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骨髄由来細胞療法は、内因性の心筋前駆細胞を刺激し心臓の修復を促進する

Bone marrow-derived cell therapy stimulates endogenous cardiomyocyte progenitors and promotes cardiac repair.

Loffredo FS, Steinhauser ML, Gannon J, Lee RT.

Cell Stem Cell. 2011 Apr 8;8(4):389-98.

【まとめ】
細胞療法(cell therapy)は障害後の心機能を改善することが知られているが、そのメカニズムは不明である。このグループは、4-OH-tamoxifen投与後に心筋でGFPが発現するマウスを作製、心筋梗塞後はnon-GFP前駆細胞によって心筋が再生されることを示した。骨髄由来のc-kit+細胞を心筋に注入すると、この再生が促進された。この現象は、体外から投与されたc-kit+細胞の心筋へのtransdifferentiationやcell fusionによっては説明できなかった。心筋に注入されたc-kit+細胞によって内因性の心筋前駆細胞活性が刺激されることが、心筋細胞療法のメカニズムであることが示された。

【論文内容】
骨髄由来c-kit+細胞療法は心筋梗塞後の内因性の心筋前駆細胞を刺激する
このグループは以前作製した4-OH-tamoxifen投与後に心筋特異的にpermanentにβgalに代わってGFPが発現するMerCreMer-ZEGマウス(「pulse」labelingが可能)に、4-OH-tamoxifen投与後14日後に冠動脈結紮により心筋梗塞を起こした後、WTマウスのc-kit+骨髄細胞を左室心筋に注入した。その結果、心筋梗塞後GFP+心筋の割合は減少し、c-kit+骨髄細胞注入後はさらに減少した。その分βgal+細胞の割合が増加しており、再生した心筋細胞は骨髄細胞からのtransdifferentiationでないことが示唆された。心筋梗塞後のBrdU陽性細胞はGFP-でありβgal+の前駆細胞からの分化であることが示された。

心筋梗塞後の骨髄間質幹細胞による細胞治療では内因性前駆細胞を刺激しない
上記の結果がc-kit+細胞に特異的であるかを検討するため、骨髄由来の間質幹細胞(MSCs:臨床研究では心筋への分化が示されている)を用いて同様の実験を行った。しかし、MSCsではc-kit+細胞のように内因性の前駆細胞を活性化する効果はなく、心機能の改善も見られなかった。

Transdifferentiationやcell fusionでは、c-kit+細胞による心筋再生刺激は説明できない
次にMerCreMer-ZEGマウス(♂)の骨髄由来細胞を、心筋梗塞後のWTマウス(♀)に心筋内注入し、その後に4-OH-tamoxifen投与を行った。その結果、梗塞巣辺縁にGFP+の心筋はなく、Y染色体(♂由来)陽性の心筋細胞も見られなかった。これは骨髄由来細胞から心筋細胞へのtransdifferentiationがないことを示し、別の実験(MerCreMre-/ZEG+♂マウスの骨髄をMerCreMre+/ZEG-♂マウスの心筋に注入する)でドナーとレシピエントの間のcell fusionによるものではないことも示された。

c-kit+細胞による細胞治療心筋前駆細胞の数を増加させる
さらに、♂マウスから採取した骨髄c-kit+細胞を、心筋梗塞を起こさせた♀マウスの心筋細胞に注入し、BrdUを浸透圧ミニポンプで注入した。これらのマウスの梗塞巣辺縁をnkx2.5、GATA4(心臓発生に関与する転写因子)で免疫染色した。その結果、c-kit+細胞注入群でnkx2.5+GATA4+細胞の総数、BrdU陽性細胞の数とも増加しており、心筋前駆細胞の数を増加させていることが示唆された。

また、最初の心筋梗塞モデル動物に、内因性の前駆細胞を活性化しうる幹細胞chemokineであるSDF-1αを心筋局所に投与したが、心筋梗塞後のGFP+細胞の割合の低下は見られず、SDF-1が心筋前駆細胞を刺激しているのではないということが分かった。

【結論】
心筋梗塞後にc-kit+骨髄細胞を心筋内に注入することで、内因性の前駆細胞由来の心筋再生ができ、心機能を改善することができる。このc-kit+細胞の効果は、これらの細胞が直接心筋にtransdifferentiationすることによるものではなく、ドナー前駆細胞とレシピエントc-kit+細胞の間の何らかのparacrine communicationによるものではないかと思われる。
by md345797 | 2011-05-03 17:56 | 再生治療