p70S6 kinase phosphorylates AMPK on serine 491 to mediate leptin's effect on food intake.
Dagon Y, Hur E, Zheng B, Wellenstein K, Cantley LC, Kahn BB.
Cell Metab. 16(1) 104-112, June 21. 2012.
【まとめ】
PI3K-AKT、mTOR-p70S6 kinase、AMPKの各経路は、代謝調節に必要な別々の経路と考えられている。これらの経路は視床下部においてレプチンの摂食抑制効果にも必要である。この研究では、これらの経路が統合されたリン酸化カスケードであり、視床下部のレプチン作用を調節していることを示す。α2AMPKのserine491がその収束部位であり、p70S6 kinaseはα2AMPKと複合体を形成し、そのserine491をリン酸化する。α2AMPK-serine491のリン酸化を阻害すると、視床下部AMPK活性が増加して摂食と体重が増加した。視床下部のα2AMPK活性化抑制、神経ペプチド発現、摂食・体重低下のためのレプチン作用には、α2AMPK-serine491のリン酸化が必要であった。本研究の結果から、p70S6 kinaseは阻害性のAMPK kinaseであり、AMPKはp70S6 kinaseの基質であることが明らかになった。mTOR-p70S6 kinase系とAMPKはいくつもの基本的な生物学的プロセス(代謝、細胞成長、発生など)で主に反対の効果をもたらすと考えられてきたので、この発見は重要であると考えられる。
【論文内容】
視床下部においてAMPKは全身のエネルギーセンサーとして働いている。
視床下部のα2AMPK活性はレプチンの摂食・体重低下作用に必要であることが分かっている。AMPKの活性化にはα catalytic subunitのthreonine172が上流のkinaseによってリン酸化されることが必要であるが、同じく
serine485/491のリン酸化がThreonine172のリン酸化を阻害することも知られている。
レプチンと摂食は、視床下部のα2AMPK活性を減少させ、AMPK serine485/491リン酸化を増加させる
レプチンを脳室内投与すると、視床下部弓状核(ARC)、腹内側(VHM)/背内側(DMH)、傍室核(PVN)のα2AMPK活性が低下し、serine485/491リン酸化が低下した。絶食後の再摂食によっても、視床下部のα2AMPK活性が低下し、serine485/491リン酸化が低下した。
レプチンはα2AMPKのserine491リン酸化することにより、α2AMPK活性を阻害する
次に、serine491がリン酸化しないα2AMPK変異体(S491A)をGT1-7ニューロン(視床下部神経細胞由来の細胞株)に過剰発現させた。レプチン刺激により、WTのα2AMPK活性は抑制されたが、S491A α2AMPKの活性は抑制されなかった。なお、この時α2AMPKのthreonine172のリン酸化の違いはなかった。また、serine491のリン酸化を模倣したα2AMPK変異体(S491D)は、レプチンなしでもα2AMPK活性が抑制されていた。
視床下部α2AMPK serine491リン酸化は摂食と体重を調節する
次に、WTおよびS491A α2AMPKを正常マウスの内側基底視床下部(ARC、VHM、DMH)にadenovirusを用いて導入した。両者のマウスでadenovirus注入による一時的な体重減少が見られた後、S491A α2AMPKを導入したマウスはWT α2AMPKを導入したマウスに比べて摂食と体重が増加した。この結果より、視床下部α2AMPKのserine491のリン酸化の抑制は、摂食と体重を増加させるのに十分と言える。
視床下部α2AMPKのserine491リン酸化は、レプチンの摂食・体重調節作用に必要である
さらに、WTおよびS491A α2AMPKを視床下部に過剰発現させたマウスを絶食にした後、これらのマウスにレプチンを注入した。レプチン注入により、WT α2AMPK発現マウスでは24時間で1.67gの体重減少と摂食低下が見られた(コントロールの生食注入では0.38g体重増加と軽度の摂食増加)が、S491A α2AMPK発現マウスでは体重減少と摂食低下は見られなかった。このレプチン作用の抵抗性の原因として、WT α2AMPK発現マウスではserine491リン酸化の増加とα2AMPK活性抑制が起きたのに対し、S491A α2AMPKでは起きなかったためと考えられる。
なお、高脂肪食負荷による慢性的なレプチン抵抗性にもserine491リン酸化増加が関与しているかを検討したところ、高脂肪食負荷によっても基底内側視床下部のAMPK serine485/491リン酸化は増加しており、α2AMPK活性は低下していることが分かった。
レプチンはPI3K-AKT系を介してαAMPK serine485/491リン酸化を促進する
次に、レプチンによるαAMPK serine491リン酸化をもたらすkinaseの同定を試みた。培養細胞などではAKTがαAMPK serine485/491をリン酸化することが知られているため、PI3K-AKTシグナルについて検討した。まず、PI3K阻害剤であるLY294002を脳室内投与したところ、視床下部におけるレプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化促進とα2AMPK活性化抑制効果が減少した。また、constitutively active AKT(CA-AKT)とdominant negative AKT(DN-AKT)をそれぞれGT1-7ニューロンに発現させたところ、CA-AKT発現ではαAMPK serine485/491リン酸化が増加してα2AMPK活性が低下し、DN-AKTではレプチン作用が阻害された。したがって、AKT活性化が、レプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加に必要であることが分かった。
レプチンは、p70S6K依存性のAMPK serine485/491リン酸化を介して、α2AMPK活性化を阻害する
AKTはTSC-mTOR経路を介してp70S6Kを活性化すること、α2AMPK serine491部位はp70S6Kでリン酸化されうる配列であることから、p70S6Kがserine491のリン酸化kinaseである可能性を考えた。まず、GT1-7ニューロンにCA-S6K1を発現させたところ、αAMPKのserine485/491がリン酸化された(threonine172のリン酸化は変化なかった)。このリン酸化は、in vitroの系でrecombinant S6Kによりrecombinant αAMPKのserine491がリン酸化される(threonine172は影響なし)ことでも確認された。したがって、
p70S6Kは、AMPKをリン酸化するAMPKKであると考えられたが、すでに知られているAMPKK(PKB1およびCamKK2)とは違って、threonine172ではなくserineをリン酸化することが分かった。
(この系ではserine491リン酸化によりthreonine172のリン酸化が阻害されることは確認できなかった。また、脳の抽出物の免疫沈降により、α2AMPKはp70S6Kと複合体を形成していることが分かり、CA-S6K1はα1AMPKもリン酸化することが示された。)
さらに、S6K1欠損マウス(S6K1-/-)にレプチンを注入し、αAMPK serine485/491リン酸化が抑制されるかを調べた。WTマウスではレプチンはαAMPK serine485/49のリン酸化を47-53%増加させたが、S6K1-/-マウスでは増加しなかった。さらに、GT1-7ニューロンにDN-S6K1を過剰発現させてレプチンを添加したところ、レプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加とα2AMPK活性化抑制は阻害された。また、rapamycin(mTORC1阻害剤)の添加でもレプチンによるαAMPK serine485/491リン酸化増加とα2AMPK活性化抑制が阻害された。
【結論】
視床下部において、レプチンは受容体結合後、PI3K-AKT活性化とその下流のmTOR-p70S6K活性化を起こし、活性化されたp70S6KがαAMPKのserine491をリン酸化することによりAMPK活性化抑制を起こし、摂食・体重減少作用がもたらされる、という機構が明らかになった。