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ミトコンドリアダイナミクス(ミトコンドリアの分裂と融合)の疾患における役割

Mitochondrial dynamics-Mitochondrial fission and fusion in human diseases.

Stephen L. Archer, M.D.

N Engl J Med 2013; 369:2236-2251.

【論文内容】
ミトコンドリアは常に融合(fusion)過程により結合し続け、分裂(fission)過程により分割し続ける動的な細胞小器官である。Benda (1898)は、時には球状、時には線状に観察されるこの細胞内小器官を、ギリシア語の「糸」を表すmitosと、「小さい粒」を表すchondrionをつなげて「ミトコンドリア」と命名した。Lewis and Lewis (1914)はその観察により、「ミトコンドリアは顆粒状・桿状・糸状のいずれの形のものも、いつでも別の形になる。いかなる形態のミトコンドリアも、他のミトコンドリアと融合して一本になったり、分裂して数個のミトコンドリアになりうる」と、ミトコンドリアダイナミクスの存在を提唱した。現在ではこのようなミトコンドリアダイナミクスは、共焦点ライブセルイメージングによって詳細に観察することが可能である。

228の核に存在する遺伝子と13のミトコンドリア遺伝子の変異が、ミトコンドリアの単一遺伝子異常によるまれな症候群の原因として知られている。例えば、MELAS症候群(ミトコンドリアのtRNAの変異)やLeigh病(ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化に関連する遺伝子異常)などである。しかし、本総説で述べるのは、単一遺伝子変異によって発症する疾患ではなく、ミトコンドリアダイナミクスの障害(分裂と融合の異常)が発症に関連している疾患(特にがん、心血管疾患、神経変性疾患)についてである。近年、ミトコンドリアダイナミクスの分子機構が明らかになり、ミトコンドリアの分裂と融合が細胞生存の本質的な過程に関与していること、それが疾患発症に重要であることが明らかになりつつある。

ミトコンドリアの機能はATP産生だけでなく、①小胞体(endoplasmic reticulum)膜と結合することによるカルシウム代謝調節、②エネルギー需要に対応してミトコンドリア数を調節する細胞傷害の代償、③ミトファジーによる細胞生存の調節、④酸素センサーとしての活性酸素種の生成調節など、さまざまな役割が知られるようになってきた。

ミトコンドリアは分裂によって小さい断片になると、より多くの活性酸素種を産生する能力を発揮し、細胞増殖を促進する。また融合することによって、ミトコンドリアネットワークが形成されると、小胞体との連絡が盛んになる。また、融合によりミトコンドリアマトリックスの中身が拡散すると、変異があるミトコンドリアDNAは希釈されることによってミトコンドリア障害が起きる危険が減少する。

このような分裂と融合をつかさどっているのは、少数のGTPaseである。分裂はDRP1(dynamin-related protein 1)が細胞質からミトコンドリア外膜に移行することによって起こる。移行したDRP1は多量体を形成し、輪のようになってミトコンドリアを締め付けて、分裂させる(図1参照)。また、DRP1はmitochondrial Fis1 (fsisson protein 1 )、MFF (mitochondrial fisson factor)、mitochondrial elongation factor 1などの非GTPase受容体蛋白に結合することにより、外膜に移行することができる。DRP1には2つのリン酸化セリン(serine 616とserine 637)がある。細胞分裂を開始させるcyclin B1-CDK1はserine 616をリン酸化することによりDRP1活性を増加させて、細胞分裂の際のミトコンドリア分裂を起こす。Calcium-calmodulin-dependent kinase (CamK)もserine 616をリン酸化するが、これは細胞内カルシウム濃度の変化とミトコンドリア分裂をつなぐ役割を果たす。Protein kinase Aはserine 637をリン酸化してDRP1活性を低下させ、逆にこれを脱リン酸化するcalcineurin (カルシウム感受性phosphatase)はserine 637脱リン酸化を介してDRP1を活性化させる。このようなkinase/phosphataseの効果が総合されてserne 616/637リン酸化比が決まり、DRP1活性が決定される。さらに、翻訳後調節(MARCH5、SUMO1)によってもDRP1活性が調節されている。なお、分裂を阻害する役割があるのは、DRP1活性とその多量体化を阻害するmitochondrial division inhibitor 1 (mdivi-1)である。

ミトコンドリアの融合には、外膜に存在するmitofusin-1やmitofusin-2および内膜に存在するOPA1(optic atrophy 1)が必要である。Mitofusinは、膜貫通およびC端ドメインによってミトコンドリアに結合し、ホモダイマーまたはヘテロダイマーのアンチパラレルな結合を介して隣り合っているミトコンドリアを融合させる。Mitofusin-2は、小胞体とミトコンドリアの結合、すなわちミトコンドリアのカルシウム取り込みにも重要な役割を果たしている。なお、このようなミトコンドリア分裂と融合は、ミトコンドリアのphospholipase Dによって産生される脂質、特にホスファチジン酸によっても調節されている。

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ミトコンドリアダイナミクスの疾患における役割
1 増殖性、アポトーシス抵抗性の疾患
(1) がん

がんの特徴は、過剰な増殖とアポトーシスに対する抵抗性である。この原因の一つは、酸化的代謝から嫌気性の解糖への代謝の変化(Warburg効果)であり、ミトコンドリアのpyruvate dehydrogenase kinase (PDK)の異常な活性化が、pyruvate dehydrogenaseの阻害と酸化的代謝の抑制と、アポトーシス抵抗性をもたらしていることによる。このようながんにおけるミトコンドリアの機能異常は、治療の標的となりうるものである。ヒトのがんを移植したマウスモデルや実際のがん患者において、pyruvate dehydrogenase活性を回復することによって細胞増殖が抑えられ、アポトーシスが回復してがんの縮小につながることが示されている。このような増殖とアポトーシスのバランス異常にはミトコンドリアの形態異常も関係している。ヒト肺腺癌のミトコンドリアの融合過程が障害され、分裂して断片化に至る過程が促進されていることが分かっている。
細胞分裂時にミトコンドリアが正しく分裂することは(mitotic fission)、分裂後の娘細胞に均等にミトコンドリアが分配されるために重要である。この核分裂とミトコンドリア分裂が協調して起きるための分子機構が最近明らかになりつつある。細胞周期のG1期からS期への移行において、ミトコンドリアは融合しATP産生を増加させる。ミトコンドリア分裂と細胞分裂の協調は、cyclin B1-CDK1が細胞分裂を引き起こすと同時に、DRP1をserine 616リン酸化によって活性化することによって調節されている。他の細胞分裂調節キナーゼであるaurora AはRalAをリン酸化し、それにより細胞分裂とミトコンドリアでのRalBP1蓄積が起きる。RalBP1は、DRP1とcyclin-CDKをミトコンドリアに運ぶ足場となり、ミトコンドリア分裂を促進する。(図2参照)

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がん細胞では、DRP1活性化の翻訳後調節(serine 637に対するserine 616リン酸化の増加)によってミトコンドリア分裂が増加している。さらに、mitofusin-2減少によるミトコンドリア融合の障害が起きており、がんの形質であるミトコンドリアネットワークの断片化を起こしている。ミトコンドリアの断片化は、細胞分裂時のミトコンドリア分裂が促進される、ミトコンドリア内カルシウム波が障害される、カルシウムを介するアポトーシスが起こりにくくなるなどのがんに有利な形質をもたらしている。ヒト肺癌を移植したマウスモデルでsi-DRP1を用いてDRP1の発現を抑制したり、アデノウイルスベクターを用いてmitofusin-2の発現を増加させたりすると、ミトコンドリア融合が促進されることにより、がんの増殖が阻害されアポトーシスが増加し、がんを退縮させることができる。(図3の「ミトコンドリア融合(fusion)促進による治療」=fusogenic therapy)

(2) 肺動脈性肺高血圧(Pulmonary arterial hypertension)
肺高血圧は、血管収縮、炎症、血栓症などによる閉塞性肺動脈疾患であるが、細胞の増殖過剰やアポトーシス障害といった「発癌的な観点」からの原因解明が進んでいる。肺高血圧では、肺動脈平滑筋細胞においてHIF-1α活性化による酸素感知の異常と、ミトコンドリア断片化というミトコンドリアダイナミクスの障害が起きている。これらはがん細胞で起きていることと同様であり、これらはmitofusin-2を介する融合の低下とDRP1を介する分裂の増加、転写調節異常によるHIF-1α活性増加とPGC1α活性低下を伴っている(PGC1αはmitofusin-2の転写coactivatorである)。正常の肺動脈平滑筋細胞においてHIF1α活性を増加させると、DRP1を介するミトコンドリア分裂が起きる。正常酸素下でHIF1αが活性化されると、代謝変化(pyruvate dehydrogenaseの活性低下)とアポトーシス抵抗性が生じて、ミトコンドリアの分裂と融合のバランスが崩れ、肺高血圧に至る。さらにDRP1の翻訳後調節(cyclinB1–CDK1およびCamK依存性のリン酸化)の異常によって、DRP1活性が促進され、ミトコンドリア分裂は増加する。実際、肺高血圧のモデル動物の肺動脈平滑筋細胞では、ミトコンドリアの分裂が起こりやすく融合が起こりにくい(profission and antifusion)状態となっている。

