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DPP4はコロニー刺激因子活性とストレス造血を抑制する―DPP4阻害剤の新たな臨床的有用性

Dipeptidylpeptidase 4 negatively regulates colony-stimulating factor activity and stress hematopoiesis.

Broxmeyer HE, Hoggatt J, O’Leary HA, Mantel C, Chitteti BR, Cooper S, Messina-Graham S, Hangoc G, Farag S, Rohrabaugh SL, Ou X, Speth J, Pelus LM, Srour EF, Campbell TB.

Nat Med. 18,1786–1796, 2012. (Published online 18 November 2012)

【まとめ】
放射線治療や化学療法、造血幹細胞移植後の造血回復を促進することは、臨床的に非常に重要な課題である。Dipeptidylpeptidase 4 (DPP4)はさまざまな基質を切断するが、その中にはケモカインであるstromal cell-derived factor-1 (SDF-1)も含まれている。本研究では、DPP4が欠損するとSDF-1による造血前駆細胞の生存が促進されることを示した。その実験の過程で予想外に、DPP4がコロニー刺激因子(CSF)活性を抑制することを発見した。すなわち、DPP4はGM-CSF、G-CSF、IL-3、erythropoietinのN末端を切断し、それらの活性を低下させることを明らかにした。そして、Dpp4遺伝子のノックアウトやDPP4阻害剤投与により、in vitroおよびin vivoにおいてCSF活性が増加した。DPP4により切断されたGM-CSFの活性低下メカニズムは、受容体との結合親和性、GM-CSF受容体のオリゴマー形成およびシグナル伝達活性の変化を介している。最後に、Dpp4欠損マウスやDPP4阻害剤(sitagliptin)投与マウスでは、放射線照射や化学療法後の造血回復が促進されることを確認した。以上の結果は、DPP4阻害剤の新しい臨床応用可能性を示すものである。

【論文内容】
造血幹細胞(HSC)および造血前駆細胞(HPC)移植は血液疾患の重要な治療法であるが、移植のために臍帯血や小児の骨髄由来のHSCsを十分量集めるのは難しい。そこで、限られた数のドナー細胞の生着を促進するための方法が模索されてきた。DPP4(別名CD26)は、HSCsやHPCsの膜に発現しているが、膜に結合していない溶解型(soluble form)のDPP4も産生されている。Dpp4遺伝子の欠損や、DPP4活性ペプチド(diprotin A)によって、HPCsのSDF-1への化学走行が促進され、内因性骨髄SDF-1へのホーミングが増加することにより、HSCsの生着が増強されることが分かっている。このグループはDPP4にSDF-1の他の機能を調節する役割があるかを検討していたところ、予想外に、DPP4阻害がin vitroで GM-CSFによるGM前駆細胞の増殖を促進することを発見した。分泌ケモカイン以外のサイトカインがDPP4切断部位を持つことや、その切断部位がCSFsの活性を調節するということは以前は知られていなかった。本研究では、DPP4による切断がCSFsの活性を低下させ、切断されたCSFsは一部は受容体結合の競合によって全長CSFs活性を阻害し、細胞内シグナル伝達を低下させることが示された。さらに、Dpp4遺伝子欠損またはDPP4阻害剤がin vivoにおいて、放射線照射や化学療法後の造血回復を促進することも明らかになった。

DPP4はSDF-1による生存とex vivoの増殖活性を調節している
SDF-1は、HSCsとHPCsの化学走行・ホーミング・生存に重要な分子である。SDF-1はDPP4によって切断され活性が低下するが、以前このグループはDpp4欠損マウスではHPCsのSDF-1への化学走行とHSCsのホーミングが促進されることを示している。HPCsの生存は、SDF-1添加によって有意に促進され、これはDpp4欠損でより大きく増強された。Dpp4欠損骨髄細胞はSDF-1添加なしでは生存が増強されなかったので、DPP4欠損による生存増強効果はDPP4によるSDF-1の切断が起こらないためと考えられた。DPP4を阻害するdiprotin Aの添加により、SDF-1による生存増強効果は100倍に増加した。したがって、細胞表面のDPP4は、SDF-1によるHPC生存増強効果を負に調節していると考えられる。

DPP4阻害はCSFsのin vitro活性を促進する
これらの実験を行っている過程で、このグループは予期せずdiprotin Aの添加によって、GM-CSF刺激によるGM前駆細胞のコロニー形成が2倍に増加されることを発見した。そこで、GM-CSFおよび他のサイトカインのN末端に、DPP4の認識部位であるアミノ酸配列が存在するか蛋白データベースを調べた。その結果、マウスとヒトのGM-CSF、G-CSF、erythropoietinにそのような部位があり、マススペクトロメとリーによる解析でヒトGM-CSFとヒトIL-3が可溶性DPP4により酵素的に切断されること、それはdiprotin Aによって阻害されることが示された。

骨髄系CSFsの活性にdiprotin Aがどのように影響するかを検討するため、ヒト臍帯血やマウス骨髄にdiprotin Aを添加したところ、ヒトおよびマウスのGM-CSF、マウスG-CSF、ヒトIL-3によるコロニー形成は約2倍に増加した。Diprotin Aを前投与した細胞をDPP4切断部位を持つCSFで刺激したところ、前投与しなかった細胞に比べ、コロニー形成が2倍多かった。また、diprotin Aは(赤血球系のCSFである)erythropoietinによる赤血球系のコロニー形成を刺激した。

DPP4による切断によってCSFの活性は低下する
可溶性DPP4で前処置した(N端を切断された)マウスGM-CSFやヒトerythropoietinは活性が低下した。このようなin vitroでのCSF切断の効果をin vivoにおいても確認するため、WTマウスおよびDpp4欠損マウスに、全長または切断されたrecombinant GM-CSFを単回皮下注したところ、24時間後のHPC数はWTマウスでは差がなかったが、Dpp4欠損マウスでは全長GM-CSF投与によるHPC数の増加が認められた。さらに、全長および切断されたerythropoietinのin vivoでの効果を調べたところ、全長のerythropoietin投与は血中への網状赤血球の放出を促進し、その効果はDpp4欠損マウスで大きかったのに対し、切断されたerythropoietin投与では網状赤血球放出効果は少なかった。以上よりin vivoで、全長のGM-CSFやerythropoietinはHPCs増加促進を示すが、DPP4により切断されたGM-CSFやerythropoietinではそのような効果は示さないことが確認された。

DPP4によって切断されたCSFの作用メカニズム
次に、DPP4によって切断されたCSFsが全長CSFsの活性を阻害するメカニズムについて検討した。TF-1細胞(ヒト赤白血病細胞)は、ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応して増殖し、細胞表面にDPP4を発現している。この細胞をdiprotin Aで前処置しておくと、全長ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応してコロニー形成が促進される。DPP4によって切断されたCSFsは全長CSFsに比べ、TF-1細胞のコロニー形成能促進が少なかった。このTF-1細胞を用いたScatchard解析によって、全長および切断された[I 125]GM-CSFの受容体への結合動態を調べた。その結果、切断されたGM-CSFは全長GM-CSFの受容体への結合と競合し、全長GM-CSFのシグナル伝達(JAK2-STAT5系の活性化)を低減させることが示された。

DPP4はin vivoでストレス後の造血回復を抑制する
DPP4によってサイトカイン活性が低下するため、DPP4を阻害するとサイトカインが活性化され、ストレス(放射線や化学療法)後の造血回復を促進することができると考えられる。Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べて、放射線照射(400 cGy)の後の造血回復が大きかった。細胞傷害性薬剤(5-FUおよびCytoxan)投与後の造血回復も同様にDpp4欠損マウスの方が大きかった。さらに、DPP4阻害剤であるsitagliptin (Januvia)を経口投与すると、投与しなかったマウスに比べ、放射線や5-FU投与後のHPCsの回復が有意に早く、大きく増加した

Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べると、5-FU投与後(または400cGy照射後)の末梢血(白血球、好中球、リンパ球、単球、赤血球)の回復促進も大きかった。ただし、sitagliptinの投与では、Dpp4欠損に比べ、末梢血の回復促進の程度は小さかった。

(なお、in vivoでのDPP4阻害は、機能的HSCsに影響を与えるのかどうかを検討するため、competitive repopulation assayを行った。WTレシピエントマウス(B6.BoyJ CD45.1+)にdirotin Aを皮下投与しておくか、またはF1(CD45.1+CD45.2+)レシピエントマウスにsitagliptinを経口投与し、致死量の放射線照射(950 cGy)を行った。そこ上で、C57BL/6ドナー(CD45.2+)細胞とそれが競合するB6.BoyJ (CD45.1+)細胞を用いてWTマウスの骨髄生着を調べる競合移植実験を行った。その結果、DPP4を阻害した致死量放射線照射レシピエントマウスにおいて、生着は有意に多かった。また、生着した細胞の自己再生能は低下していなかった。すなわち、DPP4阻害によるストレス(ここでは放射線照射)後の回復の増強は、HSC機能(生着、自己再生能)の低下によるものではない。)

(また、in vivoでのDPP4阻害後の生着回復にSDF-1が重要な役割を果たすのではないかと考え、SDF-1受容体(Cxcr4遺伝子)をtamoxifen誘導性に全身的にノックアウトしたマウスを用いた検討を行った。ベースラインでは、Cxcr4-/-マウスの骨髄HPCsの絶対数は、コントロールマウスに比べ有意に少なかった。Sitagliptin投与なしでは5-FU投与7日後のHPCsの回復は、Cxcr4-/-マウスの方が、コントロールマウスより効率的に起こった。しかし、どちらのマウスでもsitagliptin投与によるHPC回復の促進は同様であった。したがって、SDF-1-CXCR4の結合は5-FU投与後の回復を減少させる効果があるが、DPP4阻害の造血回復の促進をもたらす効果に必須というわけではない。)

【結論】
DPP4はCSF作用を抑制する因子である」という今回の発見は、臨床に応用可能なものである。すなわち、放射線照射や化学療法を受けた患者やHSC移植のためのコンディショニング後の患者にDPP4阻害剤を投与すると、造血回復を促進することができ、病院滞在日数減や治療結果の好転をもたらすと考えられる。経口DPP4阻害剤であるsitagliptinは、ヒトの放射線治療や化学療法後の造血回復治療に有用と考えられるが、Dpp4遺伝子欠損と同程度の末梢血の回復をもたらすためには、今後、投与量・タイミング・投与期間を最適化する必要があるだろう。現在、このグループはsitagliptinの経口投与により臍帯血移植の効果が高まるかどうかを検討する臨床試験(pilot study)を始めている。なお、DPP4による切断部位を持つ蛋白は、他にもleukemia inhibitory factor、IL-1α、VEGF-Aのsplice variants、IL-6、thrombopoietinなどさまざまなものがある。そのため、DPP4はマウスES細胞の成長(leukemia inhibitory factor)、炎症(IL-1α)、血管新生(VEGF-A)、骨髄腫細胞の成長(IL-6)、ストレス後の巨核球の増殖・血小板の回復(IL-6およびthrombopoietin)など多くの過程に関与しているのだろう。
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(解説図)
左(化学療法後の造血前駆細胞):DPP4は造血前駆細胞(hematopoietic progenitor cells;HPCs)の表面に発現し、ある種の造血成長因子(ここではhematopoietic growth factor; HGFsと略称している)のN末端2アミノ酸を切断する。切断されたHGFsは、全長HGFsと受容体を競合することによりdominant-negativeに働き、HGFsの作用を阻害する。
右(DPP4阻害剤を添加):DPP4阻害剤は、HGFsの切断を防ぐことによって全長HGFsの受容体への結合を増加させる。これにより、化学療法後の造血回復の抑制を改善することができるかもしれない。
EPO, erythropoietin; TPO, thrombopoietin; HGF-R, hematopoietic growth factor receptor.
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# by md345797 | 2012-11-22 00:31 | その他

標的エストロゲン療法によるメタボリックシンドロームの治療

Targeted estrogen delivery reverses the metabolic syndrome.

Finan B, Yang B, Ottaway N, Stemmer K, Müller TD, Yi CX, Habegger K, Schriever SC, García-Cáceres C, Kabra DG, Hembree J, Holland J, Raver C, Seeley RJ, Hans W, Irmler M, Beckers J, de Angelis MH, Tiano JP, Mauvais-Jarvis F, Perez-Tilve D, Pfluger P, Zhang L, Gelfanov V, Dimarchi RD, Tschöp MH.

Nat Med. 18,1847–1856, 2012. (Published online Nov 11, 2012)

【まとめ】
核内ホルモンとペプチドを結合させた複合体を作製することにより、ある組織にはホルモンを選択的に到達させ、かつ他の組織におけるホルモンの副作用は起こさない、という新たな治療法が可能である。本研究では、メタボリックシンドロームに有効な核内ホルモンであるエストロゲンと、ペプチドであるGLP-1を結合させたGLP-1-エストロゲン複合体を作製して、高脂肪食負荷肥満マウスに投与したところ、個々のホルモン投与以上に体重減少とメタボリックシンドロームの改善効果が認められたことを示す。この複合体は、GLP-1受容体が発現している標的組織のエストロゲン作用を選択的に活性化し、さらにGLP-1自体の代謝改善作用も促進した。この複合体はGLP-1受容体が発現していない子宮や乳腺には到達しないため、エストロゲンの副作用である生殖内分泌毒性や癌の増殖促進作用は起こさなかった。本研究は、「ペプチドを用いて小分子をある組織にのみ選択的に到達させ相乗的効果を狙う」という治療戦略を、メタボリックシンドロームの治療に応用した一例と言える。本研究で報告するGLP-1-エストロゲン複合体は糖尿病や肥満に対する新たな治療法になりうるが、同様の概念で他の疾患の治療に対してもさまざまなペプチドとホルモンを組み合わせた複合体を用いることが可能となるだろう。

【論文内容】
慢性疾患の治療には多剤を用いたアプローチが必要になることが多く、例えば2型糖尿病の場合しばしば、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下に対する薬剤の両方が必要である。このグループは以前、GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方のアゴニストになるペプチドを作製し、高脂肪食負荷マウスの体重と代謝の正常化に有効であることを示したが、本研究では核内受容体ホルモンを用いた多剤アプローチについて報告する。

エストロゲンは、視床下部におけるレプチン様作用によりエネルギー消費と摂食行動を調節して、肥満・2型糖尿病に有用であることが繰り返し示されている。しかし、エストロゲンは生殖内分泌毒性および腫瘍促進作用のために臨床的な応用は限られている。そこで、組織特異的作用を持つ選択的エストロゲン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulators; SERMs)が用いられてきたが、それにも毒性の懸念やメカニズム不明の点がある。本研究では、エストロゲンを選択的にある組織だけに到達させるペプチドを用いた別の方法を報告する。

GLP-1-エストロゲン複合体のin vitro(培養細胞系)における特徴
本研究では、GLP-1とエストロゲンを結合させた2種類の「GLP-1-エストロゲン複合体」を合成した。一つは17β-estradiolへのエーテル結合として、もう一つはestroneの芳香族エステルとして、エストロゲンにGLP-1アナログを共有結合させたものである。結合させたGLP-1アナログは、DPP- IVにより不活性化を受けないものである(2-aminoisobutyric acid置換、exendin-4由来のC末端9残基の付加、エストロゲン結合部位としてのC末端lysine amideの付加による)。このGLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1と同様のGLP-1受容体(GLP-1R)への親和性と生化学活性を持っている。これにより、GLP-1のGLP-1Rへの結合に続く受容体のエンドサイトーシスによって、複合体のエストロゲンを細胞内エストロゲン受容体に輸送することができる。

上記2種類の複合体を、GLP-1Rが発現していないHEK293細胞に添加した。その結果、エーテル複合体は細胞内エストロゲン活性が17β-estradiolの0.005%未満であった。細胞にGLP-1Rが発現していなければ、この複合体は細胞膜を透過せず細胞内受容体を活性化することはないことが分かる。一方、芳香族エステル複合体はestroneと同程度の細胞内エストロゲン活性を持っていた。前者のエーテル複合体はpH 7.4、37℃のヒト血漿中(生理的条件下)で120時間安定なため、「安定型 (stable)GLP-1-エストロゲン複合体」と呼び、芳香族エステル複合体は6時間以内に完全に分解しエストロゲンを放出するので、「不安定型 (labile)GLP-1エストロゲン複合体」と呼ぶことができる。安定型複合体は、GLP-1Rが発現している細胞にのみ取り込まれ、そうでない細胞では細胞膜を透過しない。一方、不安定型複合体は通常のエストロゲンと同様に膜を透過し作用を発揮するため、in vivo投与ではGLP-1Rの発現の有無に関係なく全身の組織にエストロゲン作用をもたらすと考えられる。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はin vivoで体重減少と代謝改善をもたらす
GLP-1-エストロゲン複合体が全身の代謝に及ぼす影響を検討するため、高脂肪食負荷した肥満マウス(オス)に、これらの複合体またはGLP-1のみのコントロールを投与した。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1や不安定型複合体に比べて、用量依存的な体重低下作用がより大きかった。高用量投与(400 μg/kg体重)では、GLP-1はマウスの体重を10.3%低下、不安定型複合体は7.5%低下させたの対し、安定型複合体は23.8%低下させた。すなわち、GLP-1単独よりも、GLP-1-エストロゲン複合体の方が体重減少効果は優れており、それにはエストロゲンとGLP-1の安定な結合が必要と考えられた。この安定型GLP-1-エストロゲン複合体による体重減少は、摂食減少、体脂肪量低下、血漿レプチン濃度低下を伴っていた(レプチン感受性の改善が示唆される)。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、高血糖、インスリン感受性、脂質異常、呼吸商、脂肪肝と肝細胞障害を改善したが、エネルギー消費と運動活性には影響がなかった。これらの安定型複合体による代謝改善は、高脂肪食負荷した肥満のメスのマウスでも同様に認められた。

