Management of type 2 diabetes: new and future developments in treatment.
Tahrani AA, Bailey CJ, Del Prato S, Barnett AH.
Lancet. 2011 July 9 378, 182-197.
【総説内容】
β細胞機能不全に対する薬剤
新しいインクレチン関連治療薬
・GLP-1は血糖依存性にインスリン分泌を増強、グルカゴン分泌を抑制し、摂食を抑制し、β細胞量を増加させる(これはヒト2型糖尿病ではまだ示されていないが)などの作用がある。現在GLP-1受容体アゴニスト(exenatide, liraglutide)と選択的DPP-4阻害薬(sitagliptin, vildagliptin, saxagliptin)が用いられている。
・新しいGLP-1受容体アゴニストとして、短時間作用型(lixisenatide)や徐放型(週1回投与でよいonce-weekly exenatide、taspoglutide、albiglutideなど)が、DPP-4阻害薬として、linagliptin(注:2011年5月に米国で承認)、alogliptinが臨床試験中である。Linagliptinは肝で代謝されるため、腎機能低下患者でも使用できる。
非インクレチン関連β細胞刺激薬
・グルコキナーゼ活性化薬(piragliatinなど)は、β細胞にてグルコースのリン酸化を促進することにより、インスリン分泌を増強する。この薬剤は糖尿病患者での血糖を低下させるとの報告があるが、低血糖のリスクも増加させる(下記の肝での作用参照)。
・β細胞における脂肪酸の受容体であるG-protein-coupled receptor(特に40、119、120)を刺激するアゴニストは、β細胞のcAMPを増加させてインスリン分泌を増強する。
α細胞機能不全に対する薬剤
・2型糖尿病では空腹時グルカゴン濃度が高く、食後のグルカゴン分泌の抑制が障害されている。インクレチン治療により、グルカゴン分泌抑制がブドウ糖依存性に(高血糖のときのみ)促進される。グルカゴン受容体アンタゴニストが現在試験中である。
・さらに、GLP-1受容体アゴニストとグルカゴンの一部(グルカゴン受容体を活性化させない)のhybrid peptideであるDAPD(dual-acting peptide for diabetes)や、GLP-1受容体とグルカゴン受容体のアゴニストであるoxyntomodulin(L細胞からGLP-1とともに分泌される)が研究段階にある。
インスリン作用促進薬
インスリン受容体βサブユニットのチロシンキナーゼを活性化する、非ペプチド代謝産物(demethylasterriquinone:L-783281やTLK16998)は、インスリンとその受容体の結合に影響を与えず、インスリンの存在下でのみβサブユニットの活性化を増強する。
非インスリン依存性経路に対する薬剤
SGLT2阻害薬
腎のグルコース再吸収による糖新生は、糖産生全体の20-25%を占め、その多くが腎のsodium-glucose-cotransporter-2 (SGLT2)による糖再吸収による。2型糖尿病では腎による糖産生が増加しており、SGLT2の阻害薬(dapagliflozin, canagliflozinほか)が開発中である。Dapagliflozinは薬剤未使用(drug-naïve)またはインスリン治療中の糖尿病患者の血糖を低下させる。尿路感染のリスクも増加するが、これは標準的な治療で管理可能である。
肝に対する薬剤
グルコキナーゼの変異は、MODY (heterozygous)およびpermanent neonatal diabetes (homozygous)の原因となり、過剰な活性化は低血糖の原因となる。グルコキナーゼ活性化剤はインスリン分泌促進だけでなく、肝のグルコース貯蔵も増加させ、耐糖能を改善する。Glucose-6-phosphataseは、糖新生の最後のステップとなる酵素であり、この抑制は肝糖産生を低下させる。メトホルミンやインスリンはこの酵素を抑制するため、G6Pase阻害薬も検討されている。これらの薬剤では低血糖に注意が必要である。他にfructose-1,6-bisphosphataseやglycogen phosphorylaseが治療のターゲットと考えられている。
メタボリックシンドロームに対する薬剤
・GIPはGLP-1同様、グルコース依存性のインスリン分泌を増強するが、GLP-1と違ってグルカゴン分泌を抑制せず、脂肪蓄積を促進し、摂食に対する影響はほとんどない。そこで、GLP-1アンタゴニストが脂肪減少、糖代謝の促進につながる可能性があり、経口の薬物も報告されている。
・11β-hydroxysteroid-dehydrogenese-1は、活性の低いcortisoneを活性の高いcortisolに変換する酵素であり、この酵素の欠損マウスではインスリン抵抗性が改善されることが知られている。この酵素の阻害剤INCB13739は、2型糖尿病における高血糖・脂質異常を改善する。
・PPARγ活性化薬は糖代謝を改善し、PPARα活性化薬(fibrates)は脂質異常を改善する(TGの低下とHDL-Cの増加)が、dual PPAR-α/PPAR-γ agonist (glitazars)は両者を改善することが分かっている。Aleglitazarは、副作用(浮腫・体重増加)が少なく、高血糖・脂質異常を改善する。心血管疾患の頻度を低下させるかどうかは第Ⅲ相臨床試験中(ALECARDIO)である。
作用機序が不明な薬剤
ドーパミンD2受容体アゴニスト
Bromochriptineは、インスリン分泌を増加させることなく、おそらくは視床下部ニューロンの活性を変化させて、迷走神経経由で肝の糖産生を低下させることにより、血糖を低下させることが示されており、米国では2010年に2型糖尿病治療薬として認可された。
胆汁酸抑制薬(Bile acid sequestrants)
作用機序は不明だが、2009年に認可されたcolesevelamは経口血糖降下薬またはインスリンとの併用で低血糖のリスクを上げることなく血糖を低下させることが示されている。
代謝手術(Metabolic surgery)
代謝手術には、胃形成術、腹腔鏡下調節性胃バンディング(laparoscopic adjustable gastric banding)、袖状胃切除術(sleeve gastrerctomy)、胃バイパス術(gastric bypass)、胆膵路転換手術(biliopancreatic diversion)などのさまざまな種類がある。胃バイパス術と胆膵路転換手術後には2型糖尿病が改善するが、この効果は体重減少とは独立したものであり、メカニズムとして消化管ホルモンの変化(食後GLP-1やPYYの増加、ghrelin基礎分泌の低下)が重要と考えられている。代謝手術を行える施設は、米国ではこの8年で10倍に増加している。この方法は肥満・2型糖尿病治療の重要な選択枝になりつつあるが、さらなるエビデンスの蓄積が求められていもいる。