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Points of significanceコラム 3 :統計学における検出力、エフェクトサイズ、サンプルサイズ

Points of significance: Power and sample size.

Krzywinski M, Altman N.

Nat Methods. 2013 Nov;10: 1139–1140.

【総説内容】
科学研究では、ある現象が観測されたとき、それが偶然によるのか、ある作用によるのかを検討する必要があるだろう。その際、その観測値がもともと含まれる母集団からの標本なのか、それとも別の母集団からの標本なのかを判断するという統計学的手法を用いる(注1)。

注1:ここでの「母集団」は、何らかの実体をもった集団ではなく、抽象的な概念であり架空の存在である無限母集団を想定している。

その際、まず「これら2つの母集団の間には差がない」というnull hypothesis (帰無仮説)を立て、帰無仮説が起きる確率は非常に小さいことを示して帰無仮説を棄却し、alternative hypothesis (対立仮説)を採択するという方法を取る。対立仮説は、「2つの母集団間には差がある」(注2)というもので、これは結局「今回観測された現象は、ある作用によって起きたものであり、偶然のばらつきによるものではない」ことを示す。これをeffect (効果)があったと表現する。

注2:厳密には、2つの母集団間に「差がないとは言えない」というべきだが、以下では分かりやすくするため「差がある」とする。

研究においてeffectは必ず正しく検出されるわけではなく、effectが正しく検出される確率というものがあり、それが今回述べるstatistical power (統計学的パワー、検出力)である。この検出力は非常に重要な概念であるにもかかわらず、医学・生物学研究でしばしば見落されている。しかし、検出力が低い研究では重要なeffectが検出できない可能性がある。そのため、検出力不十分の研究は実験費用や人員の無駄になったり、結果的に有害な条件下に被験者を置く非倫理的な研究になったりする危険がある。そのため、Nature Pulishing Groupの投稿チェックリストでも、「事前に設定したエフェクトサイズ (後述)を検出するための十分な検出力を確保するサンプルサイズ(標本数)を選んでいるか」ということが記載されている。

(1) Sensitivityとspecificity
検出力について述べる前に、疾患と検査の関係でよく用いられるsensitivityとspecificityについて述べる。「実際に疾患があるかないか」と「検査で陽性になるか陰性になるか」の割合は、図1の4通りが考えられる。
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図1 疾患と検査におけるsensitivityとspecificity

この4通りとはTrue/False Positive/Negativeであり、これをもとに、

Sensitivity (感度)=a/(a+c) 疾患があるときに検査で正しく陽性になる率
Specificity (特異度)=d/(b+d) 疾患がないときに検査で正しく陰性になる率

と定義される。ここで、

False Positive率=疾患がないのに検査で誤って陽性になる率 α=b/(b+d)  
False Negative率=疾患があるのに検査で誤って陰性になる率 β=c/(a+c)

というものが考えられる。

(2) Type I errorとtype II error
最初の「観察された標本が、もともと想定される母集団からの標本なのか、それとは異なる母集団からの標本と考えられるのか」という問題についても同様の表ができる。ここでは、2つの母集団間で「実際に差があるか、ないか」と「差があると推測されるか、ないと推測されるか」で図2の4通りに分けられる。
d0194774_2228349.jpg

図2 母集団間の差の有無と推測による判断

ここでは、

False Positive率 α= 正しいH0を誤って棄却する割合
False Negative率 β= 正しくないH0を誤って採択する割合

となっている。このように、前者の本当は差がない (帰無仮説が正しい)のに、「差がない」という帰無仮説を誤って棄却することをType I errorといい、後者の本当は差がある (帰無仮説が誤りである)のに、「差がない」という帰無仮説を誤って採択することをType II errorという (それぞれの確率はαとβ)。

(3) Power (検出力)
図1疾患があるときに検査で正しく陽性になる確率をpower(検出力)といい、感度と同じa/(a+c) である。これは図2では、母集団間に実際に差があるときに、推測によって差があると正しく判断される確率が検出力(1-β)である。

図3では例として、ある蛋白の発現量の観測値がxであったとき、それが単なる偶然のばらつきの結果なのか、それとも何らかのeffectがあった結果なのかを考えている。これは統計学的には、観測値xがもともと想定される正規母集団(平均µ0=ここでは10)からの標本なのか、それともそれとは違う正規母集団(平均µA=12とする)からの標本なのかという問題である。このとき、2つの母集団間に差がないとする帰無仮説H0と、それに対する対立仮説HAを立て、H0が棄却できるかどうかを検討する(注3)。

