SRT1720 improves survival and healthspan of obese mice.
Minor RK, Baur JA, Gomes AP et al.
Scientific Reports. 1:70, Aug 18, 2011.
【まとめ】
SRT1720は
in vitroでSirt1を活性化することが示されている合成化合物であり、高脂肪食負荷マウスの寿命を延長させる。さらに、脂肪肝の減少、インスリン感受性の亢進、運動量の増加、炎症・アポトーシスマーカー遺伝子発現の正常化をもたらし、明らかな毒性は認められなかった。 SIRT1ノックアウトマウスや遺伝子ノックダウンを用いて、SRT1720はSirt1およびPGC-1α依存性にミトコンドリア呼吸に関連していることが明らかになった。SRT1720は哺乳類で寿命延長、加齢に伴うさまざまな疾患の予防に有効かつ安全な新規分子であることが示された。
【論文内容】
Sirt1はNAD+ 依存性脱アセチル化酵素であり、下位生物で寿命延長に関連している。その活性化剤であるresveratrolは高脂肪食負荷マウスの健康寿命(healthspan)を改善することが示されているが、resveratrolは
in vivoではさまざまなターゲットがあり、その効果については議論が分かれている。Sirt1を活性化する合成化合物であるSRT1720は、短期的には肥満マウスのインスリン抵抗性を改善するなどのことが知られているが、長期の効果については不明であった。
SRT1720は肥満マウスの寿命を延長し、肝膵の保護作用を示す
1年齢のC57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷し、2通りの用量のSRT1720を投与して残りの寿命について検討した。その結果、高脂肪食負荷したマウスでは寿命が短縮するが、SRT1720投与によって平均寿命、最大寿命が改善した。高脂肪食による体重増加はSRT1720によって変化しなかったが、SRT1720投与群では、高脂肪食に伴う脂肪肝、肝機能異常、膵島の肥大が改善していた。
SRT1720は高脂肪食負荷マウスの体組成・糖代謝を改善する
SRT1720投与群では、高脂肪食による肝・腎・心の肥大が改善され、脂肪量が低下、血清HDL-C値が上昇した。また、SRT1720により、高脂肪食に伴う酸素消費量増加が低下し、身体活動の低下が改善した。
SRT1720は肥満マウスにおける肝のアポトーシスを抑制し、遺伝子発現を正常化する
SRT1720投与群では、高脂肪食による肝におけるアポトーシスマーカー(caspase3)やDNA fragmentationの亢進が改善した。肝の全ゲノムマイクロアレイ解析によると、SRT1720により遺伝子発現が大きく変わり、例えば糖新生関連蛋白(G-6-Pasey、IGFBP1)およびAdiponectin receptor2の発現が増加していた。TNFやIL-6の発現は高脂肪食で増加したが、SRT1720投与によって低下した。
SRT1720によって肝のPGC-1αのアセチル化が保たれミトコンドリア生合成が増加する
肝でのSirt1の直接のターゲットであるPGC-1αは、高脂肪食によってアセチル化が増加するが、SRT1720投与によりアセチル化は減少した。さらに、Sirt1KOマウスと野生型マウスから採取したMEFs(mouse embryonic fibroblasts)にSRT1720を添加すると、野生型では酸素消費量が増加(ミトコンドリア生合成が増加)したが、KOマウスでは増加が認められなかった。また、SRT1720によるミトコンドリア機能の増強は、PGC-1αをノックダウンすると認められなくなったため、SRT1720の作用にはPGC-1αの作用が必要であることが示された。
Sirt1ノックアウトマウスでは、SRT1720によってミトコンドリア呼吸能は変化しない
この研究ではコンディショナル(tamoxifen-inducible) Sirt1KOマウスを作製し、SRT1720によるミトコンドリア呼吸能の改善について検討した。その結果、in vivoでも呼吸能が改善し、コンディショナルKOマウスでは改善しなかった。
【結論】
肥満マウスへのSRT1720長期投与は、脂肪肝などの代謝疾患を抑制し、ミトコンドリア生合成や呼吸能の増加を伴い、寿命延長をもたらすことが明らかになった。