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Cryptochromeの小分子活性化剤の同定

Identification of Small Molecule Activators of Cryptochrome.

Hirota T, Lee JW, St. John PC, Sawa M, Iwaisako K, Noguchi T, Pongsawakul PY, Sonntag T, Welsh DK, Brenner DA, Doyle III FJ, Schultz PG, Kay SA.

Science. 337(6098) 1094-1097. August 31, 2012.

【まとめ】
概日時計の障害は、代謝疾患を含む多くの疾患の原因となりうる。時計蛋白の選択的ターゲット化合物がいくつか同定されており、これらは時計機能を改善し疾患の治療に役立つ可能性がある。この研究では、unbiased cell-based circadian phenotypic screenにより、cryptochrome(CRY)に特異的に結合する小分子、KL001を同定した。KL001は、ubiquitin依存性のCRYのdegradationを防ぐことにより、概日周期を増強する。KL001を用いた実験と数学的モデリングと組み合わせて検討したところ、CRY1とCRY2は概日調節において同様の機能的役割を担っていることが分かった。さらにKL001によりCRYを安定化すると、初代肝細胞においてグルカゴンによる糖新生が抑制された。小分子化合物KL001は、CRYによる時計の調節機構の解明と時計遺伝子に基づく糖尿病治療の開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
概日リズムは、転写因子CLOCKとBMAL1がPeriod (Per1、Per2)とCryptochrome (Cry1、Cry2)の転写を活性化させ、PERとCRY蛋白がCLOCK-BMAL1を抑制するというフィードバックループによるリズミックな遺伝子発現によって発生する。肝での糖産生は、肝糖新生遺伝子(Pck1、G6pc)がCRYおよび核内受容体REV-ERBの影響を受けることにより、概日調節を受けている。この時計機能が遺伝的変異や環境因子(シフトワークや時差など)によって障害を受けると、睡眠障害、がん、心血管疾患や代謝疾患の原因となるため、時計機能を調節する小分子化合物はそれらの治療に有用と考えられてきた(casein kinase I阻害剤であるlongdaysinREV-ERBの合成リガンドなど)。本研究では、CRY蛋白に特異的に作用する小分子を同定し、これが肝糖新生を調節することを示す。

カルバゾール誘導体KL001は時計周期を延長する
時計遺伝子を調節する分子を同定するために、約60,000の化合物のライブラリーを、Bmal1-dLuc luciferaseレポーターを組み込んだヒト骨肉腫細胞U2OS細胞株を用いてスクリーニングした。そのうち、3種のカルバゾール誘導体(KL001、KL002、KL003)が、この細胞に対して用量依存的に時計周期の延長と振幅の減少をもたらすことが示された。なお、これらの化合物はBmal1-dLuc細胞に比べるとPer2-dLuc細胞のベースのレポーター活性を低下させた。さらに、Bmal1-dLucおよびPer2-dLucレポーターを組み込んだマウスNIH-3T3線維芽細胞、mPer2Lucレポーターをノックインしたマウス視交叉上核(SCN)と肺の組織片に対するKL001の効果を検討したところ、KL001は濃度依存性に、時計周期の延長とPer2レポーターのシグナル減弱をもたらした。

KL001はCRY1とCRY2に結合する
Affinity-based proteomic approachを用いて、KL001の分子ターゲットを調べたところ、KL001の結合蛋白としてCRY1が同定された。さらに抗体を用いてCRY2にも結合することが示された。Flag-tagged時計蛋白を発現させたHEK293T細胞の抽出物とKL001-agarose conjugateとの結合により、KL001はCRY1、CRY2とは結合するが、PER1、PER2、CLOCK、BMAL1とは結合しないことが分かった。CRYのcofactorであるflavin adenine dinucleotide (FAD)を過剰量添加すると、KL001 affinity resinとCRY1との結合が阻害され、CRY1のFAD結合部位の変異体はKL001 affinity resinにごく弱くしか結合しなかったため、KL001はCRYに(FAD結合部位を介して)選択的に結合すると考えられた。

KL001はCRY蛋白を安定化させる
次に、mPer2LucレポーターをノックインしたCry欠損マウス繊維芽細胞に対するKL001の効果を検討した。WT細胞ではKL001によりmPer2Luc活性が減少したが、Cry1/2欠損細胞では減少が見られなかった。さらに、CRY上のCLOCK-BMAL1結合部位(E2 enhancer element)の変異があると、KL001によるPer2レポーター反応は消失した。以上より、KL001はCRYおよびE2 enhancer依存的に、CRYによるPer2の抑制を促進すると考えられた。