ここで、細胞内におけるエストロゲン放出が大きければ、もっと大きい代謝改善効果が認められるのではないかと考え、「血漿では安定だが、細胞内ではただちに分解する」複合体を2種類作製した。しかし、これらは安定型複合体より大きな体重低下作用を示さなかった。これにより、血漿中で安定な安定型複合体であっても、細胞内では効率よく分解され、十分量の活性型エストロゲンを標的細胞内に放出することが示唆された。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲンの副作用を示さない
GLP-1-エストロゲン複合体が子宮肥大の副作用を示さないか確認するため、複合体を卵巣摘出(OVX)ラットに投与した。最大用量(4,000 μg/kg体重)でGLP-1単独および安定型複合体では子宮重量は増加しなかったが、不安定型複合体では2.5倍に増加した。不安定型複合体による子宮肥大は、複合体からの遊離エストロゲンの放出による全身の非標的効果(全身エストロゲン治療に伴う毒性)があることを示している。安定型複合体では、エストロゲン放出および血中エストロゲンの増加がなく、この副作用は見られない。さらに、安定型複合体を投与しても、血漿黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度は変化せず、安定型複合体は視床下部-下垂体-性腺系には影響を与えなかった。また、これら複合体が乳腺組織の腫瘍形成に与える影響を調べるため、OVXヌードマウスにおけるエストロゲン依存性MCF-7(ヒト乳癌細胞株)異種移植片の増殖を検討した。移植21日間で、estradiolおよび不安定型エストロゲン複合体は腫瘍の増殖を起こしたが、安定型複合体は腫瘍の増殖を起こさなかった。いずれの群でも注入した腫瘍細胞はin vivoで生存したが、安定型複合体を投与した群は他の2群より腫瘍サイズは小さかった。移植68日にはestradiol投与群と不安定型複合体投与群での乳癌発症率は100%だったのに対し、安定型複合体の投与群では30%にとどまり、腫瘍のサイズも小さかった。このように、安定型複合体はエストロゲンによる生殖内分泌毒性と発癌性の副作用を防止できることが示された。

さらに、エストロゲンによる骨密度への副作用を骨量測定により評価した。不安定型複合体を投与したマウスでのみ、peripheral quantitative computed tomography (pQCT)で大腿骨骨幹端と骨幹の皮質と皮質下の骨量の増加が見られた。骨はGLP-1Rの発現がきわめて少ないので、骨には安定型GLP-1-エストロゲン複合体は作用せず、骨に対する副作用が回避されていることが分かる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は中枢神経系のGLP-1受容体活性化依存的に起こる
次に、これらの複合体の効果におけるGLP-1の役割について検討するため、アミノ酸を一部置換した「活性低下型」GLP-1アナログとエストロゲンの複合体を作製し、高脂肪食負荷肥満マウスに投与した。「安定型・活性低下GLP-1複合体」は最大用量投与(4,000 μg)で5.1%の体重減少を起こしたが、これは「安定型・活性型GLP-1複合体」よりもはるかに効果が弱い。一方、「不安定型・活性低下GLP-1複合体」では20.6%の体重減少をきたし、これは血中への遊離エストロゲン放出によるものと考えられた。これに伴い、摂食減少と血漿脂質の改善が認められたが、子宮肥大と肝細胞障害の副作用が起きた。活性低下GLP-1と安定結合したエストロゲンでも体重減少は起こるものの、その効果は少なかった。ただ、GLP-1と安定結合させたための標的効果によって副作用が回避されることが示された。

次に、中枢神経系特異的なGLP-1R欠損 (nestin-Cre Glp1r−/−)マウスに高脂肪食を負荷し、安定型GLP-1-エストロゲン複合体投与の効果が見られるかを検討した。GLP-1のみの投与では野生型(WT)マウスで3.6%の体重減少があったが、同じ用量(400 μg/kg体重)の安定型複合体投与で8.5%の体重減少が認められた。しかし、中枢神経系特異的GLP-1R欠損マウスでは、GLP-1でも安定型複合体でも体重減少、摂食低下、代謝改善は認められなかった。WTマウスに安定型複合体を投与すると、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ、視床下部弓状核のproopiomelanocortin (POMC)とレプチン受容体の発現が増加した。エストロゲンの投与ではneuropeptide Y (NPY)の発現が減少したが、安定型複合体の投与では減少しなかった。すなわち、GLP-1による標的効果でエストロゲンを視床下部POMCニューロンに到達させることによって、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ代謝がより改善されることが示唆された。

GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲン受容体も介して代謝改善を起こす
エストロゲン受容体のあるINS-1E細胞(マウス膵β細胞株)をGLP-1で刺激しても、Trim25遺伝子(エストロゲンで発現が誘導される遺伝子)の発現は増加しないが、estradiolで刺激すると濃度依存的に発現が増加する。この細胞を安定型複合体で刺激した際も、(やや低値ながら)同様のTrim25遺伝子発現増加が見られた。In vivoで、安定型複合体を高脂肪食負荷肥満マウスに投与すると、視床下部のTrim25発現が増加し(1.75倍)、これは不安定型複合体投与(1.36倍)の場合よりもやや多かった。このような安定型複合体によるTrim25の発現はGLP-1Rを発現している視床下部弓状核で見られたが、GLP-1Rを発現していない肝ではみられなかった。

さらにこれらの複合体の作用におけるエストロゲン受容体(ERα、ERβ)の必要性を調べるため、安定型複合体を高脂肪食負荷したWT、ERα欠損(Esr1−/−)、ERβ欠損(Esr2−/−)の各マウスに投与した。WTマウスでは、GLP-1のみまたは安定型複合体の投与により体重がそれぞれ10%、23.6%減少したが、ERα欠損マウス(GLP-1で10.2%、安定型複合体で15.9%)とERβ欠損マウス(GLP-1で9.9%、安定型複合体で14.5%)では、安定型複合体による体重減少の程度が少なかった(GLP-1による体重減少の程度は同じ)。以上より、安定型複合体の投与では、GLP-1作用とエストロゲンシグナル伝達(ERαとERβの両方必要)が協調して全身の代謝を改善していると考えられる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態(pharmacokinetics)の変化によるものではない
上記のGLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態が促進されているために起きているという可能性もありうる(エストロゲンというステロイドと複合体を形成しているために、GLP-1と血漿蛋白との結合が増加する可能性)。血漿蛋白と結合しても(20%ヒト血漿存在下)、結合しなくても(血漿のない状態)でも、GLP-1と安定型複合体とでは、in vitroでのGLP-1Rへの親和性は同じであった。ところが、エストロゲンの代わりにpalmitoyl鎖を付加したアシル化GLP-1アナログでは、血漿蛋白が存在すると、GLP-1Rへの結合は存在しない状態の約400分の1に減少した。すなわち、エストロゲン付加によりGLP-1の血漿蛋白結合能には影響がないことが分かった。

GLP-1へのエストロゲン付加はin vivoにおいてもGLP-1の薬物動態に影響していないことを調べるため、正常マウスに安定型複合体またはGLP-1をそれぞれ単回注射し、GLP-1の血中濃度を測定した。その結果、GLP-1に比べ安定型複合体は、最大濃度(Cmax)がやや大きかったが、最大濃度到達時間(Tmax)と半減期(T1/2)、8時間で消失するといった薬物動態は同様であった。すなわち、GLP-1にエストロゲンを付加しても、in vivoでGLP-1の初期の濃度はやや上昇するが、GLP-1のクリアランスには影響しないことが分かった。さらに、安定型複合体と前述のアシル化GLP-1アナログとGLP-1-リトコール酸複合体でin vivoでの効果を比較した(リトコール酸は脂溶性のためGLP-1の薬物動態にエストロゲンと同様の効果をもたらすが、エストロゲンのような代謝活性はない)。大きい方から、アシル化GLP-1、安定型複合体、GLP-1-リトコール酸複合体の順に体重減少効果が見られた(それぞれ30.2% 、22.1%、13.1%の体重減少)。GLP-1-リトコール酸複合体による体重減少は、GLP-1のみの効果と同様であった。

さらに、エストロゲン複合体の代謝効果はエストロゲンを「GLP-1と結合させたことによる」ものであることを示すため、エストロゲンとGIPまたはエストロゲンとグルカゴンを結合した複合体を作製し、高脂肪食負荷マウスに投与した。その結果、GIP-エストロゲン複合体ではGLP-1-エストロゲン複合体で見られたような体重減少と代謝改善効果は見られなかった。グルカゴン-エストロゲン複合体では体重減少は見られなかったものの、血糖は15.5%低下した(この血糖低下はコントロールのGLP-1のみの投与と同程度)。グルカゴンのみの投与では血糖は上昇するが、グルカゴン-エストロゲン複合体投与で血糖が低下した原因は不明。エストロゲンにより肝にこの複合体が到達し、グルカゴンによる肝の糖新生を抑制したためか、と推測している。

以上の結果より、「GLP-1とエストロゲン」の組み合わせは、GLP-1の薬物動態を変えたり、GLP-1に対するsuperagonist(内因性アゴニストであるGLP-1以上にGLP-1Rを刺激するアゴニスト)として働くわけではないが、薬理学的な長所を発揮する組み合わせと考えられた。

【結論】
本研究では、メタボリックシンドロームの治療に有効と思われるエストロゲンを選択的に標的臓器に届けるために、薬物シャペロン(medicinal chaperone)としてGLP-1を結合させ、選択的でより効果の強いGLP-1-エストロゲン複合体を作製した。これにより、エストロゲンの高濃度全身投与に伴う副作用(子宮肥大や乳癌の発生)も避けることができた。また、GLP-1の食欲抑制作用とエストロゲンのレプチン様作用により、中枢を介して(おそらく視床下部弓状核のGLP-1Rとエストロゲン受容体を発現したPOMCニューロンを介する摂食抑制により)、強力にな体重減少が達成できた。また、GLP-1は膵β細胞に対する増殖促進作用、エストロゲンは膵β細胞のアポトーシス抑制作用を持つため、このGLP-1-エストロゲン複合体は2型糖尿病治療にも有効であろう。

この安定型GLP-1-エストロゲン複合体は細胞内でエストロゲン作用を起こすため、血漿中では結合が切断されないが細胞内で切断されると考えられる。すなわち、抗体と化学療法剤を結合させた薬剤と同じように、特定の細胞に作用し細胞内で結合が切断されることにより効果を発揮すると考えられる(例としてtrastuzumab emtansine、略称T-DM1、転移性乳癌に過剰発現するHER2に対するモノクローナル抗体トラスツズマブと化学療法剤DM1をリンカーで結合した複合体がある)。以上、本論文では、「ペプチドと核内ホルモンを結合させて相乗的に作用させることにより、特定の細胞に選択的に核内ホルモンを送る」という新しい代謝疾患の治療法の概念を報告した。このような概念により、甲状腺ホルモンを視床下部に選択的に送ることにより褐色脂肪組織での熱産生を刺激することができるかもしれないし、肥満は視床下部の炎症を伴うことから、グルココルチコイドを視床下部(や脂肪組織)に選択的に送ることによりその抗炎症作用を介して肥満を改善することが可能になるかもしれない。
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# by md345797 | 2012-11-17 04:36 | その他

腸内細菌叢の組成と活性は、宿主の代謝形質と疾患リスクに関連する

Gut microbiota composition and activity in relation to host metabolic phenotype and disease risk.

Holmes E, Li JV, Marchesi JR, Nicholson JK.

Cell Metab. 16, 559-564, 7 November 2012.

【総説内容】
ヒポクラテスは「すべての病気は腸に始まる」と言ったが、近年、哺乳類宿主とその腸内細菌叢(microbiota)との共生関係が、宿主のエネルギー摂取・免疫機能・代謝シグナルなどに大きく関与していることが分かってきた。最近の培養によらないゲノム解析法により腸内細菌叢の特徴が明らかになり、腸内細菌叢のゲノム(microbiome)はヒト宿主のゲノムより少なくとも150倍は大きいことが明らかになっている。これらの知見に基づいて、「ヒトは、その腸内細菌叢が事実上主要な臓器の一つとして働いているsuperorganism(超個体)である」という概念が生まれ、生物学や医学のパラダイムシフトをもたらしつつある。

細菌叢が個体の形質に及ぼす影響
乳児は、母親の産道経由で母親の細菌叢の一部を移植される。この初期の「種」となる細菌叢は、無数の環境因子、遺伝的因子、エピジェネティックな因子によって調節・変更され、その人の特有な細菌状態を形成する。Microbiomeの多様性は、体の部位、個人間、年齢、食事などによっても変化し、また時間的にも変化する。個人間の細菌構成の多様性は驚くほど大きいが、それが宿主に同じような作用を及ぼす(表現型模写; phenocopy)ということも分かっている。

健康と疾患における腸内細菌叢の役割
健康な細菌叢はどのように構成されているのか?これについては分かっていないことが多いが、最もよく知られている「哺乳類-細菌相互作用」は粘膜免疫系である。免疫系の適切な発達には細菌叢の存在が不可欠であり、無菌動物ではリンパ組織やT細胞・B細胞サブセットの異常が起こることが知られている。また、細菌叢はToll-like receptors (TLRs)を介して先天的免疫系に影響を及ぼしている。TLR2とTLR4はそれぞれ、リポポリサッカライドとペプチドグリカンを認識し、病原菌から身を守るためのサイトカインやケモカインの産生を刺激する。また、TLR2欠損マウスはインスリ抵抗性であり、このインスリン抵抗性はFirmicutesの増加を伴い、抗生剤投与で改善する。興味深いことに無菌のTLR2欠損マウスはインスリン抵抗性をきたさない。なお、粘膜層のTLRsの役割は病原菌を同定し除去することであるが、共生菌であるBacteroides fragilisはregulatory T細胞上でTLR2を介して認識されることにより粘膜に定着している。すなわち、粘膜のTLRsは宿主にとっての共生菌と病原菌を区別できるのだろう。

宿主と細菌叢との間には、免疫系だけでなく、胆汁酸、短鎖脂肪酸(SCFAs)、コリン分解産物、芳香族酸、植物フェノール、炎症性脂質、エンドカンナビノイドなどの代謝産物(metabolites)による情報伝達が存在する(図のA)。これらは、発達段階や環境によって大きく変化し、同じ個体でも時間的、局所解剖学的な状況により、宿主に良い影響も悪い影響も与えうる。

多くの疾患(Crohn病、大腸癌、糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患、ストレス、不安、食物アレルギー、喘息、自閉症、肝性脳症、湿疹など)が、腸のmicrobiomeの機能異常によって発症しうることが分かっている。特に、肥満と正常を比較すると腸内細菌組成が異なり、肥満ではFirmicutes:Bacteroidetes比が増加していることが指摘されている。ただしこれに当てはまらない結果もあり、肥満と腸内細菌叢の関係はより複雑と思われる。また、高脂肪食を負荷したC57Bl/6マウスは、同じ系統で同じ食餌を与えても腸内細菌叢の違いによって糖尿病形質を示すものと示さないものがあることも分かっている。肥満には細菌による代謝産物が関与している可能性もあり、馬尿酸、フェニルアセチルグルタミンなどの代謝産物は、やせ型の形質に関与するという結果もある。過体重の母親から生まれた6か月までの乳児は、妊娠中の体重増加によりBacteroides種、Staphylococcus種、Clostridium difficileの数が多くなっていることも知られている。このような研究が進めば、腸内細菌の多様性と肥満・メタボリックシンドロームとの関連が理解され、そのバイオマーカーの同定や治療の開発につながるだろう。

腸内細菌叢の機能的メタゲノミクス
Microbiomeの組成を同定するためのハイスループットシークエンス法の発達に伴って、microbiomeの機能を知るための新しい方法が求められている。つまり、どんな細菌が「存在するか」ではなく、どんな細菌が「働いているか(=宿主の代謝に影響しているか)」が重要なわけである。しかし、「宿主にある影響を及ぼすためにはその細菌の作用がどれくらいあればいいか」ということも分かっていない。肥満の状態の細菌組成を明らかにするために、ゲノム多様性のマーカーとして16S rRNA遺伝子が用いられているが、腸内細菌叢の機能を明らかにするもう一つの方法は、宿主の体液や組織をスクリーニングしてその中の細菌由来の代謝産物 (尿中馬尿酸、フェニルアセチルグルタミン、4-クレシルスルフェート、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸など)を分析する方法であり、代謝プロファイリングのための高分解能スペクトロスコピー法が用いられる。

