Fetuin-A acts as an endogenous ligand of TLR4 to promote lipid-induced insulin resistance.
Pal D, Dasgupta S, Kundu R, Maitra S, Das G, Mukhopadhyay S, Ray S, Majumdar SS, Bhattacharya S.
Nat Med. Published online. 29 July 2012.
【まとめ】
TLR4 (Toll-like receptor 4)は炎症性シグナル伝達経路を活性化することにより、先天性免疫を調節する役割を果たしている。遊離脂肪酸(FFAs)は、TLR4経路を介して、脂肪組織の炎症を活性化させ、インスリン抵抗性を惹起することが知られている。しかし、FFAsが直接TLR4に結合するという証拠は得られておらず、TLR4の内因性リガンドは不明である。この研究では、肝で分泌される糖蛋白であるfetuin-A (FetA)がTLR4の内因性リガンドであり、マウスにおいてTlr4シグナルを介するインスリン抵抗性調節において重要な役割を果たしていることを示す。
FetAをノックダウンしたマウスでは、Tlr4を介する炎症性シグナルの低下によって高脂肪食によるインスリン抵抗性が抑制される。逆にマウスにFetAを投与すると、炎症性シグナルが亢進しインスリン抵抗性が惹起される。FFAによる脂肪細胞における炎症性サイトカイン発現は、FetAとTlr4の両者が存在するときにのみ起こり、それらのどちらかがないとFFAによるインスリン抵抗性は起こらない。この研究ではさらに、FetAは末端のgalactoside部分が、Tlr4の2か所のleucine-rich repeats(Leu100-Gly123およびThr493-Thr516)に直接結合することを明らかにした。これらの変異Tlr4やgalactosideを切断したFetAでは、FFAによる脂肪細胞のインスリン抵抗性は惹起されなかった。以上の結果より、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、脂質によるインスリン抵抗性を仲介する原因蛋白であると考えられた。
【論文内容】
FetAは肝で分泌される糖蛋白であり、脂肪細胞やマクロファージからの炎症性サイトカインの分泌を刺激することから、慢性炎症性疾患のバイオマーカーとしても用いられている。FFAsは肝におけるFetAの発現を増加させ、血中FetAの増加が脂肪細胞からの炎症性サイトカイン産生を増加させることが分かっている。また、
FetAおよび
Tlr4の欠損マウスは高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性をきたさないことと、FetAは血中においてはFFAsの主要なキャリアー蛋白であることから、FetAがTLR4の内因性リガンドとして作用しているという仮説のもと、以下の検討を行った。
脂質によるTLR4活性化におけるFetAの果たす役割
まず、肥満糖尿病のヒト、高脂肪食負荷マウス、およびdb/dbマウスでは、血中のFetA濃度と脂肪細胞のTLR4発現・NF-κB活性化は、それぞれのコントロールに比べ増加していることを確認した。次に、vivo-morpholino(in vivo用モルフォリノアンチセンスオリゴ)を用いて
FetAおよび
Tlr4をノックダウンしたマウスに高脂肪食を負荷したところ、いずれもインスリン抵抗性をきたさなかった。これらのマウスの脂肪細胞ではNf-κb活性および
Il-6、
Tnf-αのmRNA発現もコントロールに比べ減少していた。したがって、高脂肪食によるインスリン抵抗性の発症には、
FetAと
Tlr4の両方が必要と考えられた。また、FetAのrecombinant蛋白をendotoxin-freeの状態で作製した(endotoxinは細菌で発現するTLR4リガンドであり、細菌によるrecombinant蛋白作製の過程で混入するため)。このFetAを
FetAノックダウンマウスに投与すると、脂肪組織でのTLR4活性化が起こり、高脂肪食(またはFFA注入)によるインスリン抵抗性が出現した。
FFAによるTLR4活性化にはFetAが必要である
FFAであるパルミチン酸(palmitate)を単独でまたはFetAと一緒に、ヒト脂肪細胞、3T3-L1細胞に添加して培養した。その際、FetAの存在下でのみ、NF-κBが活性化されIL-6とTNF-αの発現が増加した。また、TLR4阻害剤であるCLI-095添加やsiRNAによる
Tlr4発現のsilencingを行うと、NF-κB活性化やIL-6とTNF-αの発現増加が起こらなかった。(なお、通常の培養条件ではmedium中の血清(10%FBS)にFetAが含まれているので、この実験はserum-free mediumを用いて行った)。
TLR4シグナル伝達経路の下流にはMyD88およびMEKがあり、MyD88欠損3T3-L1脂肪細胞やMEK阻害剤(U0126)でpreincubateした細胞にFFA+FetAを添加してもNf-κb活性化が起こらなかったことから、FFA+FetAはTlr4経路を介して作用すると考えられる。これらの脂肪細胞における結果は、Tlr4ノックダウンマウスから採取したマクロファージでも同様であり、Tlr4はFFA+FetAによるNf-κb活性化効果に必要であることが確認された。
FetAとTLR4の結合
FFAsはTLR4には直接結合しないが、FetAには結合することが分かっている。したがって、FetAはFFAとTLR4の結合を仲介する蛋白ではないかと考えられた。実際、FetAとTLR4は免疫沈降で共沈する。さらに表面プラズモン共鳴により、FetAが、チップに固定化したTLR4に濃度依存的に結合することが確認された。逆にチップに固定化したFetAにもTLR4が同様のaffinityで結合した。また、細胞内でのFetAとTLR4の結合をyeast two-hybrid (Y2H) assayで確認したところ、FetAはTlr4の細胞外ドメインに結合した。TLR4の細胞外ドメインには8つのleucine-rich repeat (LRR)があるが、それらの変異体を作製してY2H assayでの結合およびFFA+FetAによるNf-κB活性化の低下をluciferase活性で調べたところ、Tlr4のLRR2(Leu100-Gly123)またはLRR6(Thr493-Thr516)がFetAとの結合に重要であり、FFAの効果を仲介していることが示された。さらに、[3H]-palmitateとFetAをヒトTLR4とincubateすることにより、これら三者がternary complexを形成していることが示された。
末端β-galactosideが切断されたFetAはTLR4経路を活性化しない
さらに、SEAP reporterによりTLR4-NF-κB活性化を検出するHEK-Blue hTLR4細胞を用いて、FFA+FetAによるNF-κB活性化と、これがCLI-095で抑制されることを確認した。また、FetAのどの部分がTLR4を認識しているのかは分かっていない。糖蛋白の糖質部分が受容体認識に役立っている(特に、Gram陰性菌によるTLR4活性化にLPSのglycan部分が関与している)ことから、FetAのTLR4結合部位としてglycan部分に注目した。Glycanを切断するいくつかの酵素をHEK-Blue hTLR4細胞に作用させたところ、β-galactosidaseによりFetAが切断された場合にNf-κbプロモーター活性が低下した。そのため、FetA末端のβ-galactoside部分がTLR4の認識に必要と考えられた。なお、β-galactosidaseにより切断されたFetAを脂肪細胞に添加してもFFAによるインスリン抵抗性は起きなかった。
【結論】
FFAとその結合糖蛋白FetAはTLR4経路を介して、NF-κB活性化と炎症性サイトカインの産生を起こし、その結果脂肪細胞におけるインスリン抵抗性を引き起こす。本研究の結果により、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、血中のFFAと脂肪細胞のTLR4を結びつけてインスリン抵抗性を惹起する役割を果たしていることが明らかになった。脂質によるインスリン抵抗性と2型糖尿病治療のために、FetAは重要なターゲットになるだろう。