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白色脂肪からの褐色脂肪様発生と熱産生を促進する、PGC1-α依存性のmyokine

A PGC1-α-dependent myokine that drives brown-fat-like development of white fat and thermogenesis.

Boström P, Wu J, Jedrychowski MP, Korde A, Ye L, Lo JC, Rasbach KA, Boström EA, Choi JH, Long JZ, Kajimura S, Zingaretti MC, Vind BF, Tu H, Cinti S, Højlund K, Gygi SP, Spiegelman BM.

Nature. 2012 Jan 11;481(7382):463-8.

【まとめ】
筋肉における運動の効果は、転写co-activatorであるPPAR-γ co-activator-1 α (PGC1-α)が担っていることがよく知られている。このグループは、マウスにおいて、 PGC1-αの筋肉での過剰発現が、膜蛋白FNDC5の発現を増加させ、それが切断されて新規同定ホルモンであるirisinが分泌されることを明らかにした。Irisinは培養白色脂肪細胞およびin vivoにおいてUCP1の発現を促進し、褐色脂肪様の発生プログラムを刺激する。Irisinは、マウスおよびヒトにおいて運動によって誘導され 血中irisinが増加するとエネルギー消費が増加する。これにより、肥満と糖代謝が改善される。Irisinは運動で改善されるメタボリックシンドロームや他の疾患の治療に役立つ可能性がある。

【論文内容】
PGC1-αは、運動によって骨格筋で誘導され、ミトコンドリア生合成を起こすなどの作用を発揮する。PGC1-αトランスジェニックマウスは肥満や糖尿病になりにくく、寿命が延長する。そのため、PGC1-αにより筋肉で何らかの因子が分泌され、他の臓器に作用することが予想されていた。

筋肉特異的PGC1-αトランスジェニックマウス
筋肉特異的なPGC1-αトランスジェニックマウスでは、白色脂肪組織が「褐色化」(browning)している(=UCP-1を発現する脂肪細胞が見られる)。3週間のwheel running運動をさせたマウス、温水でswimming運動をさせたマウスの白色脂肪組織でも同様の褐色化が見られたため、筋肉特異的PGC1-α発現は、運動による白色脂肪の褐色化に関与している可能性が考えられた。

PGC1-α依存性の分泌蛋白を同定
PGC1-αを過剰発現させた筋肉細胞のserum-free mediumで皮下脂肪細胞を培養すると、Ucp1を初め褐色脂肪細胞特異的遺伝子の発現が認められた。そのためPGC1-αにより、筋肉細胞から何らかの蛋白が分泌されていると考えられた。そこで、Affymetrix-based gene expression arrayと分泌蛋白予測アルゴリズムを用いてPGC1-αのターゲット遺伝子を検討したところ、FNDC5、VEGF-β、LRG1、TIMP4、IL-15が候補となった。これらの蛋白を培養皮下脂肪細胞に添加する実験を行ったところ、FNDC5がUcp1の発現を7倍に増加させ、FNDC5が白色脂肪の褐色化に重要であることが示された。

Fndc5はin vitroで脂肪の褐色化を促進する
FNDC5は、鼠径脂肪から取ったSVFから分化させた脂肪細胞でUcp1遺伝子発現を7-500倍に増加させ、その効果には用量依存性が認められた。また、FNDC5添加により、脂肪細胞の酸素消費が増加した。さらに、FNDC5は、PPAR-αの発現を増加させることによって、Ucp1発現を誘導し脂肪細胞を褐色化し、これはPPAR-αアンタゴニストであるGW6471によって阻害された。

IrisinはFndc5の切断・分泌断片である
FNDC5は2つのfibronectinドメインと1つの疎水性ドメインを持つ膜貫通型のペプチドであるため、分泌されるには細胞外の部分が切断されるのではないかと考えた。C端にFlag-tagを付けたFNDC5を作製したが、medium中にFlag-tag免疫活性は認められなかった。また、抗FNDC5抗体でmedium中に32kDaの蛋白(全長FNDC5より少し小さい)が検出され、C端が切断され分泌蛋白(N端側)を産生していることが示された。Western blotによるとglycosylationによると考えられる複数のバンドが認められ、peptide N-glycosidase Fを添加すると、20kDaの蛋白が検出された。Mass spectrometryによってこの分泌蛋白のシークエンスを決定したところ、ヒトとマウスで100%同一の配列が得られた。これは以前には知られていなかった蛋白であり、ギリシア神話の女神・アイリスの名にちなんでirisinと名付けられた。

Irisinはマウスとヒトの血漿中に存在し、肥満・インスリン抵抗性を減少させる
Western blotにより(アデノウイルスによる全長FNDC5をpositive controlとして)、マウス血中にirisin は約40nM存在することが分かった。Irisinは健常人の血漿でも認められた。ヒト、マウスで、運動後は血漿irisinの濃度が増加した。

アデノウイルスを用いて肝に全長FNDC5を発現させると、血漿irisinの濃度は3-4倍に上昇する。ウイルス注入10日後、皮下脂肪のUcp1 mRNA発現量は13倍に増加した。すなわち、血漿irisinの中程度(3倍程度)の増加により、in vivoで白色脂肪組織の褐色化が促進されることが示された。高脂肪食負荷による肥満・インスリン抵抗性マウスにFNDC5を過剰発現させると、酸素消費が大きく増加し、体重の軽度減少、空腹時血糖・耐糖能の改善が認められた。

最後に運動による白色脂肪に対する効果にirisinが必要であるかを検討するため、運動させたマウスに抗FNDC5抗体を注入したところ、運動によるUcp1発現の増加が大きく抑制された。したがって、運動による白色脂肪の褐色化の遺伝子発現には、かなりの部分irisinの効果が必要であることが分かった。

【結論】
Irisinはマウスとヒトで100%配列が同一であり、高度に保存された機能を持つことが予想される。この受容体はまだ知られていない。Irisinが筋肉で産生され、脂肪組織で熱産生の過程を活性化するということは、進化的には低体温に対する防御機構であるとも考えられる。

褐色脂肪または、ベージュ(beige)/褐白色(brite)脂肪は、マウスモデルおよび成人のヒトで抗肥満、抗糖尿病作用が期待されている。白色脂肪の褐色化をもたらすirisinは、注射可能なポリペプチドであり、糖尿病関連疾患の治療への応用が期待される。また、運動の効果にirisinが重要な役割を果たしていることも明らかになった。
by md345797 | 2012-01-12 18:36 | インスリン抵抗性