「エンテロタイプ」の概念:ヒトの細菌組成による層別化の試み
疾患のメカニズムとその遺伝的変異を理解するために、ゲノムワイド関連解析(GWAS)に基づいてヒト集団を異なる遺伝子型(genotype)のグループに層別化することが行われてきた。それと同じく、大腸の細菌構成に基づく層別化が提唱されている。腸内細菌叢の類似性に基づいてバイオインフォマティクスを用いたクラスタリングを行い、ヒト集団を3群に分けた「エンテロタイプ」である。これによるとヒト集団は、Bacteroides種、Prevotella種、Ruminococcus種の各群(clade)に分類され、これは個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる。その後の研究で、Ruminococcus種はなく、残りの2つエンテロタイプの存在のみが強く示唆されている。この研究では、高脂肪食・低脂肪食負荷により、microbiomeは24時間以内に変化するものの、10日以上たってもエンテロタイプは10日以上たっても変化しなかった。このエンテロタイプの概念は魅力的な仮説であるが、エンテロタイプが個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる当初の知見を支持しない報告もある(例えばYatsunenkoら、およびClaessonら)。ところで、このようなエンテロタイプは代謝形質(メタボタイプ)にどのように影響し、疾患リスクや治療介入に有用なのか?腸内細菌叢は宿主のメタボロームに影響を及ぼすことは明らかになっているので、「腸内細菌の層別化によって、同じように代謝産物のプールも層別化できるのか」と考えられた。しかし現時点では、尿・便のメタボロームの腸内細菌の層別化に対応するような腸内細菌の層別化は明らかになっていない。また、エンテロタイプとメタボタイプの関連が示されていないため、エンテロタイプは、生物学的・バイオインフォマティクス的に有意な概念なのかという疑問も生じている。2つのエンテロタイプ(BacteroidesPrevotella)に属する細菌の分類学的解析によって、これらの種は属(genus)レベルの群(clade)に分けられることが明らかになっている(図のB)。しかし、この2つの属をそれらの機能によってクラスター化すると、連続しオーバーラップするグループになってしまう(図のC:主因子分析によってクラスター化すると、BacteroidesもPrevotellaもcluster 1に含まれてしまう。なお、cluster 2はEnterobacteriaceae、cluster 3はFirmicutes、Ruminococcui、Acinetobactreriaを含む)。つまり、2つのエンテロタイプは、宿主に対する機能としてはオーバーラップするところがあり、異なる2つのメタボタイプに当てはまるわけではない。そこで、腸内細菌叢がどれだけ変化すれば宿主のメタボタイプを変化させることができるのかを知る必要性が出てくる。実際、食事、抗生剤、プレ/プロバイオティクス、薬剤、外科手術などにより腸内細菌叢を変化させると、例えば、Roux-en-Y胃バイパス(RYGB)により腸内細菌叢をBacterodetes/Firmicutesを主とする集団からEnterobacteriaceaeを主とする集団に変化させると、これは宿主のメタボタイプの変化につながることが知られている。このRYGBように急激な変化であれば、腸内細菌の劇的な変化を伴うため宿主のメタボロームに影響するが、実際の肥満やインスリン抵抗性への進展は持続的でわずかずつゆっくりであると考えられるので、肥満やインスリン抵抗性はエンテロタイプの概念だけでは説明できないかもしれない。

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腸のmicrobiomeは食事によって変化する
Microbiomeの食事により、また、プレバイオティクス(=有益な細菌の成長を促進する物質)やプロバイオティクス(=宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物)の投与により大きく変化することが報告されてきた。ただしこれらの研究は、臨床研究のデザインやガイドライン、対象人数などの点でまだまだ大きな欠陥があり、さらなる検討が必要である。このうち食習慣は、宿主の細菌集団と機能に影響を及ぼし、それが疾患リスクや発症につながることは明らかで、例えばマラウイ(アフリカ南東部の国)人とアメリカ先住民の子供の細菌叢は、アメリカ人の子供の細菌叢よりよく似ていることが報告されている。また、食事中のコリンの欠乏により腸内細菌(GammaproteobacteriaErysipelotrichi)の量が変化し、脂肪肝につながることが知られている。逆に、コリンまたはtrimethylamine-N-oxideを補充した食事をマウスに投与すると、血中trimethylamine-N-oxide濃度が増加し、マウスの動脈硬化が促進されるが、このマウスの腸内細菌叢を抑制しておくと促進されなくなる。これらの結果は、腸内細菌叢と食事と宿主の代謝という三者関係の重要性を示すものだろう。さらに、鉄欠乏ラットはLactobacilliEnterobacteriaceaeが増加、酪酸産生菌であるRoseburia種が減少しており、これに伴って便中の短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸)が減少している。これらの報告はあるものの、腸内細菌叢と宿主の関係はきわめて複雑巧妙であり、この平衡状態を理解して個人の治療介入に用いるためには、何らかのシステム生物学的アプローチが必要になるだろう。

腸内細菌叢と宿主代謝の関係をもとにしたトランスレーショナルな治療
腸内細菌叢と宿主代謝の関連が明らかになれば、さまざまな疾患(肥満、炎症性腸疾患、心血管疾患、さらには自閉症などの神経行動異常)への治療介入に有効な手段となるだろう。成長に伴うmicrobiomeと宿主代謝の関係の変化を知ることにより、若年のうちに成人の疾患を予防することができるようになるかもしれない。Microbiomeをターゲットとする治療は、プレバイオティクス、プロバイオティクスおよびその両方(シンバイオティクス)を用いて、わずかな、また一時的なmicrobiomeの変化をもたらす方法から、便の移植、細菌療法といったもっと劇的にmicrobiomeを変化させる方法(Clostridium difficile感染による潰瘍性大腸炎の治療に便移植が有効であることを示した研究がその代表)までさまざまである。Microbiomeは、宿主の代謝調節を変化させるための薬剤ターゲットになりうるが、まずは個人の細菌組成の多様性がどのようにその個人の代謝形質に影響しているのかを知る必要がある。Microbiome研究は、21世紀のヘルスケアの枠組みにおいて、ヒトの疾患の原因と治療を理解するための史上例を見ないトランスレーショナルな価値を持つ研究であろう。
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# by md345797 | 2012-11-14 18:30 | その他

MitoNEETによる脂肪細胞ミトコンドリア機能の調節は、肥満におけるインスリン感受性維持に重要

MitoNEET-driven alterations in adipocyte mitochondrial activity reveal a crucial adaptive process that preserves insulin sensitivity in obesity.

Kusminski CM, Holland WL, Sun K, Park J, Spurgin SB, Lin Y, Askew GR, Simcox JA, McClain DA, Li C, Scherer PE.

Nat Med. 2012 Sep 9;18(10):1539-49.

【まとめ】
ミトコンドリア外膜に存在する蛋白であるmitoNEETの脂肪細胞における発現を変化させたモデルマウスを用いて、ミトコンドリア機能と代謝への影響を検討した。脂肪細胞特異的にmitoNEETを過剰発現させたところ、脂質の取り込みと貯蔵が促進され、脂肪組織量が増加した。そのマウスは結果的に肥満にはなるが、インスリン感受性は保たれた。鉄はミトコンドリア電子伝達系の律速因子であるが、mitoNEETはミトコンドリアのマトリックスへの鉄輸送を阻害すること、β酸化率を低下させることを明らかにした。これによりミトコンドリア膜電位が低下、活性酸素種による障害が減少し、これに伴ってadiponectin産生が増加した。逆に、mitoNEET発現を減少させたマウスでは、ミトコンドリアマトリックス内の鉄の量が増加してミトコンドリア呼吸能が促進され、高脂肪食負荷しても体重減少が少なかった。しかし、このmitoNEET発現の減少は酸化ストレスの亢進と耐糖能障害をもたらした。以上の結果より、mitoNEETの発現を変えることによってミトコンドリア機能を変化させると、細胞および全身の脂質恒常性が大きく影響されることが明らかになった。

【論文内容】
正常な脂肪組織は、他の組織では毒性をもつ遊離脂肪酸(FFAs)を貯蔵しておく「safe haven(安全な避難先)」として、糖尿病を防ぐ役割を担っている。脂肪細胞から分泌されるadiponectinは(インスリン抵抗性改善作用のほかに)、トリグリセリドを脂肪組織に貯蔵する働きがあり、それにより代謝を改善させる。脂肪組織ではミトコンドリアでのβ酸化によって脂質の酸化が起きているため、ミトコンドリア機能(β酸化率、酸化酵素活性、電子伝達系(ETC))の低下は2型糖尿病につながりうる。この研究では、ミトコンドリア膜蛋白であるmitoNEETのgain-of-functionおよびloss-of-functionモデルを用いて、ミトコンドリア機能と全身の代謝の関連について検討した。MitoNEETはpioglitazioneとクロスリンクして安定化するミトコンドリア膜の蛋白として同定された。ミトコンドリア外膜に存在し、C末端配列がAsnGluGluThr(NEET)であるため、この名称がある。また、2つの鉄イオンと硫黄イオンを含むクラスター(2Fe-2S cluster)を持ち、pioglitazoneはこれらの放出に対して蛋白を安定化する作用がある。MitoNEETはミトコンドリアの鉄の含量の強力な調節因子であり、ミトコンドリア鉄含量は細胞および全身の代謝に影響することが知られている。

MitoNEETは脂肪組織の増大を促進する
d0194774_12125815.pngマウスに高脂肪食負荷すると、脂肪組織と肝臓におけるmitoNEETの発現は低下した。そこで、脂肪組織におけるmitoNEET活性を増加させるため、aP2 promotorを用いて、脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現トランスジェニックマウス(MitoN-Tgマウス)を作製した。これをob/obマウスと交配したMitoN-Tg ob/obマウスは、体重が非常に増加した(最大で129.5g)。しかし、通常のob/obマウスが高血糖(474±26 mg/dl)なのに対し、Mito-N ob/obマウスは正常血糖(111±14 mg/dl)であった。MitoN-Tg ob/obマウスは、OGTTで正常耐糖能、高インスリン正常血糖クランプで全身および肝のインスリン感受性亢進を示した。MitoN-Tg ob/obマウスは肝・脂肪組織・膵への脂肪蓄積が少なく、膵島の数や形態も野生型(WT)マウスと同様であった。インスリン抵抗性に関与しているとされるceramideの肝における濃度は、MitoN-Tg ob/obマウスは通常のob/obマウスより低く、20%intralipid経口投与後の脂肪組織中の過酸化脂質(F2-isoprostane)濃度も低かった。

MitoNEETは脂質の取り込みとadiponectin産生を促進する
MitoNEET過剰発現により、脂肪分化・トリグリセリド合成・脂肪滴関連蛋白合成・脂肪酸取り込みと輸送・グルコース取り込みの経路で遺伝子発現の変化が認められた。特に、WTの皮下白色脂肪組織(sWAT)に比べると、MitoN-TgのsWATでは、 adiponectinおよびPpargc1a(PGC1)αの発現が増加していた。また、脂肪酸トランスポーターCd36の発現も亢進しており、経口脂質負荷後のトリグリセリドのクリアランスが有意に増加していた。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べて血中adiponectinが高値であり、mitoNEETがadiponectin産生と放出に関連していること分かった。MitoN-Tg Adiponectin欠損マウスではトリグリセリドのクリアランスが増加しなかったため、mitoNEETによるトリグリセリドのクリアランス増加の一部は、adiponectinの増加によるものと考えられた。通常、トリグリセリドは、カテコラミン刺激によりFFAとグリセロールに分解される。β3-adrenergic agonist(CL316,243)を投与すると、MitoN-TgマウスはWTに比べ多くのグリセロールを放出した。また、MitoN-TgのsWATではPepck発現が著明に亢進しており、グリセロール合成が促進されていた。LPL(lipoprotein lipase)は、トリグリセリドのクリアランスを調節する重要な作用があるが、MitoN-TgのsWATは、WTに比べてLPL活性が亢進していた。

MitoNEETを介する脂肪酸代謝の調節
さらに脂肪酸代謝について検討するため、MitoN-TgマウスとWTマウスに3H-trioleinトレーサーを投与して、脂質蓄積とβ酸化率を定量する実験を行った。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べ、全身の3H-trioleinクリアランスが亢進していた。MitoNEETの主要な発現部位であるsWATおよび、その他の発現部位であるBATにおいて、MitoN-Tgマウスのβ酸化率は亢進していた。また、MitoN-TgのsWATではWTのsWATに比べて、脂肪細胞が小さく、インスリン抵抗性につながる肥大した脂肪細胞は少ないことが分かった。

MitoNEETはミトコンドリア機能と鉄量を調節する
MitoNEETは鉄・硫黄クラスター輸送蛋白であり、ミトコンドリアの鉄代謝に関わっている。実際に、mitoNEET過剰発現によって、sWATのミトコンドリアの鉄(電子伝達系の律速因子)の量は50%程度にまで減少してしまう。mitoNEETがどのようにβ酸化を低下させ、脂質蓄積を促進するかを検討するため、3T3-L1脂肪前駆細胞にmitoNEETを過剰発現したところミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)は低下した。同様のΔΨmの低下はTZDの投与でも起こった。このmitoNEETによるΔΨmの低下は、mitoNEET 発現増加による電子伝達系活性の低下・ミトコンドリアへの不十分な基質供給・ミトコンドリアマトリックスへの電子流入の増加によると考えられた。さらに、ミトコンドリア機能の評価として以前報告した電子流入解析と酸素消費率(OCRs)を測定したところ、MitoN-TgマウスのsWATは基質に反応したOCRsが著明に低下していたが、rotenone(complex I阻害剤、ROSによる酸化ストレスを亢進させる)に反応するOCRsは増加していた。さらに、MitoN-TgのsWATはNAD+:NADH比が低下しており、NADHのETCによる再酸化が不十分、またはmitoNEETはβ酸化の低下を代償するため解糖率(NADH産生過程)が亢進させていると考えられた。

MitoN-TgとWTマウスに20%intralipidを経口投与し、脂質によるROS産生が亢進している状態にしても、MitoN-TgのsWATではROSによる過酸化脂質(F2-isoprostane)産生が少なかった。電顕でミトコンドリア像を比較すると、MitoN-TgのsWATのミトコンドリアは伸長され、長いフィラメント構造を呈し、脂肪滴様構造が隣接していた(運動した骨格筋でみられるような現象である)。また、脂肪組織中のミトコンドリアの量も多く、ミトコンドリア生合成が増加していると考えられ、これはMitoN-TgのsWATでPgc1-αのmRNAが増加していることと一致していた。

MitoNEET発現低下は正反対の効果をもたらす

次に、doxycycline(Dox)誘導性にmitoNEET発現をshRNAノックダウンするマウス(shRNA-mitoNマウス)を作製し、全身でmitoNEETの発現を低下させるモデルを作製した。このマウスにDoxを含む高脂肪食(Dox-HFD)を負荷したところ、WTマウスに比べ体重増加が少ないものの、耐糖能は悪化していた。shRNA-mitoNマウスは、肝におけるROS誘導性の蛋白傷害(カルボニル化)が増加していた。Dox-HFD負荷shRNA-mitoNマウスは、肝への脂肪蓄積が少なかった(局所でのβ酸化の増加による)。また、Doxを添加したshRNA-mitoNマウスのMEFs1は、ΔΨmが増加(TMRM染色が増加)し、パルミチン酸に反応したOCRsが増加(β酸化が亢進)していた。さらに、shRNA-mitoNマウスの肝のミトコンドリアは基質に対するOCRsが増加していた。以上のloss-of-functionマウスの特徴はgain-of-functionマウスの形質と正反対であったため、mitoNEET発現量によりミトコンドリア活性が調節されていることが示された。なお、shRNA-mitoNマウスはWTマウスに比べてミトコンドリア鉄の濃度が高く、このこともmitoNEETがミトコンドリア鉄含量の重要な調節因子であることを示している。

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【結論】
MitoNEETの発現量を変更することにより、ミトコンドリア機能と脂質恒常性を変化させ、全身のインスリン感受性を調節することができた。脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現では、β酸化の低下により著明な肥満マウス(mitoN-Tg ob/obマウス:報告されているマウスモデルのうち最大かそれ以上の重量を示した)となったが、それにもかかわらず全身のインスリン感受性は亢進している、いわゆる「metabolically healthy but obese」の状態を示した。これは、MitoN-Tgでは脂肪細胞のミトコンドリアにおけるβ酸化の低下により、sWATへの脂肪取り込みと蓄積が亢進して異所性脂肪が減少したためと考えられる。また、脂肪細胞のミトコンドリア機能はadiponectin産生に重要なので、このマウスではadiponectin分泌により、トリグリセリドクリアランスとインスリン感受性の亢進をもたらしたと考えられる。
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# by md345797 | 2012-11-01 02:40 | エネルギー代謝

Resveratrol補充により、正常耐糖能女性の代謝機能は改善しなかった

Resveratrol supplementation does not improve metabolic function in nonobese women with normal glucose tolerance.

Yoshino J, Conte C, Fontana L, Mittendorfer B, Imai S, Schechtman KB, Gu C, Kunz I, Fanelli FR, Patterson BW,Klein S.

Cell Metab. Published online October 25, 2012.


