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褐色脂肪組織の酸化的代謝は、ヒトにおいて急性寒冷刺激に対するエネルギー消費に役立っている

Brown adipose tissue oxidative metabolism contributes to energy expenditure during acute cold exposure in humans.

Ouellet V, Labbé SM, Blondin DP, Phoenix S, Guérin B, Haman F, Turcotte EE, Richard D, Carpentier AC.

J Clin Invest. 2012;122(2):545–552.

【まとめ】
褐色脂肪組織(BAT)は、げっ歯類において寒冷刺激に対する正常な熱産生に重要であるが、成人のヒトにおいては、その存在や代謝への影響は少ないかまたは重要ではないと最近まで考えらえていた。近年の18F-fluorodeoxyglucose (18FDG)およびPETを用いた検討により、成人ヒトBATの存在が示された(下図1参照)。しかし、BATがヒトにおいて寒冷による非ふるえ熱産生に役立っているかは明らかではなかった。

この研究では、11C-acetate(陽子でラベルした酢酸塩。ミトコンドリアでのクエン酸サイクルに取り込まれ、組織の酸化的代謝のトレーサーとなる、下図2参照)、18FDG(グルコース代謝のトレーサー)および18F-fluoro-thiaheptadecanoic acid (18FTHA:脂肪酸のトレーサー)を用いて、寒冷条件下での6名の健康な男性のBAT酸化的代謝、グルコースおよび非エステル化脂肪酸(NEFA)のターンオーバーを定量化したところ、すべての被験者で寒冷刺激によるNEFAとグルコースの取り込みが認められた。さらに、寒冷によるBATの酸化的代謝の活性化を認めた(これは隣接する骨格筋や皮下脂肪組織では認められなかった)。この活性化は総エネルギー消費の増加も伴っていた。また、BAT活性化とふるえの間には負の関係があった。寒冷刺激によりBAT放射性濃度の増加が認められ、BATの中性脂肪含量の低下が示唆された。この研究により、ヒトにおいても、BATは非ふるえ熱産生を行っていることが明らかになった。
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             1.成人ヒトの褐色脂肪組織(BAT)の部位と視床下部による調節

【論文内容】
BATは、筋肉のふるえによらないで、すなわちUCP1によって、ミトコンドリア呼吸をATP合成から分離(uncoupling)させることによって熱を産生する機能がある。以前より18FDGを用いたPET/CTによって、ヒトの頚部および鎖骨上に対称的に、代謝的活性な脂肪組織が存在することが示されていた。これは交感神経支配を受け、褐色脂肪細胞のマーカーであるUCP1を発現しており、寒冷刺激によって18FDG取り込みが亢進したため、ヒトでもBATがエネルギー消費に重要であるとされてきた。しかし、これらの知見は、18FDGによって得られただけの結果であり、推測的な結論であった。本研究では、11C-acetate (組織の酸化的活性の測定), 18FDG (グルコースアナログ), and 18F-fluoro-thiaheptadecanoic acid (18FTHA、脂肪酸トレーサー)を用いて、急性寒冷条件下でふるえを最小化した状態でのBATの酸化的代謝・グルコースとNEFAの取り込みを成人ヒトにおいて定量化した。

6名の健康な男性を寒冷条件下(皮膚温3.8 ± 0.4°C)に置いたところ、VO2、VCO2、および安静時エネルギー消費が1.8倍に上昇し、NEFA値と血中出現率が有意に増加した。ふるえ(筋電図で測定)は1.6% ± 0.5%にコントロールされた。

寒冷刺激による18FDGの取り込み(fractional uptake (Ki))は、僧帽筋・三角筋および皮下脂肪組織に比べて、鎖骨上BATで高値であった。総グルコース取り込み(Km)もBATの方が高値であった。いずれも頚長筋とは同程度であった。

寒冷刺激による18FTHA の取り込みfractional uptake (Ki)およびnet tissue NEFA uptake (Km)は僧帽筋・三角筋・皮下脂肪組織に比べ、鎖骨上BATで高値、頚長筋とは同程度であった。

11C-acetateの静注後、血中11C放射活性は寒冷条件下と室温下で差はなかった。BATでは11C放射活性が寒冷刺激によって増加したが、皮下脂肪組織・僧帽筋・三角筋では増加しなかった。頚長筋では増加した。酸化的代謝および非酸化的代謝(acetate retention)のマーカーである11C放射活性のグラフのAUCはBATと頚長筋で増加した。真の組織酸化代謝のマーカーであるmonoexponential decay slope from tissue peak 11C activity (11C-acetate k)は、BATでは6名全員で増加していたが、頚長筋ではそうではなかった。これは、BATが寒冷下での非ふるえ熱産生に重要な役割を果たしていることを示す。

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2. BATにおける代謝:寒冷下では、交感神経刺激によりトリグリセリド分解と脂肪酸の細胞内放出が起こる。脂肪酸はミトコンドリアに流入しβ酸化によってアセチルCoAまで分解され、これがクエン酸サイクル(citric acid cycle:CAC)へ。ノルエピネフリン刺激によって、UCP1の活性化が起こり、ATP産生ではなく(uncouple)熱産生が起きる。この研究では緑で示した線のように、陽子でラベルした
酢酸塩(*Ac–) を血中に注入すると、細胞内でアセチルCoAとなりクエン酸サイクルに取り込まれる。その後、陽子ラベルした炭素(C)はCO2として放出され、組織の代謝活性を示す指標として用いられる。


【結論】
成人ヒトにおいて、筋肉のふるえによる熱産生を最小限にした寒冷刺激は、BATの酸化的代謝とグルコース・NEFAの取り込みを促進した。亢進したBAT活性は、全身のエネルギー消費を1.8倍増加させた。BAT活性とふるえの間には負の関係が認められた。寒冷条件下3時間以内のBATの放射性濃度の有意な増加があり、BAT中性脂肪含量の急速な低下が示唆された。これらの結果から、ヒト成人のBATは、急性寒冷刺激によって非ふるえ熱産生に関与しうる、代謝的に活性(metabolically active)な脂肪組織であることが確認された

(なお、本研究においては「急性の」寒冷刺激がBATの活性化を起こすことを示したにすぎず、単に「BATの量が多ければやせる」というような結論にはならない。今後は、摂食時にBATが「発火している(on fire)」状態をいかに作るかが代謝疾患治療の課題となるだろう。)
by md345797 | 2012-01-26 07:40 | エネルギー代謝