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糖尿病肥満患者における、肥満外科手術と強化薬物療法の比較

Bariatric Surgery versus Intensive Medical Therapy in Obese Patients with Diabetes

Schauer PR, Kashyap SR, Wolski K, Brethauer SA, Kirwan JP, Claire E. Pothier CE, Thomas S, Abood B, Nissen SE, Bhatt DL.

N Engl J Med. Published online March 26 2012.

【まとめ】
今までにいくつかの観察研究で、肥満外科手術(bariatric surgery)後に2型糖尿病が改善することが示されている。今回行われた一施設ランダム化研究では、150名のコントロール不良の2型糖尿病肥満患者をランダム化して3群に分け、強化薬物療法のみの群と、薬物療法に加え外科治療(Roux-en-Y胃バイパスgastric bypass、または袖状胃切除術sleeve gastrectomy)を行った2群で効果を比較した。平均患者年齢は49±8歳、66%が女性、平均HbA1cが9.2±1.5%であった。一次エンドポイントは、治療12か月後のHbA1cが6.0%以下の患者の割合とした。一次エンドポイントに達した患者の割合は、薬物療法で12%だったのに対し、胃バイパス群は42%(P = 0.002)、袖状胃切除術群は37%(P = 0.008)であった。3群とも血糖コントロールは改善したが、12か月後の薬物療法群のHbA1cは7.5±1.8%であったのに対し、胃バイパス群は6.4±0.9% (P<0.001)、袖状胃切除術は6.6±1.0%(P = 0.003)であった。体重減少は、薬物療法群で-5.4±8.0 kgだったのに対し、胃バイパス群-29.4±9.0 kg、袖状胃切除術群は-25.1±8.5kg (いずれもP<0.001)であった。血糖、脂質、血圧を低下させる薬剤の使用数は、外科手術後には有意に減少したが、薬物療法のみの患者では増加した。HOMA-IRも外科手術後に有意に改善した。以上より、薬物療法のみに比較して、薬物療法に加え外科手術を行った場合、血糖コントロールが有意に改善することが示された。

【論文内容】
観察研究では肥満外科手術は2型糖尿病をもつ高度肥満患者の血糖コントロールと心血管疾患リスクを改善することが示されているが、外科手術群と強化薬物療法群を比較したランダム化研究はほとんどない。このSurgical Treatment and Medications Potentially Eradicate Diabetes Efficiently (STAMPEDE) 研究では、2型糖尿病肥満患者150名をランダム化して3群に分け、強化薬物療法群と薬物療法+外科手術群(Roux-en-Y胃バイパス、または袖状胃切除術の2群)の12か月後の血糖コントロール改善を比較した。なお、外科手術は、単一の外科医により腹腔鏡下で行われた。その後、3、6、9、12か月目に体重、腹囲、血圧、HbA1c、血糖をチェックした。一次エンドポイントは、ランダム化12か月後のHbA1cが6.0%以下の患者の割合とし、二次エンドポイントは、空腹時血糖、空腹時インスリン、脂質、高感度CRP、HOMA-IR、体重減少、血圧、有害事象、併発した疾患、服薬数の変化とした。

150名の対象者のうち、12か月後に140名が研究を終了した。12か月後のHbA1cが6.0%以下だった対象者は、薬物療法のみの群で12%、胃バイパス群で42%(P=0.002)、袖状胃切除群で37%(P=0.008)であり、手術の2群間では差がなかった。

12か月後の時点で、2つの外科治療群は薬物療法のみの群に比べ、有意にHbA1cと空腹時血糖が低かった。薬物療法群では、後半の6か月間で徐々にHbA1cが増加したが、外科手術群では12か月後まで低下が持続した。

使用した糖尿病薬の数は、薬物療法群では増加していたのに対し、外科手術群では有意に減少した。また、インスリンを使用した患者は薬物療法群では38%だったのに対し、胃バイパス群で4%、袖状胃切除群で8%まで減少した。

12か月後の体重、BMI、腹囲、waist-to-hip比は、薬物療法群に比べ外科手術群で有意に低かった。

12か月後の高インスリン血症を示す患者の割合、HOMA-IRも外科手術群で有意に低かった。また外科手術群では、HDLコレステロールが有意に増加、高感度CRPが有意に低下していた。12か月後の時点で、高脂血症薬および降圧剤の数も、外科手術群で有意に少なかった。

12か月後の時点での有害事象は、外科手術群で4名の患者に外科的な介入が必要であった。3群とも死亡例はなく、重篤な低血糖や栄養不良、過度の体重減少も見られなかった。

本研究の限界として、follow-up期間が12か月という短期間であったこと、単一施設でのオープンラベル試験であったことが挙げられる。ただし、これに関してはさらに4年間の追跡期間を設けている。

【結論】
コントロール不良の糖尿病患者の治療として、肥満外科手術は有効な方法であり、糖尿病薬を減らせることが示された。さらに、外科手術により心血管疾患リスクが減少し、それに対する薬物も減らすことができた。今後さらに大きい多施設研究で、外科手術の利点と外科的リスクのバランスを検討すべきである。
by md345797 | 2012-03-28 17:25 | 大規模臨床試験