Mitofusin-2は全身の動脈平滑筋細胞において増殖抑制効果を示す遺伝子として知られている。肺高血圧モデルラットの肺動脈平滑筋細胞にin vivoでmitofusin-2を過剰発現させると、細胞増殖が減少してアポトーシスが増加することにより、部分的ではあるが肺高血圧が改善する。このようにミトコンドリア融合を回復することによる疾患改善効果が認められているが、「ミトコンドリア融合を促進すると細胞増殖が阻害されるか」という点は、それを支持しない実験結果もあり、いまだに議論があるところである。

なお、supplementary videoで、正常気道上皮細胞のミトコンドリア断片化は少ない(video 2)が、肺癌細胞では増加しており(video 3)、mdivi-1発現によりミトコンドリア分裂が阻害される(video 4)ことが示されている。同じく、正常の平滑筋細胞でのミトコンドリア断片化は少ないが(video 5)、肺高血圧患者の肺動脈平滑筋細胞では増加しており(video 6)、mdivi-1発現によりミトコンドリア分裂が阻害される(video 7)。このように、ミトコンドリア分裂を阻害することより疾患治療が可能になるかもしれない。

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(3) 動脈管開存症 (Patent Ductus Arteriosus)
新生児の動脈管は、出生後数分以内に、酸素依存性の血管収縮によって閉鎖する。出生後の酸素の増加は酸化的代謝を増加させ、電子伝達系活性を亢進させ、活性酸素種の生成につながる。活性酸素種はミトコンドリアのsuperoxide dismutase 2 (SOD2)によってオキシダントである過酸化水素となり、これが動脈管収縮を開始するためのイオンチャネルと酵素を活性化する。これにより、動脈管の線維増殖が起き、動脈管閉鎖が起きる。最近、この動脈管閉鎖の際の活性酸素感知メカニズムにミトコンドリア分裂が必要であることが分かってきた。酸素増加の5分以内に、動脈管平滑筋細胞でDRP1を介するミトコンドリア分裂が起きる。この時、DRP1を選択的に阻害すると酸素増加による動脈管収縮が抑制される。酸素はcyclinB1–CDK1およびCamKに依存性のDRP1の翻訳後活性化も起こす。動脈管平滑筋細胞でミトコンドリア分裂が進むとpyruvate dehydrogenaseが活性化され、電子伝達系のcomplex 1活性が増加し、オキシダントが増加する。逆にミトコンドリア分裂を阻害すると、活性酸素シグナルが抑制されて酸素によるミトコンドリアからの過酸化水素産生が抑えられる。ただし、ex vivoのヒト動脈管でDRP1を阻害しておくと閉鎖が阻害されるが、実際に見られる動脈管開存症患者でミトコンドリア分裂の障害がその原因となっているかはまだはっきりしていない。

2 神経変性疾患
ニューロンの正しい発生にはDRP1を介するミトコンドリア分裂が不可欠である。神経特異的DRP1欠損マウスは、ミトコンドリアの分布異常とアポトーシスが起きて脳の低形成により周産期に死亡する。DRP1のdominant negative変異(ミトコンドリア分裂の消失と融合過剰)を持った新生児の特徴(筋緊張低下、小頭症、視神経萎縮、突然死)から、ヒトの脳発生においてはDRP1を介するミトコンドリア分裂が必要であることが分かる。成人の神経変性疾患においては、分裂の増加と融合の障害によるミトコンドリアの断片化が起きている。

(1) 家族性パーキンソニズム
パーキンソン病は、黒質のドーパミンニューロンの細胞死によって震戦、硬直、運動緩慢が起きる神経変性疾患である。その中のまれな病態として、PINK1とparkinの変異による常染色体劣性遺伝の若年性パーキンソン病がある。PINK1はセリンスレオニンキナーゼであり、ストレスによるミトコンドリア脱分極やアポトーシス、ミトコンドリア酸化ストレスなどからニューロンを保護する役割がある。ParkinはPINK1によってリン酸化されると、脱分極したミトコンドリアをミトコンドリアのオートファジー(ミトファジ―:mitophagy)へと誘導する作用がある。ParkinはユビキチンE3りガーゼであり、異常となった蛋白(DRP1を含む)をユビキチン化して分解することによりニューロンを保護し、さらに機能異常に陥ったミトコンドリアをユビキチン化してミトファジーによって除去させる役割を担っている。ニューロン特異的にPINK1またはparkinを欠損させると、DRP1の蓄積によってミトコンドリア分裂が過剰となり、酸化ストレス増加とATP産生低下が起きる。これらのニューロンの異常は、mdivi-1の過剰発現によりミトコンドリア分裂を阻害したり、mitofusin-2またはOPA1の過剰発現によって融合を促進したりすることによって回復する。PINK1とparkinはミトファジ―も調節している。ミトコンドリアダイナミクスとミトファジ―の関連は不明な点が多いが、オートファジックマシーナリーはミトコンドリアをリソソームに運搬し、ミトコンドリア断片化を起こす役割を持っている。生理的には、ミトコンドリア分裂とミトファジ―は、障害を受けて脱分極したミトコンドリアを除去するのに有用な働きをしている。しかし、この過程が過剰になりすぎると細胞死をもたらす。Rotenoneとparaquat (いずれも殺虫剤)は電子伝達系complex1の阻害剤であり、パーキンソニズムを促進するが、これらはミトコンドリアの断片化を起こす。これらの薬物はparkinを介してミトコンドリア脱分極を起こし、ミトコンドリアを断片化させ、プロテオソーム経路により蛋白を分解させる。

(2) Alzheimer病
Alzheimer病の最も一般的な原因は、アミロイドプラークと神経原線維濃縮体の蓄積である。β-アミロイドが神経細胞のNOを増加させ、そのためにS-ニトロシル化された活性化DRP1が増加し、ミトコンドリア分裂の増加と神経細胞の障害をきたすという報告があるが、これが実際に疾患発症の原因となっているのかは不明。

(3) Huntington病
Huntington病は舞踏病アテトーゼ、認知症、早期死亡などを起こす常染色体優性遺伝性疾患であり、hutingtin蛋白中のポリグルタミンをコードするCAGトリヌクレオチド配列の増加によって起きることが知られている。このポリグルタミンの蓄積により蛋白の折り畳み異常が起こり、蛋白結合の異常が促進される。変異huntingtingはDRP1に結合して活性化させミトコンドリア分裂を増加させることによって、ニューロンのアポトーシス感受性を亢進させる。Huntingtin遺伝子中のCAG配列の増加は、ミトコンドリア分裂の増加と関連していることが分かっている。ポリグルタミンを含むhuntingtin蛋白を持つHuntington病モデル細胞またはモデル線虫でDRP1を阻害したり、mitofusin-2を増加させたりすると、ミトコンドリア融合が回復し、細胞死を抑制することができる。

(4) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSのうちまれな遺伝型はsuperoxide dismutase 1の変異によるものであり、DRP1によるミトコンドリア分裂が促進されミトコンドリアの軸索輸送が阻害されることで神経細胞死に至るというものである。ミトコンドリアマトリックスに存在するSIRT3とPGC-1αは過剰な分裂を防ぎ、神経細胞死を抑制する役割を担っている。

3 ニューロパチー
(1) Charcot-Marie-Tooth病

Charcot-Marie-Tooth病は腓腹筋萎縮と足奇形により歩行の異常をきたす遺伝的末梢神経障害である。この疾患の2A型(軸索サブタイプ)はmitofusin-2の融合をつかさどるGTPaseドメインの常染色体優性ミスセンス変異が原因である。このmitofusin-2変異によってミトコンドリアのシナプスへの移動が制限される。

(2) 視神経萎縮
OPA1の変異は、常染色体優性遺伝の視神経萎縮を起こす。この患者は進行性の視力低下から失明に至る。OPA1を介するミトコンドリア融合が欠損しているため、ミトコンドリアが分裂したままになり、網膜ガングリオン細胞がアポトーシスを起こしやすく、これが視神経変性につながる。よく知られている変異はOPA1のGTPaseドメインおよび3’端で起きており、それぞれdominant negetive型およびハプロ欠損サブタイプを惹き起こす。Mitofusin-2の変異もミトコンドリア融合の障害によって視神経萎縮を起こしうる。

