Progress and challenges in translating the biology of atherosclerosis.
Libby P, Ridker PM, Hansson GK.
Nature. 2011 May 19;473(7347):317-25.
【総説内容】
アテローム発生の現在の考え方
脂質異常症、高血圧、炎症性メディエータ―の増加などの刺激によって血管内皮細胞で接着分子が発現し、血流中の白血球が内皮細胞に結合することがアテローム発生の始まりである。同時に内皮透過性亢進により、LDLが内膜に取り込まれ、酸化LDLとなる。これを、単球由来のマクロファージが取り込み、泡沫細胞(foam cells)を形成する。そこに中膜からの平滑筋細胞(SMC)の遊走が起こり、脂質の豊富なプラークの壊死性コアが形成される。プラークはそれだけで血流を阻害する血管狭窄を起こすが、プラークが破綻すると血小板凝集が起こって血栓ができる。
脂質とアテローム性動脈硬化
LDLのサクセスストーリーには最終章がまだない:
脂質はプラーク形成に重要な役割を果たすが、特にLDLはヒトの心血管リスクや動脈硬化の形成に相関している。スタチンによる治療は大変な成功を収めたが、それでも残存するリスクにより心血管疾患の再発が起きている。そのため、新しい治療ターゲットに対するLDL降下療法が開発されつつある(NPC1L1阻害剤のezetimibe、PCSK9(LDL受容体分解に働く)の阻害剤など)
HDL、じれったい次の開拓分野:
HDL値は心血管リスクと逆相関することが知られており、HDLを増加させる治療が開発中であるが、いまだ確立されたものはない。HDL中のコレステロールはCETPによりApoB含有リポ蛋白に転送される。最近、CETP阻害薬であるanacetrapibが第Ⅲ相臨床試験で心血管イベントを減少させることが示されている。HDLの主要な蛋白であるApoA-Ⅰをターゲットにした治療や、ニコチン酸などがさらなる候補として考えられているが、現在十分な効果のあるものがない。
中性脂肪をめぐる臨床試験:
中性脂肪低下による心血管イベント改善効果は明らかではない。フィブラートは中性脂肪を低下させるが、心血管イベントや死亡率を下げることはない。Omega-3脂肪酸も中性脂肪を低下させるが、他にも炎症抑制、血小板凝集抑制の効果があり、今後心血管イベントにある程度効果があることが示されるかもしれない。近年、中性脂肪値よりもApo-CⅢを含有する中性脂肪の豊富なリポ蛋白が、炎症性メディエーターとして重要と考える報告もある。
酸化LDLが「ヒトの動脈硬化」を進行させるかは証明されていない:
実験的に酸化LDL(oxLDL)は動脈硬化を進展させることが報告されているが、これがヒトの動脈硬化に関与しているという直接的なエビデンスは少ない。アンチオキシダント(vitamin E/C、succinobucol)が心血管イベントを低下させることも示されていない。
マウスからヒトへ
アテローム中にT細胞が存在することが分かって以来、免疫系と炎症がアテローム形成に重要な働きを担っていることが明らかになっている。しかし、炎症と動脈硬化病変の形成の間にはどちらが原因かという問題(chicken-and-egg problem)が依然として存在する。また、抗炎症剤(炎症を抑制するmethotrexate、IL-1β阻害抗体canakinubab)を用いた臨床試験が進められている。
動脈硬化の理解に動物実験は不可欠であるが、ヒトに応用できるかどうかの限界も忘れてはならない。例えば、マウスでは血栓を伴うプラークの破綻はまず起こらない。マウスの実験では大動脈か近位の大血管の動脈硬化を見ているのに対し、ヒトの場合は構造(内膜SMCの存在)や血行動態(血流があるのが収縮期か拡張期か)の違う冠動脈や頚動脈、脳動脈における動脈硬化が重要である。実験的な動脈硬化は、ヒトの状態の完全なモデルとなっているわけではない。