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糖代謝異常患者に対する基礎インスリン投与による心血管およびその他のアウトカム

Basal Insulin and Cardiovascular and Other Outcomes in Dysglycemia.

ORIGIN Trial Investigators, Gerstein HC, Bosch J, Dagenais GR, Díaz R, Jung H, Maggioni AP, Pogue J, Probstfield J, Ramachandran A, Riddle MC, Rydén LE, Yusuf S.

N Engl J Med. 2012 Jul 26;367(4):319-28. Epub 2012 Jun 11.

【まとめ】
十分な基礎インスリン投与により空腹時血糖値を正常化することにより心血管イベントが減少するかどうかは確認されていない。そこで、12,537名の心血管リスクを持つ糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、2型糖尿病)患者を対象に、空腹時血糖95 mg/dlを目標にinsulin glargineの投与、または通常療法を行った(なお、これらを2群に分け、n-3脂肪酸とプラセボ投与も行った)。主要評価項目(coprimary outcome)は、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、さらに心血管疾患による死亡および心不全に対する再灌流療法または入院とした。また、細小血管疾患、糖尿病発症、低血糖、体重の変化、癌の発症についても両群で比較した。

平均6.2年のfollow-up後、心血管アウトカムの発症率はinsulin glargine群と通常療法群で同様であった。ランダム化時点での非糖尿病患者の新規糖尿病発症率は、insulin glargine群で有意に低かった。重篤な低血糖の発症率もinsulin glargine群で有意に多かった。体重はinsulin glargine群で1.6 kg増加、通常療法群で 0.5 kg減少した。癌の発症率は両群で差がなかった。以上より、空腹時血糖の正常化を目的としてinsulin glargineを投与した場合、心血管アウトカムを増加させることはなかった。Inuslin glargine投与は、糖尿病新規発症を減少させたが、低血糖が増加し、体重もやや増加させた。癌の発症を増加させることはなかった。

【論文内容】
空腹時血糖の上昇は、心血管イベントの独立した危険因子である。しかし、強化血糖降下療法により低血糖のリスクが増加し、死亡率が上昇するという報告(ACCORD)もある。また、インスリン投与が心血管疾患や癌の発症を増加させるかもしれないとする懸念もあった。一方で、UKPDSでは新規発症2型糖尿病において、インスリンによる強化療法は心筋梗塞を15%、死亡を13%減少させるとしている。本研究、ORIGIN (Outcome Reduction with an Initial Glargine Intervention) trialでは、基礎インスリンによる空腹時血糖正常化が心血管アウトカムを減少させるかを検討した。

12,537名の心血管ハイリスクを持つ糖代謝異常(空腹時血糖異常、耐糖能異常、2型糖尿病)患者を、空腹時血糖が95 mg/dl以下になるようにinsulin glargineを夜1回投与する群と、通常療法群(各担当者が最良と判断する治療を行う)にランダムに割り付けた。1年後にinsulin glargine群の50%が空腹時血糖が94 mg/dl以下となり、その後も維持された。5年後のinsulin glargine注射の遵守率は85%であった。通常療法群では、研究終了時に11%がインスリンを使っており、19%は経口糖尿病薬を使っていなかった。開始2年時のinsulin glargine群の空腹時血糖(90 mg/dl)は、通常療法群(119 mg/dl)より低かった。

複合主要評価項目(coprimary composite outcomes:第一は心血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中。第二は心不全に対する再灌流療法または入院)は、insulin glargine群と通常療法群で有意差はなかった。第一、第二の主要評価項目に対するハザード比はそれぞれ1.02(95%信頼区間 0.94-1.11)、1.04(0.90-1.08)であった。

ランダム化の時点で糖尿病がなかった1456名のうち、insulin glargineに割り付けられた群(737名)と通常療法に割り付けられた群(719名)で新規糖尿病発症率を比較したところ、35%と43%であり(オッズ比 0.69、95%信頼区間 0.56-0.86, P=0.001)insulin glargine群で有意に糖尿病発症率が低かった。また、癌の発症率(ハザード比 0.94、95%信頼区間 0.88-1.13, P=0.97)および癌による死亡も両群で有意差はなかった。重篤な低血糖は、insulin glargine群が通常療法群に比べ有意に多かった(1.00 vs. 0.31 per 100 person-years、P<0.001)。6.2年のfollow-up期間の体重の変化は、insulin glargine群で平均1.6 kgの増加に対し、通常療法では0.5 kgの減少が見られた。

【結論】
空腹時血糖を低下させることを目標に6.2年間insulin glargineを投与した場合、通常療法に比べて、心血管アウトカムの増加は認められなかった。なお、insulin glargine投与により、糖尿病新規発症が減少、低血糖が増加、体重が増加したが、癌の発症の増加は見られなかった。

(本研究の限界として、insulin glargine群で最終的に47%にmetforminが用いられていたということがある。Metforminは心保護作用が報告されており、insulin glargineに心血管を障害する作用があってもそれが軽減されてしまった可能性がある。また、本研究でinsulin glargine群に割り付けられた人は通常ならインスリンを処方されない場合があり、そのような人では空腹時血糖が通常のインスリン治療より低下している可能性もある。)
by md345797 | 2012-07-13 17:35 | 大規模臨床試験