4 心疾患と代謝性疾患
(1) 糖尿病

マウスの1型糖尿病モデル、ヒトの肥満2型糖尿病で、ミトコンドリア融合障害が起きている。Mitofusin-2を肝臓で欠損させると、活性酸素種の増加を介してインスリンシグナル伝達の障害が起き、耐糖能低下が起きる。また膵β細胞特異的にOPA1を欠損させたマウスは、インスリン分泌障害によって高血糖に至る。糖尿病はミトコンドリア融合障害を伴うが、単にミトコンドリア断片化を阻害すれば糖尿病が回復するというわけではない(ミトコンドリアの断片化はミトファジ―にとっては必要なためであろう)。OPA1が欠損すると、ミトコンドリアの非対称な分裂が起き、正常ミトコンドリアと脱分極した機能不全のミトコンドリアに分かれる。しかしこのような機能不全ミトコンドリアを切り取るミトコンドリア分裂は、異常ミトコンドリアをミトファジ―で分解するためには有用でもある。実際にOPA1を過剰発現させて融合を促進しすぎると、ミトファジ―が阻害されて異常ミトコンドリアが増加し、結果的にインスリン分泌障害を起こすことが報告されている。

(2) 虚血再灌流障害
一度心停止すると、もし蘇生したとしても虚血再灌流傷害のために死亡する確率は上昇する。虚血再灌流傷害モデル動物において腎尿細管細胞でミトコンドリア分裂が起きているが、mdivi-1はこれを防止する役割を果たしている。心停止の間、ミトコンドリアのDRP1はcalcineurinによるDRP1 serine637の脱リン酸化を介して活性化されている。これによって増加したミトコンドリア分裂によてい、活性酸素種産生が増加し、カルシウムが増加して拡張期心筋弛緩が障害される。この時、DRP1の阻害が治療効果を発揮する。

(3) 心筋症
心筋特異的にmitofusin-1と2の2つのアイソフォームを両方とも欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作製したところ、ミトコンドリア形態や呼吸の異常と心筋収縮障害が起きて、心不全によって死亡する。逆に片方だけのアイソフォームの欠損は、虚血再灌流傷害や活性酸素種に対して心保護作用を発揮する。Mitofusin-2のみを心筋特異的に欠損させると、ミトコンドリア機能異常と過形成が起き、左室機能はやや減少するし、Mitofusin-1のみを心筋特異的に欠損させると心機能は正常で、活性酸素種による心筋障害が起きにくい形質となる。
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by md345797 | 2013-12-24 07:08 | その他

CRISPR-Cas9を用いた、ヒト細胞のゲノムスケールでの遺伝子ノックアウトスクリーニング

Genome-Scale CRISPR-Cas9 Knockout Screening in Human Cells.

Shalem O, Sanjana NE, Hartenian E, Shi X, Scott DA, Mikkelsen TS, Heckl D, Ebert BL, Root DE, Doench JG, Zhang F.

Science. 2014 Jan 3;343(6166):84-7.

【まとめ】
CRISPR/Cas9システムは簡便かつ確実に特異的なゲノム部位を調節できる、新しいゲノム編集の方法である。今回このグループは、①single guide RNAのゲノムスケールのライブラリーを作製、②このgenome-scale CRISPR-Cas9 knockout (GeCKO) libraryをレンチウイルスを用いてヒト細胞に導入し、③その細胞を目的の性質に基づいて選択し、④選び出された細胞でノックアウトされている遺伝子をディープシークエンスによって同定し、⑤目的の性質に必要な遺伝子を同定する方法を確立した。

この方法に基づき、まず①GeCKOライブラリーを②ヒトメラノーマ細胞とヒト幹細胞に導入して、細胞生存に不可欠な遺伝子を同定した。次に、③上記のライブラリーを導入したメラノーマ細胞(活性型変異BRAFによる増殖が起きる)をvemurafenib (活性型変異BRAFを阻害する薬剤)の存在下で培養して生存する細胞を選択し、④その細胞でノックアウトされている遺伝子をディープシークエンスによって同定し、⑤その結果vemurafenibの作用に必要な遺伝子(その変異があると薬剤が効かなくなる、治療抵抗性となる遺伝子)の同定を試みた。これにより、既知のNF1およびMED12以外に、新たにNF2CUL3TADA2BTADA1が薬剤の作用に必要であることが分かった。

このようなゲノムスケールのCRISPR/Cas9を用いた遺伝子スクリーニングは、以前から行われていたRNAiを用いた方法に比べ、効率や信頼性が優れていた。

【論文内容】
ヒトゲノムで明らかとなった遺伝子の各々の機能を知るために、ゲノムスケールで遺伝子欠損をもつ細胞を作製することにより遺伝子をスクリーニングする方法が必要不可欠である。この方法として、今まではRNAiが主に用いられていた。しかしRNAiは、欠損させられる蛋白が限られていることや、問題となるoff-target効果(標的部位以外の予想外の効果)のために、広い応用のためにはまだ不十分といえるものであった。その点、近年開発されたCRISPR/Cas9はゲノムの特定の部位に機能欠損変異を起こさせるゲノム編集の方法として非常に簡便で優れたものである。この方法は、ゲノムの特定の部位を標的としたsingle guide RNA (sgRNA)を作製し、sgRNAが結合した部位にCas9 nucleaseを呼び込んでDNAの二本鎖切断を起こし、フレームシフトによる挿入欠失変異(indel mutation)を起こして、標的の遺伝子を不活性化させるというものである。この方法で、ゲノムスケールの合成オリゴヌクレオチドのライブラリーをsgRNAのガイドシークエンスに組み込めば、ゲノムスケールで遺伝子欠損をもつ細胞集団を作ることができ、それを用いて遺伝子の機能的スクリーニングが可能となる。

本研究では、sgRNAをCas9と一緒にレンチウイルスベクターに組み込み、標的細胞に導入した(lentiCRISPR)。遺伝子ノックアウトの効率を検討するために、EGFPを発現させたHEK293T細胞に、EGFPを標的とする6種類のsgRNAを導入してEGFPが不活性化される効率を調べた。その結果、lentiCRISPR導入11日後には93±8%という高効率でEGFPを不活性化させることができた。さらに、EGFP遺伝子座のディープシークエンスによって、92±9%の頻度で挿入欠失変異が起きていることが確認された。これが、EGFPを標的としたshRNA(=RNAiによる方法)をレンチウイルスで導入した場合では、不十分な遺伝子ノックアウトしか起きなかった。

このようにlentiCRISPRを用いると高効率に遺伝子ノックアウトが起こせることが分かったので、ゲノムスケールでsgRNAライブラリーを作製して(GeCKOライブラリーと命名)、CRISPR-Cas9によるノックアウト細胞を作製するスクリーニングを行うことにした。このsgRNAライブラリーは、ヒトゲノムの18,080遺伝子の5’ exonを標的とした、それぞれ3-4種類のsgRNAからなる。sgRNAが標的とする各部位は、off-target効果が最小限になるように選択したものである(詳細省略)。

このGeCKOライブラリーが内因性遺伝子をノックアウトできる効率を調べるため、細胞生存に不可欠な遺伝子を欠損させて生存できなくなった細胞を選択することにした(負の選択、negative selection)。ここでは、GeCKOライブラリーをA375細胞(ヒトメラノーマ細胞株)とHUES62細胞(ヒト幹細胞株)に感染させた。14日後にディープシークエンシングで確認したところ、生存したA375細胞およびHUES62細胞のsgRNAの多様性は有意に減少していた。Gene set enrichment analysis (GSEA)では、欠損したsgRNAのほとんどが(リボソームを構成する遺伝子などの)生存に必須の遺伝子を標的としていた。なお、これら2種類の細胞株で欠損していた遺伝子はオーバーラップしており、GeCKOは負の選択を用いて細胞の種類に関わらず生存に必須な遺伝子を同定できることが分かる。

次に正の選択(positive selection)によってGeCKOの効率を検討するために、メラノーマに対する治療薬であるvemurafenib (PLX)に対して抵抗性を示す(=PLX存在下でも生存できる)細胞を選択し、その細胞のsgRNAを調べることにより、PLXが作用するために必要な遺伝子の同定を試みた。A375ヒトメラノーマ細胞はBRAFの活性型V600E変異を持つため増殖するが、PLXはこのV600E BRAFの選択的阻害薬である。

sgRNAライブラリーを導入したA375細胞のうちでPLX存在下でも生存できる細胞は、PLXの作用に必要な遺伝子がsgRNAによって欠損している細胞と言える。したがって、PLXが効かない(薬剤抵抗性がある)として選択された細胞のsgRNAを調べれば、PLXが作用するために必要な遺伝子を同定することができる。この方法により、得られた候補遺伝子は以前から知られていたNF1MED12のほかに、知られていなかったNF2 (neurofibromin 2)、CUL3 (Culin 3 E3 ligase)、STAGA histone acetyltransferase complexの遺伝子(TADA1TADA2B)であった。これらはPLXが作用するために必要な遺伝子であり、その欠損があるとPLXが効かない(薬剤抵抗性の)状態となると考えられる。