また、U2OS細胞にKL001を添加すると、濃度依存性に内因性のPer2 mRNAの発現が減少した。KL001添加後のPER1蛋白量はPer1 mRNA発現減少と並行しているが、CRY1とCRY2の蛋白量はそれぞれ増加か同程度であり、mRNA発現と並行していない。そこで、KL001がCRY蛋白を安定化する作用があるのではないかと考えた。CRY1-luciferase融合蛋白 (CRY1-LUC)を発現させたHEK293T細胞を用いて、CRY1の半減期に対するKL001の影響を検討した。その結果、KL001は容量依存的にCRY1-LUCの半減期を増加させたが、FAD結合部位の変異体(KL001が結合しないCRY1)の半減期には影響はなかった。KL001とKL002は、CRY1とCRY2の半減期を増加させたため、これらの化合物はCRY安定化を介して時計周期の延長をもたらしていると考えられた。CRY蛋白は、E3 ubiquitin ligase complex SCFFBXL3のターゲットであり、ubiquitin-proteasome 経路を介してdegradationを受けるため、KL001によるCRY1 ubiquitinationへの効果をin vitroで検討した。その結果、KL001(50 μM)はCRY1のubiquitinationを阻害し、上記のKL001が結合しない変異体CRY1ではその効果は見られなかった。また、U2OS細胞で、FBXL3をsiRNAを用いて欠損させると、KL001のPer2レポーターへの効果が減弱した。以上より、KL001は、FBXL3- およびubiquitin-依存性のCRY蛋白のdegradationを阻害することが示された。

KL001によりCRYアイソフォームの役割とその肝糖新生調節機構が明らかになった
KL001によるCRY安定化がどのように時計周期延長をもたらすのか、また、CRYアイソフォーム(CRY1、CRY2)のredundantな役割について検討するために、数学的モデリングを用いた検討を行った。まず、PER-CRYネガティブフィードバックループの単純な数学的モデルを作成したところ、このモデルでCry1およびCry2のそれぞれの用量依存的なノックダウンによる時計周期短縮および延長、細胞質CRY2の安定化による周期短縮が再現できた。KL001依存性のCRY安定化による周期延長については、このモデルではCRY1安定化が核で起きることが予測された。実際、KL001を添加したU2OS細胞においてCRY1とCRY2蛋白の量は、核分画でそれぞれ増加および同程度であった。さらに、Cry1欠損状態での核内CRY2の、Cry2欠損状態で核内CRY1の安定化は、in silicoの検討でどちらも時計周期の延長をもたらした。この予測と一致して、KL001をCry1欠損およびCry2欠損線維芽細胞に添加したところ、用量依存的に周期延長が認められた(CRY1、CRY2をノックダウンしたU2OS細胞や、Cry1欠損マウスおよびCry2欠損マウスのSCN組織片にKL001を添加した場合でも同様の結果が得られた)。CRY1とCRY2のどちらのCRYアイソフォームも同様の周期調節の機能をもつが、それぞれの欠損によって自由継続周期(free-running periods)が異なり、核内CRY1/CRY2比によって時計周期は二方向性に調節される。すなわち、CRY1がより多いと周期が長くなり、CRY2がより多いと周期が短くなる。(CRY1が長周期のCLOCK-BMAL1の抑制を担い、CRY2はより短周期の抑制を担うと考えられる。)

肝において、CRY蛋白は、空腹時のホルモンによるPck1G6pc遺伝子(糖新生の律速酵素)の転写を負に調節している。そこで、マウス初代肝細胞にKL001を添加すると、これらの遺伝子発現がどのような影響されるかを検討した。その結果、KL001は、グルカゴン依存性のPck1G6pc遺伝子発現を用量依存的に抑制した。これに伴い、グルカゴン依存性の糖産生活性化も抑制された。したがって、KL001は、空腹時のホルモンによる糖新生の調節(抑制)に有用であろう。なお、ヒトのゲノムワイド関連研究では、CRY2遺伝子座は空腹時血糖と2型糖尿病に関連が見られており、KL001が糖尿病治療に有用な薬剤として用いられる可能性が考えられる。
by md345797 | 2012-08-31 23:24 | シグナル伝達機構