【まとめ】
Resveratrolは、代謝異常のマウスおよびヒトで代謝を改善することが報告されているが、正常耐糖能の非肥満者の研究はなされていない。そこで、非肥満・閉経後の正常耐糖能女性に対する、12週間のresveratrol 投与(75 mg/day)のランダム化二重盲検プラセボ比較試験を行った。その結果、resveratrol投与により、体組成、安静時代謝率、血漿脂質、炎症性マーカーは変化しなかった。安定アイソトープラベルトレーサー注入を行う2段階高インスリン正常血糖クランプを行ったところ、resveratrolにより肝・筋肉・脂肪組織でのインスリン感受性は増加しなかった。同様に、resveratrolにより骨格筋や脂肪組織でのSIRT1NAMPTPPARGC1Aの発現、AMPKのリン酸化に影響は見られなかった。以上より、非肥満、閉経後の正常耐糖能女性では、resveratrol投与の代謝に対する有効性は認められなかった。

【論文内容】
天然ポリフェノールであるresveratrolは、カロリー制限と同様の代謝改善効果をもたらすとされている。そのため、resveratrolサプリメントの売り上げは、米国だけでも年間3000万ドルに達しているという。現在までのデータは、高脂肪食による肥満モデルマウスにおいて、resveratrolがインスリン抵抗性や脂質を改善、炎症や酸化ストレスを抑制し、寿命を延長するというものであった。それに対し、正常マウスでは、インスリン抵抗性や脂質、寿命はresveratrolによってさらに改善されることはないことが報告されている。最近、肥満の2型糖尿病または耐糖能異常患者にresveratrolを投与するとインスリン感受性とミトコンドリア機能が改善し、炎症が抑制されることが示されたが、一般の非肥満の正常耐糖能者で同様の効果があるかは分かっていない。そこで、非肥満(正常および過体重)女性を対象に、12週間resveratrol(75mg/日)を補充するランダム化二重盲検プラセボ比較試験を行った。

Resveratrol投与による副作用はなかった
Resveratrol補充を受けた群(n =15; 58.2 ± 4.0歳)とプラセボ服用群(n = 14; 59.8 ± 4.3歳)のベースラインの特徴は同じであった。Resveratrol服用による副作用は認めず、resveratrol群で血中のresveratrolおよびdihydroresveratrolの値が上昇していた(プラセボ群ではいずれも認めず)。

Resveratrol補充は、体組成、代謝指標、インスリン感受性に影響なかった
Resveratrol補充の12週後の体重、体組成(脂肪量、除脂肪体重、腹腔内脂肪量、肝内トリグリセリド量)に変化なく、血漿グルコース、インスリン、脂質、adiponectin、leptin、炎症性マーカー(CRP、IL-6)、HOMA-IR、安静時代謝率も変化がなかった。より厳密にインスリン感受性を評価するため、高インスリン正常血糖クランプを行った、resveratrol投与により、肝(インスリンによる糖産生抑制)、脂肪組織(インスリンによるパルミチン酸放出抑制)、骨格筋(インスリンによる糖の消失率)に差はなく、インスリンリン感受性の改善は認めなかった。


Resveratrol補充は、代謝に有効な分子の変化をもたらさなかった
動物実験によると、resveratrolの効果は、AMPK、NAD+生合成、SIRT1(NAD+-dependent protein deacetylase)、PGC1α(PPARGC1A)、Ucp3発現増加によるミトコンドリア生合成の増加、という経路を介していることが知られている。さらにresveratrolによってSIRT1、NAMPT(nicotinamide phosphoribosyltransferase、NAD+合成酵素)、PPARGC1A、UCP3の発現が増加する。ところが、この研究で骨格筋と脂肪組織でのこれらの発現を調べたところ、いずれもresveratrol投与により変化はなかった。さらにマイクロアレイにより、resveratrolで影響を受ける経路を検討するため、骨格筋・脂肪組織サンプルでマイクロアレイを用いたgene set enrichment analysis (GSEA)を行った。しかし、resveratrolはミトコンドリア機能、炎症、AMPK経路の遺伝子発現には変化を与えず、骨格筋において2つの経路(KINESIN_COMPLEX, false discovery rate [FDR] = 0.015; UBIQUITIN_LIGASE_COMPLEX, FDR = 0.216)に影響したのみであった。さらに、resveratrolは、骨格筋のAMPKのリン酸化やその経路に影響を与えなかった。

【結論】
Resveratrolは、肥満や代謝異常のヒトにおいてのみ代謝状態を改善するが、非肥満・正常耐糖能の女性には効果はなかった。
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# by md345797 | 2012-10-26 17:41 | エネルギー代謝

人工多能性幹細胞 (iPS細胞)の過去・現在・未来

Induced pluripotent stem cells: past, present, and future.

Yamanaka S.

Cell Stem Cell. 2012 Jun 14;10(6):678-84.

【総説内容】
2006年、マウス線維芽細胞に同時に4つの遺伝子を導入することで、ES細胞(ESC)と同じ特性をもつ幹細胞を作製しiPS細胞(iPCs)と名付けた。2007年には、同様のアプローチ法でヒト線維芽細胞からヒトiPSCsを作製、同日、James Thomsonのグループから異なる因子の組み合わせを用いたヒトiPSCの作製が報告された。

iPSCs作製につながる3つの流れの合流

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第1の流れは、核移植によるリプログラミング(細胞の「初期化」)であり、1962年にJohn Gurdonがカエルの未受精卵に成体の腸細胞の核を移植することによって幼生(オタマジャクシ)を作製したことに始まる。30年以上後になって、Ian Wilmutは乳腺上皮細胞を用いた体細胞クローニングによって、初のクローン哺乳類であるDollyを誕生させた。これらにより、分化した細胞が全臓器への発生に必要な遺伝情報を持っていることが示され、卵母細胞は体細胞核をリプログラムしうる因子を含んでいることが明らかになった。そして2001年、多田高(京都大学)のグループが、ESCsが体細胞をリプログラムする因子を含んでいることを示した。

第2の流れは、「マスター」転写因子の発見である。1987年、Drosophilaの転写因子Antennapediaを異所性に発現させると、触角の変わりに脚が形成されることが示された。同年、哺乳類の転写因子MyoDは線維芽細胞を筋肉細胞に変換することが見出された。これらの結果により、細胞系列の運命決定を担う「マスター調節因子」としての転写因子の概念がもたらされた。

第3の流れは、ESCsに関する研究である。1981年に最初のマウスESCsが作製された後、Austin Smithらは多能性(pluripotency)の長期維持を可能にする培養条件を確立した。マウスESCsの維持に必要な因子の一つがleukemia inhibitory factor (LIF)であり、ヒトESCsが作製されると、basic fibroblast growth factor (bFGF)を用いた培養条件が確立した。前の2つの流れによって、このグループは、「卵母細胞またはESCsのいくつかの因子の組み合わせが体細胞をリプログラムして胚の状態(embryonic state)に戻す」という仮説を立て、これらの因子を同定する実験を進めることにした。さらに第3の流れの培養条件を用いて、多能性細胞を培養することを通じて、iPSCs作製に必要な4因子を同定することができた。

iPSC技術の成熟と理解
最初のマウスiPSCsの報告のすぐ後から、他のグループでマウス・ヒトの細胞に因子を導入してリプログラミングする検討が繰り返された。iPSC技術の利点の一つは、その単純さと再現性であり、多くの研究室がそのメカニズムと修正手順の検討を始めた。当初、iPSCs作製の効率は低く、遺伝子導入した線維芽細胞がiPSCsになるのは1%に満たなかった。したがって、iPSCsは、培養中の線維芽細胞に含まれるごくわずかの幹細胞または未分化細胞由来である可能性も否定できなかった。しかし、その後の研究では、最終段階まで分化したリンパ球や有糸分裂後のニューロン由来のiPSCsも作製できることが示された。現在、ほとんどの(全部ではないが)体細胞は、(効率の違いはあるとはいえ)iPSCsになれる可能性を持っていることが分かっている。

ではなぜ、少数の因子が体細胞のリプログラミングを起こすことができるのか?リプログラミング因子は、因子を導入した細胞の1%以上でリプログラムの過程を開始するが、そのリプログラミング過程は多くの細胞で完成されないのではないか?または、よく分かっていない確率論的なイベント(stochastic events)が十分なリプログラミングが起こるのには必要なのかもしれない。

当初、iPSCsはretrovirusまたはlentivirusを用いて、遺伝子変異を挿入することにより作成されており、遺伝子治療における場合と同様の副作用を起こす危険はあった。Retrovirusを用いて作製されたマウス由来のiPSCsはc-Mycトランスジーンが発現しない限り明らかな異常はなかったが、ヒトiPSCsの長期的な安全性はこのマウスの実験だけでは保障されなかった。また、retrovirusはiPSCsに免疫原性をもたらすため、細胞移植治療に用いる場合には、宿主ゲノムに取り込まれるベクターを用いる導入方法は避ける必要があった。そこで、宿主ゲノムに取り込まれない(integration-free)でiPSCsを作製する方法がいくつも報告された。例えばプラスミドベクター、センダイウイルス、アデノウイルス、合成RNAs、蛋白を用いる方法などが報告された。さらに、小分子によるリプログラミングの導入も検討された。これらのうち、プラスミドとセンダイウイルスによるものは多くの研究室で用いられている。京都大学CiRA(Center for iPS Cell Research and Application)では、単純さと再現性の観点から、再生治療ではエピソームプラスミドを、in vitroの実験ではretrovirusかエピソームプラスミドを用いている。

iPSC技術から派生する新たな流れ
Rudolf Jaenischらによる鎌状赤血球貧血マウスでの研究を初めとして、iPSCsを用いた再生医学の進展が進んでいる。例えば、Parkinson病、脊椎損傷、黄斑変性の治療などである。患者由来のiPSCsも疾患モデルや薬剤ライブラリーからのスクリーニングに有用である。

George Daley およびKevin Eggan による研究に始まり、ここ3年の間に疾患特異的iPSCsを用いた研究において100以上の報告がなされている。単一遺伝子疾患のみならず、晩発性の多遺伝子疾患(Parkinson病、Alzheimer病、統合失調症)などに、患者特異的iPSCsが用いられメカニズムの解明と治療の応用につながる研究が進んでいる。iPSCs由来の体細胞(特に心筋細胞と肝細胞)を用いた毒性試験は、現在のアプローチに変わる方法として用いられうる。

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さらなる医学への応用としては、iPSCsの動物のバイオテクノロジーへの応用があげられる。サル、ブタ、イヌの iPSCsによりこれらの動物を作製することができるようになり、これらの動物の疾患モデルの作製やヒトの遺伝的疾患で欠損している酵素などの大きい動物でのモデル作製が可能である。この技術は将来的には、絶滅の危機に瀕している動物の保護にも役立つ可能性もある。iPSCsの重要な応用として報告されているのが、中内啓光(東京大学医科学研究所)による、膵を欠損したマウスに、ラットiPSCsに膵発生に必要な遺伝子を導入して作ったラット膵を作製した研究であろう。将来はヒトの移植でも、同様の戦略を用いて、臓器作製が行われるかもしれない。

他のiPSCs技術に派生してできた流れは、ある体細胞系列から他の体細胞系列への「直接リプログラミング(direct reprogramming)」である。Douglas Meltonは、3つの転写因子を組み合わせて用いることにより、マウス膵の外分泌細胞を内分泌細胞に変換することに成功した。その後、線維芽細胞を神経細胞、肝細胞、心筋細胞、造血前駆細胞にin vitroで変換させる方法が報告された。直接リプログラミングは単純で速いが、目的の細胞を十分な量得られるかが一つの課題となっている。この方法を進めた先には、in situ direct reprogramming 法の開発が進んでいる(マウスの心筋線維芽細胞をin vivoで直接心筋細胞に変換する検討)。

iPSCsはESCsとは異なるのかという大問題
iPSCsはESCsと異なるのか、もしそうであればどのような機能的な違いがあるのか?iPSCs研究当初はiPSCsとESCsとの類似性には驚かされたが、2009年以降、それらの違いが報告されるようになってきた。例えば、3系統のヒトESC株と5系統のiPSC系統では、マイクロアレイを用いた検討により、数百種の遺伝子発現が異なることが報告された。すなわち、iPSCsは、多能性細胞の中でもユニークなサブタイプと考えられる。さらに、iPSCsではドナー細胞の遺伝子発現が持続する、というESCsとの違いも示された。また、iPSCsとESCsではDNAメチル化に差があること、BMP3のようにメチル化される遺伝子が異なること、それにより、iPSCsにはドナー細胞のepigeneticな記憶が存在することが示された。しかし他の研究では、iPSCsとESCsを遺伝子発現やDNAメチル化によって区別するのは難しい、または区別できないという結論も出ている(違いがあるとしても、研究室ごとの遺伝子導入や培養条件の差によるものであるとしている)。検討に用いたiPSおよびESのクローン数が多い研究の方が、少ない研究よりも、「iPSCsとESCsは遺伝子発現・DNAメチル化の違いで区別できない」とする結論に至る明らかな傾向がある。

もう一つ重要な論点は、細胞の分化能力においてiPSCsはESCsと機能的に異なっているかということである。2010年、Huらは5系統のヒトESCクローンと12のiPSCクローンを神経細胞に分化させた実験で、ESCは90%以上の効率で神経細胞(Pax6陽性細胞)に分化したのに対し、iPSCsは10-50%程度の低効率でしか分化しなかったことを示している。一方、2011年、Boultingらは16のヒトiPSCクローンを運動ニューロンに分化させる実験で、13のクローンがESCsと同等の効率で分化したことを示している。このように、iPSCsとESCsの類似性に関してはいまだに結論が出ていない。

ESCクローンには多様性があることがよく知られており、同様にiPSCsにも遺伝子発現・DNAメチル化の点で多様性があると思われるが少なくとも一部のiPSCクローンはESCクローンと区別不能である。何がiPSCクローン間の多様性をもたらすかは興味深い問題である。Hochedlinger の研究室とJaenischの研究室でそれぞれ同様の方法でマウスiPSCsを作製したが、前者はDlk1-Dio3遺伝子クラスターのインプリンティングが見られない(4倍体補完法によるall-iPSC マウスの作製は不可能である)のに対し、後者では正常に見られる(all-iPSC マウスの作製は可能、厳密に「多能性(pluripotent)」といえる)という違いが見られた。両研究室の方法の違いは、後者で発現カセットの量の違いにより、iPSCsにおけるOct4とKlf4の発現が多かった、ということであった。このようにiPSC作製時のリプログラム因子の量や培養条件の違いによって、iPSCsのepigeneticな状態や多能性に変化が生じると考えられる。iPSCsの質の差は、技術的なばらつき(因子の組み合わせ、遺伝子導入法、培養条件など)により、さらにはリプログラミング時の確率的なイベントにもよるため、コントロール不可能である。したがって医療への応用においては、それにふさわしいiPSCクローンを同定するための、評価と選択が不可欠である。

人工多能性の「ダークサイド」とは?
iPSCsの潜在的な異常として、体細胞変異、コピー数変異、(細胞移植に用いる際の)免疫原性などが報告されているが、これらは誇張されている部分もある。しかし、iPSCsに見られる多くの遺伝的な差異はもとの体細胞にすでに存在しており、リプログラミング過程そのものから起きるわけではないようである。他の研究では、ある種のiPSCクローンはもとの細胞に比べ遺伝的変異がほとんどなくall-iPSCマウスを作ることができるとされている。Mycトランスジーンを持っていないiPSCs由来のマウスは有害な遺伝的変異がないため、機能の異常が見られない。免疫原性に関しては、トランスジーンのないiPSCs に対しては免疫反応が弱いことが報告されている。

なぜ、ESCsとiPSCsはこのように似ているのか?
ESCsとiPSCsは由来の細胞や作製方法が異なるのに、なぜ非常に似ているのだろうか?人工の細胞(iPSCs)と自然に存在する細胞(ESCs)の間で、このように類似性のある例はほかには見られない。ESCs/iPSCsから作製した神経細胞や心筋細胞のようなある種の(人工)体細胞は、in vivoに存在する自然の体細胞に似てはいるが、非常に違うところもある。その中で、ESCsとiPSCsが似ていることは、多くの点で例外的といえる。

一つの説明としては、ESCsも実は人工細胞である、ということである。ESCsは生理的条件では存在せず、内部細胞塊(ICM)から特定の培養条件下で選択し樹立した細胞だからである。ESCsは多くの点で、ICM内の大多数の細胞とは異なっている。例えば、ICM内の細胞は全体的にDNAメチル化が少ないが、ESCsは高レベルでメチル化している。Rasファミリー遺伝子の一つERasは、マウスESCsに特異的に多く発現しているが、胚では発現していない。また、ESCsは胚で見られるよりも長いテロメアが認められる。以上のことなどから、ESCsとiPSCsは、2種類の人工細胞としてその関係や類似性を考えるのがよいだろう。

結語
それならば、ESCsはiPSCsにとって究極のコントロール細胞またはゴールドスタンダードと言えるのか?答えはNoと思われる。ただし、この点に関しては将来の研究で、iPSCsがESCsと並行して新しい組織や臓器を作れる能力があるかさらなる検討が必要だろう。

iPSC技術は、幹細胞治療を含む多くの応用が可能と考えられる。いくつかの導入方法によってさまざまな質のiPSCクローンが作られてきたが、臨床応用のためのよいクローンが選択されることが必要である。それには、マーカー遺伝子の発現だけでなく、in vitroでの分化特性、ゲノム・エピゲノムの完全性を確認する必要がある。臨床で広く用いられるには、健康なボランティアもしくは臍帯血ストックからの高品質のiPSCクローンのストックが必要となるだろう。さらに、HLA同型ドナーからのiPSCs作製により、免疫拒絶の少ない幹細胞治療が可能になると思われる。

iPSC技術は、科学のみならずビジネスや政治にも大きなインパクトを与えるだろう。しかし、iPSCsは厳格に科学的データに基づいて評価され、そのデータは臨床応用に向け徹底的に検討されるべきである。科学者は研究に集中し、政治やビジネスは科学研究によって得られた事実(hard evidence)のみに依拠するべきだろう。
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# by md345797 | 2012-10-25 03:42 | 再生治療

砂糖入り甘味飲料と肥満の遺伝的リスク

Sugar-Sweetened Beverages and Genetic Risk of Obesity.

