RNAi-based therapeutic strategies for metabolic disease.
Czech MP, Aouadi M, Tesz GJ.
Nat Rev Endocrinol. 2011 Aug;7:473-84.
【総説内容】
Small RNAsの治療応用への可能性
RNAiは、事実上すべての遺伝子を同じ効率でサイレンシングでき、正確な相補性によって非常に高い感度・特異性で作用するすぐれた遺伝子発現抑制法である。Small RNAsには、細胞外から標的mRNAに対して作用するshort interfering RNA (siRNA)および内因性のmicro RNA (miRNA)がありどちらも短い2本鎖RNAであるが、miRNAはsiRNAと異なり配列のミスマッチがあり、mRNAのdegradationを起こすだけでなく標的mRNAの転写抑制を起こす、などの違いがある。
siRNAを体外から投与した場合、血中の nucleaseにより分解されることや細胞膜を透過できないことが作用の障害になる。また、2本鎖RNAによる炎症反応の惹起も問題になる。そのため、2’-fluoroまたは2’-O-methyl conjugationなどの共有結合による修飾が行われる。
肝の脂肪合成に対するsmall RNAを用いた治療
RNAiを用いて肝の脂肪合成抑制を目指す臨床試験が、主に家族性高脂血症/高コレステロール血症に対して現在進行中である。ApoBおよびPSCK9のサイレンシングは高脂血症に有効な方法であるが、肝の脂肪量を増やしてしまうため脂肪肝に対しては有効でない。そこでさらに広範に作用する転写因子(SREBP-1c、ChREBP)のsiRNAによるサイレンシングが検討されている。
miRNAの抑制も高脂血症治療に対する有効な方法である。肝のコレステロール・脂肪酸合成に関する遺伝子発現には miR-122が重要な制御因子であることが示されている。miR-122の抑制により高コレステロール血症および脂肪肝が改善することがマウスで示されており、そのメカニズムの検討が待たれている。
肝にsiRNAを到達させるために、siRNAと陽イオン脂質複合体 (cationic lipoplexes)や脂質との共有結合(covalent conjugation)、合成核酸脂質複合体(synthetic polymer and nucleic acid complexes)が用いられている。Small RNAを尾静脈から注入しin vivoで肝細胞に到達させるのに、stable nucleic-acid-lipid particles (SNALP)が用いられることもある。肝臓へのターゲティングの他の方法としてasialoglycoprotein 受容体を用いる方法もある。 miRNA機能の阻害のためにアンチセンス技術が用いられることがあり(antagomirと呼ばれる)、miR-122 の阻害による高脂血症改善の臨床試験にも用いられている。
脂肪組織の炎症に対するsmall RNAを用いた治療
TNFの中和抗体は、肥満マウスでインスリン抵抗性を改善したが、メタボリックシンドロームのヒトではインスリン抵抗性を改善しなかった。これは注入した抗体が脂肪局所での TNFの抑制にまで至らなかったためと考えられており、TNFの産生を抑えるTNF siRNAの腹腔内注入が効果を期待されている。脂肪組織のマクロファージにTNFに対するsiRNAを到達させるため、マクロファージβ-glucan受容体のリガンドであるβ1,3-D-glucanによってカプセル化したsiRNA(glucan-encapsulated siRNA particles: GeRPs)が検討されている。さらに、siRNAの到達システムとして、immunoliposomeを使う方法が開発されている。これは親水性の内部にsiRNAを含み、表面に細胞特異的抗体を結合させたものである。