注3:2つの母集団に差がない場合、平均µ0の母集団とそれと違う平均µAの母集団で、µ0とµAどちらが大きいかは決められていない。しかしここでは便宜上、図3のように後者の方が大きいとする片側検定 (one-tailed test)について考える。µ0とµAの大小が予測できないときは両側検定(two-tailed test)になるが、ここでは省略する。

図3aのように限界値x*を設定し、観測値xがそれより大きければH0は棄却できるとする。H0がx*より大きい確率はαであり、これは例えば0.05のように非常に小さいのでここに観測値が入ると帰無仮説H0は棄却するとする。このとき、帰無仮説が正しいのに棄却してしまう確率(本当は差がないのに、誤って差があると判断してしまう=Type I errorの確率)はα、正しい帰無仮説を正しく採択する確率(本当は差がなく、差がないと正しく判断する確率=specificity)は(1-α)である。
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図3 帰無仮説(a)と対立仮説(b)、推測のエラーと検出力(c)
 
ここでxが限界値x*より大きい時は、観測値xは対立仮説HA母集団からの標本と考えられるとすると、図3bのようにx*より小さいとき、本当は帰無仮説H0は正しくないのに、H0を採択してしまう。したがって、帰無仮説が正しくないのに採択してしまう(本当は差があるのに、誤って差がないと判断してしまう)Type II errorの確率はβ、帰無仮説を正しく棄却し対立仮説を採択する確率(本当は差があり、それを差があると正しく判断できる確率=sensitivityおよび検出力)は(1-β)である。

(4) Effect size
なお、H0の正規母集団とHAの正規母集団はどちらも標準偏差がσで同じとする。そのとき、d=(μA-µ0)/σをエフェクトサイズと呼ぶ。σ=1の標準正規分布のとき、dはμA-µ0である(図3c)。初めに対立仮説の分布を設定する時に、このd (effectがあるとき、どのくらいの差ができるはずなのかという量)を事前に決めておく必要がある。もしこれが医学研究なら、「医学的・生物学的に意味のある差dとはどれくらいなのか」を医学的観点からあらかじめ設定しておかなければならない。

注4:なお以上の議論で、母集団というのは全く未知のものであるはずなのに、その平均や標準偏差の数値があらかじめ分かっているというのはおかしな話だが、ここでは説明のため分かったことにして話を進めている。

(5) 陽性的中率(PPV)
ここで、やや本題からはずれてPPVについて述べる。図1のような疾患と検査において、「ある検査が陽性のとき、本当にその疾患がある割合」を陽性的中率(positive predictive value, PPV)という。「ある疾患が陰性のとき、本当にその疾患がない割合」は陰性的中率(negative predictive value, NPV)である。図1では、

陽性的中率(PPV)=a/(a+b)
陰性的中率(NPV)=d/(c+d)

である。図2の場合は、PPVは「母集団間に差があると推測されたとき、本当に差がある確率」、NPVは「母集団間に差がないと推測されたとき、本当に差がない確率」であり、図2に色で示した通りになる。
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図4 Effectがある割合(a)、検出力が上がると陽性的中率も増加する(b)

図4aでは、上段は50%effectがある(疾患と検査の関係で言うと、疾患がある割合=有病率が50%ということ)、下段は10% effectがある(有病率10%に相当する)場合を表している。青がeffectあり=母集団間に差がある、緑がeffectなし=差がないという帰無仮説を表す。

図4b上段で、検出率0.2で推測した場合(左上)、母集団間に本当に差があるとき、差があると正しく推測される確率が0.2だから、実際にeffectがある点線から右半分のうち、灰色(「差がない」と誤って推測される=false negative)ではなく水色(「差がある」と正しく推測される=true positive)の割合が0.2になっている。検出率0.5(中央上)や0.8(右上)の場合も、同じように青の部分の割合が0.5、0.8になっている。また、帰無仮説を5%の棄却域で棄却するとすると、帰無仮説(点線から左半分) のうち5%(赤い部分)は母集団間に差がないという帰無仮説が誤って棄却されてしまう。すなわち、緑(「差がない」と正しく推測される=true negative)ではなく、赤(「差がある」と誤って推測される=false positive)の部分が左半分の5%になっている(注5)。

注5:元論文のこの図では5%がちょっと大きめに描いてある。

このとき、陽性的中率は「差がある」と推測された場合の本当に差がある確率なので、図4bのようにtrue positive/(false+true positive)、青/(青+赤)で表されるので、検出力が0.2、0.5、0.8と上がると、PPVも0.80、0.91、0.94と上昇する。

