人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

肥満によるmiRNA-143の発現亢進は、インスリン刺激によるAKT活性化を阻害し、糖代謝を障害する

Obesity-induced overexpression of miRNA-143 inhibits insulin-stimulated AKT activation and impairs glucose metabolism

Jordan SD, Krüger M, Willmes DM, Redemann N, Wunderlich FT, Brönneke HS, Merkwirth C, Kashkar H, Olkkonen VM, Böttger T, Braun T, Seibler J, Brüning JC.

Nat Cell Biol. 2011 Apr;13(4):434-46. Epub 2011 Mar 27.

【まとめ】
転写後遺伝子サイレンシング(post-transcriptional gene silencing)がインスリン抵抗性の発症にどのように関与しているかは不明。このグループは、肥満マウスの肝において、microRNA(miR)-143の発現が増加していることを突き止め、miR-143の過剰発現によってインスリン抵抗性が増大し、発現低下によりインスリン抵抗性が改善することを示した。さらに、miR-143によりORP(oxysterol-binding-protein-related protein)-8の発現が低下し、これがAKTの活性化低下をもたらすことにより、インスリン抵抗性が惹起されることを見出した。

【論文内容】
miRNAsは、小さいnon-codingRNAであり、特定のmRNAを切断することによってサイレンシングし、転写後の遺伝子発現調節を行っている。このグループは、マウスの食前後の肝から差のある小さいRNA分子をクローニングし、食後にmiR-143の発現が増加していることを見出した。さらに、肥満マウス(db/dbおよび高脂肪食負荷)の肝で、miR-143の発現が増加していることを、Northern blotとRT-PCRで確認した。miR-143は肥満マウスの肝だけでなく、心・膵でも発現が増加していた。

次にdoxycycline-inducibleのmiR-143トランスジェニックマウス(miR-143DOX)を作製し、肝臓でmiR-143の発現を増加させると、コントロールに比較して耐糖能が悪化、インスリン抵抗性が増大することが分かった。このマウスで膵β細胞量には変化がなかった。このマウスの肝では、インスリンによるIR、IRS-1のリン酸化に変化はなかったが、AKTのリン酸化が低下しており、AKT活性化レベルでのインスリンシグナル伝達の障害が起きていることが明らかになった。

さらに、miR143-145欠損マウス(miR145は143と遺伝子クラスターを形成している)に高脂肪食を負荷すると、コントロールに比べ耐糖能異常、インスリン抵抗性が改善しており、AKTのリン酸化が亢進していた。miR-143は脂肪細胞分化に関与しているとの報告があったが、脂肪細胞に組織学的変化はなかった。脂肪組織へのマクロファージの浸潤、炎症性サイトカインの発現も差はなかった。

また、in vivo stable isotope labeling of amino acids(SILAC)マウスを用いてmiR-143のターゲットを同定したところ、ORP8が同定された。miR-143DOXマウスでは、ORP8のmRNAに変化はないが蛋白量は低下しており、miR-143-145欠損マウスでは蛋白量が増加していた。これらのことからORP8はmiR-143による転写後遺伝子サイレンシングのターゲットであることが示された。さらに、HepG2細胞においてORP8のsiRNAで発現量を低下させると、AKTリン酸化やAKTのターゲットであるFOXOのリン酸化が低下した。したがって、ORP8は肝においてAKTリン酸化およびその下流に至るインスリンシグナル伝達を減弱させることが分かった。

【結論】
肥満においては、miR-143によってコントロールされたORP8依存性にAKTシグナル伝達が調節されていることが示された。このことから、miR-143とORP8およびmiR-143のターゲット遺伝子が、将来肥満におけるインスリン抵抗性や糖尿病の新たな治療ターゲットになると考えられる。
by md345797 | 2011-03-29 17:56 | インスリン抵抗性