Qi Q, Chu AY, Kang JH, Jensen MK, Curhan GC, Pasquale LR, Ridker, Hunter DJ, Walter C. Willett WC, Rimm EB, Chasman DI, Hu FB, Qi L.

N Engl J Med. Published online September 21, 2012.

【まとめ】
背景 砂糖入り甘味飲料の消費の増加は、肥満の有病率増加と並行している。これらの甘味飲料の摂取が遺伝的素因とどのように相互作用し肥満をきたしているかは明らかではない。
方法 そこで、6934名の女性(Nurses’ Health Study: NHS)と4423名の男性(Health Professionals Follow-up Study: HPFS)、および再現コホートとして21,740名の女性(Women’s Geneome Health Study: WGFS)を対象として、遺伝的素因と砂糖入り甘味飲料の摂取の相互作用がBMIと肥満リスクに果たす役割を解析した。遺伝的素因のためには、32のBMIに関連した遺伝子座をもとにgenetic-predisposition score(GPS:遺伝的素因スコア)を計算した。
結果 NHSとHPFSコホートにおいて、遺伝的素因とBMIの関連は、砂糖入り甘味飲料を多く飲んでいる対象者の方が、少ない対象者より強かった。両者を合わせたコホートにおいて、10のリスクアリル増加ごとのBMI増加は、1.00(月あたり1 serving以下の摂取)、1.12(月あたり4 servings)、1.38(週あたり2-6 servings)、1.78 (1日あたり1 serving以上)であった。同じ砂糖入り甘味飲料の摂取カテゴリーで、10のリスクアレルごとの肥満頻度の相対リスクは、1.19、1.67、1.58、5.06と有意に上昇した。WGHSコホートにおいては、10のリスクアレル増加ごとのBMI増加は1.39、1.64、1.90、2.53と有意に増加、肥満頻度の相対リスクも1.40、1.50、1.54、3.16とそれぞれ有意に増加した。
結論 肥満と遺伝的素因の関連は、砂糖入り甘味飲料を多く飲んでいる人でより強いと考えられる。
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# by md345797 | 2012-09-23 01:11 | 大規模臨床試験

砂糖入り甘味飲料の、青年期体重に対するランダム化試験

A Randomized Trial of Sugar-Sweetened Beverages and Adolescent Body Weight.

Ebbeling CB, Feldman HA, Chomitz VR, Antonelli TA, Gortmaker SL, Osganian SK, Ludwig DS.

N Engl J Med. Published online September 21, 2012.

【まとめ】
背景 砂糖入り甘味飲料は体重増加の原因となる。そこで、過体重または肥満の青年に自宅でノンカロリー飲料を飲むような介入を行うことにより、体重への影響を検討する。
方法 日常的に砂糖入り甘味飲料を消費している、224名の過体重または肥満の思春期男女(平均約15歳)をランダムに分け、「実験グループ」すなわち1年間砂糖入り甘味飲料を飲まないように介入したグループ(ペットボトルの水か人工甘味料を用いた「ダイエット」飲料、できれば水を薦めた)と「コントロールグループ」に割り付けた。1年の介入期間終了後は、追加の介入なくfollow-upのみを継続した。「実験グループ」の方が「コントロールグループ」よりも、体重増加が遅いことを想定して追跡を行った。
結果 ベースラインでの砂糖入り甘味飲料の消費は、「実験グループ」「コントロールグループ」で同じであった(1日1.7 servings)。これを「実験グループ」では、1年間ほぼ0となり、2年間でも「コントロールグループ」よりは少ない消費量となった。主要評価項目(primary outcome)である2年間のBMIの変化は2群間で有意差は認めなかった。ただし、1年目には「実験グループ」の方が、BMI(-0.57)、体重(-1.9 kg)の有意な低下が見られていた。さらに、1年目および2年目のBMI減少は、民族による違いが見られ、Hispanicの被験者のみでBMIの差を比較すると、1年目(-1.79 )、2年目(-2.35)で有意な低下が認められた。Non-Hispanicの被験者ではそのような差は認めなかった。
結論 過体重または肥満の青年において、「実験グループ」の方が「コントロールグループ」に比べて1年間の介入期間におけるBMIの増加が小さかったが、2年目のfllow-upの期間はそうではなかった。
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# by md345797 | 2012-09-23 00:23 | 大規模臨床試験

砂糖なし甘味飲料または砂糖入り甘味飲料の、小児の体重に対する影響

A Trial of Sugar-free or Sugar-Sweetened Beverages and Body Weight in Children.

de Ruyter JC, Olthof MR, Seidell JC, Katan MB.

N Engl J Med. Published online September 21, 2012.

【まとめ】
背景 砂糖入り甘味飲料は満腹感を刺激しないため、他の食事の量が減ることがなく、過体重をもたらすと考えられている。しかし、砂糖入り甘味飲料とノンカロリー(人工甘味料による甘味)飲料とで体重増加に対する影響は検討されていない。
方法 641名の正常体重の小児(4歳10か月から11歳11か月)を対象に18か月にわたる試験を行った。参加者は、ランダムに250 mlの砂糖なし・人工甘味料を含む飲料(砂糖なしグループ)、または同量の砂糖入り甘味飲料(104 kcal)(砂糖グループ)を学校から配布され、割り付けられた(それぞれの飲料は味や外観からは区別がつかないようにした)。
結果 BMIのz score(オランダの同性・同年齢の小児の平均BMIからどれくらい離れているかの標準偏差SD)は、砂糖なしグループでは0.02 SDだったのに対し、砂糖グループは0.15 SDであった、体重増加は砂糖なしグループは6.35 kg、砂糖グループは7.37 kgであった。皮膚厚測定、ウエスト・身長比、脂肪量のいずれも、砂糖なしグループで有意に定値であった。
結論 正常体重の小児において、砂糖入り甘味飲料の飲用は、ノンカロリー飲料に置き換えることによって、体重増加と脂肪蓄積を減らすことができた。
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# by md345797 | 2012-09-22 23:59 | 大規模臨床試験

Myf5前駆細胞由来の白色脂肪細胞の存在と、Myf5系列でのPTEN欠損による体脂肪の再分布

PTEN Loss in the Myf5 Lineage Redistributes Body Fat and Reveals Subsets of White Adipocytes that Arise from Myf5 Precursors.

Sanchez-Gurmaches J, Hung C-M, Sparks CA, Tang Y, Li H, Guertin DA.

Cell Metab. 16(3) 348-362, September 5, 2012.

【まとめ】
Myf5を発現する間質前駆細胞は褐色脂肪細胞と骨格筋を発生させると考えられてきたが、本研究では、これらの細胞が白色脂肪細胞のある種の集団も発生させることを示した。褐色および白色脂肪組織は、Myf5陽性(Myf5+)とMyf5陰性(Myf5 neg)系列由来の脂肪前駆細胞(APCs)を含んでおり、その数は個々の脂肪組織の部位によって異なっていた。白色脂肪細胞の中のある集団は、β3-adrenoreceptor刺激に反応して、Myf5+およびMyf5 negの両方の前駆細胞からそれぞれ発生した。すなわち、”brite”脂肪細胞は複数の起源を持つ。さらに、myf5+系列でPTENを欠損させると、Myf5+由来脂肪細胞のみが選択的に増加することによって、体脂肪の再分布が起こり脂肪腫症と脂肪萎縮が併存した。以上より、①Myf5+前駆細胞由来である脂肪細胞の範囲は今まで考えられていたより広い(ある種の白色脂肪細胞も含む)。②脂肪細胞系列間のPI3K活性の違いによって(=PTEN欠損によりPI3K活性は増加)、体脂肪の分布が変化することが明らかになった。

【論文内容】
白色脂肪組織(WAT)が不均一(heterogeneous)であることは最近明らかになっており、個々の白色脂肪細胞は発生学的に異なると考えられている。また、β3-adrenergic receptor刺激によって誘導される、白色脂肪内の「褐色脂肪様」細胞、brite細胞が、肥満治療に有用と考えられ注目を集めている。褐色脂肪は白色脂肪に比べ、発生学的には骨格筋に近く、遺伝子発現も筋発生様の転写プロファイルを持つ。褐色脂肪細胞は、筋発生のための転写因子Myf5を発現する間質前駆細胞由来である。Myf5+前駆細胞から褐色脂肪と骨格筋が発生し、Myf5 neg前駆細胞から白色脂肪とbrite脂肪が誘導されると考えられてきた。

褐色脂肪分化の調節についてはよく分かっていないが、in vitroでは脂肪前駆細胞からの脂肪細胞への分化にはインスリンを用い、これはPI3K活性化を介する機構が考えられている。PI3K活性は、PTENによって負に調節されている。この研究では、conditionalにMyf5+系列のみでPTENを欠損(PI3Kを活性化)させるマウスを作製し、in vivoでの褐色脂肪分化の変化を調べた。その結果、Myf5+系列でPTENを欠損させると、全身の脂肪組織分布が変化し、脂肪腫症と部分的脂肪萎縮が同時に起きた。予想外なことに、これは、Myf5+-Cre+前駆細胞由来の白色脂肪、褐色脂肪の増加によるものであった。Myf5+前駆細胞由来の脂肪細胞の範囲は今まで考えられていたものより広く、Myf5+前駆細胞のPI3K活性化により体脂肪の再分布が起きることが示された。

Myf5+前駆細胞でのPTEN欠損は、脂肪腫症と部分的脂肪萎縮を同時に起こす
PTEN fl/flマウスとmyf5-creノックインマウスを交配して、褐色脂肪前駆細胞でPI3Kシグナルが活性化されたマウスを作製した。このPTEN myf5cKOマウスは出生時からコントロールに比べ、馬の首輪様(horse collar-like)の成長と、水雷型(torpedo shape)によってはっきり区別できた。6-12週では体重は正常だったが、脂肪の分布は著しく異なっていた。すなわち、肩甲骨間(interscapular)、肩甲骨下(subscapular)、頚部(cervical)褐色脂肪組織(iBAT、sBAT、cBAT)と、肩甲骨間(iWAT)、後腹膜(retroperitoneal:rWAT)、脊椎(vertebral) のWATが大きく増加していた。さらに、腸間膜(mesenteric)、性腺周囲(perigonadal:pgWAT)、鼠径部(inguinal: ingWAT)、臀部(gluteal)、後面皮下(posterior subcutaneous)のWATは欠損していた。このように、PTEN myf5cKOマウスは重篤な脂肪腫症と部分的脂肪萎縮を合併していた。

PTEN myf5cKOマウスの脂肪組織では、脂肪細胞が大きく、細胞数も多い
PTEN myf5cKOマウスのBATの脂肪滴は典型的な多房性(multilocular)を示していたが、脂肪細胞の大きさは大きかった。PTEN myf5cKOマウスのrWAT、iWATでは単房性(unilocular)の脂肪滴を持つ大きい白色脂肪細胞(コントロールの2倍程度)を認めた。PTEN myf5cKOマウスは6週齢では、褐色脂肪の細胞数も多かった。

PTEN myf5cKOマウスは白色、褐色脂肪のどちらにおいてもPTENを完全に欠損している
PTEN myf5cKOマウスの胚の褐色脂肪前駆細胞および6週齢のBATでは、PTENの確実な欠損とPI3Kシグナルの増強(AKT S473リン酸化の増加)が認められた。なお、興味深いことに、下肢骨格筋では(骨格筋なのでMyf5系列と考えられるが)PTEN欠損が認められなかった。過去の報告によると、Myf5+およびMyf5 negの両方の系列から骨格筋が発生する(骨格筋の部位によってどちら由来か異なる)と考えられており、下肢骨格筋はMyf5 neg由来の筋芽細胞(PTENを発現している)がMyf5+由来の筋芽細胞(PTEN発現なし)に融合してPTEN欠損を代償してしまっている可能性が考えられた。一方、白色脂肪はMyf5+前駆細胞か由来とは考えられていない。ところが予想外なことに、PTEN myf5cKOマウスのiWATとrWATでは、BAT同様のPTEN欠損が認められた。このことは、「褐色脂肪はMyf5+前駆細胞由来の唯一の脂肪」という前提に反し、「ある種の白色脂肪もMyf5+前駆細胞由来である」ことを示唆する。

白色脂肪細胞の中のある集団はMyf5+前駆細胞由来である
そこで、myf5-cre;R26R-EYFPマウス(前にmyf5-creノックインアレルを発現した細胞のみにYFPを発現するマウス)を作製し、Myf5+系列を追跡した。予想通り、このマウスは、BATや骨格筋で高レベルのYFPを発現しており、これは褐色脂肪と骨格筋がMyf5+前駆細胞由来であることと一致する。しかし、このマウスは、BATと同程度にiWATとrWATでYFPを発現していた(ingWATやpgWATに比べると15-20倍多く発現)。しかも、iWATやrWATでのYFP発現は、褐色脂肪マーカー(ucp1、prdm16)の発現とは相関せず、例えばYFP発現の少ないingWATではucp1、prdm16が多く発現していた。以上より、myf5系列の追跡では、BATおよび骨格筋に加えて、iWATとrWATもラベルされた。

さらに、Myf5+系列を追跡するための確認として、myf5-cre;R26R-LacZマウスを作製したところ、同様にBATとiWAT、rWATでLacZ陽性であり、ingWAT、pgWATではLacZは陰性であった。Myf5 neg系列由来と考えられるingWATには多房性脂肪滴を含む脂肪細胞(=brite脂肪細胞)が多く含まれており、Myf5+由来と考えられるiWATとrWATには単房性脂肪細胞が多く含まれていた。

では、Myf5+系列由来のiWATとrWATは、BATに特有の遺伝子発現signatureを示すのかをqRT-PCRで検討した。まず、iBATはrWATに比べて褐色脂肪マーカー(cidea、prdm16、zic1、ucp1)の発現が多く、rWATはiBATに比べて白色脂肪マーカー(HoxC8、Hoxc9、Dpt)の発現が多かった。したがって、rWATは、Myf5+系列由来とは言え、褐色脂肪signatureは持たなかった。すなわち、Myf5+前駆細胞は(褐色脂肪に加え)、白色脂肪の中のある種の集団を生み出すと考えられた。

Myf5+前駆細胞由来の脂肪前駆細胞(APC)の数は、脂肪組織の部位によって異なる
myf5-cre;R26R-LacZマウスから、個々の脂肪組織(fat depot)を単離し、それぞれのstromal vascular fraction (SVF)を調整して、LacZ発現を検討した。コントロールに比べ、このマウスのiBAT、iWAT、rWATは強くLacZに染色された。ingWAT、pgWATはLacZ陽性細胞が少なかった。これらのSVF細胞を分化させたところ、iBAT由来の脂肪含有細胞(SVF中のadipogenic cells)はほとんどがLacZ陽性(=Myf5+前駆細胞由来)であり、iWATとrWAT由来の脂肪含有細胞は半分程度がMyf5+前駆細胞由来であった。それに対し、ingWATとpgWAT由来の脂肪含有細胞にはMyf5+前駆細胞由来のものはほとんどなかった。

SVFは、血液、血管、神経、マトリックス細胞に加え、脂肪細胞前駆細胞(APCs:adipocyte progenitor cells)を含む。そこで、myf5-cre;R26R-EYFPマウスの各脂肪組織からAPCsを精製し(CD31-:CD45-:Ter119-:CD29+:CD34+:Sca1+)、flow cytometryでYFPの発現を検討した。その結果、BATから精製したAPCsの85%はYFPを発現していた(褐色脂肪はMyf5+前駆細胞由来であることに一致する)。iWATとrWATから精製したAPCsでは、それぞれ48.9%、69.4%がYFPを発現していたが、ingWATとpgWATのAPCsではそれぞれ6.1%、9.1%しかYFPを発現していなかった。

次に、WATに存在するMyf5系列のAPCsが、褐色脂肪の遺伝子発現signatureを示すのかを調べた。その結果、iBAT由来のAPCsでは、YFP陽性のものもYFP陰性のものも褐色脂肪マーカーZic1を発現していたが、YFP陽性のもののみがprdm16を発現していた。また、rWAT由来のYFP陽性APCsは、褐色脂肪マーカーは発現しておらず、白色脂肪マーカーを多く発現していた。したがって、 WATに存在するMyf5+のAPCsは古典的な褐色脂肪マーカーを発現しているわけではなく、BAT前駆細胞とは異なる遺伝子発現signatureを持っていることが分かる。

