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糸球体足細胞(podocyte)のインスリンシグナル伝達が正常な腎機能に重要

Insulin signaling to the glomerular podocyte is critical for normal kidney function.

Welsh GI, Hale LJ, Eremina V, Jeansson M, Maezawa Y, Lennon R, Pons DA, Owen RJ, Satchell SC, Miles MJ, Caunt CJ, McArdle CA, Pavenstädt H, Tavaré JM, Herzenberg AM, Kahn CR, Mathieson PW, Quaggin SE, Saleem MA, Coward RJ.

Cell Metab. 2010 Oct 6;12(4):329-40.


【まとめ】
糖尿病性腎症は高血糖に伴う細小血管障害と考えられ主要な障害部位は血管内皮細胞とされていた。しかし、糸球体の足細胞(podocyte)はインスリン反応性の細胞であり、podocyte特異的にインスリン受容体(IR)を欠損させたマウスは、正常血糖にもかかわらずアルブミン尿と糖尿病性腎症の組織学的変化を示した。正常腎機能の維持には、podocyteのインスリン感受性が重要な要因である。

【論文の内容】
糖尿病性腎症は高血糖で起きる細小血管障害と考えられてきたが、正常血糖でも起こりうることが知られており、その発症にはインスリン感受性細胞であるpodocyteの機能障害が重要であるという報告がある。

そこでこのグループは、podocyte特異的IRKOマウス(podIRKO)を作製した。このマウスは対照と比較して体重、血糖・インスリン値は正常であった。ところが、生後8週で有意なアルブミン尿、電顕像でfoot processの広範な消失を認め、podocyteのアポトーシス、糸球体硬化が見られた。これらは糖尿病性腎症に見られる特徴である。

Podocyteにおけるインスリンシグナル伝達を検討するため、マウス(WT、KO)にインスリンをip投与し、15分後腎を採取し急速冷凍したのち、p42/44MAPK抗体、pAKT抗体とpodocyte特異抗体(nephrin抗体)とで共染した。その結果podocyteにおいて、WTではMAPK経路、PI3K経路の活性化が見られたが、KOでは認められなかった。

次にインスリンによるpodocyte actin remodelingを、human podocyteとIR-knockdown podocyteを用いて検討した。インスリンにより正常のpodocyteはactin remodelingを起こし、cell mortilityが上昇するが、IR-KD podocyteではそれが起きなかった。なお、インスリンのこの作用はsmall GTPaseであるRhoの活性化とCDC42の不活性化によって起きることも示された。

【結論】
Podocyteにおけるインスリンシグナル伝達は正常の腎機能に重要であり、その障害は糖尿病性腎症と同様の病理学的所見を起こしうる。Podocyteにおけるインスリン抵抗性が糖尿病性腎症の原因の可能性があり、podocyteのインスリン感受性を亢進させる方法があれば、糖尿病性腎症の治療に役立つかもしれない。
by md345797 | 2010-11-10 00:02 | 糖尿病合併症