Cryptochrome mediates circadian regulation of cAMP signaling and hepatic gluconeogenesis.
Zhang EE, Liu Y, Dentin R, Pongsawakul PY, Liu AC, Hirota T, Nusinow DA, Sun X, Landais S, Kodama Y, Brenner DA, Montminy M, Kay SA.
Nat Med. 2010 Oct;16(10):1152-6.
【まとめ】
空腹時には、グルコース恒常性を維持するために、肝の糖新生が刺激される。このメカニズムは、グルカゴンとエピネフリンがcAMPを介してCreb (cAMP response element –binding protein)をリン酸化、Crtc2 (Creb-regulated transcription coactivator-2)を脱リン酸化することによる。肝の糖新生は概日時計によって調節されることが分かっており、概日リズムは2つの転写活性化因子(ClockとBmal1)、抑制因子(Cry1, 2とPer1-3)が形成するフィードバックループによって調節されている。
この研究では、空腹時には肝においてCry1とCry2がCreb活性を調節していることを示した。Cry1は夜から昼への移行時間帯に発現が上昇し、グルカゴンによる細胞内cAMPの増加を抑制し、PKAによるCrebのリン酸化を抑制、肝の糖新生を減少させている。Cry1はGPCR活性化に反応したcAMPの蓄積を阻害した。CryはGPCRのGsαに直接結合することにより、GPCRの活性を調節している。肝にCry1を過剰発現すると、db/dbマウスの血糖とインスリン抵抗性が改善するので、Cryの活性を増強する物質があれば、2型糖尿病の治療薬として用いられる可能性がある。
【論文内容】
CRE(cAMP response element)によってluciferaseが発現するCRE-lucをアデノウイルスで作製し、肝に発現させ、空腹時のCreb活性の周期性(rhythmicity)について検討した。グルカゴンの腹腔内投与によるCRE-lucの活性化は、昼から夜への移行時間帯(ZT13)の方が夜から昼への移行時間帯(ZT1)に比べ40倍大きかった。グルカゴン投与を行った場合の肝糖新生酵素(G6pc、Pck1)の発現もZT13の方が、ZT1より大きかった。同様にCrebのリン酸化、Crtc2の脱リン酸化もZT13の方がZT1より大きかった。
次にCreb活性のリズミカルな調節は細胞自律性のものかどうかを検討するため、GPRCリガンドであるVIP(vasoactive intestinal peptide)がマウス線維芽細胞でCRE-luc活性を増加させることを確認し、これを細胞モデルとした。この細胞にCry1またはCry2を過剰発現させると、VIPによるCRE-luc活性化が減弱した。したがって、CryはGPCRによるCreb-、Crtc2-依存性転写活性化を抑制すると言える。
マウス肝臓にAd-Cry1を発現させると、空腹時(ZT13)におけるグルカゴンによるCRE-luc活性化が低下する。グルカゴン投与による肝糖新生酵素(G6pc、Pck1)の発現も大きく減少し、コントロールに比べ血糖も低下した。次にRNAiを用いてCry1、Cry2をノックダウンしたところ、CRE-luc活性が上昇し、糖新生酵素の発現も増加し、実際糖新生も増加した。
CryはGPCR依存的なadenyl cyclase活性の増加を抑制することで、Crebリン酸化を低下させている。Forskolinによる直接のadenyl cyclaseの活性化は抑制しない。このCryはGsαに直接結合してその活性を低下させ、その結果adenyl cyclaseが不活性化する。
【結論】
概日リズムを調節するフィードバック蛋白であるCryは、概日リズムの調節に並行して、GPCR(例:グルカゴン受容体)のGsに結合して活性を抑制するという作用がある。
このGs抑制がadenyl cyclaseの阻害、cAMPの量の低下、PKAによるCrebのリン酸化と活性化の抑制が起こり、糖新生酵素の発現が低下、最終的に糖新生が低下する(これは夜から昼の移行時間帯に起きる)。逆のことが昼からよるの移行時間帯に起き、概日リズムに従った糖新生が行われる。また、Cryの過剰発現は、肝の糖新生を低下させるため、2型糖尿病の治療として有用なターゲットであるかもしれない。