β3-adrenoreceptorアゴニストを長期投与してもMyf5+脂肪細胞系列は選択的に増加しない
では、WATに存在するMyf5系列由来の脂肪細胞が、ingWATに存在するMyf5 negのbrite脂肪細胞とは区別できる、別のbrite脂肪細胞の集団である可能性を検討した。WATに存在するMyf5系列由来の脂肪細胞は、誘導可能な褐色脂肪細胞なのか(brite脂肪細胞になるのか)を調べるために、myf5-cre;R26R-LacZマウスに1週間CL316,243(β3-adrenoreceptorアゴニスト)を投与した。CL316,243によって誘導されたrWATの多房性細胞はLacZ陽性であり、この組織(後腹膜)はMyf5系列の細胞が多いことが分かった。ingWATとrWATの両方ともCL316,243によってucp1発現が強く誘導された。以上より、β3-adrenoreceptor刺激は、Myf5+およびMyf5 negの両方の系列からのbrite脂肪細胞の産生を誘導するといえる。次に、Myf5系列のAPCsにCL316,243を長期に投与し、選択的に刺激した。myf5-cre;R26R-EYFPマウスでは、BATにおいてYFP陽性のAPC組成は変わらなかった。興味深いことに、CL316,243はiWATのYFC陰性APC組成を増加させた。(rWAT、ingWAT、pgWATではCL316,423による効果は少なかった。)したがって、CL316,423は、Myf5+前駆細胞由来のAPCsの増大を選択的に刺激しないといえる。

Myf5-creでPTEN欠損させると、Myf5+前駆細胞由来の脂肪細胞系列を選択的に増殖させる
Myf5+系列でPTENを欠損させると体脂肪の再分布が起きるメカニズムを理解するため、PTEN myf5cKO-LacZマウス(Myf5+系列でPTENをconditionalに欠損させ、Myf5+由来細胞はLacZで染色されるようにしたマウス)を用いた検討を行った。このマウスでは、iBAT、sBAT、iWAT、rWATが一様にLacZ染色された。このWAT由来の細胞を分化させると、脂肪含有細胞のほとんどはLacZ染色された(=Myf5+前駆細胞由来であった)。さらに、PTEN myf5cKO-YEPマウス(Myf5+系列でPTENをconditionalに欠損させ、Myf5+由来細胞はYEPでラベルしたマウス)では、WATに存在するPTEN欠損YFP陽性(=Myf5+由来)APCsは、コントロールのAPCsに比べ90%程度増加していた。すなわち、myf5+系列におけるPTENの欠損は、WATにおけるAPC中のMyf5+系列細胞の増加をもたらすことが示された。さらに、PTEN myf5cKOマウスの脂肪の過形成は、APCの脂肪合成能力(adipogenic potential)によるものではなく、APCの数の増加によることも分かった。

最後に、PTEN myf5cKO-YEPマウスのiBATとrWATから精製したAPCsの分子プロファイルを行った。このマウスのBAT APCsは褐色脂肪マーカー(Zic1、Prdm16)を発現し、これらはこのマウスのrWAT APCsでは検出されなかった。逆にこのマウスのrWATでは白色マーカー(Hoxc8、Hoxc9)が高度に発現していたが、iBATでは発現していなかった。したがって、myf5+系列でPTENを欠損させても、APCのidentity(分子プロファイル)には影響せず、BATとWATの両方でMyf5+前駆細胞由来の脂肪細胞を増加させることが示された。

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【結論】
本研究により、単房性の白色脂肪細胞のうち、ある種の集団はMyf5+前駆細胞由来であることが示された。すなわち、WATはMyf5+由来またはMyf5 neg由来の両方の細胞集団を含む。また、iWAT内に見られるbrite脂肪細胞はMyf5+由来ではなかった。さらに、β3-adrenoreceptor刺激に反応してWATにおいてMyf5+から発生する多房性脂肪細胞はごく一部であった。したがって、褐色脂肪細胞とbrite脂肪細胞とある種の白色脂肪細胞の発生学的由来は、単純にMyf5+に基づいて考えることはできない。

さらに、Myf5+系列のPTENの欠損(PI3K活性化)により、体脂肪の再分布が起こることが分かった。このような変異が脂肪前駆細胞に及ぼす影響を検討することは、肥満やメタボリックシンドロームのようなありふれた疾患や、ヒトの多発性対称性脂肪腫症(multiple symmetrical lipomatosis)のようなまれな疾患(PTEN myf5cKOマウスの形質に似ており、本症の原因もMyf5系列のような何らかの脂肪細胞系列が選択的に障害されているためかもしれない)の理解につながる可能性がある。

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# by md345797 | 2012-09-05 01:13 | その他

Cryptochromeの小分子活性化剤の同定

Identification of Small Molecule Activators of Cryptochrome.

Hirota T, Lee JW, St. John PC, Sawa M, Iwaisako K, Noguchi T, Pongsawakul PY, Sonntag T, Welsh DK, Brenner DA, Doyle III FJ, Schultz PG, Kay SA.

Science. 337(6098) 1094-1097. August 31, 2012.

【まとめ】
概日時計の障害は、代謝疾患を含む多くの疾患の原因となりうる。時計蛋白の選択的ターゲット化合物がいくつか同定されており、これらは時計機能を改善し疾患の治療に役立つ可能性がある。この研究では、unbiased cell-based circadian phenotypic screenにより、cryptochrome(CRY)に特異的に結合する小分子、KL001を同定した。KL001は、ubiquitin依存性のCRYのdegradationを防ぐことにより、概日周期を増強する。KL001を用いた実験と数学的モデリングと組み合わせて検討したところ、CRY1とCRY2は概日調節において同様の機能的役割を担っていることが分かった。さらにKL001によりCRYを安定化すると、初代肝細胞においてグルカゴンによる糖新生が抑制された。小分子化合物KL001は、CRYによる時計の調節機構の解明と時計遺伝子に基づく糖尿病治療の開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
概日リズムは、転写因子CLOCKとBMAL1がPeriod (Per1、Per2)とCryptochrome (Cry1、Cry2)の転写を活性化させ、PERとCRY蛋白がCLOCK-BMAL1を抑制するというフィードバックループによるリズミックな遺伝子発現によって発生する。肝での糖産生は、肝糖新生遺伝子(Pck1、G6pc)がCRYおよび核内受容体REV-ERBの影響を受けることにより、概日調節を受けている。この時計機能が遺伝的変異や環境因子(シフトワークや時差など)によって障害を受けると、睡眠障害、がん、心血管疾患や代謝疾患の原因となるため、時計機能を調節する小分子化合物はそれらの治療に有用と考えられてきた(casein kinase I阻害剤であるlongdaysinREV-ERBの合成リガンドなど)。本研究では、CRY蛋白に特異的に作用する小分子を同定し、これが肝糖新生を調節することを示す。

カルバゾール誘導体KL001は時計周期を延長する
時計遺伝子を調節する分子を同定するために、約60,000の化合物のライブラリーを、Bmal1-dLuc luciferaseレポーターを組み込んだヒト骨肉腫細胞U2OS細胞株を用いてスクリーニングした。そのうち、3種のカルバゾール誘導体(KL001、KL002、KL003)が、この細胞に対して用量依存的に時計周期の延長と振幅の減少をもたらすことが示された。なお、これらの化合物はBmal1-dLuc細胞に比べるとPer2-dLuc細胞のベースのレポーター活性を低下させた。さらに、Bmal1-dLucおよびPer2-dLucレポーターを組み込んだマウスNIH-3T3線維芽細胞、mPer2Lucレポーターをノックインしたマウス視交叉上核(SCN)と肺の組織片に対するKL001の効果を検討したところ、KL001は濃度依存性に、時計周期の延長とPer2レポーターのシグナル減弱をもたらした。

KL001はCRY1とCRY2に結合する
Affinity-based proteomic approachを用いて、KL001の分子ターゲットを調べたところ、KL001の結合蛋白としてCRY1が同定された。さらに抗体を用いてCRY2にも結合することが示された。Flag-tagged時計蛋白を発現させたHEK293T細胞の抽出物とKL001-agarose conjugateとの結合により、KL001はCRY1、CRY2とは結合するが、PER1、PER2、CLOCK、BMAL1とは結合しないことが分かった。CRYのcofactorであるflavin adenine dinucleotide (FAD)を過剰量添加すると、KL001 affinity resinとCRY1との結合が阻害され、CRY1のFAD結合部位の変異体はKL001 affinity resinにごく弱くしか結合しなかったため、KL001はCRYに(FAD結合部位を介して)選択的に結合すると考えられた。

KL001はCRY蛋白を安定化させる
次に、mPer2LucレポーターをノックインしたCry欠損マウス繊維芽細胞に対するKL001の効果を検討した。WT細胞ではKL001によりmPer2Luc活性が減少したが、Cry1/2欠損細胞では減少が見られなかった。さらに、CRY上のCLOCK-BMAL1結合部位(E2 enhancer element)の変異があると、KL001によるPer2レポーター反応は消失した。以上より、KL001はCRYおよびE2 enhancer依存的に、CRYによるPer2の抑制を促進すると考えられた。

また、U2OS細胞にKL001を添加すると、濃度依存性に内因性のPer2 mRNAの発現が減少した。KL001添加後のPER1蛋白量はPer1 mRNA発現減少と並行しているが、CRY1とCRY2の蛋白量はそれぞれ増加か同程度であり、mRNA発現と並行していない。そこで、KL001がCRY蛋白を安定化する作用があるのではないかと考えた。CRY1-luciferase融合蛋白 (CRY1-LUC)を発現させたHEK293T細胞を用いて、CRY1の半減期に対するKL001の影響を検討した。その結果、KL001は容量依存的にCRY1-LUCの半減期を増加させたが、FAD結合部位の変異体(KL001が結合しないCRY1)の半減期には影響はなかった。KL001とKL002は、CRY1とCRY2の半減期を増加させたため、これらの化合物はCRY安定化を介して時計周期の延長をもたらしていると考えられた。CRY蛋白は、E3 ubiquitin ligase complex SCFFBXL3のターゲットであり、ubiquitin-proteasome 経路を介してdegradationを受けるため、KL001によるCRY1 ubiquitinationへの効果をin vitroで検討した。その結果、KL001(50 μM)はCRY1のubiquitinationを阻害し、上記のKL001が結合しない変異体CRY1ではその効果は見られなかった。また、U2OS細胞で、FBXL3をsiRNAを用いて欠損させると、KL001のPer2レポーターへの効果が減弱した。以上より、KL001は、FBXL3- およびubiquitin-依存性のCRY蛋白のdegradationを阻害することが示された。

KL001によりCRYアイソフォームの役割とその肝糖新生調節機構が明らかになった
KL001によるCRY安定化がどのように時計周期延長をもたらすのか、また、CRYアイソフォーム(CRY1、CRY2)のredundantな役割について検討するために、数学的モデリングを用いた検討を行った。まず、PER-CRYネガティブフィードバックループの単純な数学的モデルを作成したところ、このモデルでCry1およびCry2のそれぞれの用量依存的なノックダウンによる時計周期短縮および延長、細胞質CRY2の安定化による周期短縮が再現できた。KL001依存性のCRY安定化による周期延長については、このモデルではCRY1安定化が核で起きることが予測された。実際、KL001を添加したU2OS細胞においてCRY1とCRY2蛋白の量は、核分画でそれぞれ増加および同程度であった。さらに、Cry1欠損状態での核内CRY2の、Cry2欠損状態で核内CRY1の安定化は、in silicoの検討でどちらも時計周期の延長をもたらした。この予測と一致して、KL001をCry1欠損およびCry2欠損線維芽細胞に添加したところ、用量依存的に周期延長が認められた(CRY1、CRY2をノックダウンしたU2OS細胞や、Cry1欠損マウスおよびCry2欠損マウスのSCN組織片にKL001を添加した場合でも同様の結果が得られた)。CRY1とCRY2のどちらのCRYアイソフォームも同様の周期調節の機能をもつが、それぞれの欠損によって自由継続周期(free-running periods)が異なり、核内CRY1/CRY2比によって時計周期は二方向性に調節される。すなわち、CRY1がより多いと周期が長くなり、CRY2がより多いと周期が短くなる。(CRY1が長周期のCLOCK-BMAL1の抑制を担い、CRY2はより短周期の抑制を担うと考えられる。)

肝において、CRY蛋白は、空腹時のホルモンによるPck1G6pc遺伝子(糖新生の律速酵素)の転写を負に調節している。そこで、マウス初代肝細胞にKL001を添加すると、これらの遺伝子発現がどのような影響されるかを検討した。その結果、KL001は、グルカゴン依存性のPck1G6pc遺伝子発現を用量依存的に抑制した。これに伴い、グルカゴン依存性の糖産生活性化も抑制された。したがって、KL001は、空腹時のホルモンによる糖新生の調節(抑制)に有用であろう。なお、ヒトのゲノムワイド関連研究では、CRY2遺伝子座は空腹時血糖と2型糖尿病に関連が見られており、KL001が糖尿病治療に有用な薬剤として用いられる可能性が考えられる。
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# by md345797 | 2012-08-31 23:24 | シグナル伝達機構

カロリー制限はアカゲザルにおいて健康は改善するが、寿命は延長しない:NIA研究

Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study.

Mattison JA, Roth GS, Beasley TM, Tilmont EM, Handy AM, Herbert RL, Longo DL, Allison DB, Young JE, Bryant M, Barnard D, Ward WF, Qi W, Ingram DK, de Cabo R.

Nature. Published online 29 August 2012.

【まとめ】
カロリー制限(CR=栄養素の摂取を10-40%減少させる)は、寿命(lifespan)および健康寿命(healthspan)を延長させる、最も確実な方法とされてきた。アカゲザル(rhesus monkey)では、CRは免疫機能や運動協調機能を改善し、骨格筋減少を防止することが最近示されている。

National Institute on Aging (NIA)で行われた本研究では、アカゲザルにおいてCRは生存期間延長をもたらさないことが示された。この結果は、現在進行中のWisconsin National Primate Research Center (WNPRC)での研究結果(=30%のCRによってアカゲザルの生存が7-14年延長した)とは異なるものである。WNPRCは、げっ歯類におけるCRの寿命延長効果を、より長期生存する霊長類でも証明した。しかし、NIAにおける本研究は、霊長類においてCRは健康への好影響をもたらすものの、寿命延長効果はないことを示し、CRの寿命延長には研究計画や食餌の組成などが影響している可能性を示唆するものである。

【論文内容】
NIAにおけるCR研究は1987年に開始され、若年および高齢の非ヒト霊長類(Macaca mulatta、平均年齢は約27歳、最高齢は約40歳)を対象に20年以上行われている。

このNIA研究において、高齢(16-23歳)からCRを開始されたサルは、コントロールに比べて生存は延長しなかった。両群での死因にも明らかな差は認めなかった。ただし、高齢からCRを開始したサルはコントトロールに比べて、健康機能が改善しており、中性脂肪・コレステロール・空腹時血糖・酸化ストレスマーカー(isoprostane)が低値であった。なお、高齢からCRを開始したサルは免疫機能は悪化傾向にあった。

さらに、NIA研究では、若年からCRを開始したオスおよびメスのサルで、全死因および加齢関連死因による生存曲線に差は認めなかった。現在も若年サルの50%未満は生存していることを考えると、これは本研究の最終結果とは言えないが、hazard関数を用いた寿命予測に基づくと、さらに5-10年研究期間を延長しても平均生存に有意差が認められる確率は非常に低いと考えられた。

若年からCRを開始したサルでは、予測されるCRの効果が見られなかった(空腹時血糖はCRとコントロールで差がなく、中性脂肪はオスのCRサルでやや低いのみであった)。ただし、癌の発症率はCRサルで有意に低下していた。加齢関連疾患の発症は、CRに比べコントロールの方が早かったが有意差はなかった。

では、NIAとWNPRCの寿命延長の結果の違いは何によるものであろうか?

