Cardiac natriuretic peptides act via p38 MAPK to induce the brown fat thermogenic program in mouse and human adipocytes.
Bordicchia M, Liu D, Amri EZ, Ailhaud G, Dessì-Fulgheri P, Zhang C, Takahashi N, Sarzani R, Collins S.
J Clin Invest. 2012 Mar 1;122(3):1022-36.
【まとめ】
白色脂肪組織中の褐色脂肪細胞の数と活性を増加させることは、体脂肪蓄積を防ぐために役立っている。β-adrenergic receptors (β-ARs)の活性化がこの「褐色様」脂肪細胞形質への促進を行っている。心臓のナトリウム利尿ペプチド (NPs) とβ-ARアゴニストは同じように強力に脂肪細胞でのlipolysisを刺激することが分かっているため、NPsが脂肪組織において褐色脂肪形質を獲得する(UCP1発現が増加して熱エネルギー消費が増加する)ことを促進するかどうかを検討した。ヒト脂肪細胞において、心房性NP(ANP)と心室性NP(BNP)は、PGC-1αとUCP1の発現を増加させ、ミトコンドリア生合成と呼吸を増加させた。低濃度では、ANPとβ-ARアゴニストは相加的に、p38MAPK依存的に褐色脂肪マーカーを増加させた。低温環境においたマウスは血中のNPsが増加し、褐色脂肪組織(BAT)・白色脂肪組織(WAT)において、NPのsignaling receptorが増加、NP clearance receptor (NPRC)が減少した。NPR-C-/-マウスは、脂肪組織が小さく、Ucp1などの熱産生遺伝子の発現が亢進していた。マウスにBNPを注入すると、WATおよびBATでUcp1とPgc-1αの発現が増加し、呼吸とエネルギー消費の亢進が認められた。以上の結果から、NPsは、白色脂肪の褐色化(browning)を促進し、エネルギー消費を増加させることが明らかになり、心臓は脂肪組織を調節する重要な臓器であることが示された。
【論文内容】
心臓のナトリウム利尿ペプチド(NPs: natriuretic peptides)には心房性(ANP)と心室性(BNP)があり、これらはNP receptor A(NPRA)に結合し、体液や血行動態の恒常性を調節している。もう一つのNP受容体ファミリーであるNPRC(NP clearance receptor)は、ANP・BNPに結合して血中からこれらを除外する役割がある(下流へのシグナル伝達は行わない)。ANPは、交感神経系におけるカテコラミンと同じように、脂肪組織でlipolysisを増加させることが知られている。β-adrenergic receptors (βARs)はcAMPを増加させ、PKAの活性化を介してHSLをリン酸化するが、NPsはcGMPを増加させ、PKG (cGMP-dependent protein kinase)を活性化することによりlipolysisを増加させる。運動によって心拍出量が増加してNPsが放出されると、lipolysisが増加し心筋・骨格筋への脂肪酸の供給が増加する。本研究では、NPsが、カテコラミン/βARs系と並行して、脂肪細胞を「褐色様」形質に変化させるかを検討した。
ANPとlipolysis
まず、野生型マウスとNPRC欠損(NPR-C-/-)マウスのWAT・BATで、ANPによるlipolysisを比較した。NPR-C-/-マウスは野生型に比べ、WAT・BATとも脂肪量が少なく、組織学的にも脂肪滴および脂肪細胞サイズが小さかった。また、このマウスのWAT・BATではUCP1、PGC-1αの発現が増加していた。したがって、NPR-C-/-マウスは(ANPによく反応することにより)褐色脂肪細胞の熱産生プログラムが亢進していると考えられた。
ANPは褐色脂肪細胞形質の獲得を促進する
また、分化させたヒト脂肪細胞(human multipotent adipose-derived stem cells: hMADS cells)にANPを添加したところ、UCP1、PGC-1αおよび褐色脂肪分化に重要な因子であるPRDM16の発現が増加した。また、ANPは、βARアゴニストであるisoproterenol(Iso)やβ3ARアゴニスト(L755)と同じようにUCP1、PGC-1αの発現を増加させた。ここで、PKGの阻害物質(PKGiとする)を投与しておくとANPの作用は阻害された。
次に、ANPがミトコンドリア生合成と呼吸を示すパラメーターを増加させるかを調べたところ、CPT1B、COX10などの発現とミトコンドリアDNAがANP投与で増加し、PKGiで抑制された。また、ANPの投与で、hMADS cellsの酸素消費率が増加した。
βARsおよびANPは、PKA/PKGからp38MAPKに至る並行するシグナル伝達経路を用いている
βARsは、PKAを介してp38MAPKを活性化することで、UCP1、PGC-1α発現を増加させることが分かっている。同様にANPは、hMADS cellsにおいてp38MAPK活性を増加させ、これはPKGiによって阻害された。さらに、SB203850でp38MAPKを阻害すると、ANPによるUCP1・PGC-1αの発現増加も阻害されたため、ANPはPKGからp38MAPKへのシグナル伝達経路を用いて、UCP1発現を起こしていることが分かった。
ANPによるUcp1プロモーターへの転写因子の結合
UCP1遺伝子のエンハンサー領域には、βAR/PKA/p38αMAPKカスケード依存性の領域であるPPREとCRE2という転写因子結合部位が含まれている。ヒト脂肪細胞をANP刺激することにより、p38MAPKが転写調節因子ATF2のリン酸化とCRE2への結合を促進し、それによってPGC1-αが発現誘導され、さらにPGC-1αがPPARγとRXRαのPPREへの結合を促進することによって、最終的にUCP1の発現が誘導される(これは、PKGiおよびSBによって阻害される)ことが示された。
NPsとβARsの相加的な反応により、褐色脂肪細胞様の遺伝子発現パターンが増加する
hMADS cellsに低濃度のANPおよびIsoを添加すると、UCP1、PGC-1αの発現が相加的に促進された。すなわち、ANPによる経路とβARによる経路が、相加的にp38MAPKを活性化することが分かった。
NPsは、in vivoで褐色脂肪の形質とエネルギー消費を増加させる
上記のNPシステムが、βARシグナルと同様に寒冷によって刺激されるかについて検討した。マウスを4℃におくと、血漿BNPおよび心臓でのANP、BNPの発現が増加した。NPシステムは、交感神経系とともに、寒冷環境でのlipolysisと熱産生に関与している可能性がある。最後に、BNPをミニポンプを用いて7日間持続注入すると、酸素消費、エネルギー消費が増加した。また、これにより、脂肪組織での褐色脂肪細胞マーカー(UCP1、PGC-1α)の発現が増加した。すなわち、BNPの注入は、BATの活性化、WATの「褐色化(browning)」を促進することにより、エネルギー消費を増加させることが示された。
【結論】
心ナトリウム利尿ペプチドの脂肪組織に対する作用(脂肪細胞の褐色脂肪様形質への変化を促進する)が分かり、cardiometabolic hormoneとしての役割が明らかになった。
(臨床的には、心不全における病的な体重減少(cardiac cachexia)でNPsが増加していることが知られており、脂肪組織におけるエネルギー消費の亢進が原因として想定される。また本研究の結果からは、NPsが肥満・代謝疾患の治療に利用できる可能性も考えられる。)