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哺乳類代謝のSirtuin-1による調節

Sirtuin-1 regulation of mammalian metabolism.

Gillum MP, Erion D-M, Shulman GI.

Trends Mol Med. 2011 Jan, 17 (1) 8-13.


Sirtuin 1 (SirT1)は栄養センサーの働きをするNAD+依存性脱アセチル化酵素であり、細胞内のターゲット蛋白(p53、NFκB、PGC-1α、FOXOs、histones H3 and H4)への作用を介して多様な働きをする。SirT1の発現量と活性はカロリー制限により増加し、正常血糖を保ち、効率的なエネルギー利用を促進する。この総説では、SirT1が絶食に対する適応反応を肝糖新生と脂肪酸酸化およびadiponectinの増加と免疫活性化の制限をもとに、どのように統合・調節しているかを述べる。最後にはSirT1の2型糖尿病治療のターゲットとしての役割について考察する。

【SirT1と糖新生・脂肪酸酸化】
絶食・カロリー制限に対する肝の機能は、糖新生によって血糖を正常に保つことである。そのためにCREB、CRTC2、FOXO1、PGC-1αが協調して、糖新生酵素(G6Pase、PEPCK)の発現を誘導する。SirT1はFOXO1、PGC-1αを脱アセチル化し、この反応を進行させる。肝臓でSirT1を欠損させたマウスでは、高脂肪食による肝での脂肪合成が低下しており、耐糖能異常が起こりにくい。SirT1は、AMPKとPGC-1を活性化することにより肝の脂肪酸酸化を増加させ、SREBP-1cの活性を阻害することにより肝の脂質合成を低下させる。このようにSirT1は絶食・カロリー制限時の肝の反応(糖新生の増加、脂肪酸酸化の増加と脂肪合成の低下)を起こす。

【SirT1とadiponectin】
3T3-L1脂肪細胞において、SirT1によりFOXO1が脱アセチル化されるとC/EBPへの結合が増加し、adiponectinの転写が亢進する。このことはin vivoのモデルで、Sirt1の過剰発現マウスでadiponectinレベルが亢進し、脂肪組織でのSirT1欠損マウスでadiponectinレベルが低下することでも示されている。

【SirT1と炎症】
SirT1はNFκB p65を脱アセチル化しその遺伝子発現能を低下させるため、SirT1は肥満やインスリン抵抗性における低レベル炎症状態(low-grade inflammation state)に関与していることが示唆される。SirT1の欠損で炎症過程の異常が認められる(自己免疫や肝・脂肪での炎症・マクロファージの活性化など)。そのため、肥満やインスリン抵抗性に伴うSirT1活性の低下は、低レベルの炎症だけでなく、明らかな炎症(NASHなど)にも関与している可能性がある。

【脳におけるSirT1、β細胞におけるSirT1】
脳において食欲亢進させるAgrpニューロンでSirT1を欠損、またはSirT1阻害薬(EX527)投与を行うと、食欲が低下する。このSirT1の食欲を増進させる機能は、絶食中の視床下部でSirT1の発現が増加していることにも関連がある。一方で、食欲抑制するPOMCニューロンでSirT1を欠損させると肥満になり、このことは前述のSirT1が食欲増加に働くということに反する。この矛盾は現在理解されていないが、SirT1はニューロンのホメオスタシスに関与しているのかもしれない。
また、膵β細胞特異的にSirT1を過剰発現させるとインスリン分泌が増加し、SirT1のloss of functionでは逆のことが起こる。ただし、膵におけるSirT1が糖代謝にどのくらい影響しているのかは今後定量的な検討が必要である。

【代謝疾患治療薬のターゲットとしてのSirT1】
赤ワインに含まれるポリフェノールであるレスベラトロール(resveratrol)がsirtuinsの酵素活性を亢進させることが知られている。レスベラトロール投与によるげっ歯類での代謝疾患での有用性が報告されているものの、SirT1特異的に作用しているためではないとする報告もあり、今後の検討が必要である。
by md345797 | 2011-02-14 20:07 | エネルギー代謝