A375細胞でPLXに薬剤抵抗性を示すための遺伝子を同定する方法としては、すでに90,000のshRNAを用いたRNAiによるゲノムスケールスクリーニングが行われている(Whittaker, 2013)。そのRNAiによる方法と今回のsgRNAを用いたCRISRP/Cas9による方法とでその効率や信頼性を比較した(比較方法は上位100遺伝子のaggregate P value distributionの計算による)。これによると、CRISPR/Cas9を用いた方がP値が低値で信頼できるスコアであることが分かった。また上位5%に含まれる遺伝子を標的にしたsgRNAは78±27%だったのに対し、shRNAは20±12%であり、CRISPR/Cas9を用いた方が高効率であった。

最後に、GeCKOスクリーニングによって得られた上位遺伝子の評価を行った。NF2遺伝子では、5種のsgRNA導入後14日目で99%以上の遺伝子調節を行うことができた。さらに、ウェスタンブロットと細胞成長アッセイを用いて、sgRNAとshRNAで蛋白消失とPLX抵抗性の効率を比較した。sgRNAの方が効率が優れていたが、ごく少量のNF2発現が抑えられるだけでもPLX抵抗性を起こすのに十分であった。ほかの遺伝子(NF1MED12CUL3TADA1TADA2B)に対するsgRNAも、蛋白発現を低下させ、PLX抵抗性を増加させていた。ディープシークエンスによって、sgRNAが標的とした遺伝子座での変異発生率は高く、off-targetで挿入欠失変異を起こしてしまう率は少ないことが分かった。なお、最近はさらにoff-targetを減らす方法が開発中である(Ran, 2013)。

【結論】
CRISPR/Cas9を用いたゲノムスケールの遺伝子スクリーニングを開発した。このCRISPR/Cas9を用いる方法は、RNAiを用いる方法にない特長がある。RNAiは標的とするRNAからの蛋白発現を減らすのに対して、CRISPR/Cas9はゲノムDNAに機能欠損変異を導入することによりもともとの遺伝子からの蛋白発現を減らすことができる。また、不完全なノックアウトでは遺伝子機能が残ってしまうような場合は、CRISPR/Cas9による方法では遺伝子がホモ欠損で完全にノックアウトできるので、特に有用である。さらに、RNAiは転写産物をサイレンシングできるだけだが、CRISPR/Cas9は蛋白コード領域だけでなくプロモーター、エンハンサー、イントロン、遺伝子間領域にわたって標的とすることが可能である。今回の研究により、CRISPR/Cas9による遺伝子スクリーニングの方法は、RNAiによる方法に比べ遺伝子ノックアウトの効率と信頼性が高く、機能的ゲノミクスのためにきわめて有用であることが示された。
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by md345797 | 2013-12-20 02:10 | その他

CRISPR/Cas9システムを用いたヒト細胞の遺伝的スクリーニング

Genetic screens in human cells using the CRISPR/Cas9 system.

Wang T, Wei JJ, Sabatini DM, Lander ES.

Science. 2014 Jan 3;343(6166):80-4.


【まとめ】
CRISPR/Cas9システムは、特定の遺伝子変異をもつ細胞株やマウスを短時間で作製することができるゲノム編集の優れた方法である。このグループは、ゲノムスケールの73,151のsingle guide RNA (sgRNA)のライブラリーを作製し、これをレンチウイルスを用いて2種類のヒト細胞のゲノムに取り込ませ、さまざまな遺伝子欠損を持つ細胞のコレクションを作製した。この細胞コレクションから、次のような2種類の選択法によって細胞を選択し、選択された細胞で欠失した遺伝子を同定するという遺伝的スクリーニング(genetic screen)を行った。
(1)まず、上記の細胞コレクションから正の選択(positive selection:ある性質をもつ細胞だけを選択すること)によって、目的の遺伝子を同定する実験を行った。①6-thioguanine(6-TG)存在下で生存する細胞はDNAミスマッチ修復(MMR)が欠損している細胞である。そこで、sgRNAライブラリーを導入した細胞を6-TG存在下で培養し、生存した細胞(MMRが欠損している細胞)を選び出した。これらの細胞はsgRNAによってMMRに必要な遺伝子が欠損しているはずなので、このsgRNAバーコードをシークエンスして検出したところ、MMRパスウェイで予想できる遺伝子をすべて同定することができた。②また、エトポシド存在下で生存する細胞はDNAトポイソメラーゼII (TOP2A)が欠損している細胞である。そこで、sgRNAライブラリーを導入した細胞のコレクションをエトポシド抵抗性でスクリーニングし、エトポシド毒性の原因となる遺伝子としてTOP2Aそれ自体に加えて新たにCDK6を同定することができた。
(2)次に、上記の細胞コレクションから負の選択(negative selection:ある性質を持たない細胞だけを選択すること)によって、目的の遺伝子を同定する実験を行った。ここでは細胞増殖に必要な遺伝子を同定するために、ある回数分裂したら増殖ができなくなる細胞を選択し、その遺伝子を同定したところ、細胞増殖に必須なリボソーム蛋白遺伝子のほか、DNA複製、遺伝子転写、蛋白分解などの基本的な過程に関与する遺伝子セットが同定できた。
(3)最後にsgRNAの効率は特定の配列モチーフに関与していることを明らかにし、より効率的に作用するsgRNAの予測を可能にするアルゴリズムを構築した。
上記の検討から、sgRNA/Cas9を用いた遺伝的スクリーニングは、哺乳類細胞のシステマティックな遺伝子同定を可能にする有用な手段であることが示された。

【論文内容】
CRISPR/Cas9システムは、「目的の標的遺伝子配列を含むsingle guide RNA (sgRNA)を作製し、これを目的の遺伝子にハイブリダイズさせて、そこにCas9 nucleaseを呼び込んで二本鎖DNAを切断することによって目的の遺伝子を不活性化させる」というゲノム編集の方法である。このCRISPR/Cas9システムを用いて、哺乳類細胞における大規模な遺伝的スクリーニングを試みた。

方法としては、まずDNAバーコード(ハイスループットシークエンスによって、その配列をもつ細胞の数を計測するためのDNA)を用いてsgRNAのライブラリーを作製する。このsgRNAライブラリーをレンチウイルスを用いてヒト細胞ゲノムに取り込ませて、さまざまな遺伝子欠損細胞のコレクションを作製する。この方法でできた細胞のコレクションをある性質をもとにした正の選択や負の選択を用いて選択し、選択された細胞で欠失しているsgRNAを同定することにより、その性質に必要な遺伝子を同定するという方法を取った。

実際には、まずsgRNAとCas9を発現させるコンストラクトを、レンチウイルスを用いてKBM7慢性骨髄性白血病細胞(ほぼ一倍体near-haploidであるヒトの細胞)に感染させた。発現させた内因性AAVS1遺伝子座をdeep sequencingすることにより、Cas9による二本鎖DNA切断によって標的配列の欠失(< 20bp)や挿入・置換(>3 bp)が起きていることを確認した。

また、この方法でCRISPR/Cas9を用いた場合のoff-target活性(標的遺伝子以外への非特異的な影響)の検討を行った。AAVS1を標的としたsgRNAを発現させた場合の、AAVS1およびゲノム上で予想されるoff-target切断部位における切断レベルを調べた。その結果、off-targetとしてはわずかな(2.5%未満)切断が見られただけであった。

この研究では、73,151種類のsgRNAライブラリーを作製した。これには7,114遺伝子を標的とする複数のsgRNAが含まれている。

(1)正の選択による細胞の選択
①DNAミスマッチ修復(mismatch repair; MMR)に働く遺伝子のスクリーニング
MMRが働く正常の細胞は、ヌクレオチドアナログである6-thioguanine (6-TG)の存在下では、(6-TGが導入された部位が修復できないため)細胞周期が停止する。しかし、MMRが欠損した細胞は、6-TG導入部位が認識できないため分裂を続けることができる。実験では、Cas9-KBM7細胞にsgRNAライブラリーを感染させ、野生型 (WT) KBM7細胞にとって致死濃度の6-TGを添加して培養した。その後、生存した細胞のsgRNAバーコードをシークエンスした。これにより、MMRパスウェイのうちの4因子(MSH2、MSH6、MLH1、PMS2)をコードする遺伝子を標的としたsgRNAが、6-TG添加細胞で大きく増加していることが分かった。(これらの同定された4遺伝子は、確かにMMRに関連する遺伝子であり、他のDNA修復(一本鎖修復、相同組み換え、非相同末端結合)に関与する遺伝子ではなかった。)

