PGRN is a Key Adipokine Mediating High Fat Diet-Induced Insulin Resistance and Obesity through IL-6 in Adipose Tissue.
Matsubara T, Mita A, Minami K, Hosooka T, Kitazawa S, Takahashi K, Tamori Y, Yokoi N, Watanabe M, Matsuo E, Nishimura O, Seino S.
Cell Metab. 2012 Jan 4, 15(1) 38-50.
【まとめ】
Progranulin (PGRN) は、TNF-αおよび dexamethasoneによって誘導されるadipokineであることが、3T3-L1脂肪細胞でのdifferential proteome analysisによって明らかになった。肥満モデルマウスの血中および脂肪組織ではPGRNが著明に増加し、これはpioglitazone治療によって正常化した。PGRN欠損マウス (
Grn-/-)は、高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性や脂肪細胞肥大、肥満を起こさなかった。
Grn欠損は、高脂肪食による炎症性サイトカインIL-6の血中、脂肪組織での上昇を抑制した。また、PGRNの慢性投与によって起きるインスリン抵抗性は、IL-6の中和抗体によって抑制された。このように、PGRNは高脂肪食によりインスリン抵抗性と肥満を惹起する重要なadipokineであり、その作用は脂肪組織でのIL-6産生を介している。
【論文内容】
炎症性サイトカインであるTNF-αと、抗炎症作用のあるdexamethasoneのいずれによってもインスリン抵抗性が惹起される。そこで、3T3-L1脂肪細胞を用いて、この両者でインスリン抵抗性を起こすのに重要な新規adipokineを同定することを試みた。
In vitroでのインスリン抵抗性に関するadipokineであるPGRNの同定
コントロールおよび、TNF-αまたはdexamethasoneを添加した3T3-L1脂肪細胞を比較するdifferential proteome analysisを行ったところ、TNF-αとdexamethasoneで共通して増加する21の蛋白が同定された。それらのうち、分泌蛋白で炎症性作用を持つものとしてprogranulin (PGRN)を同定した。TNF-αとdexamethasoneによるPGRNの発現増加は、pioglitazoneによって完全に阻害された。
PGRNはin vivoでインスリン抵抗性の原因となる
PGRNは精巣上脂肪に多く発現し、その発現は高脂肪食で増加した。脂肪組織の中では、脂肪細胞、間質血管分画(SVF)のいずれにも発現が認められた。ob/obマウスでは、白色脂肪組織でPGRN(遺伝子名は
Grn)発現が増加していたが褐色脂肪組織ではコントロールと比べ変化なかった。ob/obマウスでは血中PGRNも増加していた。免疫染色ではPGRNは脂肪細胞の細胞質およびマクロファージに存在した。ob/obマウスにpioglitazoneを投与すると、白色脂肪組織のGrn発現が減少し、血中PGRNも正常化した。recombinant mouse PGRN (rmPGRN)を野生型マウスに14日間注入したところ、血中PGRN濃度が2.0-2.5倍程度に上昇し(ob/obマウスと同程度)、それに伴って空腹時血糖の上昇、インスリン負荷試験(ITT)によるインスリン抵抗性の亢進が認められた。
Grnの欠損は高脂肪食による肥満とインスリン抵抗性を抑制する
Grn欠損 (
Grn -/-) マウスは野生型に比べ、高脂肪食負荷による体重増加が少なく、皮下脂肪・内臓脂肪が少ない。高脂肪食負荷した
Grn-/-マウスは野生型マウスに比べ、脂肪細胞径が小さく、マクロファージ浸潤が少ない。また、耐糖能が改善し血清インスリン値も低く、インスリン感受性が亢進していた。
PGRNは脂肪細胞のインスリンシグナル伝達を阻害する
PGRNは、3T3-L1脂肪細胞においてインスリン刺激によるIRS-1およびAktのリン酸化を用量依存的に低下させ、糖取り込みを減少させた。さらに、
Grnに対するshRNAを用いてPGRNをノックダウンすると、インスリンによるIRS-1およびAktのリン酸化が増加し、糖取り込みも増加した。また、TNF-αによるAktリン酸化の低下も回復し、TNF-αによるインスリンシグナル伝達の低下はPGRNを介していることが示唆された。
PGRNは3T3-L1脂肪細胞でIL-6発現を介して、TNF-αによるインスリン抵抗性を惹起する
Grnノックダウン脂肪細胞では、adipogenic genes (
Pparg および
Cebpa)の発現が低下、TNF-αによって誘導される炎症性adipokine(
Lep,
Il6,
Tnf,
Ccl2)の中では
Il6の誘導が完全に抑制されていた。IL-6はJAK/STAT系およびSOCS3発現抑制を介してインスリン抵抗性を惹起するが、PGRNは
Il6および
Socs3発現を用量依存的に増加させることが分かった。また、TNF-αによるSTAT3リン酸化とSocs3の発現は、
Grnノックダウン脂肪細胞では阻害された。すなわち、PGRNは脂肪細胞でのIL-6発現を促進し、それがJAK-STAT系を活性化してSOCS3(=IRS-1チロシンリン酸化を低下させ、IRS-1のdegradationを促進するという報告がある)の発現を増加することによりインスリン抵抗性が惹起されることが明らかになった。
PGRNはin vivoで脂肪組織でのIL-6発現を介して、高脂肪食によるインスリン抵抗性を惹起する
Grn-/-マウスの精巣上脂肪では、
Ppargと
Cebpa,
Fabp4,
Glut4,
Adipoqの発現が低下していた。また、高脂肪食による炎症性マーカー(
Il6,
Tnf,
Emr1)の発現増加は認めなかった。さらに、
Grn-/-マウスでは高脂肪食による血清IL-6濃度の上昇、脂肪組織・肝臓におけるSocs3の発現は抑制されていた。
IL-6の中和によりPGRNによるin vivoのインスリン抵抗性は改善する
rmPGRN (20μg/日)を野生型マウスに3週間投与したところ、PGRNは2.1倍増加した。この状態で空腹時インスリン値は増加、ITTによりインスリン抵抗性を示したが、IL-6の中和抗体の投与によっていずれも改善した。したがって、PGRNによるin vivoのインスリン抵抗性は、IL-6を介していると言える。
【結論】
以前よりPGRNは、炎症と抗炎症作用の両方があることが知られていた。最近では、TNF受容体に結合してTNF-αとの結合を阻害するという報告もあった。しかし、この研究ではPGRNがインスリン抵抗性を惹起することが
in vitroと
in vivoで証明された。また、それは脂肪組織でのIL-6発現を介して、SOCS3発現を増加させることによることが明らかになった。