まず、これら2つの研究では食餌組成の違いがあった。NIAでは天然組成の食餌(バッチ間での混合物の差がありうる)が用いられたが、WNPRCでは精製食餌(ビタミン・ミネラルなどは後から加えられている)が用いられている。食餌中のタンパク質の由来も異なり、NIAでは小麦、トウモロコシ、大豆、魚、アルファルファ由来であるが、WNPRCではラクトアルブミン由来である。NIAの食餌には抗酸化作用のあるフラボノイド、魚由来の脂質(omega-3脂肪酸が豊富)を含むのに対し、WNRPCの食餌脂質はトウモロコシ油由来である。炭水化物組成も異なり、NIAでは小麦とトウモロコシ由来なのに対し、WNRPCではコーンスターチとショ糖由来である。NIAの食餌は3.9%のショ糖しか含まないが、WNRPCの食餌は28.5%含んでおり、ショ糖が多いことは2型糖尿病発症にも関連しうる。さらに、NIAとWNRPCでは、ビタミンとミネラルの補充も異なっている。

さらに、NIA研究におけるコントロールサルは、WNPRC研究のように自由摂食(fed ad libitum)ではなく、肥満をきたさない程度に分割された食餌を与えられていた。すなわち、NIA研究のコントロールは軽度のカロリー制限が行われていた可能性がある。そのため、WNPRC研究のコントロールはNIAのコントロールに比べ全体的に体重が多かった。また、NIAのサルは中国とインド由来で、厳密にインドのコロニー由来のWNPRCのサルに比べて遺伝的多様性が大きかった。

ヒトにおける最初のランダム化試験では、6か月のCRによって加齢のバイオマーカーや心血管の健康が改善し、加齢関連疾患のリスクが減ることが示唆されているが、ヒトにおける寿命研究はできそうもない。今後は、2つのサルのCR研究の結果を比較しながら、CRによる健康指標の改善を除いた寿命そのものに対する影響を継続して検討する必要がある。
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# by md345797 | 2012-08-30 23:42 | その他

脂肪組織のnatural killer T細胞はインスリン抵抗性を防止する

Natural killer T cells in adipose tissue prevent insulin resistance.

Schipper HS, Rakhshandehroo M, van de Graaf SF, Venken K, Koppen A, Stienstra R, Prop S, Meerding J, Hamers N, Besra G, Boon L, Nieuwenhuis EE, Elewaut D, Prakken B, Kersten S, Boes M, Kalkhoven E.

J Clin Invest. 2012 Aug 6. Published online.

【まとめ】
CD1d拘束性invariant natural killer T (iNKT)細胞は、脂質負荷に伴うインスリン抵抗性の発症への関与が想定されているが、最近、高脂肪食負荷時にはiNKT細胞数が減少し、iNKT細胞のインスリン抵抗性への関与は少ないことが報告されている。そこで、本研究では、正常食負荷の状態におけるiNKT細胞の役割について検討した。CD1d欠損マウス(iNKT細胞欠損マウス)は低脂肪食(マウスにとっての正常食)下では、脂肪組織の炎症はないが独特のインスリン抵抗性形質を示した。このインスリン抵抗性は、脂肪細胞の肥大、レプチンの増加、アディポネクチンの低下などの脂肪細胞機能異常を伴っていた。このマウスでは肝に異常を認めないことから、インスリン抵抗性の発症には脂肪組織に存在するiNKT細胞が重要な役割を果たすと考えられた。興味深いことに、iNKT細胞の機能は脂肪細胞によって直接調節され、脂肪細胞はCD1dを介する脂質抗原提示細胞として作用していた。これらの結果から、低脂肪食下では、脂肪組織に存在するiNKT細胞は脂肪細胞との直接の相互作用を介してインスリン抵抗性を防止し、正常な脂肪組織機能を維持することに役立っていると考えられた。

【論文内容】
CD1d拘束性インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞は脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性発症に関与しているという報告があるものの、高脂肪食負荷時のiNKT細胞のインスリン抵抗性への関与の程度は少ないとされている。そこで、本研究では、高脂肪食下ではない正常食の状態での脂肪組織に存在するiNKT細胞の機能について検討することにした。ここでは、CD1d欠損マウス、およびJα18欠損マウス、WTマウスからiNKT細胞を抗体を用いて欠損させたモデル(いずれもiNKT細胞欠損モデル)を用いて、低脂肪食(マウスにとっての正常食)下におけるiNKT細胞の正常な脂肪細胞機能維持およびインスリン抵抗性の防止効果を検討した。

iNKT細胞を欠損または抗体により減少させるとインスリン抵抗性が惹起される
CD1d欠損マウス(iNKT細胞を欠損するマウス)および野生型(WT)C57BL/6マウスに低脂肪食(LFD)または高脂肪食(HFD)を負荷したところ、体重・摂食に差はなかったが、CD1d欠損マウスでは(特にLFDで)耐糖能が悪化した。同様に、Jα18欠損マウス(type 1 iNKT細胞が選択的に欠損したマウス)や 抗NK1.1抗体投与によるiNKT細胞減少マウスでも、LFD負荷後の耐糖能が悪化した。これとは逆に、CD1d拘束性iNKT細胞の活性化リガンドであるα-galactosyl ceramide (αGalCer)を注入したマウスでは、in vivoでiNKT細胞が活性化されると考えられたが、このマウスでは耐糖能は改善しなかった(これはWTマウスではもともとLFDで十分にインスリン感受性になっていたため、さらには改善しなかったと考えられる)。以上より、CD1d拘束性iNKT細胞は、特にLFD負荷マウスではインスリン抵抗性を防止する役割を果たしていると考えられた。

iNKT細胞は肝にも脂肪組織にも存在するが、LFD負荷CD1d欠損マウスの肝は、組織像、脂肪含量、肝機能酵素(AST、ALT)、肝の炎症マーカー(lipocalin-2、serum amyloid A)が、WTマウスと比較して差がなかったため、脂肪組織に存在するiNKT細胞に注目することにした。

脂肪組織に存在するiNKT細胞は抗炎症形質をもち、HFD負荷により減少する
脂肪組織に存在するiNKT細胞は、内臓脂肪組織T細胞の5-10%を占め、脾由来のiNKT細胞に比べ、多くがCD4-CD8-で、NK1.1の発現が減少しているという特徴がある。脂肪組織に存在するiNKT細胞は、脾由来iNKT細胞に比べると、細胞内IL-4、IL-13が多く、IFN-γが少ないという、抗炎症形質を示す。CD1d欠損マウスでは脂肪組織のIl4Il13 mRNA発現が減少していたため、脂肪組織のこれらのサイトカインレベルの維持にはiNKT細胞が重要な役割を果たしていると考えられた。また、HFD負荷WTマウスは、LFD負荷マウスに比べると、内臓脂肪と皮下脂肪のiNKT細胞の数と活性が低下していた。

CD1d欠損マウスは脂肪組織Treg数が増加し、インスリン抵抗性の増悪を防止している
HFD負荷したWTマウスでは、脂肪組織へのCD8+T細胞の浸潤およびM1形質マクロファージの浸潤がインスリン抵抗性発症に重要と考えられている。しかし、同様にインスリン抵抗性を示すLFD負荷CD1d欠損マウスでは、このような脂肪組織CD8+T細胞浸潤、マクロファージ浸潤、M1形質への分極化は見られなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスではCD4+CD25+T細胞数の増加が見られ、この細胞はFoxp3を高発現していた。すなわち、iNKT細胞の欠損状態では、インスリン抵抗性防止に役立つと考えられているTreg (regulatory T細胞)の増加が認められた。そこで、LFD負荷CD1d欠損マウスにおいて、抗CD25抗体を用いてTregを減少させたところ、耐糖能・インスリン抵抗性はさらに悪化した。したがって、LFD負荷CD1d欠損マウスでは、よく知られたHFD負荷に伴う脂肪組織へのCD8+T細胞やマクロファージの浸潤ではなく、脂肪組織Treg数の増加が認められた。このTregの増加は、LFD負荷CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性のさらなる悪化を防止する働きがあると考えられる。

CD1d拘束性 iNKT細胞がないと脂肪細胞の機能不全が生じる
LFD負荷CD1d欠損マウスの脂肪組織のマイクロアレイ解析によると、このインスリン抵抗性マウスの脂肪組織の遺伝子発現は、HFD負荷インスリン抵抗性マウスのパターンとは異なっていた。HFDで増加する古典的な炎症性マーカー(Tnfa、F4/80、Cd11c、Ccl2、Saa3、Adam8)は、LFD負荷CD1d欠損マウスでWTマウスと比べて増加していなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスはWTマウスに比べ脂肪細胞の肥大が見られたが、精巣上脂肪重量や総脂肪量に差はなかった。また、脂肪合成(Scd1、Fas)、脂肪滴形成(perilipin1=Lipin1、Pparg) 、熱産生(Ucp1、Ppara)に関連する遺伝子も増加はなかった。しかし、LFD負荷CD1d欠損マウスではadiponectinの低下とleptinの増加が見られ、adipokine分泌において脂肪細胞の機能低下があることが示唆された。

ヒト脂肪組織にはCCR2+iNKT細胞が豊富である
健康なヒトドナー6名より採取した腹部皮下脂肪組織と血液でiNKT細胞数を測定したところ、血中に比べ腹部皮下脂肪組織ではiNKT細胞が約10倍多かった。血液と腹部脂肪組織のiNKT細胞のケモカイン受容体の発現を検討したところ、血中に比べ腹部脂肪組織のiNKT細胞ではCCR2(脂肪細胞が分泌するMCP-1の受容体)、CXCR2、CXCR6の発現が多かった。このことから、脂肪組織へのiNKT細胞の浸潤にはMCP-1/CCR2および、CXCR2、CXCR6を介する走化性が関与していると考えられた。

ヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、iNKT細胞機能を調節する
脂肪細胞はCD1d抗原リガンドとなる脂質を含んでいる。そこで、脂肪細胞が脂質抗原を提示することにより、直接iNKT細胞機能を調節している可能性について検討した。まず、培養細胞系であるヒトSGBS preadipocyte(未分化の状態)では、抗原提示に必要な因子(pro-saponin、NPC2、α-galactosidase)とCD1Dの発現が少ないが、分化したSGBS adipocyteとヒト初代脂肪細胞ではこれらの発現が増加していることを確認した。このことから、脂肪細胞がiNKT細胞の脂質抗原提示細胞として機能している可能性を考えた。そこで、5名の健常者の血液からiNKT細胞株を作製し、脂質抗原であるαGalCerを加え、ヒト脂肪細胞株と共培養した。その結果、iNKT細胞の細胞内および上清中のIL-4、IL-13、IFN-γが増加し、これらは脂肪細胞のCD1dノックダウンにより減少した。以上より分化したヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、脂質抗原提示細胞としてiNKT細胞の機能を調節していると考えられた。

【結論】
マウスの正常食負荷(ここではLFD)の状態では、CD1d拘束性iNKT細胞は、脂肪細胞機能異常を防止し、インスリン抵抗性の発症を抑制することが示された。また、脂肪細胞に発現するCD1dが脂肪組織に豊富に存在する脂質抗原を提示することによりiNKT細胞の機能を調節するという、ユニークな調節機構があることも分かった。CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性は、脂肪組織のTregを減少させることによりさらに悪化したため、iNKT細胞はTregと協調してインスリン抵抗性を防止していると考えられた。本研究のLFD条件下でiNKT細胞により産生されるIL-4、IL-13はインスリン抵抗性を抑制すると考えられる。(iNKT細胞から産生されるIFN-γはインスリン抵抗性を増悪させることが知られているが、これはHFD負荷でのiNKT細胞によるインスリン抵抗性増悪に関連しているのかもしれない。HFD条件下でのiNKT細胞の役割は種々の報告があるものの不明。) 脂肪組織に存在するiNKT細胞のインスリン抵抗性防止効果は、食餌の構成や期間によって異なり、今回の検討では長期のLFD負荷によって最も著明に認められた。
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# by md345797 | 2012-08-16 00:56 | インスリン抵抗性

好中球はエラスターゼ分泌を介して高脂肪食によるインスリン抵抗性を調節している

Neutrophils mediate insulin resistance in mice fed a high-fat diet through secreted elastase.

Talukdar S, Oh DY, Bandyopadhyay G, Li D, Xu J, McNelis J, Lu M, Li P, Yan Q, Zhu Y, Ofrecio J, Lin M, Brenner MB, Olefsky JM.

Nat Med. 18, 1407–1412, 2012.

【まとめ】
脂肪組織と肝臓における慢性的な低レベルの炎症は、肥満・2型糖尿病に存在するインスリン抵抗性の主要な原因であるが、そこにはさまざまな免疫細胞(マクロファージT細胞B細胞肥満細胞好酸球)が関わっている。好中球は、炎症に反応する最初の典型的な免疫細胞であり、マクロファージを誘導したり、抗原提示細胞と相互作用したりすることにより慢性炎症を悪化させる。好中球はいくつかのプロテアーゼを分泌して炎症反応を促進するが、その一つは好中球エラスターゼ(neutrophil elastase)である。この研究では、肝細胞に好中球エラスターゼを添加すると細胞のインスリン抵抗性を惹起すること、好中球エラスターゼを欠損させたマウスに高脂肪食を負荷しても脂肪組織の好中球やマクロファージ量が増えず、組織の炎症が少なく、インスリン抵抗性が起こりにくいことなどを示した。これらの結果より、好中球も、炎症に伴う代謝疾患に関与する免疫細胞の一つであることが分かった。

【論文内容】
マウスに高脂肪食を負荷すると、脂肪組織に好中球の浸潤が見られる。この脂肪組織好中球(adipose tissue neutrophils; ATNs)は、ケモカイン・サイトカインを放出してマクロファージ浸潤を促進し、慢性炎症を惹起している。好中球由来の好中球エラスターゼなどのセリンプロテアーゼは無菌的な炎症に重要な役割を果たしていることも知られている。

高脂肪食負荷に伴う脂肪組織好中球浸潤・インスリン抵抗性と、好中球エラスターゼの関連
C57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷後、脂肪組織好中球(ATNs=脂肪組織間質血管細胞(SVCs)のうち、FACSを用いて好中球マーカーLy6g、Cd11bが陽性、マクロファージマーカーF4/80、Cd11cが陰性の細胞)の増加のtime courseを調べた。その結果、高脂肪食負荷3日後で急速なATNの増加が認められ、負荷90日まで持続することが分かった。免疫組織化学による検討で、高脂肪食負荷によって、白色脂肪組織(WAT)にLys6g+Cd11b+細胞が増加した。FACS解析でも、高脂肪食12週負荷後のSVCs中のLys6g+Cd11b+ F4/80-Cd11c-細胞の数は20倍に増加していた。好中球エラスターゼの発現と活性も、高脂肪食負荷3日後には増加し、負荷12週まで高値だった。高脂肪食負荷しても、好中球エラスターゼ阻害剤GW311616Aを14日間連日投与したマウスでは、耐糖能障害が改善した。逆に、recombinantのマウス好中球エラスターゼを7日間投与した正常食負荷マウスは、著明な耐糖能異常をきたした。

NEKOマウスにおけるインスリン感受性の亢進
次に、好中球エラスターゼ欠損(NEKO)マウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型(WT)マウスに比べGTTで耐糖能が良好でITTでインスリン感受性だった。また、NEKOマウスはWTに比べ、高脂肪食負荷後のATN量が90%程度低値であった。GW311616Aを投与したWTマウスに高脂肪食を負荷した場合は、ATN量は大きく低下した。したがって、遺伝的にまたは薬物により好中球エラスターゼ機能を消失させると、ATNsの低下に伴い、耐糖能が改善すると考えられる。

さらに、これらのマウスのインスリン感受性を、高インスリン正常血糖クランプを用いて検討した。NEKOマウスはWTマウスに比べ、正常血糖を維持するためのグルコース注入率が増加しており、クランプ中の肝糖産生が低下していた。またNEKOマウスでは、インスリンによる遊離脂肪酸(FFA)の抑制が大きかった。すなわち、好中球エラスターゼ欠損により、肝および脂肪組織におけるインスリン感受性が亢進していると考えられた。

次にNEKOマウスとWTマウスで、インスリン注入による肝と精巣上脂肪組織(eWAT)における急性効果を調べた。その結果どちらの組織でも、NEKOマウスにおいてインスリン刺激によるAktリン酸化が亢進していた。

高脂肪食による肝への好中球浸潤とIrs1 degradationによるインスリンシグナル伝達の障害
高脂肪食負荷したWTマウスの肝では、正常食投与したマウスに比べ、好中球数が増加していたが、高脂肪食負荷したNEKOマウスでは差はなかった。肝の好中球エラスターゼ活性も、高脂肪食負荷したWTマウスでは、正常食投与に比べ増加していた。細胞外の好中球エラスターゼは細胞内に移行して、Irs1のdegradationを起こすことが知られている。NEKOマウスの肝および脂肪組織のIrs1は、WTマウスに比べて増加していた。好中球エラスターゼを2時間ごとにC57BL/6Jマウスに投与すると、肝およびeWATのIrs1量とインスリンによるAktのリン酸化は低下した。NEKOマウスの肝と脂肪組織のIrs1発現量は、WTマウスに比べ増加していた。

次に、マウスとヒトの初代肝細胞に好中球エラスターゼを直接添加したところ、どちらの細胞でもIrs1蛋白量の減少、インスリンによるAktリン酸化低下が認められた。さらに、マウス初代肝細胞のグルカゴン添加による糖産生とインスリンによるその抑制を調べたところ、好中球エラスターゼを添加するとベースの糖産生が50%増加し、インスリンによるグルカゴン応答性肝糖産生の抑制が効かなくなった。好中球エラスターゼは初代肝細胞において、Irs1 degradationを介して細胞内インスリンシグナル伝達を抑制し、糖産生抑制を抑えると考えられた。なお、3T3-L1脂肪細胞に好中球エラスターゼを添加しても、同様のIrs1 degradationとインスリンによるAktリン酸化低下が認められた。

NEKOマウスでは炎症のトーンが低下している
好中球エラスターゼは、Toll-like receptor 4(Tlr4)を活性化することにより炎症を増加させると考えられているため、WTとTlr4欠損(Tlr4KO)マウスの腹腔内マクロファージをLPSおよび好中球エラスターゼで刺激した。LPS刺激により、WTのマクロファージでTnfa、Il1b、Cxcl1、Il6のmRNAが増加したが、Tlr4KOのマクロファージでは増加しなかった。好中球エラスターゼによる刺激の結果も同様であり、好中球エラスターゼの作用がTlr4依存性であることが確認された。NEKOマウスの肝ではWTに比べて、炎症性マーカー(Tnfa、Emr1(F4/80)、Cxcl1、Il1r1、Il1b、CCl2(Mcp1))の発現が低下、抗炎症マーカー(Arginase)の発現が増加し、IκBのdegradationも少なかった。脂肪組織でも同様で、NEKOマウスではWTに比べて炎症性マーカー(Il1b、Tnfa、Cxcl1、Cd68、Irf4、Irf5)の発現が低下し、抗炎症マーカー(Arg、Clec10a(Mgl1)、Il4)の発現が増加、IκBのdegradationが低下していた。NEKOマウスの脂肪組織の中では、脂肪組織マクロファージ(ATM)のうち、M1様細胞(Cd11c+)の数が低下、M2様細胞(Cd11b+Cd11c-)の数が増加していた。好中球から分泌されたエラスターゼが、マクロファージの分極化(polarization)を変化させていると考えられた。NEKOマウスでは肝と脂肪組織の炎症のトーンの低下に伴い、血清中のIl-1β、Tnf-α、Mcp-1、Il-6、GM-CSF、Ccl3、Ccl4、resistin濃度が低値であった。なお、NEKOマウスから単離したeWATをex vivoでインスリン刺激したところ、2-deoxyglucose取り込みが増加しており、インスリン感受性が亢進していることが示された。

【結論】
高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性において、肝および脂肪組織に浸潤する好中球とそこから分泌されるエラスターゼは、炎症の発症に重要な役割を果たしている。好中球エラスターゼはTlr4経路を活性化し、免疫細胞や脂肪細胞からのサイトカイン産生を変化させ、さらなる炎症の増幅を促進していると考えられる。好中球エラスターゼ阻害は、高脂肪食に伴うインスリン抵抗性の治療手段となりうるだろう。
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# by md345797 | 2012-08-06 23:49 | インスリン抵抗性

SirT1依存性のPparγ脱アセチル化による、白色脂肪組織の褐色化

Brown Remodeling of White Adipose Tissue by SirT1-Dependent Deacetylation of Pparγ.