②エトポシド毒性に抵抗性に働く遺伝子のスクリーニング
エトポシドは、DNAトポイソメラーゼIIA(TOP2A)に対する毒性を持つ化学療法薬である。次の実験では、エトポシド抵抗性を示す細胞を選択することによって、最終的にエトポシド毒性の原因となる遺伝子の同定を試みた。
ここでは、KBM7細胞とHL60ヒト白血病細胞(偽二倍体pseudiploid細胞で、遺伝子欠損のためには対立遺伝子を2つとも不活性化する必要がある)に上記のsgRNAライブラリーを発現させた。それらの細胞にエトポシドを添加した場合としなかった場合のsgRNA量の差をKolmogorov-smirnov testを用いて計算し、エトポシド存在下で生存する細胞においてsgRNAの標的となっている遺伝子を同定した。その結果、エトポシド毒性の原因遺伝子として同定されたのは、まず予想されたようにTOP2A自体であった。そのほかに、G1サイクリン依存性キナーゼであるCDK6が同定された。実際、TOP2AまたはCDK6に対するsgRNAを持つHL60細胞(TOP2AまたはCDK6が欠損した細胞)はエトポシド抵抗性であることを確認した。

上記のように、sgRNAライブラリーを用いて遺伝子欠損のある細胞コレクションを作製し、正の選択によってある特徴を持つ細胞を選別し、その特徴を担う遺伝子を同定するという遺伝的スクリーニングが可能である。

(2)負の選択による細胞の選択
次に、負の選択(ある性質を持たない細胞だけを選択)を用いた遺伝的スクリーニングを試みた。
まず、BCR遺伝子とABL1遺伝子を標的としたsgRNAを含む小規模ライブラリーをKBM7細胞に導入した。これらの細胞コレクションから細胞増殖の性質を持たない細胞を選択した。KBM7細胞の細胞増殖は、BCR-ABL融合蛋白ができるかどうかに依存するため、融合蛋白をコードするBCRとABL1遺伝子のexonを標的としたsgRNAを持つ細胞のみが生存していた(BCRABL1の他のexonを標的としたものは生存しなかった)。

次に、Cas9を発現させたHL60細胞、Cas9を発現させたKBM7細胞、WTのKBM7細胞に、73,000のsgRNAライブラリー全体を感染させ、最初と12回の細胞分裂後のsgRNA量の変化を、sgRNAバーコードのdeep sequenceを用いて観察した。一群のリボソーム蛋白の遺伝子は細胞増殖に必須である。この実験では、細胞族食の性質を持たない細胞は、Cas9とリボソーム蛋白遺伝子を標的としたsgRNAを持つことを確認した。さらに、sgRNAの標的となった遺伝子が基本的な生物学的過程に関与しているかをGSEA(gene set enrichment analysis)によって確認した。その結果、DNA複製、遺伝子転写、蛋白分解などの基本的過程に関与する遺伝子セットには、sgRNAによる強い欠損が見られた。

(3) sgRNAによる遺伝子欠損効率の違いの原因と効率的sgRNA予測のためのアルゴリズム
sgRNAによって標的遺伝子を欠損させる効率は、sgRNA間で違いが見られる。最後に、この効率の違いは何によるのかについて検討した。その結果、(i)single guideシークエンスにCGをあまりに多く、または少なく含むsgRNAは効率が低い。(ii)標的遺伝子のexonのうち最後のexonを標的にしたものは、もっと前のexonを標的にしたものより遺伝子欠損の効率が低い(これは最終exonを欠損させた場合は遺伝子機能の影響が少ないためであろう)。(iii)転写されるDNA鎖を標的としたsgRNAは転写されないDNA鎖を標的にしたsgRNAより遺伝子欠損の効率は低い。ただし以上の傾向は統計学的有意差があるというだけで、一部のsgRNA効率を説明するのみである。また、sgRNAの効率は、Cas9と結合する部分のシークエンスにも影響されるようである。sgRNAのスペーサーシークエンスの3´-端近くのヌクレオチド組成がCas9結合に重要であり、Cas9はスペーサーシークエンスの最後の4つのヌクレオチドがpyrimidineではなくpurineを含むsgRNAによく結合することが分かった。sgRNAによる遺伝子切断効率は、一部はCas9への結合性によって決定されていると考えられる。

さらに、遺伝子欠損効率が強いsgRNAと弱いsgRNAを区別するアルゴリズムを構築した。方法としては、標的シークエンスとリボソーム蛋白を標的としたsgRNAの欠失スコアに基づいてサポートベクターマシンの識別器(classifier)を訓練し、この識別器を用いて非リボソーム遺伝子のうちスコアがトップ400の遺伝子を標的としたsgRNAの効率を予測した。この予測では2/3が残りの3倍高い効率を示し、アルゴリズムの正確性が確認できた。これを用いて、高い効率で予測できシークエンスからなる全ゲノムsgRNAライブラリーを作製した。このsgRNAのリファランスセットは単一遺伝子の標的および大規模sgRNAスクリーニングの両方に有用性であると思われる。

【結論】
CRISPR/Cas9システムは、哺乳類細胞での正の選択・負の選択に基づく大規模な遺伝的スクリーニングのための非常に有用な方法であることが示された。

なお、CRISPR/Cas9システムを用いる利点には次のようなものがある。(1)CRISPR/Cas9はDNAレベルで遺伝子を不活性化するため、遺伝子機能の完全な欠損を必要とする形質について検討することができる。さらに、RNAiでは不可能な、転写されないエレメントの機能的検討も可能である。(2) sgRNAライブラリーが有効な標的部位の領域が非常に広く、大規模スクリーニングに伴う偽陰性が少ない。(3)この方法はoff-target効果が少ないが、最近はさらにoff-targetが少ないCRISPR/Cas9システムが開発されている。

今回の検討は増殖関連の遺伝的スクリーニングのみだったが、この方法はさらに広い生物学的現象に適応可能であろう。
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by md345797 | 2013-12-19 03:14 | その他

腸内細菌叢は自閉症スペクトラム障害の行動異常・生理的異常を調節している

Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders.

Hsiao EY, McBride SW, Hsien S, Sharon G, Hyde ER, McCue T, Codelli JA, Chow J, Reisman SE, Petrosino JF, Patterson PH, Mazmanian SK.

Cell. 2013 Dec 19;155(7):1451-63.

【まとめ】
自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder, ASD)は、さまざまな消化器症状を伴うことが知られている。この研究で、ASDのモデル動物であるmaternal immune activation (MIA)マウスでは消化管バリアの障害と腸内細菌叢の変化があることが分かった。MIAマウスの仔にヒトの腸内常在菌であるBacteroides fragilisを経口投与したところ、腸の透過性が改善、腸内細菌叢組成が変化して、ASDの症状(コミュニケーション障害、常同行動、不安様の知覚運動性行動)の改善が認められた。また、MIAマウスの仔では血清代謝産物プロファイルの変化が見られたが、B. fragilisを移植するとそれらの代謝産物の量が変化した。MIAで増加していてB. fragilis投与で回復する代謝産物(4ESP)を正常マウスに投与したところ、ASDを示す行動異常が起きた。すなわち、腸内細菌叢の変化が宿主のメタボロームの変化を惹き起こし、それが行動の変化につながりうることが示された。これらの結果から、ASDモデルにおける腸内細菌叢と脳の関連が明らかになり、自閉症スペクトラム障害に対するプロバイオティック治療の可能性が示唆された。

【論文内容】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は米国では88人の出生中1人に生じるとされている疾患で、医学的にも社会的にも重要な問題である。ASDは消化器症状を伴うことがよく知られており、胃腸運動異常や腸管透過性亢進についての臨床的・疫学的報告がある。これらの消化管異常はRett症候群、脳性麻痺、大うつ病などの神経疾患にも伴うことが報告されており、これらのことから神経疾患と腸内細菌叢の関連が指摘されている。腸内細菌叢は、炎症性腸疾患、肥満、心血管疾患などさまざまな疾患に関連があるが、今までにASDで腸内細菌叢の組成が変化していることも報告されている(Adams et al., 2011,Finegold et al., 2010,Finegold et al., 2012,Kang et al., 2013,Parracho et al., 2005,Williams et al., 2011,Williams et al., 2012)。また、マウス(Collins et al., 2012,Cryan and Dinan, 2012)およびヒト(Tillisch et al., 2013)において、腸内細菌叢が社会的、感情的行動、さらに脳の発生などと関連していることが知られている。さらには、多発性硬化症やうつ病のモデルマウス(Bravo et al., 2011,Ochoa-Repáraz et al., 2010)やヒトの慢性疲労症候群の感情症状や心理的障害(Messaoudi et al., 2011,Rao et al., 2009).を、腸内細菌叢を改善することによって治療する試みもある。

