Impaired insulin signaling in endothelial cells reduces insulin-induced glucose uptake by skeletal muscle.
Kubota T, Kubota N, Kumagai H, Yamaguchi S, Kozono H, Takahashi T, Inoue M, Itoh S, Takamoto I, Sasako T, Kumagai K, Kawai T, Hashimoto S, Kobayashi T, Sato M, Tokuyama K, Nishimura S, Tsunoda M, Ide T, Murakami K, Yamazaki T, Ezaki O, Kawamura K, Masuda H, Moroi M, Sugi K, Oike Y, Shimokawa H, Yanagihara N, Tsutsui M, Terauchi Y, Tobe K, Nagai R, Kamata K, Inoue K, Kodama T, Ueki K, Kadowaki T.
Cell Metab. 2011 Mar 2;13(3):294-307.
【背景】
「骨格筋間質へのインスリンの移行(insulin delivery to the skeletal muscle interstitium)」はインスリンによる骨格筋糖取り込みの律速段階になっており、肥満の状態ではその段階が遅くなっていることが今までに示されてきた。骨格筋へのインスリンの移行が増加するためには、インスリンによる毛細血管の表面積の増加(capillary recruitment)とインスリンの血管内皮の通過量の増加という2つの段階があり、肥満ではこれらが障害されて筋への糖取り込みが低下しているとされている。そこで、肥満の状態では血管内皮細胞におけるインスリンシグナル伝達(インスリン→Irs2→Aktリン酸化→eNOSリン酸化・活性化)が低下しているのではないかという仮説を立て、以下の検討を行った。
【論文内容】
肥満マウス(ob/ob、高脂肪食負荷)の血管内皮細胞では、血管内皮での主要なインスリン受容体基質(Irs)であるIrs2の発現、Aktのリン酸化および(Aktによってリン酸化・活性化される)eNOSのリン酸化が大きく低下していた。すなわち、肥満マウスでは、血管内皮細胞のインスリンシグナル伝達が障害されている(この障害は持続的な高インスリン血症によって起っていることが、正常マウスへのインスリン持続注入によって示された)。
さらに、高脂肪食負荷マウスでは、高インスリン正常血糖クランプにおけるインスリン持続注入下で毛細血管血流量と間質のインスリン濃度の増加が障害されており、クランプ中の骨格筋における糖取り込みが低下していることが示された(単離した骨格筋の糖取り込みはコントロールに比べ変化なかった)。
そこで、血管内皮特異的Irs2欠損マウス(ETIrs2KO)を作製したところ、このマウスでは、インスリンによるAktおよびeNOSのリン酸化が低下、毛細血管血流量と間質のインスリン濃度の増加が障害され、クランプにおいて骨格筋の糖取り込みが低下していた。骨格筋の糖取り込みは、ETIrs1KOでは低下が見られなかったが、ETIrs1/2DKOではETIrs2KOより高度に低下が認められた。
次に、eNOS発現を増加させるプロスタグランジンI2アナログであるベラプロストナトリウム(beraprost sodium:BPS)をETIrs2KOに投与したところ、血管内皮細胞におけるeNOSの発現とインスリンによるリン酸化が増加し、それに伴い毛細血管血流量と間質のインスリン濃度の低下が回復した(この回復は、NOS阻害薬であるL-NAMEによってブロックされた)。さらに、BPS投与によりETIrs2KOのクランプ下での骨格筋での糖取り込みの低下も回復した。
また、高脂肪食負荷マウスにBPSを投与して、血管内皮細胞のeNOSリン酸化低下を回復させても、同様に毛細血管血流量と間質のインスリン濃度の低下が回復、クランプ下での骨格筋での糖取り込みの低下も回復した。
【結論】
肥満の状態では、正常に比べてインスリンシグナル伝達が障害されており(Irs2発現の低下、Aktリン酸化とeNOS活性化の低下)、それによりインスリンによる毛細血管血流の増加が障害、間質のインスリン濃度が低下(すなわちinsulin deliveryが低下)し、最終的に骨格筋での糖取り込みが障害される。本研究により、骨格筋でのインスリン抵抗性は、筋肉細胞だけでなく血管内皮細胞のインスリンシグナル伝達障害によっても起こりうることが示され、この知見は骨格筋インスリン抵抗性改善のための新たな治療戦略につながると考えられる。