実際の生物学実験では、図4下段のように10%しかeffectが見られないことも珍しくない。このときは、検出率0.2の実験では陽性的中率が0.31しかなく、通常求められる検出率0.8であってもその実験の陽性的中率は0.64である。これでは、実験で差があると認められてもその3割以上はfalse positiveである。

検出力の低い実験では、このように陽性的中率が低くなるので、研究の前に十分な検出力のある実験を行っているか注意が必要である。多くの研究では、統計学的に検出力不足(underpowered)であり、そのために再現性の低い結果しか得られていないことが報告されている。

(6) Specificityとsensitivity (検出力)の関係

次に(4)の例に戻って、specificityとsensitivity(検出力)の関係について述べる。

図5aでH0は平均µ0=10、σ=1の正規分布とし、その棄却域αを0.05に決めると、H0を棄却できる限界値x*は11.64になる。ここでHAの正規分布を見ると、観測値xがカットオフ値x*(11.64)より小さい時は、観測値は本当はHAの母集団からの標本なのに、誤ってH0が正しいという判断を下してしまう。これは実際は差(effect)があるのに、差がないとしてしまうtype II errorであり、その確率はβ=0.36)で表される。したがって、1-β=0.64が、差があるときにH0を正しく棄却する(差があると判断する)という検出力(およびsensitivity)である。

ここで、H0の棄却域αを0.05から0.12に引き上げると、観測値xのカットオフ値は11.17に下がり、検出力は上記の0.64から0.80に上がる。この検出力の増加は、αの低下すなわち、本当は母集団間の差(effect)がないのに誤って「差がある」と判断してしまうfalse positiveの増加を犠牲にしていることになる。

注6:なお、原文ではWe can increase power by decreasing sensitivity.と書いてあるが、原文のsensitivityはspecificityの誤植。

図5bでは、2つの母集団H0とHAはそのままで、観測値のカットオフ値が小さくなると ((x*-µ0)が小さくなると)、それにしたがってαが大きくなるが、そのとき検出力(1-β)はどのように変化するかを示している。
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図5:限界値x*が小さくなると検出力が上がる(a)。この関係を示すグラフ(b)。

x*-µ0を小さくすると、検出力 (1-β、図5aの青い部分の面積)はS字カーブを描いて大きくなる(図5bの赤い矢印)。しかしそれに伴って、α (false positive率、赤い部分の面積)も大きくなってしまう。なおそれはspecificity (1-α、緑の部分の面積)が小さくなることにもつながる。研究において真のpositiveを検出するために、検出力は大きくしたいが、しかしfalse positiveは減らしたい。この場合どうすればよいだろうか?

まず、図5aの分布が狭ければ2つの母集団のオーバーラップが減り、HAの分布においてx*より大きい部分(青い部分)が増えて検出力は上昇する。しかし、分布を狭くする、すなわち標準偏差σを小さくする、すなわち実験精度を上げてばらつきを減らすというのは難しいことも多い。より直接的な方法は標本をx一つだけでなく、数多く観察することである。それにより標本分布(標本平均x bar、標本標準偏差σ/√n) を得るようにする。

(7) サンプルサイズとエフェクトサイズが検出力に及ぼす影響
最後に上記のように、標本をn個取ったときの平均値の分布(標本分布)を考える。

図6aにおいて、左の正規分布曲線は標本分布を表している。H0は帰無仮説の母集団から得た標本n個の標本分布であり、HAは対立仮説から得た標本n個の標本分布である(図5のように母集団そのものではないことに注意)。

ここで、標本の大きさnが増えても、標本分布の平均は変わらない (nが大きくなると、それは母集団平均に等しくなるので、ここではいずれも10と12としている)。しかし、標本の大きさnが増えると、標本分布の標準偏差は(母集団の標準偏差σ)/√(標本の大きさn)の式にしたがって小さくなる

これらの分布において、帰無仮説を棄却する棄却域αが0.05になるように、標本分布の平均値のカットオフ値(点線)を決める。そうすると、nが大きくなるにしたがって分布は狭くなり、そのαが0.05になるためのカットオフ値は図6aのように小さくなり、検出力(1-β)は大きくなる。あらかじめ設定した エフェクトサイズd (2つの母集団間にこれ以上差があれば「母集団間に差があった、effectがあった」と考えてよいとする差)が1だったとする。標本の大きさ(サンプルサイズ) nが大きくなると、検出力は図6a右のグラフのように大きくなる。この例では、α=0.05、d=1のとき、有効な検出力0.8以上を確保するためにはサンプルサイズは7個以上必要ということになるだろう。なおグラフのようにαをもっと低く、すなわち棄却域を厳密にすると、同じ検出力を得るにはもっとサンプルサイズを増やす必要が出てくる。
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図6:サンプルサイズを大きくすると(a)、またはエフェクトサイズを大きく設定しておくと(b)、検出力は大きくなる

