Tissue factor-protease-activated receptor 2 signaling promotes diet-induced obesity and adipose inflammation.
Badeanlou L, Furlan-Freguia C, Yang G, Ruf W, Samad F.
Nat Med. 2011 Oct 23;17(11):1490-7.
【まとめ】
凝固カスケードの開始因子である組織因子(tissue factor)は、凝固因子Ⅶa依存性にプロテアーゼ活性化受容体2(protease-activated receptor2: PAR2)を活性化する。本研究では、この「組織因子-Ⅶa-PAR2シグナル伝達系」が肥満やインスリン抵抗性に関与することを示す。
PAR2、または組織因子の細胞質ドメインを欠損させたマウスは、高脂肪食を負荷しても体重減少・インスリン抵抗性が起きにくい。
造血細胞では、組織因子-PAR2シグナル伝達の欠損は脂肪組織のマクロファージの炎症を抑制し、特異的な抗体でマクロファージの組織因子シグナルを阻害した場合も急速にインスリン抵抗性が改善する。
それに対し、非造血細胞における組織因子-Ⅶa-PAR2シグナルは特異的に肥満を促進した。脂肪細胞の組織因子の細胞質ドメイン依存性Ⅶaシグナルは、Aktのリン酸化を抑制し、肥満や代謝に関連する転写調節を抑制する。脂肪細胞の組織因子を抗体で阻害すると急速にエネルギー消費が増大した。
以上より、組織因子シグナルの抑制は、肥満における代謝とインスリン抵抗性を改善する治療に役立つと考えられた。
【論文内容】
組織因子の細胞質ドメインとPAR2は、高脂肪食による肥満を促進する
高脂肪食(HFD)に伴う肥満によって血漿・内臓脂肪中の組織因子活性は増加する。この組織因子の細胞質ドメイン欠損マウス(TFΔCT mice)およびPAR2欠損マウス(F2rl1-/-)は、HFDにしても肥満を起こしにくく、インスリン感受性と耐糖能が正常に近い。これらのマウスの内臓脂肪には、炎症性マクロファージ(CD11b+CD11c+)が形成するcrown-like-structures(CLSs)が多く存在する。
組織因子とPAR2はマクロファージによる炎症を促進する
組織因子は、脂肪組織において抗炎症性マクロファージ(CD11b+CD11c-)よりも炎症性マクロファージ(CD11b+CD11c+)に多く発現している。次に、WTマウスに致死量放射線を照射し、TFΔCTまたはPAR2欠損マウス由来の骨髄を移植し(造血細胞(すなわちマクロファージ)でのみ組織因子-PAR2シグナルが欠損)、HFDを負荷した。このマウスは耐糖能・インスリン抵抗性が亢進している。このマウスの脂肪組織では、炎症性サイトカインであるIL-6が少なく、抗炎症性サイトカインであるIL-10が多い。
組織因子の抑制はインスリン感受性を増大させる
次に、ヒト組織因子を内因性組織因子プロモーター下に発現させたノックインマウス(TFKI mice)を作製した。このマウスは、ヒト組織因子選択的モノクローナル抗体10H10で、組織因子-Ⅶa-PAR2シグナル伝達を阻害することができる。10H10抗体の投与により、HFD負荷したこのマウスのマクロファージの炎症性サイトカインは少なく、耐糖能は改善した。また、マウス組織因子のⅦaへの結合を阻害するモノクローナル抗体21E10でも同様の炎症性サイトカインの低下、マウスの耐糖能改善が起きた。
非造血細胞組織因子とPAR2は肥満を促進する
さらに、TFΔCTおよびPAR2欠損マウスにWTの骨髄を移植すると(非造血細胞以外で、組織因子-PAR2シグナル欠損の状態になり)、体重低下、過食だが活動量・代謝が増加、血糖・FFAの低下、炎症性マクロファージの低下(CLSsの減少)などが認められる。
脂肪細胞の組織因子-Ⅶaシグナル伝達は肥満を調節する
PAR2-arrestinシグナル伝達は、PI 3K/Aktを抑制するが、脂肪細胞のAkt活性化が組織因子-Ⅶa-PAR2によって障害されていることを確認した。脂肪細胞のAkt活性化はadiponectin発現に必要であり、これはⅦaによって抑制される。脂肪細胞では、組織因子-Ⅶa-PAR2シグナル伝達により、β-arrestinを活性化し、Aktの抑制を介して、adiponectin発現を低下、これがAMPK-PPARα低下を介してエネルギー消費を低下させ、肥満、インスリン抵抗性を起こす。
【結論】
脂肪細胞では、組織因子-Ⅶa-PAR2がβ-arrestinを介して、Akt活性を抑制し、adiponectin発現低下を介して、インスリン抵抗性を惹き起こす。また、脂肪組織のマクロファージでは、組織因子-Ⅶa-PAR2が炎症性マクロファージを増やし、炎症性サイトカイン(IL-6,TNFα)の増加、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の低下を介して、インスリン抵抗性を惹き起こす。これにより
、凝固系(組織因子-Ⅶa-PAR2)と
炎症(脂肪組織マクロファージ)と
代謝(脂肪組織でのエネルギー消費)が関連していることになり、組織因子-Ⅶa-PAR2の阻害が、炎症改善・代謝促進につながりうることが明らかになった。