Effect of a Monoclonal Antibody to PCSK9 on LDL Cholesterol
Stein EA , Mellis S, Yancopoulos GD, Stahl N, Logan D, Smith WB, Lisbon E, Gutierrez M, Webb C, Wu R, Du Y, Kranz T, Gasparino E, Swergold GD.
N Engl J Med 2012;366:1108-18
【まとめ】
セリンプロテアーゼの一つであるproprotein convertase subtilisin/kexin 9 (PCSK9)は、LDL受容体に結合してその分解を促進し、その結果LDLコレステロール値を増加させる。このグループは、PCSK9に対するモノクローナル抗体(REGN727)の3つの第1相試験の結果を報告している。
健常者ボランティアを対象に、REGN727の静脈投与(40名)または皮下投与(32名)とそれぞれプラセボと比較する2つのランダマイズ試験を行った。さらに、ヘテロ家族性高コレステロール血症でアトルバスタチンを服用者(21名)と、非家族性高コレステロール血症でアトルバスタチン服用者(30名)、または食事療法のみの非家族性高コレステロール血症者(10名)を対象にREGN727を皮下投与したランダマイズ試験を行った。一次アウトカムは有害事象の発生、二次アウトカムはREGN727の脂質プロファイルに対する効果とした。
REGN727を投与した人のうち、有害事象のために試験を中断した人はいなかった。3つの試験すべてで、REGN727はLDLコレステロール値を有意に低下させた。3番目の試験(高コレステロール血症患者を対象とした試験)で、REGN727の用量が50、100、150 mgの場合、アトルバスタチン服用者ではLDLコレステロール値をそれぞれ、77.5 mg/dl、61.3 mg/dl、53.8 mg/dl(ベースラインのLDLコレステロール値を100%とした場合に、-39.2、-53.7、-61.0パーセンテージポイント)低下させた。
以上3つの第1相試験において、PCSK9に対するモノクローナル抗体は、健常者ボランティアおよび家族性または非家族性高コレステロール血症患者のLDLコレステロール値を有意に低下させた。
【論文内容】
2003年に、PCSK9のgain-of-function変異による常染色体優性高コレステロール血症が報告された。その後、PCSK9はLDL受容体活性の翻訳後調節を行っていることが分かった。すなわち、PCSK9は肝で合成されて血中に入り、肝のLDL受容体に結合してLDL受容体のdegradationを起こし、その結果受容体に結合できなくなったLDLコレステロールが血中で増加して高コレステロール血症をきたすメカニズムが明らかにされた。また、PCSK9のloss-of-function変異が血中LDLコレステロール値を低下させ、心血管疾患の発症を減少させていることも報告された。そこで、PCSK9の阻害が高コレステロール血症患者のLDLコレステロール値を低下させる可能性が考えられた。REGN727は、ヒトPCSK9に高度に特異的なトモノクローナル抗体であり、PCSK9のLDL受容体との結合を阻害する。この報告では、REGN727をヒトに用いた最初の研究の結果を報告した。
単回投与試験(single-dose studies)では、REGN727の静脈投与40名、皮下投与32名の健常者を対象とした。静脈投与群は、1.0、3.0、6.0、12.0 mg/kg体重のREGN727投与群に分け、それぞれプラセボ投与群と比較した。皮下投与群では、50、100、150、250 mgのREGN727投与群に分け、それぞれプラセボ投与群と比較した。
反復投与試験(multiple-dose study)では、ヘテロ家族性高コレステロール血症でアトルバスタチン服用患者21名、非家族性高コレステロール血症でアトルバスタチン服用患者30名、および非家族性高コレステロール血症で食事療法のみの患者10名を対象とした。3群いずれも、REGN727(50、100、150 mg投与またはプラセボ)をdays 1、29、43に皮下投与した。
単回投与試験では、有害事象のために試験継続不可能となった人はいなかった。反復投与試験でも重篤な有害事象が起きた患者はおらず、すべての対象者が試験を継続した。
単回投与試験では、REGN727の静脈投与または皮下投与のいずれの場合でも、LDLコレステロールの低下の程度と期間が用量依存的であり、高用量投与した群の方がLDLコレステロール低下期間が長かった。
反復投与試験では、REGN727の用量が50、100、150 mgでアトルバスタチン服用患者のLDLコレステロールの低下がそれぞれ77.5、61.3、53.8 mg/dl(ベースラインからの変化が-39.2、-53.7、-61.0パーセンテージポイント)であった。LDLコレステロール低下の程度は、家族性高コレステロール血症と非家族性高コレステロール血症の間で、またアトルバスタチン服用者と食事療法のみの間で、有意差はなかった。
【結論】
PCSK9とLDL受容体の結合を阻害するヒトモノクローナル抗体REGN727は、今回3つの試験で有意にLDLコレステロール値を低下させた。この効果は、健常者および、家族性・非家族性の高コレステロール血症の患者の両方で有意であった。さらに、アトルバスタチンを併用している患者でも有意に認められた。
(なお、この研究はRegeneron PharmaceuticalsとSanofiから援助を受けた。)