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Resveratrolは、cAMP PDEsを阻害することにより加齢関連の代謝障害を改善する

Resveratrol ameliorates aging-related metabolic phenotypes by inhibiting cAMP phosphodiesterases.

Park SJ, Ahmad F, Philp A, Baar K, Williams T, Luo H, Ke H, Rehmann H, Taussig R, Brown AL, Kim MK, Beaven MA, Burgin AB, Manganiello V, Chung JH.

Cell. 2012 Feb 3;148(3):421-33.

【まとめ】
Resveratrolは、カロリー制限を模倣する作用があり、抗加齢・抗糖尿病効果を持つと報告されているが、その作用機序は不明である。このグループは、resveratrolはcAMPを分解するphosphodiesterases(PDEs)を阻害することにより、cAMPを増加させることを明らかにした。これにより、cAMPのeffector proteinであるEpac1が活性化され、phospholipase Cとryanodine receptor Ca(2+)-release channelを介して細胞内のCa(2+)が増加し、CamKKβ-AMPK系が活性化される。その結果、NAD(+)が増加し、Sirt1活性が亢進する。PDE4をrolipramを用いて阻害することにより、resveratrolの代謝効果(マウスにおける高脂肪食に伴う肥満の防止、ミトコンドリア機能、運動能、耐糖能の亢進)が再現された。したがって、PDE4阻害剤投与は、加齢に伴う代謝障害の防止および改善に役立つと考えられる。
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【論文内容】
Resveratrolは、Epac1依存性にAMPKを活性化する
C2C12筋肉細胞に低濃度(50μM以下)のresveratrolを添加するとcAMPが上昇した。また、マウスにresveratrolを経口投与すると筋肉および白色脂肪組織(WAT)で cAMPが上昇した。筋肉細胞およびHeLa細胞にadenylyl cyclase(AC)阻害剤を添加した状態で、resveratrolを加えるとAMPKのリン酸化、ACC(AMPKの基質)のリン酸化が阻害された。そのため、cAMPはresveratrolによるAMPK活性化に必要であると言える。

細胞内cAMPシグナルは、PKAおよびcAMP-regulated guanine nucleotide exchange factors(cAMP-GEFs, Epac1, Epac2)の2つを介している。このどちらがresveratrolによるAMPK活性化につながるかを検討するため、PKAまたはEpac1のsiRNAをHeLa細胞に加えた後、resveratrolを添加した。その結果、Epac1 siRNAのみで、AMPKとACCリン酸化が阻害されたため、resveratrolの効果にはEpac1を介する経路が必要であることが示された。

EpacはGDPからGTPへの変換を促進し、Rap1、Rap2を活性化する。Resveratrolにより、筋肉細胞においてEpac1活性が増加(GTP結合Rap1が増加)し、Epac1特異的アゴニスト投与でもAMPK活性化が起こることが示された。

Resveratrolは、Epac1を介してNAD+を増加させる
AMPKはNAD+を増加させてSirt1活性を亢進させるため、resveratrolによるNAD+増加がEpac1依存性であるかを検討した。Epac1 siRNAにより、resveratrolによるNAD+上昇が抑制され、(Sirt1による)PGC-1αの脱アセチル化も抑制された。筋肉細胞をEpac1アゴニストで刺激すると、それだけでもミトコンドリア量が50%増加し、酸素消費率、脂肪酸化が増加した。また、resveratrolおよびEpac1アゴニストは活性酸素種(ROS)の産生を低下させた。以上より、resveratrolはEpac1依存性に、間接的にSirt1を活性化することが明らかになった。

ResveratrolはPLC-Ryr2経路を介してCamKKβ-AMPK経路を活性化する
AMPKは、2つのAMPK kinase、すなわちLKB1またはCamKKβのうちの一つによってリン酸化されることで活性化される。Resveratrolは細胞質Ca2+を増加させ、Epac1はPLC依存性にCamKIIを介して細胞質Ca2+を増加させることから、resveratrolおよびEpac1がCamKKβ-AMPK経路を活性化するかどうかを検討した。そのために、筋肉細胞にカルシウムキレート剤(BAPTA-AM)またはCamKK阻害剤(STO609)を添加した後にresveratrolを加えた。その結果、これらの薬剤によって、低濃度resveratrolおよび Epac1アゴニストによるAMPK活性化が抑制された。以上より、resveratrolはEpac1を介してCamKKβ-AMPK経路を活性化することが示された。

