Growth hormone, the insulin-like growth factor axis, insulin and cancer risk.
Clayton PE, Banerjee I, Murray PG, Renehan AG.
Nat Rev Endocrinol. 2011 Jan;7(1):11-24.
【GH、IGFと癌のリスク】(省略)
【インスリンと癌のリスク】
インスリン投与または血中のインスリン高値によって、大腸癌および前癌状態になるリスクが高まり、インスリン・IGF-Ⅰの高い肥満マウスに癌細胞(肺癌、大腸癌)を注入すると癌の進展がコントロールマウスより速いことが分かっている。A-ZIP/F-1マウス(脂肪がなく高度のインスリン抵抗性でインスリン・IGF-Ⅰ高値)を乳癌マウスと掛け合わせると、早期に癌が増大する。膵癌・乳癌にはインスリン受容体があり、後者にはインスリン-IGF-I hybrid受容体が存在するため、インスリン存在下で増殖する。インスリン、IGF-I、ハイブリッド受容体の下流ではリン酸化IRS-1を介してPI3K、MAPK経路が活性化され、これらの阻害薬により癌細胞の増殖が抑制される。
【インスリン抵抗性と癌】
肥満や運動不足によるインスリン抵抗性は、癌の発症・死亡率のリスクファクターである。Renehanらによるメタアナリシス(Lancet, 2008)では、BMIと20の癌のリスクとの関連が示された。Waist to hip ratioも乳癌、大腸癌とのリスクが示されている。
インスリン抵抗性が癌につながるメカニズムとして、インスリンは肝でのIGFBP-1,2の産生を抑止し、これらが結合しない活性型IGF-1を増加させることによって腫瘍の増殖を促すという考え方がある。
【糖尿病、インスリン治療、癌】
2型糖尿病はいくつかのタイプの癌の発症と関連があるとされている(非ホジキンリンパ腫、閉経後乳癌、直腸癌、子宮内膜癌、肝癌、膵癌)。治療に関しても、インスリンは細胞分裂を促し、疫学的にもインスリン治療と癌の進行は関連がある。しかし、これらのデータは比較者にも問題があり、多くの非インスリン使用者はメトホルミンを使用しており、これが癌の防止に役立っている。メトホルミンはインスリン抵抗性を改善しインスリン濃度を低下させることと、直接AMPKを活性化することで癌細胞のエネルギー制限と同様の現象を起こし、癌の減少をもたらすと考えられている。
インスリンアナログであるインスリングラルギンは、一連の観察研究により癌の発症率増加に関連があるとされた (Diabetologia, 2009)。これらの研究は多くの議論を引き起こし、専門家による欠点の指摘も行われており現在も関心が寄せられている。