Case records of the Massachusetts General Hospital.
Case 14-2010. A 54-year-old woman with dizziness and falls.
Samuels MA, Pomerantz BJ, Sadow PM.
N Engl J Med. 2010 May 13;362(19):1815-23.
【症例提示】
めまいとそれに伴う転倒で入院した54歳女性。2か月前、歩行中に発汗と動悸を伴うめまい、左へ転ぶ感覚が起こった。境界域高血圧、間欠性の心房細動があったが神経学的所見は正常。他院でmetoprolol(β1-blocker)とmeclizineを処方されたが無効であり、症状が頻回に起きるようになってきたため入院。
入院当日はめまい(dizziness)があり、ほとんど失神に近い状感覚と頭痛があった。立位でのみめまいが起こり、そのために立位困難であった。15年前に回転性めまい(vertigo)があったが治療なく消失、今回はそれとは違う症状。入院時血圧145/63、脈拍60で、仰臥位より座位で血圧上昇、起立性に低血圧・頻脈があった。症状は、輸液、ステロイド(fludrocortisone)投与では改善しなかった。入院4日目に上室性頻拍があった。
【鑑別診断】
めまいは、臨床で出会う患者の中で最もchallengingでcommonなproblemの一つである。これは、①vertigo(前庭障害)、②near-syncope(失神に近い感覚)、③disequilibrium(歩行障害)、④light-headedness(不安による)の4つの症候群に分けられる。この患者の場合、立位における失神に近い感覚であり、「orthostatic intolerance (起立不耐症)」、臨床診断としては「postural orthostatic tachycardia syndrome(POTS)(起立性頻脈症候群)」と言える。
この起立不耐症の原因として、立位での脳血流の不十分な維持が考えられ、(副腎または副腎外での)カテコラミンの産生過剰による交感神経α受容体のdown-regulationが疑われる。この場合、仰臥位より腹部を圧迫する座位で血圧が上がることから腹部のカテコラミン産生腫瘍、すなわち副腎褐色細胞腫が考えられる。
24時間蓄尿でのメタネフリン276μg(30-180)、ノルメタネフリン1649μg(128-484)が高値であり、CTで左副腎にenhanceされるmassが認められた。そこで、降圧剤をα-blocker(prazosin)に変更し、起立性低血圧予防のためvolume expansionが必要と考えられ、fludrocortisone処方を継続し高食塩食を摂取させた。その後、腹腔鏡による左副腎摘出術が行われた。
【臨床診断】褐色細胞腫 (pheochromocytoma)
【病理診断】
組織学的診断により、褐色細胞腫と確認。腫瘍部分は、神経内分泌顆粒が染色されるchromoglanin Aとsynaptophysinによって染色された。悪性と良性を区別する形態学的所見はなく、遠隔転移の有無で判断できるのみである。伝統的な「rule of 10」(10%副腎外、10%両側、10%悪性、10%高血圧なし、10%遺伝性)は変わりつつあり、現在では約25%が遺伝子変異を伴う(遺伝性)と考えられている。