サンプルサイズがそれ以上増やせない場合に検出力を上げる方法は、エフェクトサイズdをあらかじめ大きく設定しておくことである。図6b左のように、nが一定で、dが大きくなると2つの標本分布の幅 (標本標準偏差)は変わらないが、2つの標本分布の平均の差が大きくなり、分布のオーバーラップは小さくなる (エフェクトサイズの定義のd=(μA-µ0)/σの式による)。図6左でdが大きくなってもαは0.05で変わらないとカットオフ値(11の点線)は変わらないので、検出力(1-β)は大きくなる。エフェクトサイズを大きくすると、検出力が大きくなるのは図6右のグラフの通りである。

逆に言えば、エフェクトサイズを小さく設定すると、同じ棄却域αでも検出力は小さくてよいことになる。しかし、あまりにエフェクトサイズを小さくすれば、医学的には無意味な差が統計学的には有意となるので注意が必要である。さらに詳しくは、『新版 医学への統計学』(古川俊之監修、丹後俊郎著)の第14章「医学的に意味ある差を積極的に評価する検定ーΔ検定」を参照。

(8) サンプルサイズ設定の注意点

なお、以上の議論ではH0とHAの母集団分布は未知のものであるので、本当はそれらの正確な標準偏差は分からない。そのため標本分布から母集団標準偏差σを推定するが、それでは検出力が小さくなるので、必要な検出力を確保するためにやや大きめのサンプルサイズnを設定する必要がある。

よい研究デザインのためには、サンプルサイズ、エフェクトサイズ、検出力の3つのバランスを取ることが非常に大切である。そのために、まずtype I errorの確率(帰無仮説の棄却域)αを0.05検出力(1-β)を0.8にすることが伝統的に行われる。次に、医学的・生物学的に望ましいエフェクトサイズdをあらかじめ設定しておく

これらのα、1-β、dの値を使って最低限必要なサンプルサイズnを求めてから、研究を開始する必要がある。もし必要なnがあまりに大きく計算された場合は、母集団のばらつきを減らすため、研究開始前に対象や実験条件を再検討する必要があるだろう。

注7:論文のSupplementary Table 1で、検出力などの計算やグラフ作成ができるExcelファイルが利用できる。

【参考】
このような仮説検定理論、帰無仮説を棄却するアイデア(ネイマン=ピアソンの公式)を構築したのは、イェジ・ネイマン(1894-1981)とエゴン・ピアソン(1895-1980)である。エゴン・ピアソンは記述統計学の大成者であるカール・ピアソン(1857-1936)の息子で、ワルシャワ(ポーランド)の数理学者であったネイマンは、ロンドンのエゴン・ピアソンと意気投合し、直接会えない時も郵便のやり取りを通じて1928-1938年にわたって推測統計学を作り上げた。『統計学を拓いた異才たち』(D. サルツブルグ著、竹内惠行・熊谷悦生訳)によると、ネイマンは親切で誰に対しても思いやりのある性格、エゴン・ピアソンは慎重な紳士であった。しかし、父カール・ピアソンの論敵であったやはり統計学の巨人ロナルド・フィッシャー(1890-1962)は彼らを嫌悪し激しく攻撃したという。

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by md345797 | 2014-09-30 21:56 | その他

サッカリン含有人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能異常を起こしうる

Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.

Suez J, Korem T, Zeevi D, Zilberman-Schapira G, Thaiss CA, Maza O, Israeli D, Zmora N, Gilad S, Weinberger A, Kuperman Y, Harmelin A, Kolodkin-Gal I, Shapiro H, Halpern Z, Segal E, Elinav E.

Nature. 2014 Oct 9;514(7521):181-6.