Qiang L, Wang L, Kon N, Zhao W, Lee S, Zhang Y, Rosenbaum M, Zhao Y, Gu W, Farmer SR, Accili D.

Cell. 150 (3), 620-632, 3 August 2012.

【まとめ】
褐色脂肪組織(BAT)は蓄積されたエネルギーを熱として放散するため、白色脂肪組織(WAT)を褐色様形質に転換させること(browning、褐色化)は、肥満の重要な治療戦略となりうる。本研究によって、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)のgain-of-function、またはその内因性阻害蛋白であるDbc1のloss-of-functionは、WATの褐色化を促進することが分かり、それは、PparγのLys268とLys293の脱アセチル化を伴うことが明らかになった。このSirT1依存性のPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、BAT分化のcoactivatorであるPrdm16のPparγへの結合に必要であり、BAT遺伝子の発現増加とインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子の発現抑制をもたらした。また、脱アセチル化が起こらないPparγ変異体は白色脂肪細胞に褐色様形質をもたらし、逆にアセチル化を模倣したPparγ変異体では「白色」遺伝子の活性化を保持し「褐色」遺伝子の発現が起こらなかった。以上より、SirT1依存性のPparγの脱アセチル化は白色脂肪細胞の褐色化をもたらすことが明らかになり、このことが肥満治療に有用である可能性が示された。

【論文内容】
エネルギーを蓄積する白色脂肪組織(WAT)を、エネルギーを熱として消費する褐色脂肪組織(BAT)様に転換させること(browning、褐色化)は肥満治療において有用と考えられる。マウスのWATを褐色化させるためには、ホルモンやサイトカインによる方法(Irisin、Fgf21)や転写因子調節による方法(Prdm16、FoxC2、RIP140、4E-BP1、TIF2、pRb、p107)が知られているが、これらを臨床に応用する方法の確立が必要である。白色脂肪細胞において、Pparγをthiazolidinediones (TZDs)によって活性化させると、褐色脂肪特異的遺伝子(褐色遺伝子)発現が増加し、内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)発現が抑制されることにより褐色化が誘導されるが、そのような治療を進めるにはTZDの副作用も問題となっている。また、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)を活性化させることによりミトコンドリア生合成や活性が促進されることから、SirT1がBAT機能を調節している可能性がある。SirT1のgain-of-function変異は、in vivoでPparγリガンドのインスリン感受性亢進機能を模倣することも知られている。これらのことから、Pparγの褐色化促進効果はSirT1依存性の脱アセチル化を介するのではないか、SirT1はTZDsと同様の褐色化効果をもたらすのではないかと考え、以下の検討を行った。

SirT1はリガンド依存的にPparγを脱アセチル化する
まず、PparγとSirT1を発現させた293細胞をrosiglitzoneで刺激したところ、Pparγのアセチル化(Acetyl-Lys抗体でblot)が減少した。また、PparγのアンタゴニストGW9662を添加するとPparγとSirT1の結合が低下した。Pparγのアセチル化はアセチル化酵素であるCbpで増強され、逆にSirT1過剰発現やresveratrolによるSirT1活性化によって減少した。精製したSirT1とアセチル化したPparγを用いてin vitro脱アセチル化アッセイを行ったところ、WTのSirT1はPparγをNAD+依存性に脱アセチル化した(SirT1の不活性型変異体(H363Y)はPparγを脱アセチル化しなかった)。したがって、SirT1はPparγを脱アセチル化の基質であり、SirT1によるPparγ脱アセチル化にはPparγのリガンド結合が必要と考えられた。さらに、精巣上WATおよび鼠径部WATのlysateのPparγ免疫沈降物からSirT1が検出され、SirT1トランスジェニックマウス(SirT1 Bacterial Artificial Chromosome Overexpressor transgenic mice (SirBACO))の鼠径部WATのSirT1の免疫沈降物にPparγが認められたため、SirT1とPparγの結合はin vivoにおける生理的なものと考えられた。

SirT1はPparγリガンドの白色遺伝子・褐色遺伝子への効果を模倣する
TZDsもSirT1もPparγアセチル化を減少させるため、SirT1のgain-of-functionはTZDsによるPparγ活性化を模倣するのではないかと考えた。TZDの効果としてインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)の発現を抑制することが知られているが、3T3-L1白色脂肪細胞にresveratrolを投与してSirT1を活性化しても同様の効果が認められた(白色遺伝子であるAngiotensinogen (Agt)、 ResistinWdnm1LChemerinPank3の発現が抑制)。これらはSirT1の不活性型変異体(H363Y)では抑制されなかった。次にHIB-1B細胞(Ucp1、SirT1およびSirT1阻害蛋白であるDbc1の発現が3T3-L1細胞よりも皮下脂肪組織に近い褐色脂肪細胞株)を用いて、褐色遺伝子に対するSirT1とPparγリガンドの影響を比較した。ResveratrolによるSirT1の活性化、またはtroglitazoneによるPparγの活性化によって、Ucp1発現は増加し、それぞれSirT1阻害剤(nicotinamide)およびPparγアンタゴニスト(GW9662)によって抑制された。WT SirT1の過剰発現はPparγアセチル化を低下させて褐色遺伝子(Ucp1Dio2)を増加させたが、SirT1の不活性型変異体の過剰発現は逆の効果をもたらした。以上より、SirT1のPparγ脱アセチル化活性は褐色遺伝子発現増加と白色遺伝子発現抑制に必要であり、リガンドが結合したPparγの効果を模倣していることが明らかになった。

SirT1は皮下WATの褐色化をもたらす
マウス脂肪組織(精巣上WAT、鼠径部WATおよびBAT)において、SirT1と褐色遺伝子の発現には正の相関があり、 SirT1阻害蛋白Dbc1と褐色遺伝子の発現には負の相関があった。そこで、SirT1活性を調節した3つのモデルマウス、すなわち、Sirt1欠損マウス(Sirt1-/-)、SirT1活性亢進マウス(Dbc1-/-)、SirT1過剰発現マウス(SirBACO)を用いて、SirT1と褐色化の関連について検討した。Sirt1-/-マウスはBATのUcp1レベルは正常だったが、鼠径部WATのUcp1は減少しており、SirT1が皮下WATにおける熱産生に必要であることが示された。Dbc1-/-マウスの熱産生を増加させるため4℃に寒冷曝露したところ、通常は単胞性(unilocular)の鼠径部WAT脂肪細胞が、Ucp1陽性で脂肪胞の少ない(paucilocular)脂肪細胞が増加し、褐色遺伝子(Ucp1C/ebpβ)の発現が増加、白色遺伝子(Chemerin, Resistin)の発現が抑制された。すなわち、Dbc1-/-マウスの皮下白色脂肪細胞は寒冷曝露に伴って褐色化した(なお、BATにおけるUcp1発現は変化なかった)。SirBACOマウスを同じく4℃に寒冷曝露した場合にも同様の変化が認められた。以上より、SirT1は鼠径部WATを褐色化させる役割を担っていると考えられた。

SirT1のgain-of-functionとPparγリガンドは、インスリン感受性亢進に関して重複した効果をもたらす
加齢Dbc1-/-マウスでは耐糖能異常が見られたが、このDbc1-/-マウスを軽度の低温(12℃)に4週間置くと、耐糖能が改善した。SirBACOマウスでも鼠径部WATの脂肪細胞がサイズが小さく、脂肪胞が小さく、多く(multilocular)なり、Ucp1陽性のものが増加し、褐色遺伝子発現が増加した。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスの鼠径部WATでは、高脂肪食負荷したコントロールマウスに比べてインスリン抵抗性関連遺伝子の発現が低下していた。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスは高脂肪食を負荷したコントロールマウスに比べインスリン抵抗性が低下していたが、ここにrosiglitazoneを投与してもSirBACOマウスのインスリン抵抗性がさらに改善することはなかった。したがって、SirT1増加による効果とPparγリガンドによる効果はオーバーラップしていることが示唆された。

SirT1はPparγのLys268とLys293を脱アセチル化する
次に、Pparγ上のSirT1によって脱アセチル化される部位の同定を試みた。Trypsin-およびchymotrypsinによって分解したPparγのペプチド断片をHPLC/MS/MS解析することにより、脱アセチル化されるのはLys268とLys293であることが分かった。以前より、P467L変異Pparγを持つヒトは高度のインスリン抵抗性を示すことが知られていたが、P467L変異Pparγは過剰にアセチル化されており、SirT1との結合が阻害されていた。この変異にさらにLys268とLys293の変異を起こすとアセチル化が大きく減少することから、P467L変異に伴うアセチル化部位はこの2つのLysであると考えられた。

Pparγアセチル化の生理的調節
鼠径部WATのPparγアセチル化は、寒冷曝露による褐色遺伝子活性化の際に減少していたが、高脂肪食によるインスリン抵抗性に伴って増加していた。この高脂肪食によるPparγアセチル化の増加は、SirT1との結合低下を伴っており、rosiglitazone投与、Dbc1欠損、SirT1過剰発現によって回復する。ヒト皮下脂肪組織にresveratrolを添加した場合のSIRT1活性化もPparγアセチル化を減少させた。これはresveratrolのヒトへの投与でインスリン抵抗性が改善することと一致する。

Pparγアセチル化部位変異体のBAT様機能
Swiss-3T3 fibroblastsに、WT Pparγ、アセチル化模倣K293Q(KQ)、脱アセチル化模倣K293R(KR)、2か所の脱アセチル化模倣K268R/K293R(2KR)のそれぞれのPparγ変異体を発現させた。WT PparγおよびKRを発現したfibroblastは通常に脂肪細胞に分化したが、KQを発現させた場合は分化が遅かった。2KRを発現させたfibroblastは、WT Pparγを発現させたものより脂質蓄積が多く、adiponectinの発現が多く、脂肪分化を抑制するβ-cateninのdegradationが促進されていた。すなわち、Pparγの十分な活性化には、脱アセチル化が必要であると考えられた。ミトコンドリア呼吸はKQ発現で抑制され、2KR発現で増加していた。2KRは、褐色遺伝子(Ucp1Elovl3CideaCox7aPgc1α)の活性化作用がWT Pparγより強かった。逆にKQの発現によりこれらの遺伝子発現が抑制された。また、TZD反応性遺伝子であるFgf21も同様にKQの発現で抑制され、2KRの発現で活性化された。以上より、SirT1によるPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、TZDによる白色脂肪細胞の褐色化を促進すると考えられた。

SirT1依存性の脱アセチル化は、Pparγのcoactivator/corepressor交換を調節する
PparγのSer273リン酸化はPparγ活性を調節している(TZDによりSer273が脱リン酸化されることに伴い、adiponectin発現が増加する)。興味深いことに、Ser273リン酸化はLys293のアセチル化とのみ並行しているが、Lys268とは並行していない。PparγのS273A(SA=Ser273がリン酸化されない)またはS273A/2KR(AR=Ser273がリン酸化されず、2つのLysがアセチル化されない)変異体をそれぞれSwiss-3T3細胞に過剰発現させると、両者のadiponectin発現に対する効果は同じであるが、褐色遺伝子活性化はSAよりもARの方が強い。したがって、Pparγ Lysアセチル化とSer273リン酸化はadipokine産生には協調して作用するが、褐色遺伝子発現には脱アセチル化が作用していると考えられる。

Prdm16は皮下WATを褐色化させる、褐色脂肪細胞系列分化決定のcoactivatorである。Prdm16は、293細胞においてrosiglitazone依存性にPparγに結合した。CbpによってPparγをアセチル化するとPrdm16とPparγの結合が阻害されたが、rosiglitazone添加によってPparγが脱アセチル化されるとPrdm16との結合はその分回復した。アセチル化しないPparγ 2KRは、リガンド結合に関わらず恒常的にPrdm16に結合した。同様に、Cbpによる(Pparγアセチル化に伴う)PparγとPrdm16結合の阻害は、SirT1過剰発現によって(Pparγが脱アセチル化されると)回復した。SirT1のgain-of-functionはPparγとPrdm16との結合を促進したが、PparγアンタゴニストGW9662はこの結合を阻害した。なお、SirT1を発現させたHIB-1B細胞で、Ucp1エンハンサーからのchromatin免疫沈降物から、Prdm16に結合したPparγが検出された(不活性型SirT1 H363Y変異体を発現させた細胞では結合は検出されなかった)。

Pparγの2つのLys→Argの変異体作製により、Prdm16のPparγへの結合に必要なのはLys293であり、Lys268ではないことが分かった。また、転写のcorepressorであるNCoRはPparγを中心とした複合体の重要なコンポーネントである。興味深いことに、PparγとNCoRとの結合はどちらのLysの変異体でも阻害されたため、PparγとNCoRとの結合には両方のLysの脱アセチル化が必要であることが分かった。CbpはPparγをアセチル化してNCoRとの結合を増加させ、SirT1はPparγを脱アセチル化してこの結合を阻害した。以上より、PparγのLys293の脱アセチル化はcoactivatorであるPrdm16の結合を促進し、Lys268とLys293の脱アセチル化はcorepressorであるNCoRとの解離に必要である。このようにLys268とLys293のアセチル化状態はPparγのcorepressor/coactivatorの交換に必要であることが分かる。

【結論】
SirT1はエネルギーの欠乏により活性化されることが知られており、SirT1によりPparγのLys268とLys293が脱アセチル化されることが明らかになったため、Pparγのこの2つのLysがアセチル化されているということはエネルギーが十分にあることを示している。逆にPparγのLysの脱アセチル化はエネルギーが貯蔵から消費に傾いており、インスリン感受性が促進されている状態を示していると言える。本研究では、寒冷曝露のような刺激によってSirT1が活性化すると、Pparγの脱アセチル化を介して、白色脂肪細胞が褐色化されることが示された。

PparγのLysはsumoylationおよびubiquitinationによっても修飾される。Fgf21はPparγのLys107のsumoylationを促進することにより、白色脂肪細胞の褐色化を起こし、インスリン感受性増加をもたらす。また、Pparγへのリガンド結合は、Lys268とLys293の脱アセチル化によって調節されるubiquitinによるPparγのdegradationを促進する。さらに、TZDsはCDK5によるPparγ Ser273のリン酸化を阻害することによりインスリン感受性増加をもたらす(PparγのSer273はLys268、Lys2963によって作られるgroove内に埋まっていて、Lysのアセチル化がSer273リン酸化を調節していると考えられる)。

以上の結果から、PparγリガンドにSirT1アゴニストを合わせて用いることによって、TZDの副作用(体液貯留、体重増加、骨代謝亢進、ある種の癌の発生や心血管リスクの疑いなど)を軽減した代謝疾患の治療が可能になるかもしれないと考えられた。
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# by md345797 | 2012-08-04 01:31 | シグナル伝達機構