また、resveratrolによる細胞内Ca2+増加およびAMPK活性化は、PLC阻害剤(U73122)で抑制されたので、この過程はPLC依存性と言える。Epac1の活性化により、小胞体上にあるryanodine receptor 2(Ryr2)がリン酸化され、小胞体からのCa2+放出が促進される。筋肉細胞にRyr2の阻害剤(ryanodine)を添加してからresveratrolを加えると、AMPK活性化が阻害された。さらに、Epac1 siRNAでCamKIIによるRyr2のリン酸化が阻害されたため、resveratrolはEpac1-PLC-Ryr経路を介して、CamKK-AMPK系を活性化することが示された。

Resveratrolは、非選択的なphophodiesterase阻害剤である
細胞内cAMP濃度は、AC(=ATPからcAMPを合成)とcyclic nucleotide PDEs(=cAMPをAMPに、cGMPをGMPに加水分解)の活性によって決定する。ResveratrolはAC活性には影響しなかったため、PDEsを抑制してcAMP濃度を増加させることが示唆された。PDEには11のアイソフォームがあり、それぞれ基質特異性が異なる。そこで、resveratrolによるPDE1-5の活性低下を調べたところ、PDE1,3,4の活性が抑制された。ところが、高濃度のcAMPの存在下ではresveratrolによるPDE3活性抑制が見られず、resveratrolはcAMPと競合的にPDE活性を阻害すると考えられた。これは、resveratrolと、UVでPDE3とクロスリンクする蛍光cAMPの競合実験でも確認された。

ResveratrolはPDEsを阻害することによりAMPKを活性化し、ミトコンドリア生合成を増加させる
もしresveratrolの代謝作用がPDEsの阻害によるなら、既知のPDE阻害剤によってもresveratrol同様の効果が得られるはずである。筋肉細胞ではPDE4がPDE活性の多くを占めるため、筋肉細胞にPDE4阻害剤(rolipram)を添加したところ、resveratrolと同様のcAMPの増加が認められ、Epac1依存性にAMPK活性化が起こった。マウスにrolipramを投与して筋肉を採取したところ、AMPKの活性化、NAD+の増加、PGC-1αの脱アセチル化(Sirt1活性化を示す)が起きていた。さらに、高脂肪食負荷マウスにrolipramを12-14週間投与したところ、筋肉細胞においてresveratrolおよびAMPK活性化と同様の遺伝子発現の増加が認められ、ミトコンドリア生合成の亢進、ミトコンドリア量の増加が起きた。また、Rolipram投与マウスでは、運動耐性が増加した(トレッドミルで長距離走ることができた)。

PDEの阻害は高脂肪食による肥満や耐糖能悪化を防止する
WATでのAMPK活性化も、resveratrol同様、rolipramでも起こった。Rolipram投与マウスは高脂肪食でも体重増加が少なく、摂食は同じでも脂肪量が低下していた。これは運動量の増加ではなく、酸素消費率の増加によるものであった。Resveratrol投与マウスおよびrolipram投与マウスはコントロールと比較して、空腹時の体温が高く、脂肪組織における熱産生遺伝子であるUCPs、PGC-1αの発現が増加していた。

PGC-1αはROSの消去能(scavenging capacity)を増加させる。Rolipram投与マウスはPGC-1αの発現が多いため、WATのROSが少ない。さらに、高脂肪食を負荷したrolipram投与マウスは、コントロールに比べて耐糖能が改善していた。また、GLP-1の発現はcAMPによって増加するため、resveratrolとrolipram投与マウスの血清GLP-1量を調べたところ、20%増加が認められた。これらの結果から、resveratrolおよびrolipramは、ホルモン調節によっても2型糖尿病改善に役立つことが分かった。

【結論】
Resveratrolは、Sirt1を直接のターゲットにしているのではなく、PDEsの競合阻害→cAMPの増加→Epac1活性化→PLCを介したCamKIIの活性化→小胞体のRyr2のリン酸化→小胞体からのCa2+の放出→CamKKβの活性化→AMPKのリン酸化→NAD+の増加→Sirt1活性化という経路で、間接的にSirt1活性化を起こしている。Sirt1活性化剤(SRT1720など)が同様の経路でSirt1を活性化しているのか、興味のあるところである。また、カロリー制限はグルカゴンやカテコラミンの増加、インスリン/IGF1シグナルの低下により結果的にcAMPを増加させるので、これがresveratrolと同様の効果をもたらしているのかもしれない。さらに、PDE4阻害剤の効果は加齢関連疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病)の動物モデルで示されており、これが加齢関連の代謝疾患に有効である可能性もある。
by md345797 | 2012-02-25 20:35 | シグナル伝達機構