Regulation of circadian behaviour and metabolism by synthetic REV-ERB agonists.
Solt LA, Wang Y, Banerjee S, Hughes T, Kojetin DJ, Lundasen T, Shin Y, Liu J, Cameron MD, Noel R, Yoo SH, Takahashi JS, Butler AA, Kamenecka TM, Burris TP.
Nature. 2012 Mar 29;485(7396):62-8.
【まとめ】
核内受容体REV-ERB-αとREV-ERB-βは行動と代謝のリズムを調節する時計蛋白の発現を統合する役割を果たしている。この研究では、REV-ERBに
in vivoで結合する強力な合成アゴニストを報告する。合成REV-ERBリガンドをマウスに投与すると、概日行動と視床下部の時計遺伝子の発現の概日パターンが変化した。また、肝・骨格筋・脂肪組織における一連の代謝遺伝子発現の概日パターンも変化し、エネルギー消費が増大した。高脂肪食負荷・肥満マウスにREV-ERBアゴニストを投与すると、高脂血症や高血糖が改善され、肥満が減少した。これらの結果から、概日リズムをターゲットとした薬剤である合成REV-ERBリガンドは、代謝疾患の治療に有効である可能性が示された。
【論文内容】
哺乳類では、ほぼすべての組織が概日分子ペースメーカーをもち、視床下部の視交叉上核(SCN)がそれらを統合し、環境の昼/夜サイクルに生理的リズムを合わせるマスター概日ペースメーカーの役目を果たしている。これらの分子時計は、転写因子BMAL1とCLOCKまたはNPAS2がperiod (
Per1、
Per2、
Per3)とcryptochrome(
Cry1、
Cry2)の転写を活性化し、発現が亢進したPERおよびCRY蛋白はBMAL1-CLOCK活性を阻害する、というフィードバックループからなり、その結果これらの遺伝子がリズミックな概日パターンで発現する。
Bmal1と
Clockは、核内受容体REV-ERBの直接のターゲット遺伝子になっているため、REV-ERB-αが欠損すると概日行動が変わってしまう。
REV-ERB-α/βの生理的リガンドはヘム(Heme)であることが分かっているが、このグループはREV-ERB活性を調節する小分子の合成リガンドを同定した。
REV-ERB-α/βの合成アゴニスト
このグループは、合成した2種類のREV-ERB-α/βリガンド(SR9011とSR9009)が、用量依存的にREV-ERB依存性のリプレッサー活性を増加させることをHEK293細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイで確認した。これらの化合物はHepG2細胞で、REV-ERB-α/β依存的にBMAL1 mRNA発現を抑制した。Per2-lucレポーターマウスのSCNの組織片にSR9011を添加すると、概日リズムの振幅が可逆的に減少された。SR9011またはSR9009を様々な濃度で6日間マウスに投与したところ、肝において、REV-ERB反応性遺伝子である
Serpine1(plasminogen activator inhibitor type 1)、
Cyp7a1(cholesterol 7α-hydroxylase)、
Srebf1(sterol response element binding protein)の各遺伝子の発現が用量依存的に抑制された。
REV-ERB アゴニストは概日行動を調節する
概日運動活性は、マウスを通常の明期/暗期(L/D)で1週間飼育したのち、暗期のみ(D/D)にしたときの運動活性で測定する。D/D条件下に12日おいたマウスにSR9011またはSR9009またはvehicleを単回投与した。Vehicle投与では概日運動活性に変化はなかったのに対し、REV-ERBアゴニストを投与した場合は運動活性が消失した。なお、これらの化合物で毒性は認められなかった。次に、D/D条件下のマウスから単離した視床下部における時計遺伝子発現が、SR9011やSR9009の単回投与によってどのように影響を受けるかを検討した。これらの化合物投与によりPer2発現は増幅され、
Cry2発現は抑制された。
Bmal1は軽度の影響しか受けなかったが、
Npas2発現の振動は消失し、
Clock発現も
Per2の振動と同様発現が増幅された。
REV-ERB アゴニストはin vivoで代謝を調節する
時計遺伝子を変化させると代謝形質が変わることが示されており、
