Adipocyte NCoR Knockout Decreases PPARγ Phosphorylation and Enhances PPARγ Activity and Insulin Sensitivity.
Li P, Fan W, Xu J, Lu M, Yamamoto H, Auwerx J, Sears DD, Talukdar S, Oh D, Chen A, Bandyopadhyay G, Scadeng M, Ofrecio JM, Nalbandian S, Olefsky JM.
Cell. 2011 Nov 11;147(4):815-26.
【まとめ】
本研究では、脂肪細胞特異的なNuclear Receptor Corepressor(NCoR)ノックアウトマウスを作製、糖代謝におけるNCoRの機能について検討した。このマウスは、肥満を呈したにもかかわらず耐糖能が改善し、肝臓・筋肉・脂肪組織においてインスリン感受性が亢進していた。また、脂肪組織のマクロファージ浸潤や炎症も減少していた。このマウスでは脂肪組織において、CDK5を介するPPARγ ser-273リン酸化が低下して恒常活性型の状態のPPARγとなっており、PPARγによる遺伝子発現が増加していた。このことから、NCoRはCDK5がPPARγに結合し、リン酸化するためのアダプター蛋白になっていることが示唆された。すなわち、脂肪組織におけるNCoRの役割は、PPARγのser-273をリン酸化することによって、PPARγの転写を抑制することである。NCoRの欠損は脂肪分化、炎症の抑制、全身のインスリン感受性の亢進などチアゾリジン系薬剤の効果と同じ効果を示す。
【論文内容】
脂肪細胞でのNCoR欠損
脂肪細胞特異的なNCoR欠損マウス(AKO)を作製した(全身の欠損マウスは胚性致死)。このマウスに高脂肪食(HFD)を負荷すると、野生型(WT)に比べ摂食が多く、より肥満になった。このマウスの脂肪組織では、PPARγの反応性遺伝子(FAS, ACC, SREBP1c, SCD1/2)の発現が増加しており、PPARγが活性化されている可能性が考えられた。このHFD負荷AKOマウスでは、インスリン感受性・耐糖能が亢進しており、高インスリン正常血糖クランプによってもグルコース注入率、糖取り込み能、肝の糖抑制が亢進していた。さらに、インスリンによるFFAの抑制も2倍程度に亢進していた。したがって、脂肪細胞でのNCoR欠損は、全身および筋肉・肝臓・脂肪でのインスリン感受性を亢進させることが明らかになった。
脂肪細胞NCoR欠損マウスの脂肪細胞機能
AKOマウスの脂肪細胞は、WTに比較して小型であり、AKOでは脂肪細胞の数が増加していた。HFD負荷AKOマウスの脂肪細胞ではWTに比べPPARγ発現量が増加し、血中のレプチン・レジスチン・PAI-1が低下、アディポネクチンが増加していた。
脂肪組織のマクロファージ浸潤と炎症
HFD負荷AKOマウスの脂肪組織では、adipose tissue macrophages (ATMs)の浸潤が少なく、死んだ脂肪細胞を囲むcrown-like structures (CLS)の形成も少なかった。ATMs(F4/80+, CD11b+)は少なくとも2つのサブグループ(CD11c+のM1-likeマクロファージとCD11c-のM2-likeマクロファージ)からなる。M1の方が肥満で多く浸潤し、炎症性サイトカインを産生する。AKOマウスでは、炎症性マーカー(TNFα、IFNγ、IL-1β、iNOS、MCP-1など)の発現が少なく、M2で多く発現する非炎症性マーカー(arginase, Mgl2)の発現が多かった。AKO primary adipocyteからのconditioned mediumは、WTに比べてマクロファージの化学走行が少なかった。
脂肪細胞NCoR欠損マウスはPPARγ刺激に対する反応性が低い
HFD負荷したWTとAKOマウスにrosiglitazoneを投与し、高インスリン正常血糖クランプを行った。WTマウスではrosiによって筋肉・肝臓・脂肪においてインスリン抵抗性が改善したが、AKOマウスでは、もともとインスリン感受性が高く、肝でのインスリン抵抗性が改善したのみであった。AKOマウスでは、NCoR欠損によってPPARγの標的遺伝子の発現が脱抑制されているためと考えられる。AKOマウスの脂肪組織では、PPARγの発現量は増加している一方で、ser273のリン酸化が低下している(これはCDK5の活性低下によるものではなかった)。Rosiによってser273のリン酸化が減少するが、AKOではもともとこのリン酸化が低下している。WTマウスの脂肪組織では、TNFαによってCDK5が活性化されPPARγのリン酸化が増加するが、AKOマウスではPPARγリン酸化の増加は見られない。通常、PPARγとNCoRは直接結合し、これによってPPARγのCDK5への結合が増加するが、rosiによってその結合は減少すると考えられる。
遺伝子発現
WTとAKOマウスの白色脂肪細胞の遺伝子発現を検討した。AKOはWTに比べてPPARγシグナル伝達系の遺伝子発現が亢進していた。また、PPARγの活性化によって抑制されるRGS2の発現は低下していた。
【結論】
脂肪細胞特異的にNCoRを欠損させると、PPARγの転写が活性化され、これはPPARγのser 273リン酸化低下によるものと考えられる。これにより、脂肪組織へのマクロファージ浸潤が少なくなり、アディポカインの分泌が変化し、インスリン感受性が亢進する。脂肪細胞における「NCoRの抑制」は2型糖尿病の治療ターゲットになりうると考えらえる。
【解説記事】
Metabolic health and nuclear-receptor sensitivity.
Hollenberg AN.
N Engl J Med. 2012 Apr 5;366(14):1345-7.
核内受容体は、リガンドが結合していないとき、核内コリプレッサー(nuclear corepressor)が結合し転写活性は抑制されている。この核内コリプレッサーには、NcoR1(nuclear-receptor corepressor 1)やNcoR2(別名SMRT:silencing mediator of retinoid and thyroid hormone receptors)がある。核内受容体は、リガンドが結合することによって、これらのコリプレッサーから分離され、転写活性が促進される。コリプレッサーには、甲状腺機能低下症(=甲状腺ホルモン受容体がNcoR1やSMRTに結合し続けていてリガンドが結合しない)のように、疾患の原因として重要なものがある。
NcoR1を脂肪組織特異的に欠損させると(
上記論文)、高脂肪食負荷した場合肥満になりやすいがインスリン感受性は亢進しているという状態になる。この形質は、脂肪細胞の核内受容体PPARγに、リガンドであるthiazolidinedionesが結合した状態と同じである。したがって、NcoR1の欠損はPPARγの内因性リガンドの感受性を亢進させ、PPARγによる遺伝子発現を促進すると考えられた。また、NcoR1はPPARγの翻訳後調節として、PPARγ活性を抑制するSerリン酸化を起こしていると考えられた(NcoR1欠損によりこの抑制が解除され、PPARγの脱リン酸化・活性化が起きる)。
また、NcoR1を骨格筋特異的に欠損させると(
Yamamoto et al.)、筋肉量が増加し、ミトコンドリア量も増加することにより、運動能が改善され、酸化的代謝が亢進する。この形質は、PPARδ(骨格筋に多く発現)がリガンドによって活性化された状態と同じである。
これらの結果により、核内受容体(PPARsや甲状腺ホルモン受容体)とそのコリプレッサー(NcoR1やSMRT)の結合を阻害すると、リガンド(thiazolidinedionesや甲状腺ホルモン)への感受性が亢進することが、in vivoで示された。今後、このようなコリプレッサーと核内受容体の結合を標的とした治療が期待される。