人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

地球規模の肥満の増加

The global obesity pandemic: shaped by global drivers and local environments.

Swinburn BA, Sacks G, Hall KD, Pherson K, Finegood DT, Moodie ML, Gortmaker SL

Lancet. 378: 804-814, Aug 27, 2011.

【総説内容】
2011年9月にニューヨークでnon-communicable disease (NCD:非伝染性疾患)に関する国連ハイレベル会合(the UN High-level Meeting on Non-communicable Diseases)が行われるが、そこで世界的な肥満の増加が大きな問題になると思われる。この総説では、何が肥満をもたらしてきたのかに焦点を当てて述べる。

肥満有病率の世界的な増加

肥満の増加は高収入国で1970‐80年代に始まったが、現在はほとんどの中所得国、多くの低所得国でも肥満の急増が起こっている。2008年までに14.6億人が過体重(BMI 25を超える)、5.02億人が肥満(BMI 30を超える)、1.70億人の小児(18歳未満)が過体重か肥満である。この肥満の増加は2型糖尿病、心血管障害、多くのがんなど疾患の原因となり、特に低所得国の財政の圧迫を招いている。肥満有病率は、国によって大きな差があり、中国および日本などでは少ないが、トンガ・サモアでは非常に多い。

肥満に関する広い経済効果
肥満を増加させる最も明白な前提条件は、その国が裕福であることである。GDPと平均BMIの関係はGDPが5,000ドル/人・年までは正の相関がある。GDPが増加するにつれ、人口動態的(若年から高齢者へ、農村から都会へ)、疫学的(感染症からNCDへ)、技術的(機械化、交通の発達)、栄養学的(伝統的な食事から加工した高栄養の食事へ)な移行が見られる。この移行は近年加速している。肥満の増加は、肥満を起こさせる(obesogenic)環境に対する正常な反応であり、肥満を起こさせる環境は政治経済的な環境に対する正常な反応と言える。広い見方をすれば、肥満は、温室効果ガスの増加と同じく、個人や企業の消費過剰の有害な影響でもある。したがって、肥満進行防止には、市場を制限する政府の介入も必要と考えられる。

肥満の蔓延をもたらした要因 (Drivers of the obesity epidemic)
肥満増加の明白な要因は、食品システムの変化(安くて食べやすく、高栄養の食事が簡便に得られるようになったこと)である。食品の供給が過剰になったことが、1970年代以降の米国での肥満の増加につながったと考えられている。それまではエネルギー摂取がエネルギー消費を下回っていたのが、1960年代を転換点(flipping point)として、上回るようになったと考えられている。肥満の増加をもたらした要因としては、このようなエネルギーバランスの異常と行動パターンの変化(高エネルギー食の摂取と身体活動の低下)、さらにそれ以前の社会経済的な環境(消費と成長を可能にする社会や市場の環境)が挙げられる。これらの環境の重要性を認識することは、肥満の増加を加速するのか減速するのかに大きく関わってくる。

環境および個人の影響
不健康な食品の価格を上げる、または健康な食品の価格を下げるなどの介入は近年注目を集めているが、これらが食品の選択に与える影響はほとんど研究されていない。ある食品を消費するかどうか、または運動するかどうかの最終決定は個人の判断であるが、この判断も生理学的、環境的な要因に対する反応である。

肥満の蔓延に対するアプローチ

行動変化をもたらす介入(健康促進プログラムや教育)、政策介入(法規制など)によって環境要因は変えることができる(健康な食物のコストを減らし、不健康な食品は増やす)。これらの介入は、政府によるもの(農業政策、小児への不健康な食品の禁止など)と食品業界によるもの(健康な食品への生産物の変更、市場の自主規制など)が主なものである。トランス脂肪酸の使用を法規制したデンマークが、その成功した例である。特定の行動(例としてシートベルトの着用やオフィスでの禁煙)を求める政策と違って、「ある食品を食べるか食べないか」、「運動するかどうか」を決める規制はない。これらの行動に直接かかわる戦略としては、健康教育やヘルスプロモーションプログラムを増やすことが求められる。
by md345797 | 2011-08-30 22:05 | 症例検討/臨床総説