A hepatocyte growth factor receptor (Met)-insulin receptor hybrid governs hepatic glucose metabolism.
Fafalios A, Ma J, Tan X, Stoops J, Luo J, Defrances MC, Zarnegar R.
Nat Med. Published online Nov 13, 2001.
【まとめ】
Metは、肝細胞成長因子(HGF)に対する膜貫通型のチロシンキナーゼ細胞表面受容体であり、形態的にインスリン受容体(INSR)と関連がある。本研究では、HGF-Metシグナルが肝の糖取り込みを刺激し、肝糖産生を抑制することを示した。Metは、INSRと直接Met-INSRハイブリッド複合体を形成することによって、肝のインスリン刺激に重要な役割を果たすことが分かった。HGF-Metシステムはマウスのインスリン不応性モデル(ob/obマウス)において、インスリン反応性を回復することも示された。これらの結果により、肝のインスリン抵抗性の分子機構が新しく明らかになり、HGFが2型糖尿病の治療に役立つ可能性が示唆された。
【論文内容】
HGFはMet(HGF受容体)を発現している肝細胞にparacrine様に作用する。INSRと同様、αとβサブユニットからなる受容体チロシンキナーゼである。インスリンとHGF、INSRとMetの各細胞外ドメインに配列のホモロジーはないが、キナーゼドメインの3つのチロシンがリン酸化されてキナーゼ作用が最大になる点は共通している。これらのことから、本研究ではMetとINSRの相互作用があるかどうかを検討した。
MetはIRS1/2を結合し、チロシンリン酸化する
HGFは、ヒト肝細胞primary cultureにおいて、インスリンと同程度にブドウ糖取り込み、グリコゲン合成を起こす。このインスリンとHGFの作用は相加的である。HGF刺激5分以内にMetはIRS1、IRS2を結合する。この際HGF刺激によりINSRにもIRS2が結合し、いずれも十分にチロシンリン酸化される。IRS1/2は2つの部位のチロシンリン酸化(PI3K活性化、MAPK活性化に必要)を起こすが、これらはインスリンでもHGFでもリン酸化される。(Cell-freeシステムによりMetキナーゼとIRS1のみでもIRS1はリン酸化されるため、上記はINSRを介した間接的なリン酸化ではない。)
MetとINSRは分子複合体を形成する
Hepa1-6細胞を用いた共免疫沈降実験で、細胞をHGFおよびインスリン刺激するとMetとINSRが共沈した。次に、精製したMetキナーゼとINSRキナーゼを用いて、32P-ATPの存在下でキナーゼアッセイを行った。Metのみ、INSRのみではなく、MetをINSRに加えた場合にINSRの十分なリン酸化が起こった。次に、血清を除いたヒト肝細胞のprimary cultureにHGFのみ、インスリンのみ、または両方を加え、INSRの活性化を調べた。その結果、HGFのみでもINSRのTyr1146, 1150, 1151がリン酸化された。ここで、siRNAを用いてMetの発現を減少させると、INSRのリン酸化は減少した。すなわち、INSRの十分な活性化にはMetが必要であると言える。さらに、Hepa1-6細胞に(Metのチロシンキナーゼ活性を抑制した)DN-Metを発現させると、HGFによるINSRリン酸化とMetへのIRSsの結合が減少した。
Metは肝の糖代謝に関与している
アルブミンプロモーター下(肝特異的)にDN-Metを発現させるトランスジェニックマウスを作製したところ、空腹時高血糖であり、耐糖能も低下していた。また、Met特異的siRNAでMetをノックダウンしたマウスでも、Metの発現量が少ないほど耐糖能が悪化した。
HGFは糖尿病マウスのインスリン反応性を回復する
ob/obマウスにHGFを注入すると、グルコース注入後の血糖上昇が抑制された。また、ob/obマウスに0.25mU/gのインスリンを注入しても血糖は低下しなかったが、HGFと同時にインスリンを注入すると血糖が低下した。さらに、ob/obマウスにグルカゴン負荷を行うと、肝糖放出が増加するが、ここに HGFを加えると、グルカゴンによる糖放出が抑制された。
HGFは肝でAktリン酸化およびFoxO1のリン酸化(核からの除外)を起こし、糖新生に働くG6Pase、PEPCKの発現を低下させる。また、HGFの投与で肝のGLUT2発現が低下する(GLUT2は肝の糖取り込み、肝の糖放出の両方向に作用する)。
【結論】
肝細胞においては、INSRのみ、Metのみでは限られたシグナル伝達しか起こさないが、INSRとMetの複合体により十分なグルコース調節のためのシグナル伝達が保たれると考えられる。そのため、HGFの投与は2型糖尿病治療に応用できる可能性がある。