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腸内細菌叢によるホスファチジルコリン代謝は心血管疾患を促進する

Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease.

Wang Z, Klipfell E, Bennett BJ, Koeth R, Levison BS, Dugar B, Feldstein AE, Britt EB, Fu X, Chung YM, Wu Y, Schauer P, Smith JD, Allayee H, Tang WH, DiDonato JA, Lusis AJ, Hazen SL.

Nature. 2011 Apr 7;472(7341):57-63.

【まとめ】
本研究ではメタボロミクスの手法を用いて、食餌中に含まれるホスファチジルコリン(別名レシチン)の3つの代謝産物であるコリン、TMAO (トリメチルアミン N-オキシド)、ベタインが心血管疾患リスクを予測できることを臨床コホートで示した。そこで、マウスの食餌中にコリン、TMAO、またはベタインを追加すると、動脈硬化と関連するマクロファージスカベンジャー受容体の発現が増加し、コリンまたはTMAOで動脈硬化が促進された。無菌マウスを用いた研究によって、食餌中のコリンが、腸内細菌叢のTMAO産生とマクロファージのコレステロール蓄積促進と泡沫細胞形成に重要な役割を果たすことが明らかになった。さらに、動脈硬化を発症しやすいマウスの腸内細菌叢を抗生剤で抑制すると、食餌中のコリンによる動脈硬化促進が抑制された。高脂血症マウスの動脈硬化によって、TMAOの産生酵素であるフラビンモノオキゲナーゼ(FMO)3の発現を調節する変異が分離された。腸内細菌叢依存性の食餌中ホスファチジルコリンの代謝と心血管疾患の関連が発見されたことは、動脈硬化性心疾患の新たな診断と治療が開発につながりうる。

【論文内容】
腸内細菌叢は、食物という外的環境に対するフィルターの役割を果たしており、肥満やインスリン抵抗性、NAFLDなどの疾患との関連が知られている。この研究ではメタボロミクスの手法を用いて、「検討コホート」(3年以内に心筋梗塞、新血管イベント、死亡をきたした50例とその対照群50例)の血漿を採取し、LC/MSおよびメタボロミクスの手法を用いて心血管疾患に特異的な分析物質の同定を試みた。さらに、独立した「確認コホート」で同様の検討を行い、両者の結果から代謝産物を絞り込んだ。その結果、心血管疾患リスクに関連する分子として、TMAO、コリン、ベタインが同定された。さらに、血漿中のコリン、TMAO、ベタイン濃度がアテローム性動脈硬化のリスクになることが示された。

マウスに重水素ラベルしたコリン(d9-PC)を食餌と一緒に与えると、d9-TMAOが血漿中に出現する。この実験で、抗生剤で腸内細菌叢を抑制しておくと、TMAOが産生されなくなる。食餌中のコリンからTMAOを生成するのに腸内細菌叢が必要であることが分かる。

動脈硬化を起こしやすいマウス(C57BL/6J Apoe-/-マウス)に高コリン食を与えたところ、正常食に比べ大動脈の動脈硬化病変が大きかった。また、血漿TMAOの濃度と動脈硬化病変の面積には正の相関が見られた。

肝のFMO (Flavine monooxygenase)3は、(コリン代謝産物である)TMAからTMAOを作る酵素である。この酵素異常はTMA尿症(fish malodour syndrome)をきたす。前述の動脈硬化を起こしやすいマウスと起こしにくいいマウス(C3H/HeJ Apoe-/-)の肝に発現遺伝子を比較したところ、Fmo3の発現は、動脈硬化病変面積と正の相関を、HDL-Cと負の相関を、血漿TMAO濃度とは正の相関を示した。

動脈硬化を起こしやすいマウスに、コリン、TMAOまたはベタインを食餌中に入れて投与したところ、腹腔マクロファージにおいてスカベンジャー受容体CD36とSR-A1の発現が増加した。食餌中にコリンを多く追加した場合、腹腔マクロファージがコレステロールを多く含む泡沫細胞化した。一方、このコリン負荷の影響は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると、認められなくなった。さらに、高コリン食によって大動脈プラーク面積が大きくなったが、この増加は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると認められなかった。

【まとめ】
以上の結果から、食餌中の脂質 (コリン)→腸内細菌叢 (TMAの生成)、→肝(FMO3によるTMAOの生成)→動脈硬化発症をつなぐ新たなpathwayを同定した。

コリン自体は必須の栄養素であり、その欠乏は動脈硬化や脂肪肝につながると考えられてきた(そのためレシチンとしてサプリメントとしても服用されてきた)。しかし、その効果は腸内細菌叢の構成が個人間の差によって影響されると考えられる。

本研究は「腸内細菌叢と心血管疾患リスク」を結び付けた初めての成果である。新しい動脈硬化の治療として、コリンの摂取を減らしたり、腸内細菌叢の中でTMAを産生する菌が同定できればその菌を減らしたり、probiotics (治療に有用な生きた細菌)を用いてTMA産生を抑制したり、肝でFMO3の活性を調節したりすることが考えられる。
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by md345797 | 2011-04-12 04:20 | 心血管疾患