Diabetes complications: the microRNA perspective.
Kantharidis P, Wang B, Carew RM, Lan HY.
Diabetes. 2011 Jul;60(7):1832-7.
【総説内容】
糖尿病腎症におけるmiRNAs
STZ糖尿病マウスおよびdb/dbマウスの腎メサンギウム細胞において、miR-192の発現が増加している。これにより転写抑制因子ZEB2の翻訳が抑制され、collagen 1a2の発現が増加することによりコラーゲン沈着が増加し、腎症をきたすと考えられている。miR-192の発現は、IgA腎症や高血圧性腎症でも重症度と相関することが知られている。近年、TGF-β1がSmad3を介してmiR-192発現を調節している機構が明らかになってきた。
miR-200ファミリーは、腎症におけるEpithelial-Mesenchymal Transition (EMT;上皮間葉移行)との関連が示されている。また、miR-29は高血圧性腎症モデルで線維化との関連が示唆されている。miR-216aはメサンギウム細胞で高血糖に伴うTGF-β1活性化によって発現が増加し、PTENを抑制することによりAKTのリン酸化亢進=活性化につながる。miR-21は糖尿病腎症で発現が低下しているが、これを強制発現させると高血糖の状態でもメサンギウム細胞の増殖が抑制される。このように、miR-216aとmiR-21は発現亢進により逆の作用を及ぼす。miR-377は糖尿病モデル動物の腎症で増加し、fibronectinの発現亢進をもたらす。miR-93は、VEGF-Aをターゲットとする高血糖状態の「signature miRNA」で、高血糖によって発現が低下する。
糖尿病網膜症におけるmiRNAs
糖尿病網膜症はVEGFの上昇に伴う血管新生が病態に大きく関与しているとされているが、miRNAとの関連に関してはまだ明らかになっていない。
アテローム性動脈硬化におけるmiRNAs
AGEs(advanced glycation end products)はその受容体(RAGE)を介して炎症性経路を活性化する。RAGEは、内因性のリガンドS100b(S100/calgranulinファミリーの一つ)と結合してアテローム性動脈硬化に関与することが知られている。単球細胞において S100bとRAGEとの結合により、miR-16のCOX-2 mRNA3’UTRヘの結合が阻害されることが報告されており、動脈硬化の治療にmiRNAの知識が役立つかもしれないことを示している。
心臓におけるmiRNAs
糖尿病性心筋障害は心肥大と収縮障害によって心不全をきたしうる。miR-133は心臓に多く発現し、心発生に関与している。糖尿病性心筋障害では、serum response factor(SRF)によりmiR-133が増加するが、miR-133の低下も心肥大に関与する。miR-320によって調節される因子(VEGF, FGF, IGF-1, IGF-1R)は糖尿病性心筋障害に関連している。miR-320の発現増加に伴うIGF-1、IGF-1Rの発現低下は糖尿病で見られる血管新生障害に重要な役割を果たす。
糖尿病合併症におけるmiRNAsの将来展望
以上のような研究結果を次の臨床段階に役立たせるために二つの障害となるものがある。一つはmiRNA inhibitorのdeliveryに関する問題であり、コレステロール修飾やlocked nucleic acid-modified anti-miRNAなどが用いられるが、1回の注射でin vivoでの作用時間が短いなどの課題が残っている。二つ目は、特異的な臓器を標的とすることについての問題であり、特定の臓器にmiRNAやそのinhibitorを到達させる方法が必要とされている。