【まとめ】
ノンカロリー人工甘味料(Non-caloric artificial sweeteners, NAS)は、世界的に広く用いられている食品添加物の一つである。NASは低カロリーであるため肥満者や糖尿病患者に有用と考えられてきたが、その安全性については以前から議論が続いている。

本研究では、C57 Bl/6マウスに市販の「サッカリン含有人工甘味料(5%がサッカリン、95%がグルコースの混合物である)」を、ヒトにおけるFDAの1日許容最大摂取量(体重あたり)をマウスに換算して摂取させた。その結果、マウス腸内細菌叢の組成や機能が変化し、それに伴って耐糖能異常が起きた。このようなNAS摂取に伴う耐糖能異常は、これらのマウスに抗生剤を投与すると起こらなくなった。また、NAS投与マウスから採取した便の細菌叢やNASを加えてin vitroで培養した便細菌叢を無菌マウスに接種しただけで、レシピエントのマウスに耐糖能異常が起きた。NAS摂取後の腸内マイクロバイオームでは、グリカン分解パスウェイの遺伝子発現が亢進しており、それにより短鎖脂肪酸(SCFAs)の増加が惹き起こされるなどして、耐糖能異常が起きた可能性が示された。ヒトにおいても、長期的なNAS摂取者はメタボリックシンドロームを示す数値が高値を示しており、健常者ボランティア7名に6日間NASを摂取させた場合にも4名に腸内細菌叢の変化を伴う耐糖能異常が起きた。このようなNAS摂取に伴う耐糖能異常は、おそらくその個人の腸内細菌叢によって、起きやすい者とそうでない者(レスポンダーとノンレスポンダー)がいると考えられた。

以上より、NASの摂取は、腸内細菌叢を変化させて耐糖能異常を起こす可能性があることが示唆された。肥満者や2型糖尿病患者がNASを大量に摂取することについては、今後再考の必要があるだろう。

【論文内容】
ノンカロリー人工甘味料 (NAS)は、高カロリー食品である砂糖を用いずに食品に甘味を加える手段として100年以上前に開発された。NAS摂取によってカロリー摂取を減らすことにより、体重減少と血糖値の正常化という健康上の有用性がもたらされると考えられている。砂糖を使わないカロリーオフの清涼飲料水やシリアル、デザートなどでよく用いられ、肥満者および耐糖能障害、2型糖尿病患者には推奨されることもある。しかし、NASは血糖を上昇させないという有用性を示す研究結果がある一方で、NASは体重を増加させ2型糖尿病のリスクを増加させるという有害性を示す結果も報告されてきた。このように相反する結果が報告されてきたことには、すでにメタボリックシンドロームを持つ患者がNASを多く摂取しているという背景もある。このような議論があるにもかかわらず、アメリカ食品医薬品局 (FDA)は現在、アメリカ合衆国において6種類の人工甘味料製品の使用を承認している。

多くのNASは摂取後分解されることなく消化管を通過し、腸内細菌叢に直接作用する。腸内細菌叢は健常人と肥満者糖尿病患者では組成や機能が異なり、逆に腸内細菌叢の違いがメタボリックシンドロームに関連することが分かっている。そこで本研究では、NASが腸内細菌叢の組成や機能を変化させて宿主の耐糖能に影響するかを検討した。

長期のNAS摂取は耐糖能異常を起こす
NASの糖代謝に対する影響を検討するため、10週齢のC57 Bl/6マウスの飲み水にサッカリン、スクラロース、アスパルテームを含有する市販の人工甘味料を添加して摂取させる実験を行った。これら3種類のNASは、約5%の人工甘味料と約95%のグルコースからなるものである。対照群には水のみ、水にグルコース、水にショ糖(sucrose)を混ぜたものを摂取させた。人工甘味料の商品名はそれぞれ、「Sucrazit」 (5% サッカリンと95% グルコース)、「Sucralite」 (5% スクラロース含有)、「Sweet’n Low Gold」 (4% アスパルテーム含有)であり、いずれも10%溶液として水に混ぜたものを摂取させた。対照群には水、10%グルコースまたは10%ショ糖の溶液を摂取させた。

摂取開始11週目には、水、グルコース、ショ糖を摂取させたマウスは同様の耐糖能曲線を示したのに対し、上記3種類のNASを摂取したマウスは著明な耐糖能異常を示した。NASの中ではサッカリンが耐糖能障害を起こす作用が最も大きかったので、以後の人工甘味料の作用の検討では市販のサッカリンを用いることとした

また、肥満の状態でのNASの影響を調べるため、高脂肪食(HFD、脂肪が総カロリーの60%を占める)を負荷したC57 Bl/6マウスに、市販のサッカリン含有人工甘味料またはコントロールとしてグルコースを摂取させた。その結果HFD負荷マウスにおいても同様に、サッカリンは耐糖能異常を起こすことが明らかになった。次に、0.1 mg/mlの純粋なサッカリンを水に加え、HFDを負荷した10週齢マウスに摂取させ耐糖能への影響を検討した。サッカリン濃度は、ヒトにおいてFDAで認められている1日許容最大摂取量 (5 mg/kg体重)をマウスに換算して用いた。この濃度は市販のサッカリン含有人工甘味量よりもサッカリン濃度としては少ないが、それでも耐糖能異常を示した。この結果は、C57 Bl/6マウスの代わりにSwiss Websterマウスを用いた実験でも同様だった。