REV-ERBは脂質・糖代謝に関連する遺伝子を直接調節していることも報告されている。正常のマウスにSR9011またはSR9009を長期(12日間)投与すると脂肪量が減少し体重が低下した(なお、摂食量に変化はなかった)。さらにComprehensive laboratory animal monitoring system (
CLAMS)を用いて検討したところ、SR9011を1日2回10日間投与したマウスは、酸素消費量が5%増加した。SR9011投与によって夜間摂食量は10%増加、運動量は15%低下したにもかかわらず、代謝亢進によってエネルギー消費は増加し、脂肪量が減少した。SR9011を単回投与したマウスの肝では、
Per2の発現パターンが変化したが
Bmal1と
Npas2の発現は変化なかった。このようにREV-ERBアゴニストは、中枢(視床下部)と末梢(肝)の時計遺伝子発現に対する効果が異なっていた。
SR9011投与により、脂肪合成遺伝子(
Srebf1)、fatty acid synthase (
Fasn) 、 stearoyl-CoA-desaturase 1 (
Scd1)の発現は大きく変化した(
Srebf1と
Scad1の発現は抑制され、
Fasnの発現は時間がシフトした)。コレステロールや胆汁酸代謝酵素の発現も変化し、
Srebf2と
Cyp7a1は減少したが、HMG-CoA reductase (
Hmgcr)の発現は変化なかった。PGC-1αおよび1β (
Ppargc1a、
Ppargc1b)の発現は強い概日パターンを示していたが、SR9011投与によって抑制された。骨格筋におけるβ酸化の律速酵素(carnitine palmitoyltransferase 1b;
Cpt1b)および骨格筋への脂肪酸輸送酵素(fatty acid transport protein 1;
Fatp1、別名
Slc27a1)はSR9011によって発現が増加した。また、
Pppargc1bの発現および
Ucp3の発現も増加した。解糖系酵素(hexokinase (
Hk1)とpyruvate kinase (
Pkm2))の発現は両者とも増加しており、SR9011によるグルコース酸化の増加も認められた。NAD+生合成酵素であるNAMPTはNAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRT1の概日発現を調節していることが分かっているが、SR9011投与によって肝の
Nampt発現が抑制されており、REV-ERBアゴニストは蛋白翻訳後のアセチル化も変化させている可能性が示された。
脂肪酸酸化や解糖系の酵素発現が増幅されている骨格筋とは対照的に、白色脂肪組織(WAT)では脂肪蓄積に関連する遺伝子発現の抑制が見られた。SR9011投与により、トリグリセリド合成を担う酵素であるdiglyceride acyltransferase 1および2 (
Dgat1と
Dgat2)やmonoacylglycerol acyltransferase (
Mgat1)は発現が抑制された。また、perilipin1(
Plin1)やホルモン感受性リパーゼ(
Hsl、別名
Lipe)のような脂肪滴結合蛋白の発現も、SR9011投与によって抑制された。
以上のように、REV-ERBの合成アゴニストの投与により、肝・骨格筋・WATの代謝関連遺伝子の発現が変化した。すなわち、肝では脂肪合成とコレステロール合成が低下、骨格筋では脂肪とグルコースの酸化が増加、WATではトリグリセリド合成と貯蔵が低下した。
REV-ERB アゴニストは肥満マウスの代謝プロファイルを改善する
次に、高脂肪食を14週間負荷した20週齢の肥満C57BL/6マウスにSR9009を1日2回30日間投与した。その結果、SR9009投与によりマウスの体重は、vehicle投与群(1日2回の腹腔内注射のストレスで体重は減少)の60%大きく減少した(なお、摂食量に差はなかった)。また、SR9009投与により血漿トリグリセリドは12%、コレステロールは47%、NEFAは23%、血糖は19%減少した。脂肪の減少に伴い、レプチンが80%、IL-6が72%減少した。SR9009投与により、肥満マウスの肝で脂肪合成酵素(
Fasnと
Scd1)とコレステロール合成に関する酵素(
Hmgcrと
Srebf2)の発現が低下し、WATでトリグリセリド合成が低下した。また、骨格筋で脂肪酸およびグルコース酸化酵素(
Cpt1b,
Ucp3,
Ppargc1b,
Pkm2 ,
Hk1)の発現が増加していた。遺伝的肥満モデルであるob/obマウスにSR9009を12日間投与した場合でも、体重増加が抑制された。
【結論】
REV-ERBα/βアゴニストであるSR9011およびSR9009をマウスに投与すると、エネルギー消費が亢進して脂肪量が減少し、血漿トリグリセリドとコレステロール値が低下した。これらの化合物は、代謝疾患の治療に有用である可能性がある。