本研究ではASDのモデルマウスとして、maternal immune activation (MIA)モデルを用いた検討を行った。母親の炎症が仔の自閉症リスクを増大することが疫学的にしられており、家族性自己免疫疾患(Atladóttir et al., 2009,Comi et al., 1999)や母親の血液や胎盤、羊水における炎症反応の増加は自閉症リスクを増大する(Abdallah et al., 2013,Brown et al., 2013,Croen et al., 2008)とされている。妊娠マウスにウイルス類似物質であるpoly(I:C) (Polyinosinic:polycytidylic acid、TLR3のアゴニストとして免疫を刺激する)を注入するとMIAマウスとなり、その仔はASDで見られるコミュニケーションや社会的行動の障害をきたす。このMIAマウスとその仔マウスに、大腸炎のマウスモデルの腸管異常を改善するとされる腸内常在菌のBacteroides fragilisを移植することによって、ASD関連の消化管障害と行動異常にどのような影響が出るかを検討した。

MIAマウスの仔はヒトASDの腸管症状を示す

ASDの子供は腸管バリア機能が低下し、腸管の透過性が亢進し、いわゆる「漏れやすい腸管(leaky gut)」(D’Eufemia et al., 1996,de Magistris et al., 2010,Ibrahim et al., 2009)という症状をきたす。本研究では、poly(I:C)を注入して作製したMIAマウスの仔、そのコントロールマウス、さらにdextran sodium sulfate (DSS)を投与して腸管透過性を上昇させたマウスで、腸管上皮からFITC-dextranの血中への移行を調べることにより腸管透過性を比較した。その結果、MIAの仔はコントロールに比べ、(DSS投与マウスと同程度に)腸管透過性が亢進していた。また、腸管バリア機能の低下を示すTJP1, TJP2, OCLN, CLDN8発現の低下、CLDN15発現増加が認められた。さらに、MIA仔マウスの腸管では、IL-6発現が増加、IL-12p40/p70とMIP-1αの発現が低下するというサイトカイン/ケモカインの発現異常も認められた。

MIAマウスの仔は腸内細菌叢のバランス異常をきたしている
次にMIA仔マウスの腸内細菌叢の変化を検討した。便の細菌集団を16S rRNAシークエンスを用いて調べたところ、まずコントロール(saline注入のS群)とMIA(poly(I:C)注入のP群)で、便中の細菌種の量や均一性(α多様性)に差はなかった。しかし、unweighted UniFrac解析を用いて細菌集団間の系統発生の類似性(phylogenetic similarity)を調べたところ、コントロールとMIAで主座標分析(principal coordinate analysis; PCoA)に見られる明らかな違いがあった。この違いは、ClostridiaBacteroidiaに限ってPCoAで比較するとより顕著であった。したがって、MIAとコントロールの仔の腸内細菌叢の差は、ClostridiaBacteroidiaのoperational taxonomic units (OTUs)の多様性の変化によるものであると言える。1474のOUTのうち67は細菌による治療グループ間(Lachnospiraceae, Ruminococcaceae, Erysipelotrichaceae, Alcaligenaceae, Porphyromonadaceae, Prevotellaceae, Rikenellaceae,およびunclassified Bacteroidales)を区別することができた。これらのうち、19はコントロールに多く、48はMIAのサンプルで多かった。PCoAの結果にみたように、MIAサンプルとコントロールを区別するOUTの大部分はBacteroidiaとClostridiaであった。Porphyromonadaceae, Prevotellaceae, unclassified BacteriodalesおよびLachnospiriceaeはMIA仔マウスで多く、Ruminococcaceae (2 OTUs), Erysipelotrichaceae、the beta Proteobacteria family Alcaligenaceaeはコントロール仔マウスで多く認められた。以上より、MIAはClostridiaBacteroidiaの特異的OUTの変化を主とした腸内細菌叢の異常をきたしていることが分かった。

Bacteroides fragilisの投与によりMIA仔マウスの腸管バリア機能は改善する
次にヒトの常在菌であるB. fragilisを離乳期のMIA仔マウスに投与したところ、8週齢において消化管異常(腸管の透過性亢進)が改善し、CLDN8とCLDN 15発現変化が正常化、大腸におけるIL-6発現増加も低下した。以上よりB. fragilisを投与する治療により、MIA仔マウスの消化管バリア障害が改善し、tight junctionの変化やサイトカイン発現の変化も正常化することが示された。

B. fragilis投与によりMIA仔マウス特有の腸内細菌叢の変化は回復する
MIA仔マウスに対するB. fragilis投与治療によって、35のOTUのレベルが有意に変化したが、それらはB. fragilis投与治療によって回復した。MIAとコントロールを区別する67のOTUのうちB. fragilis治療によって有意に回復した6種はunclassified BacteroidiaLachnospiraceae (Clostridiaの中のfamily)であった。なお、Bacteroidia OTUsクラスターは1つの系統発生グループ(monophyletic group)に、Lachnospiraceae OTUsクラスターは2つのグループに分類された。

B. fragilis投与によってASD関連の行動異常は改善する
MIA仔マウスはASDの行動異常を示すが、それらは以下の5つの実験方法で定量化することができる。(1) 全周を囲まれた場所(arena)の中央に来る回数、中央にいる時間が少なく(オープンフィールド探索行動の異常)、これは不安様症状を表す。poly(I:C)注入後に生まれたMIA仔マウス(P群)はコントロールのsaline注入後の仔マウス(C群)に比べて、オープンフィールドの探索行動は有意に減少していた。(2)驚愕刺激(pulse)の前に弱い刺激(prepulse)を与えると驚きが抑制される現象はprepulse inhibition (PPI)と呼ばれる。Prepulseが感覚運動のゲートとなると考えられ、これは感覚運動ゲーティングを示す。MIA仔マウスはこのprepulseに伴うPPIが低下していた。(3) ビー玉埋めテスト(marble burying test)は、マウスがビー玉を床敷に埋めるという不合理な行動を繰り返し行ってしまうことを観察するものであり、自閉症で見られる常同行動(stereotyped behavior)の一つである。MIA仔マウスではこのような常同的なビー玉埋め行動がコントロールより多く見られた。(4) マウスのコミュニケーションの測定としては、超音波発声(ultrasonic vocalizations)が用いられる。MIA仔マウスでは社会的コミュニケーションとしても超音波発声の時間や回数が減少していた。(5) 3部屋の社会テスト(three-chamber social test)は自閉症モデルの社会的相互作用の障害を測定するのに用いられる。MIA仔マウスはこの社会テストにより、新しいマウスとの相互作用を好む社会性が欠損していることが明らかになった。以上の5つの実験結果から、MIA仔マウスがASDの行動異常を示すことが示された。

MIA仔マウスにB. fragilisを経口投与すると(P+BF群)、これらの行動異常の多くが改善した。B. fragilis投与により、(1) オープンフィールドでの不安様行動が見られなくなり、(2) PPIが増加し、(3) 常同的なビー玉埋め行動が減少し、(4) コミュニケーション行動が回復した。ただし、(5) 新規な相手を好む社会性は回復しなかった。(5)の社会性をつかさどる神経回路は前4種類の回路とは違っており、B. fragilis投与治療は特異的な回路のみを改善するのだろう。

なお、上記のB. fragilis治療の効果は、全身の免疫の変化やpolysaccharide A (PSA)の変化を介するものではなかった。また、B. fragilisのみで特異的な結果というわけではなく、Bacteroides thetaiotaomicronでもMIA仔マウスの行動異常が改善した。しかし、Enterococcus faecalis投与では効果はなく、このような細菌投与治療のための細菌には何らかの特異性が見られるのだろう。

血清代謝産物のメタボロームはMIAおよびB. fragilis投与によって変化する
MIA仔マウスの腸内細菌叢の変化が血清代謝産物の変化をもたらしている可能性を検討するため、gas chromatography/liquid chromatography with mass spectrometry (GC/LC-MS)を用いたメタボロームプロファイリングを行った。検出された322の代謝産物のうち、MIA仔マウスでは8%有意に変化していた。さらに、出生後にB. fragilis治療を行ったものでは、34%の代謝産物の変化があった。

