Amelioration of type 2 diabetes by antibody-mediated activation of fibroblast growth factor receptor 1.
Wu AL, Kolumam G, Stawicki S, Chen Y, Li J, Zavala-Solorio J, Phamluong K, Feng B, Li L, Marsters S, Kates L, van Bruggen N, Leabman M, Wong A, West D, Stern H, Luis E, Kim HS, Yansura D, Peterson AS, Filvaroff E, Wu Y, Sonoda J.
Sci Transl Med. 2011 Dec 14;3(113):113ra126.
【まとめ】
Recombinant FGF21の2型糖尿病および肥満関連疾患への応用が提案されているが、FGF21の薬物動態が不安定なため(=poor pharmacokinetics)、臨床での使用は難しい。そこで、受容体アゴニストである抗FGFR1抗体を用いて、FGF21の代謝効果を模倣した抗糖尿病治療について検討した。この抗体、R1MAb(Receptor 1 Monoclonal Antibody)を肥満糖尿病マウスに単回注入すると持続的に高血糖が改善され、高インスリン血症、高脂血症、脂肪肝が改善する。R1MAbは脂肪組織のMAPKを活性化するが、脂肪萎縮マウスのグルコース消失は改善しないため、これらの効果は脂肪組織を介することが示された。褐色脂肪組織において、 FGF21もR1MAbもCREBのリン酸化と、PGC-1αおよびその下流の酸化的代謝遺伝子の発現を増加させる。脂肪組織のFGFR1はFGF21の主要な機能的受容体であり、PGC-1αの上流の調節因子でもあるため、2型糖尿病の抗体を用いた治療の重要なターゲットになりうる。
【論文内容】
受容体アゴニストである抗FGFR1抗体の同定
ファージディスプレイ法を用いて、FGFR1細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を作製した。この抗体はFGFR1特異的に(他のFGFR2-4には反応せず)下流のMAPKを活性化した。また、この抗体をC57BL/6マウスの腹腔内に注入すると、その白色脂肪組織でFGF受容体基質(FRS2α)およびMEKのリン酸化が起こり、
in vivoでも受容体アゴニストとして作用していることが示された。
糖尿病マウスにおいてR1MAbは持続的な抗糖尿病作用を示す
db/dbマウスにR1MAbを単回投与すると、血糖が1週間以上正常化したが、低血糖は起こさなかった。すなわち、R1MAbにはインスリン感受性亢進作用があると考えられた。また、db/dbマウスで、recombinant human FGF21の持続注入と、R1MAbの単回投与の効果を比較したところ同様の効果があり、R1MAbはFGF21のmimeticとして作用することが示された。
R1MAbおよびFGF21の抗糖尿病作用における脂肪組織の役割
FGF21をマウスの腹腔に注入すると、FGFRのco-receptorであるKLB(βklotho)が発現している組織(肝、白色脂肪、褐色脂肪、膵)でMEK/ERKのリン酸化が増加する。これに対し、R1MAbを注入すると、脂肪組織と膵でリン酸化が増加するが、肝では増加しない(肝ではFGFRの発現が非常に少ない)。R1MAbは肝脂肪および血清脂質を低下させるが、これは脂肪組織で代謝活性化を起こした間接的な効果と考えられる。さらに、脂肪萎縮マウス(aP2-SREBP-1cトランスジェニックマウス)にR1MAbを単回注入またはFGF21を持続注入しても血糖、HOMA-IR、グルコース消失が改善しないことから、これらの効果は脂肪組織に依存しているものと考えられた。
R1MAbによる褐色脂肪組織でのPGC-1α活性化
近年、FGF21は脂肪組織および肝でPGC-1αを活性化し、下流の酸化的代謝遺伝子の発現を誘導することが報告されている。ob/obマウスにR1MAbを注入すると、褐色脂肪組織で、ミトコンドリア酸化的リン酸化および脂肪酸代謝関連の遺伝子発現が増加した。R1MAbの注入は、C57BL/6マウスにおいて熱産生を増加(活動度には影響なく)させた。
PGC-1αのmRNAは、CREBがCRE(cAMP response elements)に結合することによって調節されている。FGF21およびR1MAbはHEK293細胞において、GAL-CREB reporterを活性化した。さらに、FGF21およびR1MAbによるMEK/ERKのリン酸化がp90RSKのリン酸化を起こし、これがCREBのリン酸化、PGC-1αの活性化、酸化的代謝の活性化へとつながる経路が明らかになった。
【結論】
FGF受容体アゴニストであるFGFR抗体を作製した。この抗体は、
in vivoでrecombinant FGF21の効果を再現し、2型糖尿病および肥満関連疾患(脂肪肝など)の治療に有効であることが示された。FGF21およびFGFR抗体の抗糖尿病作用は、主に脂肪組織を介するものである。