なお、以上のマウスで摂餌量、摂水量、酸素消費量、運動量、エネルギー消費などは正常食、HFDマウスにおいてNAS投与とコントロールで同様であった。また、空腹時血清インスリンとインスリン負荷試験による血糖低下も同様の結果であった (インスリン抵抗性の程度に差がないことを示唆する)。以上から、NASはヒトと同様の人工甘味料の組成または体重あたりの量において、マウスの種類や肥満かどうかによらず耐糖能異常を起こすことが示された。

以下、本論文では「サッカリン5%、グルコース95%からなる人工甘味料」を「市販サッカリン」と呼び、100%のサッカリンを「純粋サッカリン」と呼ぶことにする。

NAS摂取による耐糖能異常は腸内細菌叢を介して起こる
食事は腸内細菌叢の組成や機能を変化させ、腸内細菌叢の変化は宿主の代謝に大きく影響することが分かっているので、NASによる耐糖能異常も腸内細菌叢の変化を介しているのではないかと考えた。そこで、正常マウスまたはHFDマウスにまずグラム陰性菌を標的とした抗生剤 (シプロフロキサンとメトロニダゾール)を投与し、NASを含む水またはコントロールの水のみを摂取させた。その結果、抗生剤A投与4週後には両者の耐糖能障害の差は消失した。グラム陽性菌を標的とした抗生剤 (バンコマイシン)を投与した場合も、同様の効果が認められた。これらの結果からNASによる耐糖能障害は、腸内常在細菌叢しかも幅広い細菌群が関与していることが分かった。

次に、市販サッカリンまたはグルコース(コントロール群)を含む水を摂取させた正常食負荷マウスの便を正常食負荷無菌マウス(germ-free mice)に移植する実験を行い、腸内細菌叢が原因になっているかどうかを検討した。その結果、便移植6日後には、市販サッカリンを摂取させたマウスから便を移植されたレシピエントマウスは、コントロール群から便移植されたレシピエントマウスと比較して耐糖能異常を示した。この結果は、HFD負荷マウスに水または純粋サッカリンのみを摂取させた場合の便移植実験でも同様の結果であった。したがって、NAS摂取による耐糖能異常は、腸内細菌叢を介して起きていることが示唆された。

NASは腸内細菌叢の機能を変化させる
次に、上記のマウスにおける腸内細菌叢の組成の違いを16S ribosomal RNA遺伝子のシークエンシングの結果をもとに検討した。まず、市販サッカリン摂取マウスは、摂取開始11週目において当初の腸内細菌叢および他のコントロール群の腸内細菌叢とは異なる組成を示していた (下の図1g)。同様に、市販サッカリンを摂取させたドナーマウスから便移植を受けたレシピエントの無菌マウスの腸内細菌叢は、主座標分析(Principal Coordinate Analysis; PCoA)において、グルコース摂取ドナーマウスから便移植を受けたコントロールマウスの腸内細菌叢とは異なるクラスターを形成していた (図1h)。
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市販サッカリンを摂取させたマウスは、40以上のoperational taxonomic units (OTUs)で細菌叢の変化を起こしていた。相対量が増加していた細菌群の多くはBacteroides属とClostridiales目に属していたが、Clostridialesと同じFirmicutes門に属する腸内常在菌量であるLactobacillus reuteriは減少していた。量が減少していた細菌群の多くも Clostridiales目に属するものであった。同様に、HFDに加え純粋サッカリンを摂取したマウスでも、腸内細菌叢の異常が起きていた。以上より、サッカリンはその形態、濃度、与えた食餌などが異なっても、おおむね同様の腸内細菌叢の異常をもたらすことが示された。

(注) Operational Taxonomic Units (OTUs、操作性分類単位):配列決定した16S遺伝子のうちある程度以上の類似度(97%以上など)を持つ配列を一つのまとまりと考え、「1菌種」として扱う単位とする。「形成されたOTU数」を「菌種数」と考え、細菌の多様性を把握するのに用いる。

