Safety of Anacetrapib in Patients with or at High Risk for Coronary Heart Disease.
Cannon CP, Shah S, Dansky HM, Davidson M, Brinton EA, Gotto AM, Stepanavage M, Liu SX, Gibbons P, Ashraf TB, Zafarino J, Mitchel Y, Barter P; the DEFINE Investigators.
N Engl J Med. 2010 Nov 17. [Epub ahead of print]
【背景】
コレステリルエステル転送蛋白(CETP:cholesteryl ester transfer protein)は、リポ蛋白間の転送を担う蛋白である。HDLに取り込まれた末梢のコレステロールはコレステリルエステル(CE)へと変換されるが、このCEをアポ蛋白B含有リポ蛋白に転送するのがCETPである。転送されたCEはLDLに変換され肝臓のLDL受容体を介して、肝臓に取り込まれる(コレステロールの逆転送系)。CETP欠損症では、この反応が阻害されるため、高HDL低LDL血症を呈する。CETP活性がないげっ歯類では動脈硬化が起こりにくいのに対して、CETP活性の高いウサギ、ヒトでは動脈硬化が起こりやすいことから、CETP欠損症は抗動脈硬化的と考えられる(異論もある)。また、CETP欠損症は日本に特有の疾患である。
各種のCETP阻害薬が、低HDL血症に対する治療薬としての期待がもたれている。しかし、2006年12月にファイザー社のCETP阻害薬であるトルセトラピブとアトルバスタチンとの併用をアトルバスタチンと比較したILLUMINATE試験が、併用例で血圧上昇などに伴い死亡が61%増加したため早期中止となった。今回、メルク社のCETP阻害薬アナセトラピブの第3相臨床試験が行われ、その安全性について検討された。
【論文内容】
LDLの上昇、HDLの低下は心血管疾患のリスクとなる。スタチンは強力にLDLを低下させるが、スタチン治療の後にも残存リスク(residual risk)として低HDL血症が残る。HDLを上昇させる方法としてCETP阻害薬が有用であるが、最初のCETP阻害薬であるトルセトラピブは(CETP阻害活性とは別の作用として)、血圧上昇、アルドステロン値上昇などに伴う心血管イベントと死亡が増加することが分かっている。本研究 (DEFINE study)では強力なCETP阻害薬であるアナセトラピブの効果と安全性を、冠動脈心疾患およびそのハイリスク患者を対象に検討した。
1,623名のスタチン服用患者をrandomizeしてアナセトラピブ群とプラセボ群に割り付けた。24週までにLDL-Cは81から45mg/dlまで低下(プラセボの39.8%低下)、HDL-Cは41から101 mg/dlまで上昇(プラセボの138.1%上昇)した。76週までに、血圧・電解質・アルドステロン値の上昇はなく、心血管イベント発症率もアナセトラピブ群とプラセボ群で差はなかった。
【結論】
CETP阻害薬・アナセトラピブによる治療はLDL-Cの低下、HDL-Cの増加をもたらし、副作用は許容範囲のものであった。この治療はトルセトラピブで認めたような心血管イベント発症の増加も起こさなかった。