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PPAR-γは脂肪組織のregulatory T細胞の蓄積と形質の重要な調節因子である

PPAR-γ is a major driver of the accumulation and phenotype of adipose tissue Treg cells.
Cipolletta D, Feuerer M, Li A, Kamei N, Lee J, Shoelson SE, Benoist C, Mathis D.

Nature. 2012 Jun 28;486(7404):549-53.

【まとめ】
栄養過剰の状態では、内臓脂肪組織(VAT)に炎症性マクロファージが浸潤してくることが脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性を引き起こす原因と考えられている。しかし、この過程における他の免疫細胞の関与はほとんど知られていない。近年、VATに存在するregulatory T(Treg)細胞(宿主に対し有害な過剰な免疫反応を抑制する作用があるT細胞)は、脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性の回避に重要であることが示唆されている。今回の研究で、脂肪分化のmaster regulatorであるPPAR-γが、VAT Treg細胞の蓄積、形質、機能を調節していることが明らかになった。VAT Treg細胞におけるPPAR-γ発現は、肥満動物がpioglitazoneによってインスリン感受性を完全に回復するのに不可欠であった。本研究により、チアゾリジン系薬剤の今まで知られていなかった機能が明らかになり、Treg細胞のうちのユニークな機能を持つある集団はインスリン抵抗性治療に用いることができるということの概念が証明された。

【論文内容】
Foxp3+ CD4+ Treg細胞は正常者の内臓脂肪組織(VAT)に見られ、通常のリンパ組織に見られるCD4+ T細胞コンパートメントの上位の分画に存在する。このVAT Treg細胞は脾およびリンパ節のT細胞とは区別できる形質(遺伝子発現プロファイル、T cell receptor repertoire、ケモカインおよびケモカイン受容体の発現)を持つが、その役割は不明であった。

マウスのVATとリンパ節(LN)のTreg細胞の遺伝子プロファイルを比較したところ、VATのTreg細胞ではPPAR-γの転写産物が増加していた。さらに、正常食を負荷したC57Bl/6(B6)マウスおよびB6.Lep ob/obマウス、高脂肪食を負荷したB6マウスのVATとLNのTreg細胞の転写プロファイルのクラスター解析を行った。正常食B6マウスのVATとLNのTreg細胞を比較したところ、Pparg転写に相関する遺伝子を調べたところ、ケモカインやケモカイン受容体遺伝子(Ccr1、Ccr3、Cxcr6、Cxcl2、Cxcl3)、脂質代謝関連遺伝子(Pcyt1a, Dgat1)、Il10の転写産物がVATにより多く含まれることが分かった。

次にVAT Treg細胞におけるPPAR-γの役割を直接評価するため、naive CD4+ T細胞にFoxp3単独または、Foxp3Ppargを一緒に発現させるretrovirusを導入した。PPAR-γにはPPAR-γ1とPPAR-γ2の2種類のアイソフォームがあるため、それぞれのアイソフォームがFoxp3と協調してVAT Treg細胞の遺伝子発現signatureを促進するかを検討した。Pparg+Foxp3発現細胞とFoxp3のみの発現細胞の発現遺伝子を比較したvolcano plotにより、PPAR-γのどちらのアイソフォームもFoxp3と協調してVAT Treg細胞に特徴的な遺伝子発現を増加させていることが示された。

次に、retrovirusでPparg1+foxp3Pparg2+Foxp3Foxp3のみを導入した細胞に、PPAR-γの合成アゴニストTZD薬であるpioglitazone(Pio)を48h添加した。Pioの添加により脂質代謝関連遺伝子、すなわち脂肪酸トランスポーター(Cd36, Slc27a2)、脂肪酸合成酵素(Lipe, Scd1)、脂肪酸酸化酵素(Cpt1a)、トリグリセリド合成酵素(Dgat1)、脂肪滴関連蛋白(Plin2)の発現が亢進した。RosiglitazoneおよびGW1929(non-TZD PPAR-γアゴニスト)の添加でも同様の結果が得られた。PPAR-γがFoxp3と協調してnaive CD4+ T細胞にVAT Treg細胞の形質をもたらすということから、PPAR-γとFoxp3が結合していると考えられ、HEK293細胞を用いた免疫沈降でも結合が示された。

VAT Treg形質発現におけるPPAR-γのin vivoでの重要性を検討するため、Treg細胞特異的にPPAR-γ発現を欠損したマウスを作製した(Foxp3 promoter/enhancer下にCreを発現したマウスと’floxed’ Ppargを発現したマウスを交配)。このTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスは、野生型(WT)マウスに比べVATのTreg細胞の分画と数が減少していた(両者のマウスのリンパ組織におけるTreg細胞の数は同じであり、リンパ組織のTreg細胞でPPAR-γが発現していないためと考えられる)。PPAR-γ欠損マウスとWTマウスのVAT Treg細胞の遺伝子発現を比較したvolcano plotでは、PPAR-γ欠損マウスのVAT Treg細胞のup-signatureが減少、down-signatureが増加していた。PPAR-γは、VAT Treg細胞の蓄積と形質発現に重要な因子と考えられた。なお、このPPAR-γ欠損マウスでは、炎症性CD11b+ CD11c+ F4/80+ macrophageと炎症性CD11b+ Ly6c hi monocyteの増加が認められた。

次にPPAR-γの消失が VAT Treg細胞のturnoverにどのように影響するかを調べるため、GW 9662(非可逆的なPPAR-γ阻害剤)をTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスとWTマウスに投与し、VAT Treg細胞の半減期を比較した。その結果、PPAR-γ欠損マウスのVATにおいてGATA3+ Treg細胞の分画の減少が認められた(脾では認められなかった)。PPAR-γは、VAT Treg細胞の形質の維持にも必要であると考えられた。

さらに、Pioを高脂肪食負荷マウスに投与すると、VATのTreg細胞分画が増加した(これも脾および皮下脂肪組織では増加しなかった)。Pioを投与した高脂肪食負荷マウスの精巣上脂肪組織のTreg細胞の遺伝子発現は、VAT Treg細胞に典型的な発現プロファイルのシフトが見られた。

それでは、Pioによるインスリン感受性亢進効果は、VAT Treg細胞集団の増加によるものかどうかを検討した。高脂肪食負荷したWTマウスとTreg細胞特異的PPAR-γ欠損マウスにPioを投与したところ、後者のマウスはPio投与によってVAT Treg細胞は増加せず、HOMA-IRと耐糖能は改善しなかった。

【結論】
PPAR-γはVAT Treg細胞の形質を調節する主要な因子であり、Foxp3と協調してnaive CD4+ T細胞にVAT Treg細胞特異的形質を付加する。また、Treg細胞におけるPPAR-γ発現は、Pioのインスリン感受性亢進作用に必要である。
by md345797 | 2012-07-08 21:53 | 糖尿病の病態生理