B. fragilis投与によってMIAによる血清代謝産物の変化が是正される
MIA仔マウスで変化している代謝産物のうち、B. fragilis治療で回復したものとして、最も大きな変化を認めたのが、4-ethylphenylsulfate (4EPS)であった(MIAで46倍に増加し、B. fragilis治療で完全に回復)。この4EPSの量を通常飼育マウス(conventionally colonized (SPF; specific pathogen free) mice)と無菌マウス(germ-free; GF)で比較したところ、GFマウスでは血清4EPS が検出されなかった。すなわち、血清4EPSは腸内常在細菌によって生成されると考えられる。4EPSは自閉症の尿中バイオマーカーとしても報告されているp-cresol (4-methylphenol)と同様の尿毒症性毒素(uremic toxin)である。MIAマウスでは血清p-cresol値の増加も見られており、4EPSはp-cresol の硫酸化型(4-methylphenylsulfate; 4MPS)にも類似していることから、4EPSとp-cresolの機能がオーバーラップしている可能性もある。

そのほかにもB. fragilis治療によって血清中の量が回復した代謝産物にindolepyruvateがあり、これも4EPSと同様に腸内細菌によって産生されると考えられている。Indolepyruvateはトリプトファン代謝経路の分子であり、自閉症モデルである高セロトニン血症モデルではトリプトファン代謝が亢進していることから、自閉症の症状発症に何らかの関連があるのかもしれない。そのほかにMIAで変化しB. fragilis治療で回復している代謝産物には、glycolate、imidazole propionate、N-acetylserineがあった。

4EPSという単一の代謝産物の投与によって不安様行動が惹起される
正常マウスに、3週齢から6週齢にかけて毎日4EPSカリウム塩を投与したところ、それだけでMIA仔マウスと同様の不安様行動が見られるようになった。コントロールに比べ4EPSを投与したマウスは囲いの中央で過ごす時間が短く、PPIテストでは驚愕反応が大きかった。このように腸内細菌叢によって調節されている代謝産物(4EPS)の血中レベルの変化がASDによく見られる症状を惹起することからも、腸内細菌叢と脳の関連が示唆される。

【結論】
自閉症スペクトラム障害(ASD)には消化管症状を伴うことが報告されており、ASDと腸内細菌叢の関連は以前から示唆されていた。本研究では、自閉症モデルマウスで腸内細菌叢の変化が見られ、このマウスにB. fragilisを投与することによって細菌叢を是正すると、腸管透過性亢進が改善し、それに伴いASDの症状が改善することを示した。メタボローム解析により、ASDモデルで増加しB. fragilisの投与で正常化する代謝産物として、腸内細菌叢で調節される4EPSが明らかになり、4EPS投与によってもASD様の症状が改善することが分かった。腸内細菌叢の是正が、腸管透過性を正常化し、それに伴い血中の代謝産物の変化が起こり、これが脳や神経発生に作用してASD改善につながるのかもしれない(図参照)。本研究の知見は、ASDのみならず、ヒトのさまざまな神経発生障害の病態理解や治療にも役立つと思われる。
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by md345797 | 2013-12-12 00:22 | その他

哺乳類の胚発生のためのプログラムされた細胞老化

Programmed Cell Senescence during Mammalian Embryonic Development.

Muñoz-Espín D, Cañamero M, Maraver A, Gómez-López G, Contreras J, Murillo-Cuesta S, Rodríguez-Baeza A, Varela-Nieto I, Ruberte J, Collado M, Serrano M.

Cell. 2013 Nov 21;155(5):1104-18.

【まとめ】
正常の細胞は、決まった回数だけ分裂した後、それ以上分裂しない状態、いわゆる細胞老化(cellular senescence)の状態に達する。このような分裂の限界は、提唱者の名前を取って「ヘイフリック限界」と呼ばれている。このような細胞老化すなわち細胞増殖の停止は、さまざまな細胞傷害やストレス(発癌シグナルの活性化、DNA傷害、テロメア短縮など)に伴って起きる。細胞老化には腫瘍の無制限な増殖を抑える意義があるとも考えられており、この過程には細胞周期を停止させる腫瘍抑制因子p16INK4a、p53などが関与している。さらにp21、p27といったサイクリン依存性キナーゼ阻害因子も細胞老化に関わっている。

細胞への傷害やストレスは、細胞老化と並行して細胞のアポトーシスも引き起こす。アポトーシスは細胞傷害に対する反応としてだけでなく発生のためにも重要である。そのためアポトーシスは「発生のためのプログラムされた細胞死」(developmentally programmed cell death)とも言われてきた。そうすると、細胞老化も傷害にたいする病的な意義だけでなく、アポトーシスと同様に、「発生のためにプログラムされた老化」(developmentally programmed senescence)を起こしている可能性はないだろうか?

今回のMuñoz-Espínらの報告とStorerらの報告によると、細胞老化はマウスの発生過程で起きており、中腎尿細管(mesonephric tubules)、内耳内リンパ嚢(endolymphatic sac)、四肢形成における外胚葉性頂堤(apical ectodermal ridge; AER)で起きていることが明らかになった。この過程は、p21依存的であり、p53、DNA傷害、その他の細胞周期阻害因子には依存しておらず、TGF-β/SMADおよびPI3K/FOXO経路によって調節されていることが分かった。この「発生のためにプログラムされた細胞老化」が起きると、老化細胞はマクロファージの浸潤によって取り除かれ、組織のリモデリングが起きる。p21を欠損させて老化が起きないようにすると、一部はアポトーシスによって代償されるものの、結果的には発生過程における形態形成の異常が起きた。「発生のためにプログラムされた細胞老化」は組織リモデリングを促進する重要な役割を果たしていることが分かった。
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上図では、「成体でストレスによって起きる老化」(左)「胚で発生のために起きる老化」(右)の対比を示している。老化の原因となるのは、左ではテロメア短縮、癌遺伝子シグナル、DNA傷害などのストレスや傷害であるが、右では何らかの発生のための刺激でありその詳細は不明である。いずれも老化である以上、細胞周期の停止、SAβG活性の増加、老化関連クロマチン変化(senescence-associated heterochromatic foci)、老化関連の分泌現象(senescence-associated secretory phenotype; SASP)などは共通に認められる。左の老化にはp53、p16などの癌抑制経路、SASPのうちIL8やIL6などが関与しているが、右の老化はp21を介しており、TGF-β/SMADおよびPI3K/FOXO経路によって調節されている。いずれの老化でも老化細胞の免疫細胞による除去と組織リモデリングの過程が重要である。


【論文内容】
胚の全組織標本にみる「発生過程のプログラムされた老化」

細胞老化は単一の指標で評価できないものの、老化を表すアッセイとしてin vitroin vivoともに非常に用いられるのは老化関連βガラクトシダーゼ(senescence-associated β-galactosidase; SAβG)活性である。これは老化細胞のリソソームの量やオートファジーを表すとされている。まず、マウスの胚の全組織(ホールマウント)標本のSAβG染色を行った。胎生期12.5から14.5日(E12.5-14.5)の外耳道近く内リンパ嚢に当たる部分や、後頭蓋の閉鎖しつつある神経管に当たる部分がSAβGで染色された。さらに、E11.5の外胚葉性頂堤や退化しつつある指間の水かき部分、中腎尿細管などが染色された。すなわち、胚のホールマウント標本ではSAβGで示されるような細胞老化はよく見られる所見であることが分かる。

中腎尿細管と内リンパ嚢における「発生過程のプログラムされた老化」
ホールマウント胚標本をSAβG染色したのち、パラフィン包埋し、切片を作製して免疫染色に用いた。E11.5では中腎尿細管はSAβG染色されなかったが、細胞増殖マーカーKi67で強染色された。E12.5-E14.5ではSAβGではっきり染色されるのに、Ki67染色は減少していた。E15.5ではほとんどの中腎尿細管が消失した。以上より、SAβG染色は増殖停止(すなわち老化)と相関することが分かる。このようなSAβGとKi67染色の関係は、内リンパ嚢でも認められた。さらに、老化関連ヘテロクロマチンマーカーであるHP1γ、H3K9me3も、増殖が活発なE11.5では染色が弱く、G1停止による増殖停止の時期には染色が強かった。これらは、発生過程において「プログラムされた老化」が起きていることを示唆している。

中腎尿細管と内リンパ嚢における老化メディエーターの発現
E11.5(SAβG染色が弱い)とE14.5(SAβG染色が強い)の胚で老化メディエーター(p53, p21, p27, p15, p19ARF)の発現を染色で検討した。その結果、中腎尿細管と内リンパ嚢におけるp21、p27、p15の発現が、E11.5からE14.5にかけて有意に増加していた。(なお、p53の発現はE11.5で弱く、E14.5までに増加しなかった。p19ARFは発現が認められなかった。)

発生のためのプログラムされた老化はp21依存的、p53非依存的である
上記の染色による老化メディエーター発現の結果をもとに、さらに遺伝子欠損マウスの胚を用いた検討を進めた。E14.5において、p53欠損胚は野生型(WT)胚に比べて、中腎尿細管と内リンパ嚢でのSAβG活性とKi67陰性細胞は同程度であった(老化の程度は同程度だった)。しかし、p21欠損胚ではSAβG活性はほとんどまったく認められず、一方Ki67でほとんどの細胞が強く染色された。すなわち、この老化はp53非依存性、p21依存性であると考えられた。

