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好中球はエラスターゼ分泌を介して高脂肪食によるインスリン抵抗性を調節している

Neutrophils mediate insulin resistance in mice fed a high-fat diet through secreted elastase.

Talukdar S, Oh DY, Bandyopadhyay G, Li D, Xu J, McNelis J, Lu M, Li P, Yan Q, Zhu Y, Ofrecio J, Lin M, Brenner MB, Olefsky JM.

Nat Med. 18, 1407–1412, 2012.

【まとめ】
脂肪組織と肝臓における慢性的な低レベルの炎症は、肥満・2型糖尿病に存在するインスリン抵抗性の主要な原因であるが、そこにはさまざまな免疫細胞(マクロファージT細胞B細胞肥満細胞好酸球)が関わっている。好中球は、炎症に反応する最初の典型的な免疫細胞であり、マクロファージを誘導したり、抗原提示細胞と相互作用したりすることにより慢性炎症を悪化させる。好中球はいくつかのプロテアーゼを分泌して炎症反応を促進するが、その一つは好中球エラスターゼ(neutrophil elastase)である。この研究では、肝細胞に好中球エラスターゼを添加すると細胞のインスリン抵抗性を惹起すること、好中球エラスターゼを欠損させたマウスに高脂肪食を負荷しても脂肪組織の好中球やマクロファージ量が増えず、組織の炎症が少なく、インスリン抵抗性が起こりにくいことなどを示した。これらの結果より、好中球も、炎症に伴う代謝疾患に関与する免疫細胞の一つであることが分かった。

【論文内容】
マウスに高脂肪食を負荷すると、脂肪組織に好中球の浸潤が見られる。この脂肪組織好中球(adipose tissue neutrophils; ATNs)は、ケモカイン・サイトカインを放出してマクロファージ浸潤を促進し、慢性炎症を惹起している。好中球由来の好中球エラスターゼなどのセリンプロテアーゼは無菌的な炎症に重要な役割を果たしていることも知られている。

高脂肪食負荷に伴う脂肪組織好中球浸潤・インスリン抵抗性と、好中球エラスターゼの関連
C57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷後、脂肪組織好中球(ATNs=脂肪組織間質血管細胞(SVCs)のうち、FACSを用いて好中球マーカーLy6g、Cd11bが陽性、マクロファージマーカーF4/80、Cd11cが陰性の細胞)の増加のtime courseを調べた。その結果、高脂肪食負荷3日後で急速なATNの増加が認められ、負荷90日まで持続することが分かった。免疫組織化学による検討で、高脂肪食負荷によって、白色脂肪組織(WAT)にLys6g+Cd11b+細胞が増加した。FACS解析でも、高脂肪食12週負荷後のSVCs中のLys6g+Cd11b+ F4/80-Cd11c-細胞の数は20倍に増加していた。好中球エラスターゼの発現と活性も、高脂肪食負荷3日後には増加し、負荷12週まで高値だった。高脂肪食負荷しても、好中球エラスターゼ阻害剤GW311616Aを14日間連日投与したマウスでは、耐糖能障害が改善した。逆に、recombinantのマウス好中球エラスターゼを7日間投与した正常食負荷マウスは、著明な耐糖能異常をきたした。

NEKOマウスにおけるインスリン感受性の亢進
次に、好中球エラスターゼ欠損(NEKO)マウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型(WT)マウスに比べGTTで耐糖能が良好でITTでインスリン感受性だった。また、NEKOマウスはWTに比べ、高脂肪食負荷後のATN量が90%程度低値であった。GW311616Aを投与したWTマウスに高脂肪食を負荷した場合は、ATN量は大きく低下した。したがって、遺伝的にまたは薬物により好中球エラスターゼ機能を消失させると、ATNsの低下に伴い、耐糖能が改善すると考えられる。

さらに、これらのマウスのインスリン感受性を、高インスリン正常血糖クランプを用いて検討した。NEKOマウスはWTマウスに比べ、正常血糖を維持するためのグルコース注入率が増加しており、クランプ中の肝糖産生が低下していた。またNEKOマウスでは、インスリンによる遊離脂肪酸(FFA)の抑制が大きかった。すなわち、好中球エラスターゼ欠損により、肝および脂肪組織におけるインスリン感受性が亢進していると考えられた。

