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Grb10はmTORC1の基質であり、インスリンシグナル伝達を負に調節する

Phosphoproteomic analysis identifies Grb10 as an mTORC1 substrate that negatively regulates insulin signaling.

Yu Y, Yoon SO, Poulogiannis G, Yang Q, Ma XM, Villén J, Kubica N, Hoffman GR, Cantley LC, Gygi SP, Blenis J.

Science. 2011 Jun 10;332(6035):1322-6.

【まとめ】
この研究ではphosphoproteomics の手法により、mTORC1下流のシグナル伝達を明らかにした。mTORC1の基質の一つがgrowth factor receptor-bound protein 10 (Grb10)であることが分かり、mTORC1によるGrb10のリン酸化による安定化が、PI 3KとERK-MAPK系のフィードバック阻害に働いていることが示された。Grb10の発現はさまざまな癌で低下しており、Grb10はmTORC1によって調節される腫瘍抑制因子(tumor suppressor)である可能性が示唆された。

【論文内容】
mTORの調節異常は多くの癌で認められるが、mTORC1の選択的阻害剤であるrapamycinの抗腫瘍効果を示す臨床試験は少ない。このrapamycin抵抗性は、フィードバックループを介してPI 3KとERK-MAPK系を活性化してしまうために起こると考えられているが、そのメカニズムは分かっていない。mTORC1の基質を同定することが、rapamycin抵抗性の原因を知る上で重要である。

そこで、Tsc2-/-のMEF細胞(constitutiveにmTORC1が活性化される)を用いてrapamycinおよびKu-0063794(mTOR inhibitor)による抑制効果をSILAC(stable isotope labeling with amino acids in cell culture)実験で検討した。大規模定量的phosphoproteomicsにより、rapamycinで強くリン酸化が減少する蛋白としてGrb10が同定された。

Grb10はS6Kを介してではなく、mTORC1により直接リン酸化される。また、mTORC1のみに結合してmTORC2には結合しない。mTORC1はGrb10のS501とS503をリン酸化することにより、蛋白を安定化させる。

Grb10はインスリンシグナル伝達のnegative regulatorとして機能することが知られており、Grb10欠損マウスはPI3K-Akt経路の活性化によりインスリン感受性が亢進することが分かっている。Tsc2-/-細胞においてGrb10をノックダウンするとAkt、ERKのリン酸化が亢進した。これは一部はmTORC1-S6KによるIRSのリン酸化とdegradationによるものであり、一部はmTORC1によるGrb10のリン酸化と増加によるものである。

Grb10を欠損させると細胞をアポトーシスから保護(PI3Kの活性化を介して細胞生存を促進)することができた。これは腫瘍の生存を助けることにもつながり、rapamycinによるGrb10リン酸化低下はcytotoxicではなくcytostaticに働く可能性がある。報告されているマイクロアレイの包括的なメタアナリシスによると、GRB10の量は多くの種類の腫瘍で低下している。また、腫瘍ではGRB10とPTENの発現量には負の相関があり(腫瘍ではGRB10発現が低下すると、腫瘍抑制因子であるPTENの発現が増加している)、これらは相互に排他的に働いている。

【まとめ】
Grb10はmTORC1によってリン酸化される基質であり、インスリンシグナル伝達に対するnegative feedback作用を果たしている。その点でGrb10は腫瘍抑制因子であると考えられる。長い間S6K-IRSフィードバックループだけではmTORC1のインスリンシグナル抑制効果は不十分だと思われていたが、mTORC1-Grb10メカニズムの発見によりこのギャップが埋められたと言える。

by md345797 | 2011-06-21 21:52 | シグナル伝達機構