様の生存曲線を描いたため、apg1変異による生存能力の消失は液胞のプロテイナーゼ作用(蛋白分解)の欠損によるものと考えられた。

3.3. 他のapg変異体の単離
オートファジーの過程、すなわち細胞質の成分を二重膜構造であるオートファーゴソーム内に隔離し、オートファーゴソームが液胞に融合するためには、さらに多くの遺伝子による緊密な調節が行われているはずであるため、他にもapg変異体が存在すると考えた。

他のapg変異体を単離するため、apg1変異体で認められた窒素飢餓培地での生存能力の低下という形質を最初のスクリーニングに用いることにした。野生型(X2180-1A)にEMSを添加して突然変異を誘発した後、phloxine Bを加えた窒素飢餓培地で培養し、赤色に染色された(死細胞を含む)コロニーを選択した。次のスクリーニングとして、PMSFを含む窒素飢餓培地中で液胞内にAB’sが蓄積しない細胞を光学顕微鏡で選択した。約38,000個の突然変異を起こした細胞から、約2700個の赤色染色コロニーを選択し、そこから液胞内AB’s蓄積が見られない99のapg変異体を得た。これらを野生型株(X2180-1B)と交配したものから変異形質が2:2に分離されないものを除き、最終的に15種類の変異体を得た。そのうちの一つはapg1-1であり、他の14種類をapg2-1からapg15-1と命名した。

3.4. agp変異体の形質
すべてのapg変異体は野生型細胞と連続的に交配したところ、通常の栄養培地で成長した。すなわち、いずれの変異があっても、通常の培地では明らかな細胞周期の異常は起きない(生存可能である)。しかし、窒素飢餓培地での生存能力は低下していた(2日間は生存するが、5日目には生存は20%程度)。

すべてのapg 変異体のホモ二倍体は胞子形成ができなかった。また、PMSFを添加した炭素飢餓培地や単一アミノ酸飢餓培地下で(窒素飢餓培地と同様に)液胞内AB’s蓄積が見られなかった。これは、各々のapg変異体は、さまざまな栄養飢餓シグナルがオートファジーをもたらす過程のうち、ある共通のステップに欠損があることを示している。また、すべてのapg変異体は窒素飢餓培地下でPMSF感受性の蛋白分解は極めて少なかった。すなわち、これらのapg変異体がAB’sを分解するにはPMSF抵抗性のプロテアーゼによるのではなく、主にオートファジーによるためと考えられた。

液胞の内側はH+-ATPaseによって酸性pHとなっているため、pH依存的にキナクリンで染色できる。栄養培地で増殖中のapg変異体は野生型細胞と同様、キナクリンが液胞に蓄積してラベルされる。すなわち、apg変異体でも液胞内の酸性化は障害されていない。酵母細胞はLYをエンドサイトーシスによって取り込み、エンドソームから液胞に輸送される。この染色もapg変異体、野生型ともに液胞が染色されたため、apg変異体もエンドサイトーシスの過程は正常に機能していることが示された。さらに、変異体ではPrAの液胞への輸送も正常であり、apgの変異体形質は液胞機能の異常によるものではないことが示された。

【結論】
光学顕微鏡で液胞内のAB’s蓄積が欠損している変異体を選び出すことにより、オートファジー欠損変異体を単離し、apg1変異体と名付けた。この変異体は栄養飢餓状態(飢餓培地)における生存能力が低下していた。さらに、飢餓培地での生存能低下を利用してスクリーニングすることにより、他にも14のapg変異体を単離することができた。これらの変異体はすべて、飢餓培地における液胞での蛋白分解が低下しており、それが生存低下につながっていると考えられた。このオートファジーの蛋白分解がなぜ生存に必要かは今後の検討が必要である。

今回明らかになった少なくとも15のAPG遺伝子は、栄養飢餓状態におけるオートファジーのさまざまな過程(例えば、オートファーゴソーム膜の生合成、細胞質成分のオートファーゴソームへの隔離、オートファーゴソームの液胞への輸送、オートファーゴソームの液胞膜の認識や融合など)で必要な遺伝子なのだろう。個々のAPG遺伝子の役割の解明により、オートファジーのメカニズムと調節が分子レベルで明らかになると思われる。
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by md345797 | 2013-11-02 08:23 | その他