次に、ショットガン・メタゲノムシークエンシングを用いて腸内細菌叢の比較を行った。16S rRNAによる検討と同様、市販サッカリンを11週間摂取させる前とさせた後の便の細菌叢を、グルコースまたは水のみを摂取させた場合のコントロールの便の細菌叢を比較した。相対的な細菌種の量を比較するために、シークエンス結果をヒトマイクロバイオームプロジェクト (HMP)のリファランスゲノムデータベース上で解析した。結果は16S rRNAを用いた解析と同様、市販サッカリンを摂取させた場合に細菌種の量の変化が最も大きかった。さらに、メタゲノム解析の結果を腸内細菌遺伝子カタログ上で解析し、グループ化した遺伝子をKEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)上でどのパスウェイに当たるかを検討した。遺伝子発現の変化したパスウェイは、市販サッカリとグルコースを摂取させたマウスで変化が逆であった。市販サッカリンは95%グルコースを含むことを考えると、この違いはサッカリンによるものと考えられる。市販サッカリンを摂取させたマウスはグリカン分解パスウェイの遺伝子発現が大きく増加していた。

グリカンは発酵してさまざまな物質になるが、その中には短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids, SCFAs)が含まれている。SCFAは宿主のグルコースおよび脂質のde novo合成の前駆体やシグナル伝達分子になるので、その増加は宿主のエネルギー吸収を増加させ肥満につながりうることがマウスおよびヒトで示されている。このパスウェイは、市販サッカリン摂取マウスの腸内細菌のうち5種類のグラム陰性および陽性細菌の増加によって起こることが分かった。そのうち2種は16S rRNA解析で示されたBacteroides属であった。さらに、市販サッカリン摂取マウスはコントロールのグルコース摂取マウスと比較して、便中のSCFAsであるプロピオン酸と酢酸が大きく増加していた。市販サッカリン摂取マウスの腸内マイクロバイオームでは、デンプン・ショ糖の代謝、フルクトース・マンニトース代謝、葉酸・グリセロリピド・脂肪酸生合成に関与する遺伝子発現が亢進し、糖輸送に関与する遺伝子発現が低下しているという、以前報告された2型糖尿病患者の変化と同様の変化が認められた。

その他にも、純粋サッカリンを摂取させたHFDマウスでは、ascorbate/aldarate代謝 (レプチン受容体欠損糖尿病マウスで増加)、LPD生合成 (代謝性エンドトキシン血症で増加)、細菌走性(肥満マウスで増加)に関与するパスウェイの遺伝子発現の増加が見られた。以上より、市販サッカリンの摂取は腸内細菌叢の機能的変化をもたらすこと、特にグリカン分解パスウェイの遺伝子発現が亢進し、エネルギー吸収の増加につながる便中SCFAsの増加が起きることが示された。

NASは腸内細菌叢を直接変化させ、耐糖能異常を促進する
次にNASの腸内細菌叢への直接の影響を検討するため、通常マウスの便をサッカリンを添加した培養液を用いてin vitroで嫌気性培養した。このサッカリン添加in vitro便培養で、培養9日目にはBacteroidetes門の増加とFirmicutesの減少が認められ、この培養産物を無菌マウスに胃管投与したところ、コントロール便投与群に比べて有意な耐糖能異常が認められた。サッカリン添加in vitro便培養を投与されたマウスの便でもBacteroides属の増加とある種のClostridialesの減少が見られた。ショットガンメガゲノムシークエンシングによっても、サッカリン添加in vitro便培養で、サッカリン摂取マウスの便と同様のグリカン分解パスウェイの遺伝子発現の増加が認められた。その他にはスフィンゴ脂質代謝に関与する遺伝子発現の増加(非肥満糖尿病マウスでの増加が報告されている)、糖輸送に関与する遺伝す発現の減少が認められた。以上より、サッカリンは腸内細菌叢の組成と機能を直接変化させ、耐糖能異常を起こしうる細菌叢の変化をもたらすことが示された。

ヒトにおいてNASは耐糖能異常に関連している
最後にヒトにおいて、長期的および短期的なNAS摂取の耐糖能にどのように影響するかを検討した。まず、長期のNAS摂取と臨床データの関連について381名の非糖尿病者 (男性44%、女性56%、年齢は43.3 ± 13.2歳)のコホートを対象に調べた。NASの摂取量 (食事質問票による)は、体重、ウエスト・ヒップ率(中心性肥満を表す)、空腹時血糖、HbA1c、ブドウ糖負荷試験 (GTT)の血糖値、ALT (肝機能障害を表す)の高値と関連があった。HbA1cは、NAS摂取が多い40名は、NASを摂取しない236名に比べて高値であった(BMIで補正しても高値だった)。さらに、これらの被験者のうち、ランダムに172名を選び出し、便の細菌叢を16S rRNA解析を用いて調べた。その結果、NASの摂取とEnterobacteriaceae科、Deltaproteobacteria綱、Actinobacteria門の量の増加とは有意な関連があった。なお、細菌叢のOTUの量とBMIの間には有意な関連は見られず、上記のNAS摂取と細菌叢の関連は肥満を介する関連ではないと考えられた。