また、p21欠損胚の中腎尿細管はWT胚と違って、H3K9me3とHP1γの免疫染色が認められなかった。また、ヒトの胚においても、中腎が消失しつつある時期の中腎尿細管と内リンパ嚢でKi67染色が陰性、p21染色が強陽性であり、上記のマウス胚と同様の所見であった。

この発生過程の老化におけるATM、ATR、p53活性化因子であるp19ARF、細胞周期抑制因子p16およびp15、INK4/CDK4, 6経路、細胞周期抑制因子p27の関与はこれらの遺伝子欠損胚を用いた検討(ここでは省略)により、否定的であった。

発生のためのプログラムされた老化は、TGF-β/SMAD経路の活性化によるp21発現増加を介する
次に、E14.5のWT胚およびp21欠損胚の中腎尿細管のマイクロダイセクションを行い、得られたRNAをDNAマイクロアレイおよびGene set enrichment analysis (GSEA)を用いて、p21欠損によってどのようなパスウェイが亢進しているかを検討した。その結果、p21欠損胚の中腎尿細管では増殖関連およびDNA複製関連パスウェイの遺伝子発現が亢進していた。一方で、発生に必要なパスウェイであるTGF-β、Hedgehog、WNTパスウェイの遺伝子発現はWT尿細管(老化あり)で亢進、p21欠損尿細管(老化なし)で低下していた。(特にこれらのパスウェイのうちp21欠損に比べWTで発現が増加していた遺伝子は、Bmpr1b(TGF-βパスウェイにあるBMP受容体type1B)、Gli1(Hedgehogパスウェイの主要な転写因子)、Nkd1(WNTパスウェイの調節因子)である。)

このような「発生のための老化」の遺伝子発現プロファイルは、以前から知られている「傷害による老化」(=DNA障害による老化、ヘイフリック限界における複製老化、がん遺伝子による老化など)との遺伝子発現シグネチャーの類似性は認められなかった。ただし、これら2種類の「老化」では、いずれもTGF-βパスウェイが亢進しているという共通点があった。TGF-βはSMAD複合体を介してp21遺伝子の転写を活性化し、p21の発現を増加させる。「発生のための老化」の過程で、中腎尿細管と内リンパ嚢上皮細胞の核では、リン酸化(=活性化)SMAD2が認められた。そこで、妊娠マウスにTGF-βパスウェイの阻害剤(LY2152799)をE10.5からE14.5まで連日経口投与したところ、SMAD2のリン酸化は大きく低下し、中腎尿細管および内リンパ嚢のp21発現が減少し、SAβG活性(=老化)の低下が認められた。以上より、「発生のためのプログラムされた老化」は、TGF-β/SMADパスウェイ活性化を通じてp21発現が増加することによって起きることが示された。

発生のためのプログラムされた老化は、PI3K/FOXO経路の不活化によるp21発現増加を介する
FOXOはSMADと複合体を形成するが、その複合体がp21のプロモーターに結合すると、p21発現が増加する。E14.5の内リンパ嚢の核をp21とFOXO1/3の抗体で二重染色した。その結果、リン酸化(不活性型)FOXOが多い細胞は、(活性型の脱リン酸化FOXOが少なく)、p21発現量が少なく、逆にリン酸化(不活性型)FOXOが少ない細胞はp21発現量が多かった。これはFOXOがp21発現を増加させる正の調節因子であることと一致する所見である。

FOXOはPI3K活性化によって脱リン酸化(不活性化)を受ける。したがって、PI3K活性化を抑制すれば、FOXOは活性化され、p21発現が増加し、発生のための老化は促進されると考えられる。実際、Ptenトランスジェニックマウス(PI3K作用が減少している)胚の中腎と内リンパ嚢では、SAβG活性が増加(老化が促進)していた。また、PI3Kの特異的阻害剤CNIO-PI3KiをE10.5からE14.5まで妊娠マウスに連日経口投与した場合も、Ptenトランスジェニックマウスと同様、発生過程の老化が促進された。以上より、発生のためのプログラムされた細胞老化はTGF-β/SMAD経路とPI3K/FOXO経路により、p21発現が増加することにより促進されることが分かる。

発生過程で老化した細胞はマクロファージによって除去され、p21欠損によって老化を抑制するとその細胞除去は部分的にはアポトーシスによって代償される
老化した細胞はマクロファージによって貪食されて除去される。実際、E14.5の老化した中腎尿細管周囲には多数のマクロファージ浸潤が認められた。なお、SAβG、p21、Ki67のレベルから判断してE12.5ですでに老化は始まっているが、この時はまだマクロファージ浸潤は見られていなかった(老化細胞がその後のマクロファージ浸潤によって除去されていることを示唆する所見である)。なお、E14.5ではマクロファージに囲まれている細胞はアポトーシスは起こしていなかった。

老化が見られないp21欠損胚の中腎ではE14.5のマクロファージ浸潤はほとんどなく、アポトーシスも起きていなかった。しかし、E15.5になると尿細管のアポトーシスが認められ、周囲に多量のマクロファージ浸潤が見られるようになった。p21欠損胚の中腎尿細管では老化が起きていないが、起こるべき老化の一部はアポトーシスのプログラムが遅れて活性化することによって代償され、その後これらの細胞はマクロファージ浸潤によって除去されることが分かった。

内耳の内リンパ嚢はE14.5において、pendrin(anion transporter, SLC26A4)陽性の少数の細胞集団と、その他の多数の細胞集団があることが知られている。E18.5ではp21欠損胚はWT胚に比べてpendrin陽性細胞集団が少なく、老化の役割は異なる細胞集団の間のバランスを取ることではないかと考えられた。また、E18.5では、老化の見られないp21欠損の内リンパ嚢はWTに比べてアポトーシス細胞とマクロファージ浸潤が少なかった。

以上より、「発生のためのプログラムされた老化」には少なくとも2つの役割が考えられる。一つは、中腎尿細管で見られたように、発生途上の構造が老化によりマクロファージによる除去によって消失すること。もう一つは、内リンパ嚢で見られたように、老化するかどうかにより細胞集団のバランスを決定することである。もしこの老化がなければ、形態形成プロセスの欠損を修正する代償的メカニズムが、アポトーシスによって起きる(中腎)か、マクロファージを介する一般的なリモデリングによって起きる(内リンパ嚢)と考えられる。

p21欠損によって老化を抑制すると、発生過程で形態異常が生じる

中腎のウォルフ管(Wolffian duct)は、オスでは精巣上体と輸精管に分化するが、メスでは退化してしまう(一部は膣形成に用いられる)。E14.5のオスではウォルフ管にはSAβG活性は全く見られない(老化がない)が、メスのウォルフ管ではSAβG活性が認められる。オスのウォルフ管はメスに比べ、Ki67陽性細胞が多い(老化が少ない)。p21欠損のメスのウォルフ管は、WTメスと比べて、SAβG活性がなくKi67が多いことから判断して、この老化はp21依存的である。すなわち、p21依存的な老化はメスのウォルフ管で特異的に起きている(オスでは起きていない)ことが分かる。

p21欠損マウスのメスでは、p21欠損による老化がない状態が膣の形態形成に影響をもたらすかを検討した。p21欠損メスの膣の15%には、背腹膣中隔が認められた。(WTメスの3.75%にも中隔があった)。膣中隔は粘液貯留によって受精力を低下させ、感染による胎児生存の減少の原因となるが、実際、p21欠損メスでは仔の数がWTに比べ少なかった。以上の結果から、p21欠損のメスのマウスにおいて、ウォルフ管の「発生のためのプログラムされた老化」が欠損していると、膣中隔(形態異常)が形成される率が高まり、受精能力の低下につながりうることが分かった。

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【まとめ】
哺乳類の胚の発生過程では、「発生のためにプログラムされた老化」が認められた。実際は、退化しつつある中腎と内耳の内リンパ嚢での老化を、SAβG活性増加、ヘテロクロマチンマーカーの増加、増殖停止(KI67染色の低下)が起こることで確認した。この「発生のためにプログラムされた老化」はp21依存的であり、この老化は「ストレスや傷害による老化」とは異なるものであった。ここで、p21発現増加の上流には、TGFβ/SMAD経路とPI3K/FOXO経路の両方が存在することが示されたが、さらにその上流の老化そのものを起こすシグナルは不明である。この「発生のためにプログラムされた老化」は、胚発生の過程の正しい組織リモデリングに必要であることも示された。
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by md345797 | 2013-12-04 00:12 | その他