Exercise-induced BCL2-regulated autophagy is required for muscle glucose homeostasis
He C, Bassik MC, Moresi V, Sun K, Wei Y, Zou Z, An Z, Loh J, Fisher J, Sun Q, Korsmeyer S, Packer M, May HI, Hill JA, Virgin HW, Gilpin C, Xiao G, Bassel-Duby R, Scherer PE, Levine B.
Nature. 2012 Jan 18;481(7382):511-5.
【まとめ】
運動の代謝疾患に対する効果の分子機構はまだ十分に分かっていない。リソソームによる分解経路であるオートファジーは、細胞内小器官や蛋白の品質管理を行う細胞内のリサイクリングシステムである。オートファジーは、癌、神経変性疾患、感染、炎症性疾患、加齢、インスリン抵抗性などの疾患の抑制に役立っている。この研究では、急性の運動が、マウスの骨格筋および心筋にオートファジーを誘導することを示した。この運動によるオートファジーの役割を検討するため、非刺激時(basal)のオートファジーは正常に起きるが、刺激(
in vivoにおける運動や
in vitroにおける培養細胞のstarvation)によるオートファジーが起きない変異マウス(BCL2AAAマウス)を作製した。このマウスは、BCL2のリン酸化部位に変異(Thr69Ala、Ser70Ala、Ser84Ala)をノックインしたもので、刺激によるBCL2-beclin-1複合体の形成およびオートファジーの誘導が阻害されている。BCL2AAAマウスは、急性運動に対する耐性が低下し、グルコース代謝改善効果が障害されていた。また、高脂肪食負荷に伴う耐糖能の異常に対する、慢性運動による予防効果も障害されていた。本研究では、運動によってオートファジーが誘導されること、BCL2は運動によるオートファジーの主要な調節因子であることが示された。オートファジーの誘導は、運動の代謝疾患に対する有益な効果に重要な役割を果たしていることが示唆される。
【論文内容】
運動によってオートファジーが誘導されるかを検討するため、GFPでラベルしたオートファーゴソームのマーカー(GFP-L3)を発現するトランスジェニックマウスにトレッドミル運動させた後に組織を検討した。骨格筋と心筋の両方で、走行運動30分後にオートファーゴソーム(GFP-LC puncta)の数が増加し、80分でピークに達した。

また、運動により、non-lipidated formのLC3、LC3-Iが、オートファーゴソーム膜結合型のlipidated formLC3-IIに変換され、オートファジー基質蛋白p62の分解が認められた。さらに、運動によるオートファジーの誘導は、肝、脂肪組織、膵β細胞でも認められ、
運動はin vivoでオートファジーを誘導する刺激であることが新たに分かった。
抗オートファジー蛋白BCL2は、小胞体においてオートファジー蛋白beclin 1に結合することでオートファジーを阻害する。刺激によるオートファジーの誘導には、BCL2–beclin-1複合体形成が阻害されることが必要である。マウス筋肉においてBCL2とbeclin 1の結合解離を検討したところ、15分の運動でこの結合が少なくなり、30分でほとんど検出されなくなった。
次に、刺激によるオートファジーの誘導が起こらない変異マウスを作製した。BCL2の3つの部位(マウスのThr 69、Ser 70、Ser 84)のリン酸化が刺激によるオートファジー誘導に必要であることが
in vitroで知られている。そこで、これらのリン酸化部位をAlaに置換したBCL2 AAAノックインマウスを作製した。BCL2AAAマウス由来のMEFs(マウス胎児線維芽細胞)は、刺激(starvation)によるBCL2のリン酸化およびbeclin1との解離が起こらず、オートファジーが誘導されなかった。
ここで、コントロールのGFP-LC3野生型マウスとGFP-LC3 BCL2AAAマウスをそれぞれ80分または最大運動容量の75%の運動をさせたところ、BCL2 AAAマウスの骨格筋と心筋で運動によるオートファジーの誘導が障害されている(GFP–LC3 punctaの数の低下)のが認められた。BCL2AAAマウスの筋肉では、運動によるLC3-IIへの転換とp62分解が低下し、BCL2-beclin-1複合体の解離が障害している。以上より、リン酸化されないBCL2では非刺激時(basal)のオートファジーは変化がないが、starvationや運動によるオートファジーの活性化が障害されることが分かった。
運動によるオートファジーが欠損したBCL2AAAマウスは、最大運動容量が少なかった。ただし、筋肉の形態学、グリコゲン・ミトコンドリア量などの検討では野生型と差は見られなかった。BCL2AAAマウスは、運動によるインスリン感受性亢進が障害され(血糖、インスリンの低下が少ない)、骨格筋でのGLUT4の膜への局在とグルコース取り込みも低下していた。さらに、BCL2AAAマウスでは、骨格筋におけるAMPK Thr 172のリン酸化(すなわち活性)が低下していた。
これらの運動耐性とグルコース代謝の低下が、オートファジーの欠損によるものであることを示すために、オートファジー蛋白beclin 1が減少している
Becn1+/-マウスを用いて検討を進めた。
Becn1+/-マウスは、BCL2AAAマウスと同様、運動による骨格筋でのオートファジーが障害され、運動耐性も低下しており、運動によるGLUT4の膜への局在・グルコース取り込み・AMPK活性化が減少している。いずれのマウスでも、オートファジー機能が運動による正常なAMPKの活性化に必要であることを示している。
次に、運動によるオートファジーの誘導は、長期運動による有益な代謝効果に必要かどうかを高脂肪食負荷マウスを用いて検討した。野生型およびBCL2AAAマウスに4週間高脂肪食を負荷し、さらに8週間高脂肪食に追加して毎日50分のトレッドミル運動を行った。どちらのマウスも高脂肪食により耐糖能が悪化したが、野生型マウスに比べBCL2AAAマウスは運動による耐糖能の改善が認められなかった。
【結論】
以上の結果から、
運動には強力なオートファジー誘導作用があり、急性および慢性の運動による糖代謝の改善はオートファジー誘導を介すると考えられた。また、
オートファジー抑制蛋白BCL2とオートファジー蛋白beclin 1との解離が阻害されることにより、運動による有益な効果が障害された。
BCL2のオートファジー抑制効果を阻害する方法があれば、運動の効果を模倣することができ、代謝異常を予防・治療できるかもしれない。さらに、運動とオートファジーと代謝改善の結びつきが明らかになったことで、運動が寿命延長や癌・心血管障害・炎症性疾患の予防に重要であることの細胞メカニズムの解明が期待される。