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骨によるエネルギー代謝の内分泌制御

Endocrine regulation of energy metabolism by the skeleton.

Lee NK, Sowa H, Hinoi E, Ferron M, Ahn JD, Confavreux C, Dacquin R, Mee PJ, McKee MD, Jung DY, Zhang Z, Kim JK, Mauvais-Jarvis F, Ducy P, Karsenty G.

Cell. 2007 Aug 10;130(3):456-69.

【まとめ】
骨はosteocalcinを分泌し、全身の糖代謝を調節する内分泌臓器である。このosteocalcinの活性を調節しているのがosteoblastにあるOST-PTPであり、OST-PTPがosteocalcinの転写後調節を介して活性を抑制していることが分かった。


【論文内容】
骨にあるOST-PTP(receptor-like tyrosine phosphatase、Esp遺伝子によってencodeされる)は、osteoblastとSertoli細胞特異的に発現している。このOST-PTPの役割を検討するため、Esp-/-マウスを作製した(全身およびosteoblast特異的KOマウス)。このマウスは、GTTでインスリン高値、血糖低値であり、膵島のサイズ・β細胞の量・増殖能とも増大していた。さらに、ITT・クランプにてインスリン感受性が更新、エネルギー消費が大きく、血中脂質が低下、血清adiponectinが増加していた。Esp-/-マウスの視床下部VMHにGTG(gold thioglucose)を注入すると、摂食はWTと同様に増加したが、体重増加は少なく、WTに比べ耐糖能、インスリン感受性とも改善していた。このマウスに高脂肪食を負荷した場合も同様であった。このマウスにSTZを投与し、インスリン分泌を低下させても(インスリン感受性亢進に伴い)、血糖上昇は少なかった。

次にosteoblast特異的にOST-PTPを過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製したところ、膵島のインスリン含量低値、インスリン分泌低下、血糖上昇、インスリン感受性の低下が認められた。WTマウスの膵島および脂肪細胞をこのマウスのosteoblastとcocultureすると、それぞれインスリン分泌、adiponectinが上昇した。すなわち、osteoblastからの分泌因子がInsulin、Adiponectin発現を増加させていることが分かった。

この分泌因子検索のため、osteoblast特異的蛋白であるosteocalcin (Ocn)
に注目し、Ocn-/-を用いた検討を行った。Ocn-/-マウスは、耐糖能・インスリン感受性ともにWTよりも悪化しており、エネルギー消費が少ない。血中インスリン、adiponectinが低値であり、WTマウスの膵島および脂肪細胞をこのマウスのosteoblastとcocultureすると、それぞれインスリン分泌、adiponectinが低下することが分かった。

Esp-/-マウスとOcn-/-マウスのmetabolic phenotypeはちょうど正反対であり、OST-PTPによりOcnが調節されている可能性がある。しかし、Esp-/-マウスにおけるOcnの発現、血中濃度はWTと同様であった。Ocnはγ-carboxylationという転写後修飾を受けるが、Esp-/-でこの修飾がどう調節されいてるか検討した。Carboxylated Ocnはhydroxyapatite(HA)に結合しやすいが、Esp-/-ではHA結合(すなわちcarboxylated) Ocnが少ない。WTのosteoblastをwarfarin(γ-carboxylation阻害薬)処理すると、このosteoblastが脂肪細胞に対しadiponectinを産生させる能力が上昇する。Uncarboxylated Ocnが糖代謝改善活性を持つのであり、OST-PTPはγ-carboxylationを促進することにより、uncarboxylated Ocnの量を抑制していたことが分かった。

【結論】
Osteoblast特異的蛋白であるosteocalcin(Ocn)は、膵島の増殖能亢進、インスリン分泌増加、インスリン感受性亢進(adiponectin発現増加)という全身の糖代謝改善効果を示す。OsteoblastにあるOST-PTPは、Ocnを転写後修飾(γ-carboxylation)することにより、その糖代謝調節活性を低下させている(uncarboxylated Ocnが糖代謝調節活性を持つ)。2型糖尿病では血清Ocn濃度が低いという報告もあり、骨が全身のメタボリックシンドロームの発症を調節している可能性がある。
by md345797 | 2010-11-24 13:31 | エネルギー代謝