ヒトにおいて短期的なNASの摂取が耐糖能異常をもたらすかを調べるため、普段NASを摂取しないか、ここ1週間NASを含む食物を摂取していない7名の健常ボランティア(5名が男性、2名が女性、年齢は28-36歳)にNASを摂取させて検討を行った。7日間の試験期間のうち2日目から7日目まで、FDAの1日許容最大摂取量の市販サッカリン(5 mg/体重kg)を1日3回に分け連日摂取させ、、連日GTTを行った。その結果、このような短期間でも7名中4名の被験者が1-4日目に比べ、5-7日目にGTTでの有意な血糖上昇をきたした(図4c)。また、残り3名は血糖上昇はなかった (有意な耐糖能改善もなかった) (図4d)。このように、被験者にはNASに反応して耐糖能悪化が見られた者と見られなかった者があり、反応があった者を「NASレスポンダー」、反応がなかった者を「NASノンレスポンダー」と呼ぶことにした。

NASレスポンダーの腸内マイクロバイオームは、ノンレスポンダーのNAS投与前後とは異なるクラスターを形成していた(図4e)。さらに、ノンレスポンダーのマイクロバイオームはこのNAS摂取期間を通じて変化がなかったのに対し、レスポンダーではNAS摂取によってマイクロバイオームの変化が見られた(図4f)。
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レスポンダーとノンレスポンダーのNAS摂取前(1日目)と摂取後(7日目)の便サンプルを正常食負荷無菌マウスに移植した。その結果、NAS摂取後のレスポンダーの便を移植されたレシピエントマウスは有意な耐糖能異常を示したのに対し、レスポンダーのNAS摂取前およびノンレスポンダーのNAS摂取前後の便では耐糖能異常は起きなかった。レスポンダーのマイクロバイオームを移植された無菌マウスの便では、サッカリン摂取マウスの腸内細菌叢変化と同様の変化がいくつか認められ、Bacteroides fragilis (Bacteroidales目)とWeissella cibaria (Lactobacillales目)が20倍増加、Candidatus Arthromitus (Clostridiales目)が10分の1に減少していた。

【結論】
本研究では、NASの摂取が腸内細菌叢を変化させ、耐糖能異常を起こす可能性がマウスとヒトで示された。NAS摂取による主な細菌群の変化は、以前に2型糖尿病のヒトでも報告されたBacteroidesの増加とClostridialesの減少であった。また、NAS摂取は腸内マイクロバイオームのうち、グリカン分解パスウェイの遺伝子発現を変化させ、食物からのエネルギー吸収を増加させる可能性があることが分かった。その他にもNASはマウスやヒトで糖尿病や肥満への関連が報告されている代謝パスウェイ (スフィンゴ脂質代謝やLPS生合成など)を変化させることが明らかになった。本研究は、マウスだけでなく、ヒトにおいても長期的および短期的なNAS摂取が耐糖能異常を起こしうることを示した。ヒトにおいては、NASの摂取に反応して耐糖能異常を起こすレスポンダーと起こさないノンレスポンダーがいることが分かり、このような反応の違いは個人の腸内細菌叢の組成と機能の違いによる可能性が示唆された。一般に食事に対する代謝疾患の起こりやすさには個人差があるが、これは個人による腸内マイクロバイオームの違いによるものかも知れず、もしそうだとすれば将来はマイクロバイオームに基づいた「個別化栄養療法 (personalized nutrition)」が重要になるのかもしれない。

人工甘味料は、人間の甘味に対する欲求を妨げることなくカロリー摂取を減らし、糖尿病患者の血糖を正常化させるのに役立つと考えられてきた。近年、多くの食事の変化に並行して、人工甘味料の消費も増加している。もしかしたら人工甘味料の使用は、意図に反して肥満や糖尿病増加に寄与してきた可能性もある。さらには、人工甘味料の影響には個人差があることが示唆され、それが腸内マイクロバイオームに基づく可能性についても今後検討が必要になるだろう。
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by md345797 | 2014-09-23 23:58 | その他