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AMPK:エネルギー恒常性を維持する、栄養素とエネルギーのセンサー

AMPK: a nutrient and energy sensor that maintains energy homeostasis.

Hardie DG, Ross FA, Hawley SA.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2012 Mar 22;13(4):251-62.

【総説内容】
ちょうどモバイル電子機器と同じように、すべての細胞は「充電可能な電池」を持っている。すなわち、細胞にとってミトコンドリアATP合成酵素によるATP合成が「電池の充電」であり、ATP加水分解によるADP+リン酸の生成、エネルギー放出が「電池の放電」である。「ADP/ATP比が増加する」ということは、細胞のエネルギーレベルが低下していることを示す。また、2ADP→ATP+AMPという反応が起きるため、エネルギーが低下した細胞ではADPの増加だけでなく、AMPの増加も起きる。AMP濃度の絶対値はADP濃度よりかなり小さいので、AMPの増加「率」はADPの増加率よりも大きくなる。以上より、細胞のエネルギー状態を感知するための蛋白は、ADP/ATP比かAMP/ATP比、もしくはそれらの両方をモニターするのである。

AMP/ATP比を直接モニターする酵素には、glycogen phosphorylaseとphosphofructokinase (いずれもAMP/ATP比を感知してグリコゲン分解による糖産生を促進)やfructose-1,6-biphosphatase (AMP/ATP比の増加によって抑制される、糖新生を促進)がある。しかし、大多数の真核生物細胞の主要なエネルギーセンサーといえば、AMP-activated protein kinase (AMPK)であろう。AMPKやその上流のLKB1(別名STK11)を欠損させると、細胞がストレス(筋の収縮、心筋の虚血、肝細胞にメトフォルミンが作用した場合など)を受けたときにAMP/ATP比やADP/ATP比が大きく増加することからそのことがうかがえる。

AMPKのサブユニットと調節
AMPKは、触媒α-サブユニットと調節β-およびγ-サブユニットのヘテロ三量体からなる。下図aのAMPKのモデル(3本に棒)は上からα-、β-、γ-サブユニットを表す。基底状態(細胞がストレスを受けておらず、エネルギーが十分な状態:図の左上)では、γ-サブユニットのsite 1とsite 3はATPによって占められている(site 2は常に空いていて、site 4は常にAMPが占めている)。下図bは、nucleotide総濃度が一定のときのATP、ADP、AMP濃度の変化を表しており、左端は基底状態、中央は運動などの「生理的な」中等度のストレスを受けている状態(=ATPが低下して、ADP・AMPが増加している)、右端は虚血などの「病理的な」高度のストレスを受けている状態(=ATPがさらに減少し、ADP、AMPの濃度と同じになりこれ以下に減少できない)を表している。グラフの横軸は、細胞のストレス状態でADP/ATP濃度比を示す。

図bを図aに重ねてみると、細胞が基底状態から中等度ストレスを受けた状態に移行すると、γ-サブユニットのsite 3のATPがADPに置換(図ではADPになっているが、AMPでも置換)されることに伴い、上流のLKB1やCaMKKβによって、α-サブユニットのキナーゼドメイン内にあるThr172がリン酸化される。これにより、AMPK活性は100倍に増加する。図aでは、左上から中央下の状態に移行し、α-サブユニットの星二つ(活性100倍)になるよう示している。

次に、図bの高度なストレスを受けた状態になると、γ-サブユニットのsite 1のATPがAMPに置換され、さらに10倍のアロステリックな活性化を起こす。これは図aの中央下から右下への移行で示し、α-サブユニットの星三つ(活性1000倍)で表している。後半のアロステリックな活性化はAMPでのみ起きるが、前半のThr172リン酸化による活性化はADPでもAMPでも起きることが最近報告された(ADPの方がAMPより高濃度存在するため、Thr172リン酸化は通常ADPで起きると考えられる)。

最後に、細胞のエネルギー状態が基底状態に戻ると、site 1のAMPがATPに置換されてアロステリックな活性化が元に戻り(図aの右下から中央下へ)、さらにsite 3のADPがATPに置換されることでThr172の脱リン酸化が起こり(中央下から左上へ)、AMPK活性は基底状態に戻る。

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AMPKの構造
AMPKの構造は下図の通りである。α-サブユニットは、N端側にキナーゼドメインがあり、そのC端側にauto-inhibitory domain (AID)が存在する。さらにその C端側にはlinkerを経て、β-サブユニットに結合するα-subunit carboxy-terminal domain (α-CTD)がある。β-サブユニットには、グリコゲンが結合するcarbohydrate-binding module (CBM)と、β-subunit carboxy-terminal domain (β-CTD)があり、β-CTDはαとγ-サブユニットに結合する。γ-サブユニットは、タンデムに4つのリピート配列があり、CBS1-CBS4と呼ばれている(CBSはcystathionine β-synthaseの略、CBSにこのリピートが見られるためこの呼称がついている)。このリピートはアデノシンを含むリガンドが結合する。Site 2は常時空いており、site 4はAMPが強く結合している。Site 1とsite 3は、ATP、ADP、AMPが競合して結合する。前述のように、site 1へのAMPの結合はアロステリックなAMPK活性化をもたらし、site 3へのADP(またはAMP)の結合はThr172のリン酸化(および脱リン酸化からの保護)をもたらす。

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by md345797 | 2012-05-21 04:59 | シグナル伝達機構