次にNEKOマウスとWTマウスで、インスリン注入による肝と精巣上脂肪組織(eWAT)における急性効果を調べた。その結果どちらの組織でも、NEKOマウスにおいてインスリン刺激によるAktリン酸化が亢進していた。

高脂肪食による肝への好中球浸潤とIrs1 degradationによるインスリンシグナル伝達の障害
高脂肪食負荷したWTマウスの肝では、正常食投与したマウスに比べ、好中球数が増加していたが、高脂肪食負荷したNEKOマウスでは差はなかった。肝の好中球エラスターゼ活性も、高脂肪食負荷したWTマウスでは、正常食投与に比べ増加していた。細胞外の好中球エラスターゼは細胞内に移行して、Irs1のdegradationを起こすことが知られている。NEKOマウスの肝および脂肪組織のIrs1は、WTマウスに比べて増加していた。好中球エラスターゼを2時間ごとにC57BL/6Jマウスに投与すると、肝およびeWATのIrs1量とインスリンによるAktのリン酸化は低下した。NEKOマウスの肝と脂肪組織のIrs1発現量は、WTマウスに比べ増加していた。

次に、マウスとヒトの初代肝細胞に好中球エラスターゼを直接添加したところ、どちらの細胞でもIrs1蛋白量の減少、インスリンによるAktリン酸化低下が認められた。さらに、マウス初代肝細胞のグルカゴン添加による糖産生とインスリンによるその抑制を調べたところ、好中球エラスターゼを添加するとベースの糖産生が50%増加し、インスリンによるグルカゴン応答性肝糖産生の抑制が効かなくなった。好中球エラスターゼは初代肝細胞において、Irs1 degradationを介して細胞内インスリンシグナル伝達を抑制し、糖産生抑制を抑えると考えられた。なお、3T3-L1脂肪細胞に好中球エラスターゼを添加しても、同様のIrs1 degradationとインスリンによるAktリン酸化低下が認められた。

NEKOマウスでは炎症のトーンが低下している
好中球エラスターゼは、Toll-like receptor 4(Tlr4)を活性化することにより炎症を増加させると考えられているため、WTとTlr4欠損(Tlr4KO)マウスの腹腔内マクロファージをLPSおよび好中球エラスターゼで刺激した。LPS刺激により、WTのマクロファージでTnfa、Il1b、Cxcl1、Il6のmRNAが増加したが、Tlr4KOのマクロファージでは増加しなかった。好中球エラスターゼによる刺激の結果も同様であり、好中球エラスターゼの作用がTlr4依存性であることが確認された。NEKOマウスの肝ではWTに比べて、炎症性マーカー(Tnfa、Emr1(F4/80)、Cxcl1、Il1r1、Il1b、CCl2(Mcp1))の発現が低下、抗炎症マーカー(Arginase)の発現が増加し、IκBのdegradationも少なかった。脂肪組織でも同様で、NEKOマウスではWTに比べて炎症性マーカー(Il1b、Tnfa、Cxcl1、Cd68、Irf4、Irf5)の発現が低下し、抗炎症マーカー(Arg、Clec10a(Mgl1)、Il4)の発現が増加、IκBのdegradationが低下していた。NEKOマウスの脂肪組織の中では、脂肪組織マクロファージ(ATM)のうち、M1様細胞(Cd11c+)の数が低下、M2様細胞(Cd11b+Cd11c-)の数が増加していた。好中球から分泌されたエラスターゼが、マクロファージの分極化(polarization)を変化させていると考えられた。NEKOマウスでは肝と脂肪組織の炎症のトーンの低下に伴い、血清中のIl-1β、Tnf-α、Mcp-1、Il-6、GM-CSF、Ccl3、Ccl4、resistin濃度が低値であった。なお、NEKOマウスから単離したeWATをex vivoでインスリン刺激したところ、2-deoxyglucose取り込みが増加しており、インスリン感受性が亢進していることが示された。

【結論】
高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性において、肝および脂肪組織に浸潤する好中球とそこから分泌されるエラスターゼは、炎症の発症に重要な役割を果たしている。好中球エラスターゼはTlr4経路を活性化し、免疫細胞や脂肪細胞からのサイトカイン産生を変化させ、さらなる炎症の増幅を促進していると考えられる。好中球エラスターゼ阻害は、高脂肪食に伴うインスリン抵抗性の治療手段となりうるだろう。
by md345797 | 2012-08-06 23:49 | インスリン抵抗性